29.ギルド長と魔法使い
ギルド長の執務室に呼ばれたクラリス。
かなりの広さの部屋だが、やはり使い魔を二匹連れていると圧迫感がある。
フェンが大き過ぎるのが一番の理由だが。
ハンスは気にする素振りもなく、クラリスをじっと見つめる。
「率直に聞かせてもらう。君は迷宮を制覇したのかい?」
突然、迷宮の入り口に現れたクラリスという情報。
それに伝説級の魔物であるフェンリル。そして、最上位級の使い魔として有名なデッドリーファイアドラゴンまでも連れている。
明らかに行方不明になった時の彼女とは違っていた。
「さあ、ボクには言っている意味がわかりません」
その問いをクラリスははぐらかすことにした。
正直に言ったところで、あまりメリットがなさそうだったからだ。
褒められるだろう。
しかし、何らかの賞金がもらえるわけもない。
おそらく、深層部はどのような場所で、どのような魔物がいるのか根掘り葉掘りと聞かれることだろう。
その後も面倒だ。
迷宮探索を達成したと冒険者たちに広まれば、さらに面倒なことになる。
相手もしたくもない、たちの悪い者たちがよってくるかもしれなかった。
ここらへんがソロの冒険者であることの問題点だ。
「なるほど……教えてはくれないか。なら、ライセンスカードを見せてもらえるか? これは拒否できないよ」
「わかりました」
ライセンスカードを提示する時、ステータスボーナスやデス力、称号は非表示にしておく。
通常では取得できないものを見せれば、また追及されてしまう。
それでもハンスはクラリスのステータスを見て、驚愕した。
非表示にしておいて正解だった。
「なんてことだ……ありえない。なんてステータスだ。しかも天職が大魔法使い!? たった半年近くで……信じられない」
通常なら大魔法使いになるためには、何十年も魔物と戦って地道にレベルを上げていく。
それが行方不明になっている間に成し遂げたので驚かれてもしかたない。
「どうやって、これほどのレベルアップを……レベル99とはここのギルドでトップだ」
「ハンスさんも知っているはずかと。ボクはたった一つの魔法しか使えませんから」
「即死魔法か?」
「はい。それで効率よくレベルを上げていったら、99です。大魔法使いになってレベル上限解放されたので、まだ先を目指そうと思っています」
「恐れ入ったな……」
ライセンスカードの提示を求められた以上、そこに書かれた内容の説明はしないといけない。
それにこれくらいなら、問題ない。
誰でも知っていることだからだ。
ハンスは次に使い魔について確認してきた。
「使い魔の件について聞かせてもらう。まずはデッドリーファイアドラゴンはどこから?」
「この街にある魔道具屋で購入した使い魔の卵から生まれました。あっ! そうだ。そこのおばあさんに生まれたら、見せに行くって約束していた。もう、行ってもいいですか?」
「まだだ。では、フェンリルはどこから?」
「フェンは迷宮で戦って、勝ったので使い魔契約しました。元々、主を求めていたみたいです。ねぇ、フェン?」
同意を求めるようにクラリスがフェンに問いかける。
「ふむ、我は完敗して、クラリスの使い魔となった。迷宮でゴロゴロするにも飽きていた頃だったので、渡りに船というわけだ」
「えっと、ちなみにどのように倒されたのかを聞いてもいいかな?」
「よかろう。デスられた。実に見事なデスだった」
「んんんぅぅ……。俺が知っているフェンリルは即死無効だったような気がするんだが……」
「とにかく、我は倒された。ゆえに使い魔となった。異論があるなら、我と戦えば良い!」
「待ってくれ! それはさすがに無理だ。すまなかった……このとおりだ」
ハンスはフェンに頭を下げていた。
どうやら、フェンはやっと外の世界に出られて、少々テンションが上がっているようだ。
地上に出てからずっと尻尾をフリフリしている。
「よかろう! 許す! しかし、戦いたいならいつでも言え。我は全力で迎え撃つぞ!」
とても上機嫌のフェン。
それを横目に、ハンスが小声で言う。
「クラリスさんは、よく彼を使い魔にできたね。威圧だけで失神しそうだった」
「まあ、偶然ですね。運が良かったんです」
その通りだった。
運良く、クリティカルデスが決まったから、勝てた。
それが発動しなかったら今頃、最下層で永遠の眠りについていたことだろう。
ハンスはどこか呆れていた。
まだ会話をはじめてそれほど時間が経っていないのに、顔には疲れがにじみ出ている。
「まあ、君のライセンスカードが見られただけでもいいか。もう、行っていいよ。あまり揉め事は起こさないように頼むよ。君は強すぎるからね」
「極力そうしたいですね」
話は終わったとばかりに、クラリスは立ち上がる。
そして、ドアに手をかけたところで、独り言のようにつぶやいた。
「50階層からは引き返せません。気をつけたほうがいいですよ」
突然に提供された情報。
予期せぬことにハンスは驚いていた。しかし、すぐにニヤリと笑った。
「……わかった。それだけでもギルドとしてはとても有用な情報だ。ありがとう、クラリスさん」
「失礼しました」
与えるつもりはなかったが、結局は話してしまった。
これが彼女の性分なのだ。
なんだかんだ言って、最後は面倒見の良さが出してしまう。
これも、あいつの影響なのだろうか。
クラリスは勇者エヴァンの顔を思い出していた。
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