帰りたいなぁ。
ため息をつく。暇だ。本当に、やることがない。
朝起きて、推しについて考え、ご飯を食べて、推しのことを妄想して、アニメの主題歌を口ずさんで、そして何度も、チーナの最期の一瞬が、脳裏を過る。
おばあちゃんが死んだとき、お通夜やら葬儀やらで慌ただしかったせいか、心が沈み切ることもなく、何日間かを過ごすことができた。ただ時折、ふと暇になった瞬間に、心電図の音が蘇るくらいで。
今、何もやる事がないから、すぐにあの血溜まりが目に浮かぶ。忘れられない光景。きっと忘れてはいけない光景。でも、どうしたって、それを思い続けていたら、気がおかしくなる訳で。
こういう時、推しは本当に尊い。心の中で、優しく頭を撫でてもらう。そうでなくても、デュカ様が寝ている姿やご飯を食べている姿を想像するだけで、心は癒され、微妙に、自分キモいな、と思う。とにかく現実逃避ができる訳だ。抱き枕欲しいなぁ。
しかしながら、妄想だけではやはり現実逃避には足りない。スマホに神作画の挿絵の写真が入っていたのだが、そもそもスマホが無くて見れない。
できることなら新しい情報が欲しい。新刊が欲しい。
「……早く帰りたい」
晴れた空をぼんやり眺めながら呟く。
新刊もそうだけれど、親。兄。友人。
戻ったら、元の時間軸で、同じ場所にいた、とかなら問題ないのだけれど、そうじゃなかったら、今頃大騒ぎだ。勿論私は、大層な人間でもなんでもないので、いなくなったところで世界全体は何も変わらない。それでもやはり、
「人1人がいなくなったら、確実にその人1人分の穴は世界に空き、その人1人が他者に与える幸せは、消えてしまうんだ」
推しのセリフを呟く。
やはりここは、なんとしても早く帰らなければ。色んな人が心配している。推しが待ってる。いや、待ってないけど。言い過ぎだけど。
私が今、誰かに会いたい。安心したい。軟禁生活も、種族差別の社会も、居心地が悪すぎる。
誰だ、「おもてなしされてるんだな」なんて思った奴。私だよ。もう、軟禁の何がおもてなしだ。
元の世界に戻るためには『何でも願いが叶う石』が必要なのだよな。そもそもどこにあるのだろう。王様なら知っているのだろうか。それとも重臣?何にせよやはり、ここから出るか、誰かに来てもらって話をしなければ分からないよなぁ。
食事を運んでくれるメイドさんみたいな人は、いつもそそくさと帰ってしまい、私の話を聞いてくれない。だから軟禁生活も辞められなかった。次のお昼ご飯の時こそ、なんとかして引き止めることはできないだろうか。
そういえばお昼ごはんが来るのが遅い。時計は無いが、今日は太陽が出ているので影の傾きで、大体の時間が分かる。短くなった影が、少しずつ伸びてきているから、正午は過ぎているのだろう。
もしかして、今朝、椅子に座らずに立ち食いしているのがバレたから、気持ち悪がられていて、持ってきてもらえない、とかではないよな。
少し心配になっていた矢先、廊下の方から足音が聞こえた。よかった、遅れていただけか。
「……ん?」
足音と共に、金属のぶつかる音。聞いたことがある。王様の前で色々喋っていた時の、隣にいた女騎士が動いた時と同じ音。だんだんと部屋に近づいて来て、ガチャリと、鍵が開く。
ノックもなく、扉が開けられた。
「異世界のものよ!そなたを今から国外へ追放する!!」
……は?




