探知魔法の訓練(女性)
第二章第六話「岩ゴーレム撃破」頃の話です。
三人称視点になります。
四月に入り数日が過ぎた頃、貴族学園の女子寮で、五人の女子生徒が会話をしていた。
彼女達は全員一年生で、入学してまだ二ヶ月経っていない。
一人目はオフィーリア=ランドール。
ランドール王国王太子の長女で、五人が会話をしているこの部屋の主だ。
彼女は他の女子生徒に話しかける。
「探知魔法の訓練に興味はあるかしら?」
彼女が提案した相手は四人のうち三人。
残りの一人は提案する側の人間だ。
三人のうちの一人が答える。
「探知魔法の訓練ですか?」
少しだけ驚いた表情で問い返したのは、アンジェリカ=バミンガム。
バミンガム侯爵家の長女だ。
「ええ。アレクに頼まれてね」
オフィーリアが答える。
アレクというのは同学年の男子で、彼女の従兄にあたる人物だ。
「ああ、なるほど」
アンジェリカが苦笑する。
オフィーリアの提案の理由が理解出来たからだ。
残りの二人も笑みを浮かべる。
「アレクさん達は訓練で忙しそうですからね」
そう発言したのは、レイチェル=メア。
メア子爵家の長女だ。
「モニカのお婿さんになるためにね」
「セ、セラちゃん!」
セラフィナがモニカを揶揄う。
揶揄った方は、セラフィナ=サザーランド。
サザーランド伯爵家の次女で、オフィーリアと同じく提案する側になる。
揶揄われた方は、モニカ=アルハロ。
アルハロ男爵家の長女だ。
ちなみに、モニカの婿になろうと頑張っているのは、アレクではない。
恥ずかしがっているモニカを見て、オフィーリア達も微笑ましそうにしている。
「もう! セラちゃんはそうやって揶揄って!」
「ごめんごめん。それでどうかな?」
セラフィナが軽い調子で謝った後、アンジェリカ、レイチェル、モニカの三人に問いかける。
「教えてほしいですわ。実地訓練では、ほとんど何も出来ませんでしたから」
アンジェリカが拳を握り、やる気を見せる。
「私も参加させてください」
「私もお願いします」
レイチェルとモニカも、参加の意思を示す。
三人の様子に、オフィーリアとセラフィナも笑みを浮かべる。
「分かったわ。次の休日の午前中に、一度やってみましょう」
オフィーリアの提案に、三人が頷いた。
◇
訓練当日。
貴族学園の訓練場に、五人の姿があった。
周囲には興味を示した女子生徒達が、他にも数人見学に来ている。
オフィーリアが三人に説明を始める。
「まずはこれ」
「魔石ですわね」
アンジェリカが応える。
オフィーリアが手に持っているのは魔石だ。
「これは、未使用のウルフの魔石よ」
魔石とは、魔物の体内にある魔力の固まりだ。
一般的に、魔道具の動力源として使用される。
「これの魔力は感じ取れる?」
オフィーリアの問いかけに三人が頷く。
目の前にあるので、探知出来て当然だ。
これが無理なら、基礎の基礎から始めることになってしまう。
「それじゃあ、少しずつ話していくわ。探知出来るか正直に答えてね」
「分かりましたわ」
アンジェリカが答え、レイチェルとダミアンも頷く。
「セラ、お願い」
「りょーかい!」
セラフィナが魔石を受け取り、ゆっくりと離れて行く。
「探知出来なくなったら教えて?」
オフィーリアが三人に言う。
三人は頷き、探知魔法に集中する。
セラフィナがゆっくり歩いて行く。
三人は探知出来ているようだ。
「ここで二十メートルだよ!」
セラフィナが言う。
三人から申告はない。
その様子を見て、セラフィナが再び歩き出す。
「三十メートル!」
三人はまだ申告しない。
「まだ大丈夫そう?」
「はい。捉えています」
レイチェルが答え、アンジェリカとモニカも同意する。
「アレクから聞いていたのはこのくらいの距離なんだけど、徐々に離れて行く分には探知出来るみたいね」
オフィーリアは納得するように頷く。
そして、持ってきた袋から何かを取り出す。
「三人とも、目隠しをつけて」
「目隠しですか?」
アンジェリカが少し驚く。
オフィーリアは頷き、説明を続ける。
「目隠しをした状態で魔石の方を指差し続けて。視界にあると、どうしても情報を補間してしまうから」
オフィーリアの説明に、三人は納得したように頷く。
探知魔法の反応は、実際のところかなり曖昧だ。
探知出来ていなかった魔物も、視界に入った途端に、探知魔法で認識出来たりする。
魔物以外にも周囲には魔力があるので、かなりぼやけるのだ。
三人は言われたとおり、目隠しをした。
「それじゃあ、ウルフの魔石の方を指さして」
三人が指を差す。
「はい、モニカ不正解」
「えー!」
モニカが声を出す。
「わたくし達が目隠しをした後に移動しましたわ。セラフィナらしいですわね」
「セラフィナさんならそうするかと思って、気にしていました」
アンジェリカとレイチェルが言う。
二人はセラフィナの行動を読んで、注意していたようだ。
「セラ、読まれているわよ」
「モニカだけでも引っ掛かってくれて良かったよ。モニカありがとう!」
「嬉しくないよ!」
オフィーリアとセラフィナのやり取りに、モニカが悔しそうな表情をする。
「ふふふ。でも、周囲の動きに注意するのは、探知魔法の基本でもあるわ。気をつけてね」
「はい、オフィーリア殿下」
モニカがやる気を見せる。
「なら、今はどちらの方向にいる?」
そう言われて、アンジェリカとレイチェルが指を差す。
しかし、モニカは迷っている。
「モニカ?」
「多分……こっちでしょうか?」
自信なさげに指を差す。
「はい。三人とも正解」
「やった!」
モニカが嬉しそうな声を出す。
オフィーリアもその様子に笑みを浮かべる。
「なら、こんなのはどうかしら?」
そう言って、セラフィナに合図をする。
すると――
「反応が増えましたわ!」
「……何ですかこれ」
「あっ! 魔石の反応見失っちゃいました!」
三人が慌てる。
「セラフィナは動いていないわ」
「私はここだよー!」
オフィーリアとセラフィナに言われ、三人がセラフィナの声の方向を見る。
「分かりにくいですわ」
アンジェリカが苦戦している。
モニカは魔石の反応を見失わないように集中している。
「何をしたのですか?」
体の向きを変えることなく、レイチェルが尋ねる。
「セラが水弾を浮かべたのよ」
レイチェルの問いに、オフィーリアが答える。
周囲には今、複数の水の玉が浮かんでいる。
これは、セラが魔法で作り出したものだ。
「セラの浮かべた水弾は三つ。どれも、ウルフの魔石の魔力とは差があるわ」
セラフィナは、魔力を込めた量に差をつけている。
魔石と同じような魔力だと、三人では区別がつかないからだ。
「これからセラに、ゆっくり移動してもらうわ。同時に水弾も動かしてもらう。三人は、セラの方を指さし続けてみてね」
オフィーリアの言葉に三人が頷く。
そして、セラフィナが動き始める。
◇
「早すぎですわ! もう少しゆっくり動いてください!」
「ほうら、私を捕まえてごらんなさい」
「あっ! そっちですね!」
「セラ、声を出したら駄目よ」
「セラちゃん、どこぉ」
訓練は最終的に、目隠し鬼ごっこになった。
アンジェリカとレイチェルが追いかけ、セラフィナが楽しそうに逃げ回る。
オフィーリアはその様子を微笑まし気に監督し、モニカは見当違いの方を向いている。
他の女子生徒達も笑いながら見ている。
その結果、次の訓練の参加者が急増することになるのであった。
SSでどこまでキャラ紹介をすべきか迷いますね。




