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ローレンスの実地訓練

第四章第六話「呼び出しと相談」頃の話です。

三人称視点です。

 前期二回と後期二回、貴族学園では実地訓練が行なわれる。実地訓練とは、魔物領域に赴き、実際に魔物を討伐する訓練のことだ。Eランク魔獣のウルフから始まり、徐々に強い魔物を討伐するようになる。


 一年生はEランク、二年生はDランク、三年生はCランクが最大の相手となっている。しかし、全学年Eランクが相手でも問題はない。魔法は才能によるところが大きいため、Eランクに苦戦する三年生もいれば、Bランクを討伐出来る一年生もいる。これは仕方のないことだ。


 学生の考えも色々だ。


 女子生徒の場合、ウルフが討伐出来れば十分という学生も多い。身体能力の差があるので、女性は男性より戦闘力は低い。そのため、女性貴族が討伐に参加することはあまりなく、戦闘力を求められないのが大きな理由だ。彼女達の多くは嫁入りを想定している。


 男子生徒の場合、領地を継ぐにも騎士になるにも戦闘能力がいる。兵士や冒険者でもそれは同じだ。文官や民間の仕事に就く場合を除けば、戦闘能力は必須と言える。そのため、男子学生の多くは、戦闘能力の向上に力を注いでいる。



 ◇



 十月第一週、後期一回目の実地訓練日。


 貴族学園から複数の馬車魔物領域に出発する。二年生に用意された馬車は五台だ。四台がDランクの魔物領域に向かい、一台がEランクの魔物領域に向かう。

 Eランクの魔物領域に向かう馬車に乗っている学生は八人。内訳は、女子生徒が七名と男子生徒が一名。それに加えて、護衛の男性騎士が一名乗車している。


「皆さんを担当するバートです。今日はよろしくお願いします」

『よろしくお願いします』


 騎士バートの挨拶に学生達が元気よく答える。

 彼は微笑まし気な表情を浮かべた後、唯一の男子生徒に視線を合わせる。


「ローレンス君、今日は期待していますよ」

「はい! よろしくお願いします!」


 男子生徒が気合の入った返事をする。


 彼の名前は、ローレンス=ウォルバー。

 ウォルバー伯爵家の次男で、最近有名な学生だ。


「ローレンス様ならウルフくらい余裕ですよ」

「そうですね、相手にならないと思います」

「ありがとうございます」


 女子生徒達が親し気に話しかけるが、ローレンスは苦笑しつつ丁寧な返事をする。女子生徒達は一瞬不満な表情を見せるが、すぐに笑顔を取り戻す。


 彼女達とローレンスは親しい間柄ではない。あくまでクラスメートの一人であって、必要以上の会話をすることもなかった。彼女達が彼に話しかけるようになったのは最近のことだ。それには理由がある。


 彼は最近まで魔法が使えなかったのだが、先月魔法が使えるようになった。それだけではなく、周囲の誰もが驚くような急成長を見せている。その結果、彼女達のお相手の候補に挙がったということだ。


 とはいえ、ローレンスの方にその気はない。彼の意中の相手は別におり、それが彼の急成長に繋がっているとも言える。


 そんな学生達の関係を気にしつつ、バートがローレンスに問いかける。


「先週トーマスさんと訓練している様子を見ましたが、身体強化魔法は問題なさそうですか?」

「転倒することもありますが、大丈夫だと思います」


 ローレンスが自信あり気に答える。


 トーマスは彼の叔父にあたり、バートとは知己の間柄だ。この一ヶ月弱の間、彼はトーマスから身体強化魔法の指導を受けた。具体的には、身体強化魔法を使いながら動く訓練だ。


「戦闘訓練はしましたか?」

「いえ、今日が初めてです。ですが、実地訓練は何度も経験していますので、問題ありません」

「ふむ」


 バートは頷き少し考える。

 騎士の役目はいざという時の護衛だ。学生が対応しきれない場合は介入する必要がある。遠隔攻撃魔法を使う場合は介入が用意なのだが、接近戦の場合は対応に気をつかう必要がある。特にローレンスの場合は厄介だ。下手に介入すると、バートが大怪我をする可能性がある。


「まあ、ウルフが相手なら大丈夫でしょう。危険な場合は介入しますから、指示に従ってくださいね」

「了解です!」


 ローレンスが力強く返事をし、バートは満足そうに頷いた。



 ◇



「くっ!」


 ウルフの攻撃を回避し背後を取ると、ローレンスが剣を構え、ウルフに切りかかる。


「あっ、また外れた!」

「ローレンス様、もう少し抑えて!」


 女子生徒の言うとおり、斬撃はウルフに届かず空を切る。再びウルフが飛び掛かるが、彼はあっさり回避する。先程からこの繰り返しだ。


「これは時間がかかりそうですね。……皆さん、別のウルフが来ていますよ」

「あっ! はい!」


 バートはローレンスの戦闘を注視しつつ女子生徒達に指摘する。彼女達はハッとした表情を浮かべ、次のウルフへの対応を始めた。


 ローレンスはウルフと一進一退の攻防を繰り返しているが、どちらの攻撃も一切当たっていない。この理由は誰の目にも明白だ。ローレンス自信も自覚している。


 彼の動きが早すぎるのだ。


 回避の場合は良い方向に働いている。他の学生では難しい間合いでも、ローレンスは簡単に回避出来る。おそらくウルフの攻撃が当たることはない。バートも安心して見ていられる状況だ。


 しかし、攻撃には悪い影響が出ている。以前と剣速が違いすぎて、ウルフが間合いに入る前に空を切ってしまう。こればかりは慣れるしかないだろう。


「ローレンス君、身体強化魔法を使ったまま倒してください」

「はい!」


 ローレンスが叫ぶように答える。


 今相手をしているウルフは二体目だ。一体目のウルフの時、彼は攻撃があまりにも当たらないため、途中で身体強化魔法を解いて倒した。ウルフが相手とはいえ、身体強化なしで倒すのは相当凄いことなのだが、彼の訓練にはならない。


「終わりました」

「ご苦労様です」


 数分後、女子生徒達が追加のウルフの討伐を終えた。彼女たちは遠隔攻撃魔法の集中砲火で倒している。


「苦戦していますね」


 女子生徒の一人がぽつりと呟く。

 彼女は別に馬鹿にしているわけではない。ローレンスが苦戦している理由は分かっているし、彼の動きが凄いことも理解出来ている。


 しかし、彼女の呟きはローレンスにも聞こえた。彼は悔しそうな表情を見せる。


「身体強化での戦闘は慣れが必要ですから。特にローレンス君の場合は、普段との差が大きいですから大変でしょうね」


 バートが女子生徒に答え、彼女達も納得するように頷く。


「くっ!」


 ローレンスの忍耐の限界が来たようだ。彼は悔しそうな声を上げると、予想外の行動に出た。


「あっ!」

「そう来ましたか」


 女子生徒が驚きの声を上げ、バートが苦笑しながら呟く。


 彼はウルフに対し体当たりを加えたのだ。ウルフは弾き飛ばされ活動を停止した。


「……終わりました」

「まあ、身体強化状態ではありますね」

「……」


 ローレンスはバートから視線を外す。

 バートはその様子を見て苦笑する。


「だ、大丈夫ですよ! ローレンス様ならすぐに慣れますって!」

「そうですよ! それに、体当たりで倒すなんて他の人には出来ませんよ!」

「……」


 女子生徒達が必死にフォローするが、ローレンスは視線を合わせようとはしない。


「次は剣で倒しましょうね」

「……はい」


 バートが指示をすると、ローレンスは力なく返事をした。


 しかし、その日討伐に成功することはなかった。



 ◇



 バートは城に戻り報告を終えると、トーマスに会いに行った。


「こんばんは、トーマスさん」

「ああ、バートさん。こんばんは」


 二人が挨拶を交わす。


「ローレンス君の実地訓練に立ち会ってきましたよ」

「おや、バートさんが担当でしたか」

「ええ、苦戦していましたよ」

「苦戦ですか?」


 バートは今日の実地訓練の様子を伝えた。


「――という感じで、相当感覚に違いがあるようです」

「なるほど、それはそうでしょうね」


 二人は苦笑している。


「そうすると、明日は戦闘訓練を要求されるかも知れないですね」

「可能性は高いと思います」

「分かりました。準備しておきます」


 トーマスがバートにお礼を返す。

 彼の予想どおり、翌日は戦闘訓練を行なうことになるのだった。


主要キャラが出て来ない話になりました。

彼等に比べると、ローレンスは動かしづらかったです。

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