22.迷宮の守り手と魔法使い
危ないところだった。自然いっぱいだった階層が今では火の海。
あと少し遅れていたら、クラリスはご臨終していた。
しかも、自身の使い魔の力によってだ。
「キュ……」
「デッドは悪くない。ボクが見せてって言ったんだし。うん、今度から気をつけてね」
「キュッ!」
イエッサー! 頭の前で手を掲げて、デッドは良い返事をした。
頭のいい子なので、今後このようなことをすることはないだろう。
もし、地上の街へ戻れたら絶対にあの炎はまずい。
街が火の海なんてことになったら、お尋ね者まっしぐらだ。
稀代の放火魔クラリス。
そんな名前で歴史の1ページを飾るなんて、まっぴらごめんだ。
まだ、デス子ちゃんと呼ばれて揶揄されていたほうがましだ。
階段を降りていくクラリス。
地上ではどうなっているだろうか。
ギルドではもしかすると、死亡扱いになっているかもしれない。
体感的に深層へ落ちて、数ヶ月は経っているような気がする。
ずっと迷宮に潜っていると、朝や夜が無いので時間の感覚が狂ってくると聞いていた。
まさにその通りだ。
クラリスには外の世界では今が朝なのか夜なのか、全くわからない。
自分の中で眠たくなったら、夜ということにしている。
初めの方は真面目に数えていた。
しかし今では面倒になってやめてしまった。
「あれから数ヶ月か……エヴァンは魔王討伐を進められているのかな」
勇者エヴァンと別れて、そんなに経ってしまっている。
彼は強いので放って置いても、どんどん戦い進んでいくだろう。
難点といえば、彼は極度のお人好しだ。
困っている人がいれば見過ごすことができなくて、要らぬ戦いをしてしまう。
それは勇者として大事な素養なのだろうが、見ていて危なっかしく思えた。
パーティーメンバーに恵まれているので大丈夫だろうが。
気がかりなのは、クラリスを追放した賢者マーテルだ。
ふんわりとした温和な見た目に反して、腹黒い。
他のメンバーにはいい顔をしていたので、大丈夫だと思うが……。
クラリスが突然抜けたことで、パーティー内に不協和音が起こっていなければいいけど。
その煽りを一番受けるのは勇者であるエヴァンだ。
「心配だな」
地上に出られたら、彼の近況を調べてみようと思うクラリスだった。彼女もエヴァンと同じくお節介な性格だった。
その甘さが、マーテルを助長させてしまったのかもしれない。
「でもマーテルにだけは、お仕置きしないと! 見ていろよ!」
「キュッ!」
デッドにも怒りが伝わったようだ。
「ボクのために怒ってくれるのはいいけれど、業火魔法はダメ。あれはやり過ぎだから」
「キュゥ………」
主に恥をかかせたやつは許さない。
焼き尽くす! と意気込んでいたデッド。
それを止められて意気消沈だ。
「わかったよ。普通の炎魔法ならいいよ」
「キュルル!」
撃ちまくるぜ!
勢いよく階段をデッドは降りていく。
そしてマーテルに見立てて、デッドは71階層の魔物を焼き尽くし始める。
ステータスが飛躍的に上がった効果で、敵なしになっている。
「むむむっ! ボクの出番がない、強い!」
デッド無双。
体を取り巻く炎の渦を作り出し、突貫!
クラリスがどのような魔物かを調べる余裕もなく屠っていく。
「コラコラッ! 食べて【デス力】を上げたいのに、灰にしないで!」
「キュルルルル!」
「待ちなさい! デッド!」
魔物たちは恐れ慄き、逃げ出す。
炎の申し子となったデッドはそれを追いかけ回す。
快進撃の始まりであった。
今までクラリスだけで魔物を倒していた。
それに加えてデッドも有能な戦力となった今……彼女たちを止められる魔物はいない。
たとえ二つ名持ちでも、ボッコボコである。
デスの雨を凌いでも、業火に焼かれる。
業火を凌いでも、デスの雨に討たれる。
ずっとボクたちのターンである。
反撃の機会など与えない。
そして倒せば倒すほど経験値がもらえて、レベルアップ!
さらにもりもり食べて、【デス力】アップ。
たまに二つ名持ちを食べれば、ステータスボーナスまで付いてくる。
波に乗ったクラリスたち。
一定以上を越えて強くなってしまうと、途端に迷宮がイージーモードに変わってしまう。
まさかの深層でそれが起こるとはクラリスも思ってもみなかった。
「ボクたち……もしかしてノリにノッテいるかも」
「キュルルルル♪」
ここまでずっと命を脅かされてきた。
きっとそのご褒美だ。
下の階層へ進めば進むほど、加速度的に強くなっていく。
料理器具や香辛料のおかげで、食事の質もアップ!
言うことなしだ。
こうなったら一気に進んでやる。
一心不乱に最下層を目指していった。
またたく間に一週間の時が流れて、クラリスは歴戦の冒険者のような顔をしていた。
「どれくらい強くなったかな」
クラリスはライセンスカードの状況を見る。
・クラリス(15歳)人間♀
魔法使い《Lv99》
【HP】 :1237 (+2465)
【MP】 :8250 (+2150)
【力】 :155 (+1530)
【魔力】 :5624 (+2025)
【敏捷】 :185 (+130)
【運】 :10 (+40)
【デス力】:15450
魔法:即死
称号:魔物グルメ
「おおおおおおおおおっ!?」
とうとうレベルカンストである。
これ以上魔法使いのレベルは上がらないみたいだ。
【デス力】は一万の大台を突破している。
これほどのデス力を持ってすれば、即死できない敵はいないように思えるほどだ。
ステータスボーナスもかなり美味しい。
魔法使いの弱点である【HP】や【力】を補ってくれている。
そのことによってクラリスは普通の魔法使いと一味も二味も違う。
杖であるネイリングで殴ってもいい感じのダメージが入ってしまうほどだ。
「強くなりすぎたのかもしれない」
思わずそう言ってしまうのも無理なかった。
そして驚くべきはクラリスの隣で飛んでいるデッドだ。
鑑定で開いてみるのも、恐ろしいほどのステータスに成長していた。
ドラゴンのレベル上限は二桁を越えていく。
まだまだ成長の余地があるので、末恐ろしい。
クラリスは鑑定でしばらくの間、デッドのステータスを眺めていた。
「うん、見なかったことにしよう」
とりあえず、自分の成長を喜ぶことにした。
デッドがクラリスの袖を引っ張って、早く先に進もうと言ってくる。
「キュルル!」
「ちょっと待って、心の準備が」
クラリスがここに来て、緊張していた。
目の前には最終階層への階段。100階層への道だ。
順風満帆であっても、これで最後だと思うと否応なしにこみ上げてくるものがある。
「長かった……ここまで、大魔法使いの図書館を見るぞ!」
「キュルル!」
足取りは軽く、階段を一段飛ばしで降りていく。
早く、クラリスは図書館を見たかった。
一体、どのような姿をした場所なのだろう。迷宮内にあるから、信じられないくらい広大な図書館かもしれない。
そのすべてに目を通せるのだろうか。
途方も無い時間がかかるかもしれない。
わくわく!
「100階層、到着!」
「キュッ!」
やったー!! デッドと喜びあうクラリス。
「おおっ! 神殿がある!」
白を基調とした巨大な神殿が鎮座していた。
長い時を経ても、その純白は色あせることなく淡く輝いている。
大魔法使いのアトリエというよりも、何か神聖なものを祀っているような場所だった。
「ここに図書館があるのかな」
念の為、トラップがないかをデッドと一緒に調べる。
「大丈夫そう! 行こう、デッド」
神殿内に入ろうとするクラリス。
しかし、デッドが彼女の袖を引っ張って止めた。
「急にどうしたの?」
「キュッ!?」
鼻をクンクンさせて、神殿に何かがいることを彼女に知らせた。
しかも、デッドは僅かに震えているようだった。
今までそのような素振りを見せることはなかった。
それほどまでに恐ろしいものが奥にいるのだろうか?
クラリスは立ち止まり、じっと神殿の奥を見据える。
「えっ!?」
それはゆっくりと……悠然と現れた。
スラリと長い足。全身を覆うふんわりふわふわの青い毛並み。
鋭い牙が威嚇するように向けられている。
琥珀色の瞳は食い入るようにクラリスを見つめている。
「我の眠りを妨げるのは、お前か?」
おとぎ話の世界で登場する伝説の魔物フェンリル。
大魔法使いカトリアが作った最強の魔物だった。
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