来ちゃったよ異世界……。
「――――!」
肩を揺すられている。
「―――ろ!」
浮かび上がる意識。肌触りのいい、布のような床と、肩の感触。ざわざわと、人の声。
「早く起きろ!」
はっと目を覚ますと、目の前には覗き込んでいる女の人の顔があった。甲冑のような、重たそうな金属を身に纏っている。
「ひざまずきなさい。王の御前です」
見上げると、長い青のカーペットの先の階段を登った上に、髭を生やした老人が腰掛けている。紫の地に青と金で花のような刺繍が施されたマント。花や羽などが事細かに彫られた冠。それらを身につけて鎮座する老人が王であることは、疑う余地もない。
地面へ預けていた体を起こし、片膝をついて頭を下げる。誰も何も言わない。この国のしきたりと合っていたようだ。
「よくー、来てくれたなー、異世界の者よー。」
顔は下がっているので動きは無いが、心の中で落胆する。
本当に異世界に来てしまった。異世界ものは好きだ。本気で異世界ものを愛している人に比べたらまだまだひよっこだが、『サタいぶ』こと、『サーターアンダーギーと(以下略)』だけは、本気で愛していると堂々と言える。しかし、自分がどこかの異世界へ行きたいなんてことは一回も思ったことは無い。なんてったって異世界には、異世界ものというジャンルの本があるかどうかが怪しい。恐らくない。そしてなんと言っても、デュカ様が拝めない。新刊。あぁ新刊!!
「お前はー、他のー、異世界からー、来た者とー、比べてー、喚いたりー、慌てたりー、しないのだなー。何故だー?」
ひどくゆっくり喋る……もとい、語尾がのびる王様の声は、心なしか少し幼く聞こえた。
「まぁ、異世界転移とか、流行ってるんですよ。物語のジャンルとして」
テンションが下がりすぎて、低い声しか出ない。新刊が読めなくなった今、心の中にあるのは絶望の2文字だけ。
「お主のー髪の色はー独特だなー。金色でー…襟足がすこしー緑がかっているなー。地毛かー?」
「染めてます。地毛は黒です。日本人なんで」
なんでこんなどうでもいい質問されなければならないのだろう。早くなんかこう、この世界の説明、みたいなの、無いのかな。
「どうしてー染めたのだー?」
あーうざったい!!いつまで続くんだこの無意味な問答は!!いや、無意味なだけならまだいいんだ。このテンポ感!間延びした語尾!気の抜けた雰囲気!耐え切れる自信がない…早く終われ。今すぐ終われ。
そして早く、この世界について説明してくれ!!




