5.王子様
「恵理ちゃん!一緒に帰ろう」
放課後、下駄箱で靴を履きかえているとよっちゃんに声をかけられた。
「あ、よっちゃん。今日は早いんだねぇ」
よっちゃんとは、時々授業が早く終わる時に一緒に帰っている。
3年生になると、いろいろ進路のことで2年生よりも遅くなることが多い。
しかしよっちゃんはまだ進路のことはあまり考えてないらしく、時々一緒に帰る。
以前は美香と帰ることが多かった恵理だったが、美香が部活に入ったため、美香よりもよっちゃんと帰ることが多くなった。
「よっちゃん。私今日、トリスによって帰るから、一緒には帰れないんだけど・・・」
「えーほんと?私もゲームとか見たいから一緒に行く~」
トリスは、学校から15分位のところにあるゲームや本などを売っているお店だ。中古の本やゲームなども扱っており、1階には喫茶スペースもある為、学校帰りに寄る生徒も多い。
「じゃあ、一緒に行こう。」
学校からトリスまでの途中には、大きな公園がある。
大きな木のたくさんある公園は、住民たちの憩いの場になっている。
その公園を横切ろうとしたとき、「ねえねえ」と後ろから声をかけられた。
振り向くと、峰高の生徒が3人立っている。
耳にはピアスをして制服もだらしなく着崩していた。
峰高は隣町の男子校で、素行が悪いと評判の高校だ。
「ねえ君、かわいいねー。俺らと遊ばない?」
「いえ、結構です。」
そう言ってすぐに立ち去ろうとするが、突然腕をつかまれる。
「ちょっと待てよ!」
「嫌!離して!」
そう言って振りほどこうとするが、力が強くて振りほどけない。
男はにやりと笑う。
「いいじゃん!カラオケでも行こうよ」
「恵理ちゃん!」
その様子をオロオロとよっちゃんが見ているのが見えた。
「っ・・・」
(もう!いやだって言ってるのに・・・・どこかに棒とか落ちてないかな・・・)
「やめろよ!!その子嫌がってるだろ」
そう考えていると突然声が聞こえた。
「!」
声がしたほうを見ると、そこにはスラッと背の高い男の人が立っていた。
恵理より2~3歳年上だろうか?
柔らかな髪はふわりとしていて、きれいな顔立ち。優しげな表情はとても素敵でまるで白馬の王子様のようだった。
そして恵理の大好きな『赤い糸の行方』に出てくるマークによく似ている。
(誰?)
恵理が少しぽーっとしていると、その人は峰高の男子の腕をつかみ、ねじりあげる。
「いててて・・・」
峰高の男子は、痛みに呻いて、恵理の腕から手を離した。
そのあと「離せよ!!」と叫んでいる。
マークに似た男の人が、その腕を離すと、峰高男子は勢い余ってそのまましりもちをついた。
「っ・・・。てめぇ・・・」
峰高男子は、よろよろと立ちあがるとその人にとびかかるが、空振りの終わった。
それを見て、他の2人もとびかかるが全く歯が立たない。
「覚えてろ!」
そうセリフを吐き峰高男子達は逃げていく。
「あ・・・、ありがとうございました。」
マーク似の彼にぼーっと見とれてしまった恵理だったが、我に返り急いでお礼を述べる。
「大丈夫だった?」
とマーク似の彼がにっこりと笑いかけてくる。
笑顔になるとますますマークにそっくりで顔が赤くなるのが自分でもわかった。
ぽーっとしていると、よっちゃんが見かねて恵理をこづく。
「あ!・・・だ・・・大丈夫です。」
「よかった。じゃあね。」
そういうとすぐに立ち去ってしまった。
「あ・・・・」
(名前も聞けなかった・・・・)
恵理がそう思ってその人が去って行った方を見つめていると、よっちゃんも一緒に見ながら
「なんかゲームにでも出てくるような人だったね。」とポツリと言った。
「え?!よっちゃん!!あの人『赤い糸の行方』に出てきたマークそっくりだったよね。」
「え?う~ん。そう言われればそうかもしれないかな?」
「うん、そっくり」
マークにそっくりだと思ったのは恵理だけのようだった。
でも、きれいな顔立ちで、王子様みたいなところはほんとそっくりだと思う。
マークも主人公を助けるために、強姦に襲われそうになった主人公を助ける場面があるのだ。
それにそっくりで恵理はまたぽーっとしてしまった。
(素敵な人だったな・・・。それにこんなシチュエーション。なんかゲームのヒロインになったような気がする。)
「おーい!恵理ちゃん。大丈夫?そろそろ行こう」
ハッと我に返る。
「あ、そ、そうだね。行こう」
再び歩き出した。