21.強化の魔物と魔法使い
新緑の森に漂う美味しそうな匂い。
鍋の蓋を開けると、モクモクと湯気が立ち上がった。
よく煮込んだ具材は、とろとろになっている。
「そろそろかな」
予め配合しておいた香辛料をいれてやる。
今まで素材そのままだった。しかし、今回はちゃんとした料理をすると決めていた。
パーティーでは料理を担当してきたクラリスにとって、朝飯前だ。
おたまで鍋の中をかき混ぜてやる。
香辛料が具材と合わさって、途端に香りが更に良くなる。
どうやらクラリスが選んだ香辛料は正解だったようだ。
彼女は鼻歌交じりに味見をする。
「思っていた通り、辛めの香辛料が合うと思った。デッド、火を弱火にして」
「キュ!」
デッドはずっと火力係だ。
普通のドラゴンはプライドが高く、自慢の炎を料理に使われることはない。
だが、デッドは違う。
美味しいものが食べれるなら、そのようなプライドは簡単に捨て去るドラゴンだった。
それにクラリスのことが大好きなのでお安い御用だ。
「火加減がうまくなったね。デッド」
「キュル!」
始めのうちは、鍋を溶かしてしまうかと思える大火力だった。
それはしかないことだ。
元々、戦うために特化した使い魔。
料理のための使い魔ではない。
練習していくうちに、立派なドラゴンコンロになっていた。
デッドさえいれば、火加減を誤って食材を焦がすことはないだろう。
「もうすぐできるからね。頑張れ、デッド!」
「キュッ!」
「コラコラ、火力が強くなっているよ」
「キュ~」
もう少しで食べられると聞いて、デッドは力が入ってしまったようだ。
危なかった。せっかく料理が台無しになるところだ。
クラリスはトレントの葉っぱを刻んで入れる。
この葉はレモンに似た爽やかさがあった。
「出来上がり!」
「キュルルルルル!」
戦いの疲れは、やっぱり魔物料理に限る。
キャッスルタートルの辛味野菜煮込みの出来上がりだ。
野菜と言っても、トレントの枝に実っていた果実を使っている。
赤色や黄色、青色、緑色などカラフルで、各々が違った食感と味だった。
赤色はトマト。
黄色はじゃがいも。
青色はナス。
緑色はピーマン。
このトレントを飼えば、野菜に困らないかもしれない。
クラリスとって重宝している魔物だ。
「下の階層でこのような便利魔物がいてくれたらいいんだけど」
迷宮の魔物は食べるためにいるわけでない。
クラリスの願いは望み薄だろう。
「亀の肉って初めて……」
香りは間違いないと言っている。
あの巨大なキャッスルタートルは味はいかに!
ぱく……モグモグ……!?
全身に駆け巡る! 雷が落ちたような衝撃!
「美味しい!」
あまりの美味しさに、スプーンを持ったまま地面を叩いてしまうほどだ。
暴れるほど美味しい!
デッドは炎を吐きまくって、天に登っていってしまった。
そして、空中で暴れていた。
「何なの……これは、口の中でキャッスルタートルの肉が暴れている。香辛料の辛味がそれを助長させて……傍若無人過ぎる」
さすがは二つ名持ちの魔物だ。
今まで戦ってきた中でもとびっきり強かった。
それに比例して美味しさも増している。
クラリスは更なる【デス力】を高めるために食らう。
キャッスルタートルとの戦い。
意を決して、唱えた即死魔法。
デス。
たった一言で見事に決まった。
そして地響きを立てながら、キャッスルタートルはひっくり返って即死した。
彼女の傍らには、大岩と見間違えるほどの魔物が死んでいる。
「もっと苦戦すると思っていたけど……」
結果は呆気ないものだった。
肩透かしもいいところだ。
それができてしまうほど、クラリスは強くなった。
しかし、クラリスはまだそれを実感できずにいた。
この迷宮はまだまだ先があるから。
もっと強くならないといけない。
ゲットしたアイテムを手にする。
強化の実。
「とりあえず、鑑定かな」
鑑定しようとしたとき、空からデッドが振ってきた。
「キュルルルルル♪」
そして、ぱくり!
「ちょっっっっっっ!? 食べちゃダメ!」
もぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐ。
ごっくん!
「キュルルルルル♪」
実に美味しそうにデッドは強化の実を食べてしまった。
デッドは勘違いしてしまった。
クラリスが鑑定しようと、実を置いた手を上げた。
それを自分に与えるご飯だと思ってしまったのだ。
「ああ……鑑定」
既に強化の実はデッドのお腹の中。
鑑定は失敗してしまう。
代わりにデッドを鑑定。
・デッド《Lv40》
(デッドリーファイヤードラゴン)
【HP】 :4530
【MP】 :3030
【力】 :420
【魔力】 :300
【敏捷】 :200
【運】 :50
魔法:火
弱点属性:水
かなり強くなった。
レベル上昇はクラリスに比べて遅い。
ドラゴンはゆっくりと育つタイプと聞く。
それでも、この迷宮には強敵が多い。たくさんの経験値が手に入る。
戦っているうちに、もっとレベルが上がることだろう。
「結局、あの実は何だったんだろう。毒ではないといいけど……デッドはお腹痛くない?」
「キュ?」
デッドは首をかしげて、平気な顔していた。
「大丈夫そうか」
ほっとしていると、デッドに異変が起こった。
お腹に手を当てて、苦しみ出した。
「やっぱり食べちゃダメ系の実だったんだ。吐き出して!」
「キュルゥゥゥ~!」
ついには体中が輝き出してしまう。
「ドラゴンってお腹が痛いと、光るの!?」
そのような話はない。
デッドは強化の実の力で、新たな力を手に入れようとしていた。
クラリスは知る由もない。
「デッドッ!」
唯一無二の相棒を失ってしまうのではないか。
とても恐れていた。
目も開けていられないほどの光が収まり、そこには……。
「キュル♪」
いつもと変わらないデッドがそこにいた。
「元気そう。よかった」
胸を撫で下ろすクラリス。
しかし、何かあってはいけないと、念入りにデッドを確認する。
あれだけ、輝いたのだ。
何もないわけがない。
よ~く、よ~く見ると!
「角が少し伸びている!」
「キュ?」
デッドはそう言われて、頭に手を当てる。
ハッとなって、うんうんと頷いてみせる。
「体に変化が起こっている。鑑定してみよう」
クラリスはデッドを鑑定する。
・デッド《Lv40》
(デッドリーファイヤードラゴン+)
【HP】 :15730
【MP】 :12030
【力】 :1620
【魔力】 :1040
【敏捷】 :400
【運】 :80
魔法:火、業火
弱点属性:なし
めちゃくちゃ強くなっていた。
「強化の実って、ステータスを上げるためアイテムだったの」
「キュ?」
クラリスは知らない。
強化の実は、大魔法使いカトリアが最強の魔物を作る上で開発したアイテムだと。
食べて適応できる確率は1%に満たないということも。
それだけ、デッドは優秀な使い魔だということも、今のクラリスは知る由もない。
「すごい。ねぇ、業火魔法を使ってみて。初めて聞くし、見てみたい」
「キュル!」
かしこまりましたとばかりに、デッドは空気を吸い込んだ。
めいいっぱい豪快に吐き出す。
「えっ……きゃあああぁぁ!!」
それは、まさに地獄の業火だった。
広大な新緑の森を焼き尽くすほどの……。
お願いしたクラリスもびっくりの大火力だ。
燃え上がる森。
大魔法使いのアトリエも炎の中だ。
「あわわわぁ、逃げないと死んじゃう!」
辺り一帯、火の海だ。
このままではクラリスもこんがり肉になってしまう。
慌てて、下の階へと逃げ込むのだった。
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