24.主従契約と魔法使い
勝ってしまった。
あのとんでもないステータスと、たくさんの魔法を持つ最強の魔物に勝ってしまった。
それを成し遂げてしまったクラリスは横たわるフェンリルを呆然と眺めていた。
「ボクが……倒した。即死魔法で……しかも即死無効持ちを倒してしまった」
ありえないことが起こっている。
クラリスは何がどうなっているのか、わからずに困惑していた。
「落ち着いて、思い出すんだ……。たしか……」
フェンリルを倒す前、クラリスは吸運の腕輪の力を使った。
それによってフェンリルの運をすべて自分の物にした。
クラリスの運は250となり、フェンリルの運は0となった。
「もしかしてクリティカルヒットみたいなことが、即死魔法でも起こったのかな?」
運の値が非常に高い者は、そのような攻撃がたまにできると聞いたことがある。
クラリスの運は一時的だったがかなりのものだった。
そして攻撃対象であるフェンリルは0。
圧倒的に上回っている運によって、理論的にはクリティカルが出てもおかしくはない。
しかし、それは物理攻撃のみ。
魔法では聞いたことがなかった。
「それに普通の即死魔法ではなかったし。どう思う、デッド」
「キュ?」
デッドは首を傾げるのみだ。幼いドラゴンには理解できないようだ。
仕方ない。クラリスは一人で考える。
あの時の即死魔法には、死神が現れていた。
そして、大鎌を振るってフェンリルの命を刈り取っていた。
「どう考えても特別な即死魔法だった。推測の域だけど、あれをクリティカルデスと名付けよう」
次に魔物と戦うときに、吸運の腕輪の力を使って試してみるべきだろう。
そのまえに腕輪を上手く使いこなす必要がある。
さきほどの戦いで、なんとか使えた。
しかし、もう一度同じようにできるかはわからない。
「練習しないと! デッド、協力してくれる」
「キュル!」
「ありがとう」
魔物が襲ってきての検証は大変だ。
ここは忠実な使い魔に手伝ってもらおう。
一時的に運を吸い取るだけなので大丈夫だろう。
クリティカルデスについては今後調べていくことで決定。
次は、倒したフェンリルだ。
最強の魔物だ。
きっと食べたらとても美味しいだろう。
じゅるり。
クラリスの中で魔物はもう食べ物になっていた。
もちろん、デッドもだ。自分を足踏みした忌々しい魔物でもある。
ここは美味しくいただこう。
「食べよう!」
「キュルルル♪」
戦いの疲れも何のその!
軽い足取りで近づいていくが……。
「えええっ! なにっ!」
「キュッ!!」
突然、フェンリルが身につけていた首輪がまばゆい光を放ち始めたのだ。
前が見えなくなるほどの光だった。
それが収まると同時に首輪は砕け散る。
「嘘でしょ……」
「キュ……」
クラリスたちは身構えた。
なぜなら、さきほど倒したと思っていたフェンリルが立ち上がったからだ。
また、戦闘!?
クラリスはまだ、フェンリルの運がまだ加算されていることを確認する。
また、即死魔法で決める。
あの恐ろしい死神さんに刈り取ってもらおう。
詠唱を始めようとする。しかしフェンリルの方が先に言葉を発した。
「参った! 降参だ!」
「ん? 戦わないってこと?」
「そうだ。我はもう戦わない。それにこの戦いには理由があった」
「理由?」
フェンリルは後ろに建つ神殿を眺めなら言う。
「我は大魔法使いカトリアによって作られた魔物。そして、彼女から使命を授かっていた。それを果たすために、我はずっとここで待っていた」
「神殿の宝や書物を守ること?」
「違う。我を倒せし者の使い魔となることだ」
フェンリルは砕けた首輪を前足で指しながら話を続ける。
「これは蘇生の首輪だ。死んでも一度だけ生き返れる力を持っている。使えばこの通り、砕けてしまうがな」
「つまり……それって」
「お前の使い魔にさせてくれないだろうか?」
「おおおおっ」
まさかの使い魔志願。
最強の魔物が仲間になってくれれば、心強い。
クラリスはしばらく考えた後、一つの条件を提示した。
「デッドと仲良くすること。できるなら、使い魔にしてあげてもいい」
「お安い御用だ。あの時は踏みつけてすまなかったな、デッド。このとおりだ」
頭を垂れて、フェンリルがデッドに謝った。
かなりプライドが高そうなフェンリルがだ。
クラリスの使い魔になりたいという気持ちは本物なのかもしれない。
謝られたデッドはクラリスの顔を見ていた。
「デッドはどう? 仲間にしてもいい?」
「キュル♪」
筋は通したのでデッド的には問題なしみたいだ。
それに、自分が先に使い魔になったので、フェンリルは後輩となる。
早速、デッドは飛んでいき、フェンリルの頭に着地した。
「キュルルルル!」
「許してくれたようだな。そういえば、名をまだ聞いていなかったな。教えてくれるか?」
「うん、クラリスよ」
「覚えたぞ。使い魔の契約として、我に名前を与えてくれないか」
クラリスはフェンリルに近づいていき、額に手を当てる。
いきなりの名前なので、これといったものを用意しているわけではない。
だから、名付け方はデッドのときと同じだった。
フェンリルの呼びやすそうな部分だけ切り取る。
「あなたはフェン。契約を結びましょう」
「承知した。我の主として認める」
魔法陣がクラリスとフェンを覆うように展開される。
それがゆっくりと消えると、使い魔契約は完了していた。
「やっと長きにわたる束縛から解放されたな。礼を言うぞ、我が主よ」
「よろしくね」
「キュ!」
「こちらこそ! 久しぶりだ。こうやって話をするのは。カトリアがいなくなってから数百年。ずっと一人だったからな」
昔はカトリアと仲良く暮らしていたという。
しかしある時、フェンを置いてどこかに行ってしまったという。
「カトリアさんはなぜ、フェンに新たな主を求めるようなことをしたの?」
「さあ、それが我にもわからない。だが、クラリスの使い魔になったことで外の世界に出られる。できることならその足跡を調べてもいいか?」
「うん、いいけど。地上にある都市にはカトリアさんについての情報は無かった。だって、カトリアはこの最下層で最後の時を迎えたって思われているから」
「そうなのか……一筋縄ではいかないようだな」
耳を垂らしてしょんぼりするフェン。
とてもカトリアのことが好きだったのだろう。
「我のことはこれくらいでいい。それのよりも、クラリスがここへ来た目的があるだろう。邪魔をして悪かった」
「いいえ、邪魔だなんて思っていない」
「そうか……なら、神殿を案内しよう」
フェンは先頭に立って、神殿へ歩き始める。
いよいよ、大魔法使いカトリアの図書館だ。
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