神話から繋がれていた
______この世界には当初、人間は存在しなかった。魔族も、獣人も、存在しなかった。
多くの怪物と動物が、大地全体にはびこっていた。
ある日神はこう思った。「賢い動物を作ってみよう」______
神様ってこう、なんか、時々気まぐれだよな。
千春は、何日か前に男に聞かされた内容を、頭の中で巡らせていた。
______こうして獣人を作ったが、彼らは神の恩を忘れて、やりたい放題に、環境を荒らした。彼らは魔法が使えたが、その魔法で、どんどん森を燃やしていった。神はあきれ返った。
今度は、魔族を作った。獣人の力を抑えるため、獣人より強く、そして獣人よりも賢い、神の声をちゃんと聞く存在を作った。彼らはその力で、あっという間に獣人たちを懲らしめて、世界を安定させた。しかし、神への信仰心は世代が変わるうちに薄れ、神をも滅ぼし、自分が真の世界の頂点になろうとしだす者が現れた。神は焦った。
そして最後に、人間を作った。人間には、ほとんど力を与えなかった。その代わり、魔族の何倍もの、獣族の何十倍もの知恵を、人間には与えた。
人間はその知恵を使って、少ない魔力で道具や武器を作った。自然にあるものを加工して使うのだから、環境を劇的に破壊する事はない。そして、持ち前の知恵と神様の御加護で、人間は魔族をやっつけることに成功した。魔族は海や、大きな山の向こう側に逃げて行って、それ以降、悪さをする事はなくなった______
いや、自然破壊は科学でも劇的にできるだろ、と思ったら、この世界、灯りは火か魔法で、蛍光灯などは無いらしい。産業の進歩が私たちの世界より遅く、電話もテレビも、電化製品は存在しないってのは、後々知った話。
______獣人は、魔族よりもトロいので、人間の世界に残った。神様は獣人には飽き飽きしていたので、人間に、獣人を1匹たりとも残さずに全部殺せと言った。
しかし、心優しい青年が、
「彼らを殺してはいけません。彼らだって、贖罪の機会は与えるべきです」
と言った。神は感銘を受けて、獣人を生かした。その監視役を、人間は命じられた______
心優しい、かなぁ。
ぐるぐると渦巻く泥の土が、心の中にある様な感覚になる。
______獣人は、人間の監視下で贖罪を続けることになった。しかし、監視の目を盗み、悪さを始める獣人が多くいた。悪い事をすれば、それだけ罪を償う時間が延びる。だから、人間は、他の獣人たちのことを思って、悪い獣人はその場で殺すことにした。
また、種族ごとに能力が違うので、人間は、種族別に監視の目を光らせることにした。
犬族は賢い。彼らは人間の言う事によく従う。
猫族は自分勝手だ。取り柄は愛嬌があることくらい。
鼠族は、なんと言ってもその罪の重さだ。彼らはかつて、脅威的な闇の魔力因子を、世界中に飛ばした。それは人間だけの心を破壊するもので、魔法にかかった人間は意味もなく泣き叫びだした。神はその状況を見て怒り、5年後、「今後一切、鼠族は魔法が使えない」ということを決定した。しかしそれで罪が許されるはずもない。能力も、知恵も、何も無い、卑しい存在の鼠族は、過酷な労働の中で、その罪を償っていかなければならない。
主な獣人の種類はこの3つだが、他にも鳥族、狼族など、少数の種族が世界に散らばっている______
一通り思い返して、人間にとって都合の良すぎる神話だなと思った。ちなみに、現在でも神と会話できる人は各国数人ずつくらい存在しており、そのどこでも、この話は共通しているだとか。
神様は私自身が会ったことがないので、どうしても、信じないという選択肢が生まれてしまう。何故獣人の人々は、抵抗しないのだろうか。いや、しているのか?
知らないことが多すぎる。もっとチーナと沢山話したかった。
窓辺に進み、城下を見下ろす。大手を振って歩くのは、誰もかれも人間ばかり。まるで獣人なんて存在しない様だ。
……チーナの面影は、どこにもない。




