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15.生きた森と魔法使い

 バルーンアップルでデス力を高めたクラリス。

 なんと100もアップしている。

 70階層から魔物の質が上がっているかもしれない。味も一段と良い。

 もしかすると、強ければ強いほど食べると美味しいのかもしれない。

 ……じゅるり。


 そう思うと探索にも熱が入る。


「もっと、もっと!」

「キュ! キュ!」


 彼女は飢えていた。

 MPが非常に高くなったことで、たった一匹の魔物では物足りない体になっていた。

 元々大食らいだったクラリス。


 もう、とどまることを知らない。

 おそらくこの階層でもっともお腹を空かせているのは、クラリスだ。

 そして、使い魔は主に似てくる性質を持つ。

 つまり、デッドも同じだった。しかも、生まれて間もない育ち盛りのドラゴンだ。


 腹ペコの魔法使いと使い魔は、新たな魔物を探す。


「違う魔物はどこに……」


 同じ魔物ではデス力が上がらない。

 バルーンアップル以外の魔物を探す必要がある。

 これほどの大きさの密林だ。


「キュ!?」


 鼻が利くデッドが早速見つけたようだ。

 クラリスの袖を引っ張って、教えてくれる。


「さすがデッドね」

「キュキュ♪」


 デッドが指差した方角に進んでいく。

 一体、どのような魔物がいるのだろうか?

 できれば、獣系がいい!


 魔物の近くに来たところで、デッドがクラリスの袖をまた引っ張った。

 木の陰から、そっと辺りを見回す。何か大きなものが動く音がする。

 それが聞こえる方を見ると、


「いた!? あれって……」


 トレントだ。クラリスも知っている有名な魔物だ。

 木の形をした魔物である。周りの木々と似たような姿をしている。

 木の根をタコのように器用に動かして、ゆっくりと歩く姿はどこか滑稽だった。


「木って食べれるかな」

「キュ?」


 デッドは首を傾げる。

 あれは魔物で木じゃないから大丈夫だよ、とでも言いたそうだ。


 クラリスとしては見るからに硬そうで、食べられそうに思えなかった。


「とりあえず、鑑定!」


・【新緑の賢者】エンシェントトレント《Lv71》

 【HP】 :5230

 【MP】 :2080

 【力】  :520

 【魔力】 :250

 【敏捷】 :54

 【運】  :13


 魔法:風、治癒

 弱点属性:火

 ドロップアイテム:古代の枝


 クラリスは言葉を失った。

 強い……強すぎる。


「二つ名付き魔物!」


 存在を話には聞いていた。

 見るのは初めてだった。


 トレントとよく似た見た目をしているが全くの別物だ。

 迷宮で長年生き続けてきた魔物には、もう一つ名前が与えられる。

 そして、通常よりも強力な力を持つという。


 ステータスを見ればよくわかる。

 バルーンアップルが可愛く見えてしまうほどだ。


 接近されて、あの太い枝で鞭のように叩かれでもしたら、即死してしまうかもしれない。


「これはハズレ。ボクにはまだ早い」


 もっと強くなってから、余裕を持って戦いたい。

 それがクラリスのモットーになりつつあった。


 敢えて死の危険を冒したくない。

 なにせ、ここは70階層。

 これほど階層にパーティーを組まずにソロでいるほうがおかしいのだ。


 頼れるのはデッド。使い魔だけだ。

 詠唱中はデッドに守ってもらっている。


 本来ならパーティーの前衛たちの厚い守りがあってこそ、真価を発揮する魔法使いだ。


 薄い守りでも、戦えているのはひとえに即死魔法【デス】のおかげだった。

 しかし、あれほどの強敵を前に、クラリスのデス感が警鐘を鳴らす。


 あれにはデスが今まで通りには通用しないと。


「ボス属性持ちじゃないから……デスは効きそう。問題はボクの【デス力】……」


 只今、【デス力】は425。

 エンシェントトレントには足りないような気がする。

 もっと他の魔物を食べてからにしよう。


「行くよ、デッド」


 呼ぶが、デッドは言うことを聞かない。

 使い魔が主の支持を無視するのは、通常ではありえない。

 よほどのことが起こったときくらいだ。


「デッド?」


 デッドが何かを感じたようで、クラリスの首元を咥えて、引っ張り始めた。

 騒いだら、エンシェントトレントに気づかれしまう。

 慌てるクラリス。


 しかし、もっと慌てる事態が発生してしまう。

 彼女が身を隠していた木に異変が起こったからだ。


 足元の地面が盛り上がり、根がうねうねと飛び出してきた。


「なにっ、キャッ!?」

「キュキュ!!!!」


 ただの木だと思っていた……それは次第に顔のようなものが幹に現れる。


「えええっ、トレントだったの!?」


 デッドも気づけなかったのはしかたのない話だ。

 木に擬態しているトレントは、すべてが木と同じなる。

 匂いすらもそれに含まれる。


 動き出したトレントから距離を取ろうとするが、周りの木々にも異変が起こる。


「嘘……全部そうなの……」

「キュ……」


 クラリスとデッドは抱き合って、顔を青くした。

 周りのすべてが嘘の木。

 トレントだったからだ。


 ここは70階層でも特別な場所。

 生きた森――トレントの森だった。


「やばい……」


 恐れていても、死ぬだけだ。

 こういうときこそ、冷静に。

 クラリスはトレントたちを鑑定する。


・アークトレント《Lv63》

 【HP】 :2560

 【MP】 :1230

 【力】  :230

 【魔力】 :130

 【敏捷】 :50

 【運】  :20


 魔法:風

 弱点属性:火

 ドロップアイテム:樹液


 エンシェントトレントの劣化版といったところか。

 それにしても数が多い。ざっと数えただけで、50体はいそうだ。


「近づいてくる」


 アークトレントたちが、根を動かしながらクラリスに向けてじわりじわりと近づいていた。

 このまま、黙っているクラリスではない。

 デッドもそうだ。

 ここまでパーティーを組まずにやってきた。


「この魔物ならデスは効く!」


 クラリスのデス感がGOサインを出している。


「デッド、炎を吐いて時間を稼いで!」

「キュ!!」


 クラリスを中心に炎の円を吐いてみせるデッド。

 これでアークトレントは近づけないはず。


 クラリスは即死魔法を詠唱する。


「デス」


 トレントは即死した。


「いける! デス、デス!」


 今回は一回目はダメだった。しかし、二回目でトレントは即死した。


 MPはたくさんある。

 問題は、喉が枯れないかくらいだ。

 クラリスは精一杯、息を吸い込んだ。

 肺にこれ以上入らないくらいに。


 一気に詠唱と共に吐き出す。


「デス、デス、デス、デス、デス、デス、デス、デス、デス、デス、デス、デス、デス、デス、デス、デス、デス、デス、デス、デス、デス、デス、デス、デス、デス、デス、デス、デス、デス、デス、デス、デス、デス、デス、デス、デス、デス、デス、デス、デス、デス、デス、デス、デス、デス、デス、デス、デス、デス、デス、デス、デス、デス、デス、デス、デス、デス、デス、デス、デス、デス、デス、デス、デス、デス、デス、デス、デス、デス、デス、デス、デス、デス、デス、デス、デス、デス、デス、デス、デス、デス、デス、デス、デス、デス、デス、デス、デス、デス、デス、デス、デス、デス、デス、デス、デス、デス、デス、デス、デス、デス、デス、デス、デス、デス、デス、デス、デス、デス、デス、デス、デス、デス、デス、デス、デス、デス!!」


 デスを言うだけの機械だ。

 次から次へと即死していくトレント。

 いける!!

 トレントの群れを倒せる。

 そう思ったクラリスだったが……何かがおかしい。


「デス、デス、デス、デス、デス、デス、デス、デス、デス、デス、デス、デス、デス、デス、デス、デス、デス、デス、デス、デス、デス、デス、デス、デス……!? 倒しても倒しても減らない!?」


 先程からクラリスが倒したはずなのに、即死させたはずなのにトレントの数が減らないのだ。


「キュ!!」

「なに? あああっ……そういうことか!」


 デッドの知らせによって、すべてを理解した。

 トレントの群れの後ろで、エンシェントトレントが蘇生魔法を使って生き返らせていたからだ。


「こうなったら、根比べ」


 クラリスは更に速さを上げて、即死魔法【デス】を高速連続詠唱していく。

 早口過ぎて常人には聞き取れないほどだ。


 デッドも集中して動けないクラリスを頑張って守る。

 どちらのMPが早く尽きるか? クラリスか? エンシェントトレントか?


 ギギギギッ……ギギギギッ!


 初めに音を上げたのはエンシェントトレントだった。

 蘇生魔法は消費MPがとても大きい。比べてクラリスの即死魔法は少ない。


 加えてエンシェントトレントは、小さな侵入者であるクラリスを甘く見ていた。

 大してMPを持っていないと思っていたのだ。


 事実は違う。

 クラリスはエンシェントトレントを余裕で超えるMPを持っている。

 根比べする前から、勝敗は決まっていた。


 エンシェントトレントは長い間生きていたため、非常にプライドが高い。

 苛立って、風魔法【エアカッター】を放ってきた。

 中級魔法で、詠唱が早い。


 デッドはトレントに向けて炎を放っているため対応できない。

 クラリスは、即死魔法【デス】で対抗するしかなかった。


 今まで即死魔法を他の魔法への対抗措置として放ったことはない。

 通常なら、これは生き物の命を断つ魔法だ。

 魔法は断てない。それが常識だ。


 しかし、クラリスには【デス力】という新たなステータスがある。

 そして、彼女のデス感が風魔法【エアカッター】に向けて放てと言っていた。


「デス!」


 クラリスに目掛けて飛んできていたエアカッターがかき消される。

 魔法を即死させたのだ。


 思いも寄らない出来事にエンシェントトレントは慄いた。

 そんな魔物にクラリスは言い放つ。


「ボクのデスはただのデスじゃない!」

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