18.地下室と魔法使い
金属製の梯子が下へと続いている。
「かなり暗いね。そうだ!」
たしか寝室にランプがあったはず。
それを取ってくると、灯りを向けて覗き込む。
「よく見えない。やっぱり下に降りてみないとわからない」
もしトラップがあったらどうしよう。
一抹の不安がよぎる。
このまま勢いで突入してもいいのかと思案していると、デッドがクラリスの肩を叩く。
「キュ!」
「もしかして、調べてくるの?」
「キュル」
頼れる使い魔である。
暗いのでランプを渡そうとすると、デッドは要らないと首を振る。
そして、尻尾をぶるんぶるんと回し始めた。
「なになに、どうしたの?」
「キュルルル」
一鳴きすると、尻尾に炎が灯った。
「すごい! 尻尾が燃えている」
「キュ!!」
これがあるから、ランプは要らないぜといった感じに、デッドはポーズを決める。
結構様になっていた。
そのまま行ってきます! とばかりに下へと落ちていった。
クラリスには、炎が下へ下へと移動していくように見えた。
ピタリと止まって、うろうろ。
どうやら、底に着いたようだ。
「キュルルルッ!!」
デッドが大きな声で鳴く。
安全だ。
降りてきて大丈夫!
それを表すかのように、精一杯に炎の尻尾を振ってみせる。
「ありがとう、デッド。すぐにそっちに行くね」
早速、クラリスも降りていく。
運動は得意な方ではないので、慎重にゆっくりと。
昔なら勇者エヴァンがエスコートしてくれていたが、今はそれを望めない。
踏み外さないように……。
「あっ!?」
ここぞというところで、クラリスは鈍臭さを発揮してしまう。
しかし、運良く踏み外したのは地面近くだった。
「痛い……ううううぅぅ」
お尻を強打。
しばし悶える。
それだけで済んだ。
運動神経の良いデッドが、なんともいえない目でその様子を見ていた。
クラリスは誤魔化すために咳払いを一つ。
そして、何事もなかったように立ち上がる。
「到着! なにがあるのかな?」
ランプの光を頼りに、周りを照らす。
ここは、物置のようだ。
何に使うのか、クラリスには見当のつかない魔具が置いてある。
どれも、高価な品だろう。
持って帰りたいが、あまりにも大きくて彼女には運び出せそうにない。
「カトリアの遺品かな。戦いに使えそうな物は……」
更なる深層へ進むために、戦力を強化しておきたい。
隠し部屋を見つけたときから、何かお宝があるかもしれない。
心を躍らせていたクラリスだった。
結果は物置。
残念である。
クラリスは壁に寄りかかって座り込む。
このままではお尻の強打損だ。
ここを見つけたときの心の高鳴りを返してもらいたい。
「収穫なし」
「キュッ!」
「どうしたの?」
デッドが鼻をクンクンと動かして、彼女が寄りかかっている壁を嗅ぎ出した。
「キュルルル!」
「向こうに何かあるの?」
「キュ!」
デッドの言葉を信じるなら、隠し部屋の先にまた隠し部屋があるということだ。
見た感じは、ただの壁で他と区別がつかない。
ランプを近づけて、もっと隅々を調べる。
「僅かに風が吹いている」
その場所にランプの炎をもっていくと揺らめき出す。
デッドも真似をして自分の炎の尻尾を近づけると同じだった。
「この先に空間がある」
中に入ろうと、押したり引いたりするが、びくともしない。
試しに、立て掛けられていた金属製の棒で壁を崩せないかと突く。
傷一つ入らない。
「きっとすごい物が置いてあるんだ」
なにかによって守られているようだ。
クラリスは壁に手を当てて、集中する。
「魔力を感じる……これは魔法だ」
強化系の魔法だろうか。詳しくはわからないが、かなり特殊な魔法のように思えた。
「こうなったら、あれしかないよね」
クラリスができることは、いつだって決まっている。
「デス!」
壁を守っていた魔法は即死した。
途端に、ばらばらと目の前の壁が崩れ出す。
「おおおおおおっ!!」
「キュルルルル!!」
クラリスとデッドはハイタッチ!
迷宮の冒険はこうでなくては!
彼女の前に、黄金に輝く大きな宝箱が現れた。
見るからに、とてつもないアイテムが入っていそうだ。
「ちょっと待って!」
飛びつきたい心を抑え込む。
油断はできない。
迷宮には宝箱の形をしたミミックという魔物がいる。
おっほー! 宝箱だ!
と言って近づいたところをがぶり。
なんてこともあり得る。
ここは慎重に。
クラリスはネイリングの先で、ちょんちょんと宝箱を突く。
反応はない。
「大丈夫かな。やっぱり、心配。デッド、炎!」
「キュ!」
デッドを空気を大きく吸い込む。
そして、炎を吹いた。
宝箱は炎に包まれる。
これで何もなければ、今度こそ……。
「大丈夫じゃない!?」
宝箱が襲いかかってきたからだ。
「ミミックだ!」
「キュッ!」
デッドが本気の炎――灼熱の炎を吹いた。
さっきは本物の宝箱だった時のために、手加減をしていた。
いい感じに燃え上がるミミック。
それでも死ぬことはない。体を覆っている宝箱の耐久が高いからだろう。
「ぎゃああああああああああああ」
クラリスは飛びかかってくるミミックに、驚きのあまり女の子として、上げてはいけないような声が出てしまう。
「デス、デス、デス、デス、デス、デス、デス、デス、デス、デス、デス、デス、デス、デス、デス、デス、デス、デス、デス、デス、デス、デス、デス」
感情のこもった熱い即死魔法の連呼。
ミミックはたまらずに、即死した。
実は最初の一回目ですでにご臨終していた。
残りのデスは死体蹴りであった。
焦っていたクラリスは知る由もない。
「なんとか……倒せた。ミミックは苦手だな。ビックリだよ……これならエンシェントトレントのほうがマシだ」
ふぅ~、まさかの戦いに脱力感が襲ってきた。
カトリアのアトリエだから、安全地帯だと思っていたのは間違いだったようだ。
「この魔物ってミミックでいいんだよね」
彼女が知っている形とは違う。こんなに綺羅びやかな宝箱をしていないからだ。
念の為、鑑定する。
・【財宝の門番】エンシェントミミック《Lv75》
【HP】 :3250
【MP】 :3035
【力】 :610
【魔力】 :330
【敏捷】 :100
【運】 :50
魔法:即死、治癒
弱点属性:なし
ドロップアイテム:吸運の腕輪
危ない。二つ名持ちだった。
そしてクラリスと同じ即死魔法持ち。
ミミックの方が格上だったので、速攻で倒せなかったら、全滅させられていたかもしれない。
「助かった……。ドロップアイテムが吸運の腕輪……これかな」
エンシェントミミックの横に黄金色の腕輪が転がっていた。
続けて鑑定する。
・吸運の腕輪
【防御力】:150
【特殊】 :相手の運を一時的に奪う。
【補足】 :装備Lv制限(Lv90以上)
防御力はかなり高い。
特殊効果として、運を奪えるとある。
「もしかして、戦う魔物の運を奪って自分のものにできるの!?」
運が上がるということは、ドロップアイテムを落とす確率が上がることに繋がる。
二階層で手に入れたウサギのしっぽは、運気を5アップさせる効果があった。
これはそれ以上の効果がある。
効率よくドロップアイテムを回収できそうだ。
装備Lv制限によって、まだその力を発揮できないが、将来期待できる。
「すごい腕輪。だから、こんなに手の込んだ隠し方をしていたのは納得。この迷宮なら装備Lv制限もすぐに達成できそう」
戦うための力というよりは、戦った後により良い効果が得られるアイテムだ。
クラリスが求めていた物とは違っていたが、デザインもいいし、気に入ってしまった。
すぐに腕に付けてみるクラリスだった。
「どう、デッド?」
「キュルル!」
「似合ってる! ありがとう」
満足したところで、目線を足元に転がっているエンシェントミミックに移動する。
ちょうど、お腹が空いてきたところだ。
「調理場もあるし、道具もある。もうするしかないね」
「キュ!」
じゅるり!
クラリスは、エンシェントミミックを食べようとしていた。
魔物をいろいろと食べてきた彼女にとっては、見た目があれなミミックすらも食料だった。
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