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異世界転移したけど推しが活躍する予定の新刊を読みたいから帰りたい。  作者: 恵ノ木
第一章 エストティティア王国 王城
9/10

帰りたいなぁ。

 ため息をつく。暇だ。本当に、やることがない。

 朝起きて、推しについて考え、ご飯を食べて、推しのことを妄想して、アニメの主題歌を口ずさんで、そして何度も、チーナの最期の一瞬が、脳裏を過る。


 おばあちゃんが死んだとき、お通夜やら葬儀やらで慌ただしかったせいか、心が沈み切ることもなく、何日間かを過ごすことができた。ただ時折、ふと暇になった瞬間に、心電図の音が蘇るくらいで。


 今、何もやる事がないから、すぐにあの血溜まりが目に浮かぶ。忘れられない光景。きっと忘れてはいけない光景。でも、どうしたって、それを思い続けていたら、気がおかしくなる訳で。


 こういう時、推しは本当に尊い。心の中で、優しく頭を撫でてもらう。そうでなくても、デュカ様が寝ている姿やご飯を食べている姿を想像するだけで、心は癒され、微妙に、自分キモいな、と思う。とにかく現実逃避ができる訳だ。抱き枕欲しいなぁ。


 しかしながら、妄想だけではやはり現実逃避には足りない。スマホに神作画の挿絵の写真が入っていたのだが、そもそもスマホが無くて見れない。

 できることなら新しい情報が欲しい。新刊が欲しい。



「……早く帰りたい」


 晴れた空をぼんやり眺めながら呟く。


 新刊もそうだけれど、親。兄。友人。


 戻ったら、元の時間軸で、同じ場所にいた、とかなら問題ないのだけれど、そうじゃなかったら、今頃大騒ぎだ。勿論私は、大層な人間でもなんでもないので、いなくなったところで世界全体は何も変わらない。それでもやはり、


「人1人がいなくなったら、確実にその人1人分の穴は世界に空き、その人1人が他者に与える幸せは、消えてしまうんだ」


 推しのセリフを呟く。


 やはりここは、なんとしても早く帰らなければ。色んな人が心配している。推しが待ってる。いや、待ってないけど。言い過ぎだけど。


 私が今、誰かに会いたい。安心したい。軟禁生活も、種族差別の社会も、居心地が悪すぎる。

 誰だ、「おもてなしされてるんだな」なんて思った奴。私だよ。もう、軟禁の何がおもてなしだ。


 元の世界に戻るためには『何でも願いが叶う石』が必要なのだよな。そもそもどこにあるのだろう。王様なら知っているのだろうか。それとも重臣?何にせよやはり、ここから出るか、誰かに来てもらって話をしなければ分からないよなぁ。

 食事を運んでくれるメイドさんみたいな人は、いつもそそくさと帰ってしまい、私の話を聞いてくれない。だから軟禁生活も辞められなかった。次のお昼ご飯の時こそ、なんとかして引き止めることはできないだろうか。


 そういえばお昼ごはんが来るのが遅い。時計は無いが、今日は太陽が出ているので影の傾きで、大体の時間が分かる。短くなった影が、少しずつ伸びてきているから、正午は過ぎているのだろう。

 もしかして、今朝、椅子に座らずに立ち食いしているのがバレたから、気持ち悪がられていて、持ってきてもらえない、とかではないよな。


 少し心配になっていた矢先、廊下の方から足音が聞こえた。よかった、遅れていただけか。


「……ん?」


 足音と共に、金属のぶつかる音。聞いたことがある。王様の前で色々喋っていた時の、隣にいた女騎士が動いた時と同じ音。だんだんと部屋に近づいて来て、ガチャリと、鍵が開く。

 ノックもなく、扉が開けられた。


「異世界のものよ!そなたを今から国外へ追放する!!」


 ……は?

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