23.最強の魔物と魔法使い
フェンリルはクラリスを値踏みするように見据えた。
「たった一人でここまで来たのか?」
言葉を発した魔物に驚きつつも、クラリスは返事をする。
「いいえ、この子と一緒に来ました」
「ほう、デッドリーファイアドラゴンか。まだまだ子供ではないか。それでよくここまで来れたものだ」
フェンリルは鑑定を使用して、クラリスとデッドのステータスを丸裸にする。
「ドラゴンはまあまあのステータス。おや、お前のステータスに変わったものがあるな……【デス力】? それはなんだ?」
「さあ、なんでしょうか?」
わざわざ自分の力を説明するほどお人好しではなかった。
「まあ、よい。魔法使いのレベルがカンストしているにもかかわらず、たった一つしか魔法が使えないではないか?」
「……」
「それも、よりによって即死魔法だけとはな。しかし、使い魔の力を借りたとしても、その魔法だけでここまで来られるとは思えないが……」
フェンリルはクラリスは何か……特別な力を持っているのではないかと訝しむ。
「もしかすると、【デス力】と関係しているのか?」
「……」
「また沈黙か。つまらないな。やはり、役目を果たす中で見極めるしかないか」
どこか諦めたような素振りを見せたフェンリル。
しかし、途端に殺気に満ちた顔を見せた。
戦いの予感。
クラリスとフェンリルの間にはピリピリとした空気が漂う。
「準備はいいか? か弱き冒険者よ。使い魔を一匹連れて、たった一人、たった一つの魔法でよくぞここまでやってきた。しかし、我はそのような魔法では死ぬことはない。我、大魔法使いカトリアの最高傑作にして、最強の魔物フェンリルである」
「最強の魔物!」
70階層のアトリエで、カトリアが研究していたという。
まさか、その魔物が最後の障害としてクラリスの前に立ち塞がる。
「いかにも、そのピアス。鑑定ができるのだろう。冥土の土産に見せてやる」
まさかのチャンス。
それほどフェンリルはこの戦いを余裕で勝つつもりだろう。
クラリスは舐め尽くされていた。
「くっ……」
そこまで言うならしっかりと鑑定させてもらおう。
・フェンリル《Lv999》
【HP】 :551570
【MP】 :355000
【力】 :63670
【魔力】 :56700
【敏捷】 :2500
【運】 :200
魔法:水、氷、土、風、雷、光、闇、治癒、空間
弱点属性:なし
補助:状態異常無効、即死無効、自動回復
強すぎだ。
デッドのステータスをまあまあと言ってみせた理由がわかる。
レベルがクラリスの10倍以上ある。
ステータスを比べるなんてバカバカしい。
「そんな……即死無効持ち」
それはクラリスにとって致命的なものだった。
【デス力】は即死魔法の成功率を上げるためのものだ。
だから、どんなに【デス力】をあげようとも、そもそも即死が無効されるなら意味がない。
フェンリルはニヤリと笑う。
「無駄だと、お前に勝ち目が無いということがわかったところで、始めようではないか! ここに来てしまったなら、我と戦って勝つ以外生き残る方法はない」
強者の余裕。
一歩一歩、ゆっくりとクラリスに近づいてくる。
あれほど自分たちが強くなったと思い込んでいたことが悔やまれる。
まさか、最後に別次元の強さを持った魔物が控えているとは……。
クラリスはフェンリルの気迫に圧倒されて、動けなくなってしまう。
「ハハッ、怯えているのか。なら、せめてもの情けだ。苦しまないように一撃で終わらせてやろう」
大きな口を開けて、フェンリルはクラリスを噛み殺そうとする。
しかし、灼熱の炎によって阻まれた。
「小癪なドラゴンが! 邪魔をしおって」
「キュッ!」
大切な主の危機となったら、デッドもビビってはいられない。
クラリスにフェンリルが近づかないように、炎壁を作って守る。
「デッド!」
「キュル!」
自分は戦える。
胸を叩いて、彼女を鼓舞した。
「うん、ありがとうデッド。私は自分の魔法……たった一つの魔法を信じる。ここまで来られたのは、即死魔法のおかげなんだ」
クラリスはフェンリルに向けて、詠唱する。
「ハハハッ、無駄だ。我には効かぬ。アイスランス!」
高笑いをしながら、デッドの炎の壁を氷魔法で相殺してみせた。
またたく間に蒸気が発生して、辺りを真っ白にしてしまう。
視界を奪われても、クラリスはフェンリルの魔力を感じ取っていた。
どこにいるのかはお見通しだった
「デス!」
フェンリルは即死しなかった。
「そらみたことか! 効かぬ、効かぬぞ! ぬるい、ぬるすぎる! 戦う気を見せたと思わば、残念だ。これが最下層まで来た冒険者の力か!?」
デッドは業火魔法で、フェンリルを焼き尽くそうとする。
しかし、もふもふな毛の一本すら燃やすことができない。
絶対的なステータス格差によって、天と地ほど力の差となっていた。
それでもデッドは諦めない。
「キュキュ!」
「邪魔だ!」
「キュ~……」
フェンリルが飛びかかり、大きな前足でデッドを抑え付けた。
「デッド!」
「このまま噛み殺してやろう」
「ダメェェェッ!!」
クラリスは一心不乱に即死魔法を唱える。
「デス、デス、デス、デス、デス、デス、デス、デス、デス、デス、デス、デス、デス、デス、デス、デス、デス、デス、デス、デス、デス、デス、デス、デス、デス、デス、デス、デス、デス、デス、デス、デス」
「だから、無駄だと言っただろう。期待をして損をした。それしか能がないとはな」
フェンリルはクラリスを無視して、デッドを仕留めにかかる。
「デス、デス、デス、デス、デス、デス、デス、デス、デス、デス、デス、デス、デス、デス、デス、デス、デス、デス、デス、デス、デス、デス……お願い!」
その時、クラリスの黄金の腕輪が光り輝いた。
吸運の腕輪。
装備Lv制限だったレベル90を越えたのに、今まで使いこなすことができなかった。
それが今頃になって、その力を発動させている。
フェンリルの運をすべて奪い、クラリスへ加算させた。
「なんだそれは? 我の運を一時的に奪ってゼロにして、なんの意味がある」
クラリスにだって、意味のないこと……わかっていた。
しかし、ここで即死魔法を唱えろと自分の中にいる何かが背中を押してくるのだ。
彼女はその得体のしれない何かによって、即死魔法を唱えた。
「デス!」
「無駄だと……ん!?」
フェンリルの大きな影に異変が起こった。
その影は伸びていき、大鎌を持った死神の形に変わる。
「なんだ……これは!」
影の死神は浮き上がり立体的な形を成していく。
フェンリルは咄嗟に飛び退いて逃げようとする。
しかし、死神はどんなに早く動こうと後を付いてくる。
なぜなら、自分の影だからだ。
死神は大鎌を振り上げる。
「やめろ!」
わけも分からず、狼狽えるフェンリルに、大鎌を振り下ろした。
キャイイイイイイイィィィィィ~ン!!
フェンリルの断末魔の叫びが最下層中に響き渡った。
少しでも面白いと思っていただけたら、ブックマークと評価をもらえると嬉しいです。




