ダミアンからの推薦
第一章第九話「二人の友人と三人の婿取り令嬢」頃の話です。
「レイチェルは良い妻になると思うぞ」
新しく出来た友人が、熱心に自分の幼馴染を推薦する。
彼の名前は、ダミアン=バーナム。バーナム子爵家の次男で、世代屈指の魔法の才能を持つ逸材だ。
俺達は男子寮の浴場にいる。周囲にはダミアンをはじめ、多数の同級生が入浴中だ。
「……どんなところが良いんだ?」
内心少し呆れながら、ダミアンに質問する。
「そうだな……これは言うまでもないが、レイチェルは絶世の美女だ」
ダミアンが大真面目な顔で言う。
「……ああ、そうだな」
一瞬言葉に詰まりそうになったが、ダミアンに返事を返す。
俺が肯定的な返事をしたことで、ダミアンが満足そうに頷く。
レイチェルは確かに美人だ。でも、リアやセラも美人でかわいいし、アンジェリカだって負けないくらい美人だ。
勿論、そんなことを言う気はないが……
「だが、レイチェルの良さは外見だけじゃない。性格もだ。例えば――」
ダミアンは自分の幼馴染の良いところを次々に述べる。普段は口数の少ない男なのだが、自分の幼馴染への誉め言葉は、留まることなく出て来るようだ。
美人、かわいい、努力家、思いやりがある、気が利く、癒される……等々。よくこれだけ誉め言葉が出て来るなと、感心しながら聞いている。
隣では、もうひとりの友人のコリーが、唖然とした表情をしている。延々と話し続けるダミアンに驚いているのだろう。
ダミアンが褒めちぎる彼の幼馴染の名前は、レイチェル=メア。メア子爵家の長女だ。
熱心に彼女を勧めているのには理由がある。レイチェルには妹が一人いるだけで、男の兄弟がいない。つまり、彼女はメア子爵家の跡継ぎなのだ。そのため、彼女は婿を貰う必要がある。
そして、俺はその婿候補だ。
俺が貴族学園に入学することが分かると、大勢の令嬢が縁談を申し込んで来た。レイチェルもその一人だ。正確には、メア子爵から申し込まれた縁談だ。
ダミアンはそのことを聞いているらしく、先程から彼女のことを褒め続けている。援護射撃のつもりなのだろう。
しかしだ……
「レイチェルには幸せになって欲しい。アレクならきっと良い婿になれるだろう……」
そう話すダミアンの表情は憂いを帯びている。その表情を見れば、本心が別にあるのは明らかだ。
ダミアンは間違いなくレイチェルに惚れている。
彼の態度を見て察しない男はいないだろう。それくらい分かりやすい。それを証明するかのように、先程から同級生男子が、責めるような視線を送ってくる。
……俺にどうしろと?
縁談を申し込んだのはメア子爵であって俺ではない。レイチェルとの縁談に応じる気もない。そう言ってやりたいが、さすがに人が大勢いる場では言えない。
事情を知らない彼等からすれば、俺は二人を引き裂く最低男かも知れない。
ダミアンが婿に立候補してくれるのが一番良いのだが……
「そうか……でも、俺より相応しい男が他にいるんじゃないか?」
遠まわしに婿への立候補を勧める。
すると、ダミアンの表情が険しくなる。
「……レイチェルに不満があるのか?」
違う……そうじゃない。
ダミアンの雰囲気が変わるのを見て、隣に座るコリーがフォローに入る。
「アレクとレイチェルさんは、ほとんど話したことがないんでしょ? ダミアンの話だけだと、分からないんじゃないかな?」
ナイスフォローだ。
コリーの発言で、ダミアンの表情が少し和らぐ。
「……そう言われればそうか」
ダミアンは納得したように頷く。
最悪の事体は免れたようだ。問題は何も解決していないが……
「そうだな、一度ゆっくり話をしてみたらどうだ?」
ダミアンが提案する。
それには賛成だ。レイチェルとは話をしたいと思っている。縁談を申し込まれた理由が分かれば、他の婿を推薦する手段があるかも知れないからだ。出来るなら、その婿にはダミアンを推薦したい。
でも、二人で話す機会を設ける必要はない。
「実は、次の休日にリア主催でお茶会があるんだ。レイチェル嬢もそれに参加するらしい」
俺を婿に欲しいと言う令嬢は、レイチェル以外にも二人いる。彼女達が俺に縁談を申し込んだ理由を知るため、リアとセラがお茶会を開くことにしたのだ。
「そうなのか? それなら俺が何かする必要はないな……」
ダミアンが少し寂しそうな表情を見せる。
その様子を見て、同級生達の視線が更に厳しくなる。
「ま……まあ、何かあれば相談させて貰うよ」
「ああ、俺は出来る限り協力する」
自分が婿になるための努力をしろ……
ダミアンを見てそう思った。
SS初挑戦です。如何でしたでしょうか?
軽い感じの文章にしたいのですが難しいですね。