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街路樹

作者: スミス・ポール
掲載日:2020/02/10

僕は街路樹。


街道沿いにたくさん植わっているうちの一つ。


特徴?

そんなのないよ。

みんなと同じように枝を伸ばし、葉を繁らしてる。


花や果実を産み出せたら素敵だなって夢見た時もあったけど、

今はただ、自然の中の四季に従って“仕事”をしてるだけ。


僕の名前?

…忘れちゃったなぁ。

人間は「木」って呼ぶよ。

それでいいんじゃないかな。


人間にとって、僕らは毎日の風景でしかないし、気にもとめない。

突然、僕らがいなくなったら「そういえば植わってたな」って思い出すぐらいな存在。

もしくは、夏の日差しを遮る木陰が欲しくなった時に思い出す。

…まあ、それでいいと思う。

僕だって道行く人の顔を覚えてなんかないしね。

それに僕は忙しいんだ。

光合成をするために葉をいつ出すか考えたり、

となりの木と絡まらないように根を張ったり、

毎日の“業務”に支配されてるんだ。


そういえば、

酒に酔ったオジサンが歩きながら同じような事、愚痴ってたな。

人間も大変なんだね。



ある日の午後、

脇の歩道を歩いて来る人影が見えた。

その人影の一つは、車椅子に乗った幼い女の子。

もう一つは、車椅子を押す看護師のものだった。

女の子は散歩(?)が嬉しいのか、目を輝かせている。

向日葵がたくさん描かれたパジャマを風になびかせながら看護師と話をしている。


僕の前に差し掛かった時、

女の子は「止めてぇ」と言った。

そして、車椅子から立ち上がり、おぼつかない足取りで僕に近づいてきた。

僕を見上げ、「ニコリ」と笑い、抱きしめるような感じで寄り掛かってきた。

「どうしたのー?」

看護師が聞く。

「あのねー、わたしこの木だぁいすき!」

寄り掛かったまま、女の子は答えた。


「だぁいすき!」

女の子が放った言葉が“年輪”を駆け巡る。

女の子が帰った後も嬉しくて業務を怠り、

狙っていた地中を、隣の木の根に奪われてしまったほどだった。


次の日も女の子はやって来て、

僕に寄り掛かり「だぁいすき!」と言って帰っていった。


天気がいい日は必ずやって来て、

儀式のようにそれを行った。


僕は、女の子の笑顔と向日葵のパジャマがとても好きになった。


それからというもの、

根が吸い上げた水が、樹幹を通らなくなってしまった。

なぜだ?

そういえば、この間歩いていた女子高生が「恋をすると食事が喉を通らない」と言っていたなぁ。


きっと、僕は恋をしたのだ。


僕はこの感情を年輪に刻み付けた。

そして、女の子が来るのを心待ちにした。


だけど、

ある日を境に女の子は来なくなった。


僕は、会いたい気持ちと心配で枝葉がざわついた。

夜も眠れず、樹皮が荒れた。


何日も過ぎたが、

女の子は来なかった。


僕は女の子の笑顔と向日葵のパジャマを想い続けた。


夏も終わりに近づいた頃、

僕に変化が起こった。

一本の枝から、

小さい、黄色い花が咲いたのだ。

女の子を想い続けたゆえの奇跡だったのかもしれない。


僕は、この花を女の子に見せたかった。

向日葵には負けるけど、僕の花で元気になって欲しかった。


秋が過ぎ、冷たい風が吹き抜ける。

僕は花を咲かせ続けるために全力を尽くしたので、

周りの木より早く葉を枯らした。

北風に吹かれ、葉は残ってない。

「一目でいいから見てほしい」

そう思っていたけど…


弱々しくなった黄色い花が、風に煽られている。

最後の力を注いだけど、

強い風が、小さな黄色い花をもぎ取っていった。


僕の泣き声は、

北風の音に掻き消された。






僕は街路樹。


あれからたくさんの時が過ぎた。

周りの景色も変わり、

可愛い家がたくさん建っている。

歩道を歩く人も増え、

中には僕のところで一休みする常連さんもできた。


ほら、また一休みする人がやって来た。



「ママ!早くぅ」

小さい女の子が女性の手を引っ張っている。

女性は笑いながら引っ張られるままに木陰に入った。

女の子は手を離し、

抱きしめるような感じで街路樹に寄り掛かった。

女性は、その仕草を見て微笑んだ。

そして、小さな黄色い花が満開に咲いている街路樹を嬉しそうに見上げた。


初夏の優しい風が、

向日葵のワンピースの裾を少し揺らした。

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