4.前世
熱い・・・炎が瞬く間に周囲に広がっている。
(あ、またあの夢・・・・・?)
夢だと気が付いたけれど、炎は本物のように熱く感じる。
焦げくさい臭い、肌に感じるじりじりと焦がすような熱。体が熱くて仕方がない。
炎は壁にも伝い、天井に広がっている。
何度も見た夢と全く同じ。
いつもと違うのは、青いドレスが見えることだ。
自分が着ているのだろうか?
光沢のある青いドレスはシルクだろうか?
とてもいい生地を使っているのがわかる。
「あ・・・なたが・・・あなたが・悪い・・の・・です。」
誰に言っているのだろうか?
炎が広がっていて言葉を発するのも苦しそうだ。
「あ・・な・たが・・・わ・・わた・くしと・い・・う・・こ・・婚約・・者が・・いな・・がら・・ど・・う・・し・て・・・」
視界が暗くなる。・・・そこで目が覚めた。
「っ・・・」
(なんだろう・・・これ)
いつもと同じ夢。いつもと違うのは、青いドレスとその人のセリフ。
ドレスにも夢の中のセリフにも覚えがある気がした。
(既視感?・・・・・いや、違う。これって夢じゃなくて・・・・本当のこと?)
体験したことなどないのだ。けれどどこかで実際にあったことだと確信する。
理由なんてないし、説明もできない。けれどそう思うとピッタリするのだ。
あんなドレス・・・今時着る人なんてそうそういない。
せいぜいすごいお金持ちの人がパーティーなんかに着るくらいだろう。
とても高価で上品な感じだったから私には無縁だ。
そこまで考えて、ある考えがひらめいた。
これは今の自分ではなく、過去・・・つまり前世のことではないか、と。
今まで前世なんて信じたことなんてない。
よくふざけて『わたしの前世は○○だよ~』なんて言ったことがあるけれど、実際に前世があるなんて思ったことはなかった。
けれど、夢であるというにはあまりにもリアルなのだ。
それに何かきっかけがあったわけでもないのに昔から火が怖かったし、ずっと炎の夢を見てしまうというのは、やはり過去にそういう体験をしたからなのではないかと恵理は思う。
そう考えるとしっくりくる。
そうすると、夢の中に出てくるドレスの人は自分なのだろうか?
では、あのセリフも過去の自分?
そこまで考えて、恵理はぞくっとした。背中に冷たい汗が流れる。
過去の記憶のはっきりしないこととはいえ、自分が火をつけて誰かを殺そうとしたのだろうか?
そんなことをする過去の自分。
そう考えると気が滅入ってくる。
少なくとも今の恵理は、どんなことがあっても人を殺めようとしたことなどないし、したくはない。
でも過去の自分はしようとしたのだ。
(・・・・今、そんなこと考えても仕方がないことだけど・・・。それにまだはっきりとわかったわけではないし・・・。)
そう考えて、恵理は考えるのをやめた。
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昼休み、中庭のベンチでいつものように美香とランチをとっていた。
美香と雑談しながらも、夢のことを考えていた。
「恵理、どうしたの?」
「え?あ・・・ごめん」
「なんか今日は授業の時もぼーっとしてたでしょ。なんかあった?」
「・・・・。あのさ、美香は前世ってどう思う?」
突然思ってもみない質問をされ、一瞬きょとんとなる美香だったが、すぐにぱぁっと嬉しそうな顔になって、前のめりになる。
「え?なになに!前世とかって今、ラノベとかで人気のある話だよね!ゲームの世界に転生する話とか。」
「ゲームの世界に転生?」
初めて聞く話だ。恵理はゲームは好きだが、その手のラノベは読んだことがない。
「うん。前世が日本人で、何かの事故とかで死んでしまって、その後好きなゲームに転生するとか流行っているんだよ~。あ、あと転移するっていうパターンとかもあるし・・・」
「転生・・・転移・・・?」
「うん!・・・あぁ、そんなことあればいいよねぇ~。もしあったら私『赤い恋の行方』に転生して、レイ様とラブラブになるんだぁ~」
うっとりと目がハートになっている。
「そ・・・そう。がんばってね・・・」
あまりの勢いに若干引き気味になる恵理だったが、とりあえずそう答えると美香は嬉しそうにうなづいた。
(それにしても・・・前世の話がラノベで人気?ゲームに転生とかよくわからないけど、参考になるかもしれない。)
恵理は帰りに本屋に行くことにした。