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12.使い魔登場と魔法使い

 盛大に炎を吹いてみせるデッドリーファイヤードラゴン。

 どうだ、すごいでしょと言わんばかりだ。


「ほげぇ……」


 クラリスはまだ驚きつつも、首を横に振って我に返る。

 そして、すぐに正式な契約について考えていた。

 つまり、名を付けることだ。


 このドラゴンを名前で縛り、クラリスの言うことを聞く使い魔とするのだ。


「なにがいいかな……。ポチ、タマ……ありきたり。う~ん……」


 ドラゴンはクラリスの頭の上をくるくると飛んでいる。

 早く名前がほしい、アピールである。


「わかったから、ちょっと待って! こらっ、変なところを触らないで!」


 油断も隙もないドラゴンである。

 もう我慢の限界のようだ。

 これ以上ゆっくりと考える暇も与えてくれそうにない。


 生まれたてのドラゴンはテンションMAXだ。

 ずっとずっと使い魔の卵のまま、主を待ち続けて、やっと生まれて来られた。

 その嬉しさは、格別だった。


「よしっ、決めた! 君の名前は……」


 クラリスとしては限られた時間でこれしかないという名前を考えた。

 我ながらの自信作だと胸を張って言う。


「デッドよ! よろしくね、デッド!」


 あまりにも安直だった。

 デッドリーファイヤードラゴンだから、頭の文字をとってデッドとしたみたいだ。


 このドラゴンはとても知能が高い。

 まだ幼くて話はできないが、人の言葉は理解できている。

 だから、名前が単純過ぎたことに、少なからず思うところがあった。


「どうしたの? 気に入らなかった?」


 主にそう言われてしまえば、使い魔としての行動は決まっている。


「キュキュ!!」

「喜んでいる。気に入ったみたい」


 デッドは生まれて間もないというのに、できた使い魔だった。

 主を立てることがちゃんとできる子だ!


 クラリスはそのことを知る由もなく、自分のネーミングセンスに大満足だ。


「そう、そんなに喜んでくれるの!」


 いつの間にか、クラリスは元気を取り戻していった。

 50階層に落ちてから、大変なこと続きだった。

 やっとほっとできる時間を手に入れた。


 ベヒーモスの肉によってお腹も満たされているし、心も落ち着いてきた。

 頭も次第に回るようになってきた。


「そうだ。ライセンスカードにデッドの名前が入ったかな」


 名をつけて契約すると、ライセンスカードに刻まれる。

 クラリスは使い魔の欄を確認する。


「あった。ちゃんと、デッドの名前が出てるよ。ほら見て」

「キュッ」

「よしよし」


 クラリスはデッドの頭を撫でながら、ライセンスカードをなんとなく見ていた。

 そして、自分のステータス欄に異変が起こっていることに気が付いた。


「えっ!? なにこれ?」


・クラリス(15歳)人間♀

 魔法使い《Lv23》

 【HP】 :55

 【MP】 :600

 【力】  :7

 【魔力】 :180

 【敏捷】 :17

 【運】  :10

 【デス力】:100


 【運】の下に【デス力】というものが現れていた。

 初めて見るものだ。

 今までこのようなステータスを聞いたことがない。


「なんなの……このデス力って」


 クラリスは即死魔法【デス】しか使えない。


「まさか……」


 その力を数値化してステータス表記されてしまったのか? それなら、ステータスに初めから現れているべきだろう。

 それにしても、きっかけは何だろう。


 クラリスはチラリとベヒーモスの死体を見る。

 思い当たるのは、ベヒーモスの肉――魔物の肉を食べたことだ。


「あれが原因?」


 ライセンスカードを食い入るように見つめるが、当然答えは書いていない。


「そういえば……」


 クラリスは以前に仲間だった聖女が言っていたことを思い出す。


 それは勇者エヴァンが倒した魔物を見て、冗談ぽく食えるかなと言ったときだ。

 聖女は血相を変えて、エヴァンに注意していた。


 魔物を食べれば、呪われる。

 それは死の呪いで、食べれば食べるほど蓄積されて大きくなっていくと。


 あのときは迷信だとみんなで笑ったが……。


「……迷信じゃなかったとか。そうなると、私のデスを数値化したわけじゃないのかも。でも、それなら表記は呪いでいいような」


 結局、クラリスはデス力が意味していることがわからなかった。


 でも、わかるのはきっかけはベヒーモスを食べたから。

 あとこれが何かを調べる必要がある。

 クラリスにかかった呪いか、それとも即死魔法【デス】に関わるものなのかだ。


「試すしかない」


 ちょうど、小さな空間の隙間の先に蜘蛛がいる。

 その魔物に【デス】を使ってみればいい。


 もし、効いたならこのステータスによって【デス】の成功率が上がっていることになる。

 そして効果がなければ、残念ながら自分に死の呪いがかかっている恐れがある。

 今の所すごく元気だから大丈夫だと思うが……。


 どちらにせよ。即死魔法【デス】を使ってみればいい。


「デッド行くよ。この先にいる蜘蛛を倒すのを手伝って!」

「キュッ!」


 呼ばれたデッドは宙を一回転する。

 そして、待ってましたとばかりにクラリスの肩に乗った。

 デッドも仲間になったから、戦いやすくなっているはずだ。


「ふぅ~」


 うまくいく。

 ゆっくりと目を瞑って、ネイリングをぐっと握って高ぶる心静める。

 この仕草はクラリスにとって願掛だった。


 彼女は隙間へ踏み入れる。

 蜘蛛は出口の天井に張り付いているはず。


 静かに心を落ち着かせてながら、進んでいく。

 デッドが声を出しそうなったら、口を押さえる。


「声を出しちゃダメ」

「キュ?」

「もうっ! だからダメだって」

「キュキュ?」


 デッドは生まれたばかり、幼さゆえにクラリスの言うこと完全には理解できていないようだ。

 そうこうしている内に、出口近くまで来てしまっていた。


 クラリスは鋭い視線を感じた。

 ゆっくりとデッドから、出口へ向けると


「いるっ~!!」


 クラリスたちが出す音に誘われて、蜘蛛が天井から降りてきていたのだ。

 口をパッカリと開けて、牙をしきりに動かしている。


 糸を出すタイミンを見計らっているようだ。

 そして、クラリスに向けて糸を発射する。

 蜘蛛は彼女を食べたい一心でしつこく留まっていた。

 その執念を込めた糸の精度は驚くべきものだった。

 ここまで届かないと思っていたクラリスは悲鳴を上げる。


「きゃああぁぁ」


 クラリスへ当たりそうになった糸。

 それをすんでところでデッドが前に出て、かばってくれた。


「キュ!」


 助けられたクラリスだったが、今度はデッドが大ピンチだ。

 デッドの口に糸が絡んでしまって、自慢の火が吹けなくってしまったからだ。


「デッド!」


 このままでデッドは蜘蛛によって美味しくいただかれてしまう。

 使うしかない。

 即死魔法【デス】を使うしかない。


 蜘蛛に対して、今までの成功率はゼロ。

 ステータスに新たに発現した【デス力】を信じる。

 即死魔法【デス】に効果が出ていることを。


 クラリスは声を張り上げて、詠唱する。


「デス!」


 いつもの即死魔法よりも、MPが多く消費している感覚がある。

 クラリスには、体の脱力感があった。


 そして、蜘蛛にもいつもと違う異変があった。

 ギラリと光っていた赤い複眼が、色を失っていったからだ。


 音を立てて、ひっくり返った。

 つまり、蜘蛛は即死した。

 虫系魔物は、どうして死んだらひっくり返えるのかは不明だ。


 それでもクラリスの即死魔法【デス】は効果があった。


「できた……ボクの即死魔法で蜘蛛を倒せた!」


 ここに閉じ込められるきっかけとなった憎き蜘蛛を倒したのだ。

 嬉しさで飛び上がってしまうほどだ。

 そんな中で蜘蛛の側でモゴモゴと動くデッドが助けを求める。


「あっ、ごめん。ごめん」


 すぐさま、ナイフで蜘蛛の糸を切ってやる。


「キュ!」

「ありがとう、デッド。あなたのおかげで、蜘蛛を倒せた」


 デッドが身代わりにならなければ、今頃どうなっていたかわからない。

 自分の口を糸で塞がれていたらと思うと、ゾッとする。


 さて、どうしたものか。


 ライセンスカードを確認する。レベルが上がっているが、【デス力】は上がっていなかった。

 つまり、【デス力】はレベルアップでは上昇しないことがわかる。


 クラリスは転がっている蜘蛛を見つめた。


「デス力が、魔物を食べることで強化できるのなら……」


 強くなるために食べるしかない。

 ここは50階層。

 今の彼女の即死魔法ですべて乗り切れるとは言い切れない。


 それなら、もっと魔物を食べて【デス力】を上げたい。


「食べる……この蜘蛛を……ゴクリ」


 虫を食べる!?

 クラリスにとって、虫は初体験。

 食べ物という認識を今までしたことはない。


 それを食べる。

 これはかなりハードルが高かった。

 まだベヒーモスの肉はある。

 それだけ、食べようかと思ったが果たして、ここでそのような食わず嫌いを言っていていいのだろうか。


「虫……しかも蜘蛛……うぅぅぅ」


 迷っているクラリスの目の前で、デッドが炎を吐いた。

 蜘蛛がこんがりと焼き上がっていく。


 その匂いがまるでパンを焼いているようだった。


「嘘でしょ……なんて香ばしいの」


 思わずよだれが口から垂れそうになってしまうほどの香り。

 朝のパン屋から漏れるあの匂いにそっくりなのだ。


 ゴクリ……。


 唾を飲むクラリス。

 デッドはそんな主の葛藤をよそに、ご馳走とばかりに食らいついた。


「キュキュ♪」


 実に美味しそうに蜘蛛を食べる。

 その様子はクラリスにとって匂いと合わせて、ダブルパンチだ。


「くぅ~、こうなったら!」


 焼き上げった蜘蛛の足を手にとった。

 そのまま、がぶりっ!


「うううううぅぅぅ」


 クラリスは信じたくなかった。

 それほどまでに、蜘蛛の丸焼きが、


「美味しい!? なんでなの、なんでなのよ。蜘蛛のくせにっ!」


 悪態をつきながら、蜘蛛の足に食らいつく。

 まさに香ばしい焼き上がったパン。

 いままで食べたことのないくらい甘みがある。

 それを口の中に入れると、心がほっこりとしてしまう。


 見た目をエグいのに、なぜここまで美味しいのか!?

 クラリスは大混乱。


 妄想でカバーするしかない。

 魔法使いにとって重要なのはイメージ力だ。

 魔法がどう発動するかをイメージしながら、詠唱するのが基本中の基本。


 クラリスはこの点でも優秀だった。


 パン屋さんで焼き立てパンを買って、帰り道にデッドと一緒に食べることを妄想する。

 そのイメージのまま、一心不乱に食べ続けるのだった。


「美味しいパン(蜘蛛)!!」

「キュ♪」


 しかしながら、現実の絵面は大変なことになっていた。

少しでも面白いと思っていただけたら、ブックマークと評価をもらえると嬉しいです。


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― 新着の感想 ―
[一言] やっと生まれた自分の使い魔に「死者」とか「亡者」みたいな意味の名前つけるって、内心ではもう生存を諦めちゃったんですかね? せめてデッドリーなら意味は「致命的」なので、「敵にとって致命的な使い…
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