大草原の ど真ん中
風が草原の上を走る。山が遠くに霞んでいる。広大な高原。それを貫くように、一筋の細い道があり、高原の入り口らしき看板の立っていた場所から、森の入り口までの丁度中間に、ぽつんと、小さな木が立っていた。
木陰に座る、人影が1人。
枯れ草の様な、くすんだ黄色のマントのフードが、頭から少しずり落ち、淡い金髪が木漏れ日に照らされる。左右非対称の、短い左側の髪を1束結ぶ様に、蝶々結びで深い緑の紐が結ばれている。緑の丸い魔法結晶で固定されているので、取ることはできない。エストティティア王国を追放された者の証だ。本来は首につける物だが、必死の形相で頼み込んで、髪にしてもらった。理由は2つ。1つ目は、推しが付けていたから。まぁ、デュカ様のは白い紐で、石は紐の先に付いていたから、だいぶ雰囲気が違うのだけれど。2つ目は、デュカ様は首輪を嫌うこと。そもそも、主人公とデュカ様の出会いは、主人公がデュカ様につけられた鉄の首輪を外した時なのだが、その鉄の首輪というのが、デュカ様を縛り、守護神としての力を失わせていた原因なのだ。まぁ、要するに全ての理由はデュカ様である。今日も今日とてデュカ様を敬愛しているが、今はむしろ、切実に目の前に主人公の方が出てきて欲しい。食べ物を召喚できるシオ君、ケバブください。
お腹、空きすぎて、動けない……。
国境付近まで連れてこられ、あの山を越えれば国外だからと言われたものの、そんな、食料も持たずに、どこまで続くか分からない山を越えるなんて、不可能に近い訳で。
水が飲めなくなることが1番問題だったから、川を見つけてそれに沿って上流へと歩いてきた。が、だんだんと谷が険しくなり、気がついたら川を見失っていた。そして何故か、いま、この様な平原に行き着いたということで。
人間って、何日食わないと死ぬんだっけ?水が有れば一週間だったっけ?金属製の容器だけは貰えたから、そこに少しは水が入っているけれど、果たして、どこかの街に着くまでもつのか。いや、もう、それ以前に、今、動けない。
人も通らなければ動物もいない平原。もうあれかな、ここに生えてる草、食べようかな。
おや、何かが空を飛んでいる。鳥だろうか、羽を羽ばたかせて、少しずつ影が大きくなる。
違う。鳥ではない。
人間の頭、胴体に纏わりつく衣服が、徐々に浮かび上がってくる。長く白い髪、ひらひらと揺れる裾。白い羽。
とうとう天使が見えてしまった。あれ?つまり私は死ぬのか?え、やだなぁ。
「せめて、新、刊……」
とん、と目の前に、赤褐色の目が光る。全身が白で覆い尽くされているせいで、目だけやたら、よく目立つ。
「君がー、異世界転移、してきた子かな?」
首を傾げて、こちらを覗き込む。ふわふわと羽の生えた肩に、顔が少し埋まる。あれ?腕が無い。
「あっちゃー、噂には聞いてたけど、やっぱり国外追放されてたか!よかったよかった!見つけられて!」
畳まれた羽を後ろに伸ばし、直後、ぶわっと広げる。羽から微細な光が放たれ、次の瞬間、大きく広げられた両腕が、そこにあった。
「んー、結構飛んだなぁ〜!」
指を組んで伸びをする。一連の出来事に言葉を失う千春を見て、おや?と、また首を傾げる。
「鳥族のコレ、見るの初めて?」
「え?あ、はい……」
「どお?凄くない!?まじ神秘的じゃん?」
凄いけど今はそれどころじゃない
「それよりあの、ケバブ……」
「毛バカ?」
何故そうなった。いや、私も悪かった。ケバブという食べ物はおそらくこの世界には存在しないのだろう。
「食べ物が、欲しいんですけど」
「あー!食べ物か!いいよいいよー!持ってるよー!!はい!虫!!」
…………、腹を括るしかないか……
「あー!嘘嘘!冗談に決まってるじゃーん!そんな怖い顔しなーいの!ちゃんとあるから!サンドイッチ!」
喋り方微妙に女子みたいだけど、男……だよな。背高いし、肩幅広いし。
「ありがとう、ございます」
腰に掛けられていた鞄の中から取り出された包み紙を受け取る。軟らかいパンの感触。いのちの恵だあ。
「ところで君、名前はなんていうの?」
包み紙を開けながら、
「千春です。坂嶺千春」
いただきます、と呟き、サンドイッチを口に頬張る。卵のふんわりとした柔らかさと、お肉の油とが口いっぱいに広がる。何の肉だろう。鳥……なのか?目の前の人、鳥だけれど。
「チハルー!可愛い名前じゃん!俺、デュカ!」
「ンゴホッ!ゴホゴホっ、んぐ、ゴホ、ゴホ」
「うぇー!?急にむせた!?水!水飲んで!水!」
鉄の水筒の栓を開け、喉に流し込む。深呼吸した後、向き直った。
「あの、もう一回名前、言ってもらっても、いいですか?」
聞き間違いかもしれない。でも確かにこの人、さっき……
「デュカだよ?」
何ということでしょう!!
推しと!名前が!同じ人が!!現れた!!




