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第57話 動き出した者たち 異世界から来た劣等生 XIV


 「かける、いよいよ始まるな」

 「あぁ、まさか戦争になるとは思わなかったな、じん

 「そうだな」


 国王の命令を受けてストレング公爵は2万の軍勢を率い、デミタリアス伯爵領内に入って行った。


 待ち構える軍勢は8千の伯爵の兵たち。

 目の前に対峙たいじできるところまで移動してきたところだ。

 デミタリアス伯爵はこの中には参加しておらず城で待ち構えている。


 「つよし、今回はおまえは参加しなくてよかったんじゃないのか。

 俺らセブンクラウンの4名がこの戦いに参加すれば問題はなかった」

 「そうも言っていられないよ。

 俺だって戦えるんだから」

 「そうか死ぬかもしれんぞ。

 なんせ先発部隊を任されてしまったのだからな。

 相手は8千こちらが2万の兵だ。

 数的には有利だが、先陣を任された者たちは初突の対峙で生き残る確率が低い。

 数が多い分、下手をすると後ろから来た仲間に踏みつぶされることもあるのだからな」

 「なおさら、俺の能力が必要だよ。

 鉄壁の防御を誇る俺の異能がね」

 「ほほう、楽しみにしているぞ」

 「そう言えば亮は、この冒険者で構成された部隊にはいないのか?」

 「あぁ、あいつは単独で行動するらしい。

 やつを筆頭にしかけるようだな」

 「バカなのかあいつは」

 「自らストレング公爵に先陣を切ると言ったのだ。

 どうにもならんだろう」

 「それに誰かしら先陣を切る者がいないといけないからな。

 実際の戦争では先陣を切った者がほとんどが死ぬ。

 主人公が映画などで先陣をきって活躍できるのとは違うのだからな。

 真っ先に狙われ死ぬ。

 本来はそんなもんだろう」

 「公爵も先人をきる者を身内から出したくないのだろうな。

 それでうってつけのやつがいたって訳だ」

 「それもそうか。

 まぁ、あいつのことだ死ぬことはなかろう。

 せいぜい敵を攪乱かくらんしてもらいたいぜ」

 「だな」

 「む、前衛に弓の部隊を出してきたぞ。

 まさか仕掛ける気か?」

 「戦う前にお互いに宣戦布告の礼を述べると聞いていたが違うのか?」

 「これはいけない。

 全員防御態勢を整えろ、矢の雨が来るぞ」

 デミタリアス伯爵軍はいきなりの先制攻撃を仕掛けてきた。


 戦争開始の礼をかき仕掛けて来たのだ。

 矢の雨がストレング公爵軍の前衛部隊に襲い掛かる。


 「ヒュン、ヒュン、ヒュン、ヒュン、ヒュン、ヒュン、ヒュン」


 「ちぃ、俺の念動能力サイコキネシスでは自分のまわりしか防ぎきれないぞ。

 どうする」

 及川昴おいかわすばるは言った。


 「ガード・プロテクション」

 剛が先頭に立ち黒い盾を前に構えた。


 剛の黒い盾はプライズガーデンのメンバーである、創造魔法クリエイトが使えるあんに創ってもらった物だ。


 …… …… ……


 『剛くん、私が創った盾のでいいの?』

 『杏さんにぜひお願いしたいんだ。

 黒い大きな盾がほしいんだ』

 『うーん、私が創造して作るより、武器屋で盾を買った方が防御力が高いと思うんだけどね。

 私はまだ能力を使いこなしていないでしょう。

 形が創れるだけでまともな盾はできないと思うよ』

 『別にいいよ。

 ほしい盾は大きくて武器屋では特注で作らないといけないしね。

 そのかわり注文があるんだ』

 『なにかな?』

 『デザインをこの紙に書いてある盾と同じような感じで作ってもらいたいんだ』

 『ふーん、これね。

 変わった形の盾ね。

 そこまで言うなら作ってもいいけど。

 私はまだ能力が使いこなせていないから、最初に作る盾はできが悪いと思うわ』

 『構わないよ。

 それよりも、盾のデザインを重要視したい。

 その盾のデザインだと守りのイメージがわきやすいからね』

 『言っている意味が良くわからないけど、剛くんがそういうなら創ってもいいよ』

 『ありがとう、杏さん』

 『でも、最初に作る盾はおそらく形だけで脆いかもしれないわね。

 私の能力が上がれば良い盾を作れると思うので、定期的に創ってみるわ。

 それでどうかしら』

 『それはいい考えだね。

 お願いするよ。

 ありがとう、杏さん、これでイメージが完成できる』

 杏が作った盾はすでに5つ目の盾で、そこそこ硬く防御力があがっている。


 …… …… ……

 

 「イージス」

 剛が構えた盾から波紋のような透明な幕が展開されストレング公爵軍を広範囲に包み込んだ。


 剛が作ったバリアの幕がデミタリアス軍が放った矢をすべて遮断した。


 遮った矢を見て両軍ともにあぜんとしている。

 すべての矢を防ぎ切った時に透明な幕が消え去った。


 「すげえ、これだけ広範囲にバリアを展開させるとは、剛の異能なのか」

 「本当にすごいな、これは」

 「……。

 駄目なんだ、これではまだ駄目なんだ。 

 アニメや漫画ではない。

 実戦ではこんなもんじゃ駄目なんだ。

 パーフェクト・デフェンス・ウォリアー」

 剛がスキルを唱えると公爵軍2万人全員に金色の光が宿る。


 防御力と攻撃力をあげるスキルを2万の兵にかけたのだ。


 「なんだこの金色に輝く光は、力が沸いて来るぞ」

 「こいつは、いいな。

 俺たちはいわば初陣だ。

 この光で敵味方の判別がつくぜ」

 「あぁ、混戦状態だとわからなくなるからな、ちょうどいい」


 「剛のやつ、やるじゃねえか。

 それじゃ俺もいっちょ行こうとしますか」

 亮が単独でデミタリアス軍に突進していった。


 「あのバカ、本当に1人で行きやがった」

 「俺らも続くぞ」

 亮に続いて先方部隊もデミタリアス軍に突撃して行った。


 デミタリアス軍は前方に弓部隊を配置したせいか、下げるのにとまどっている。

 突撃してくるストレング公爵軍の先方部隊に遅れをとりなすすべもなく攻撃を受ける。


 「ボマー・ブリッド・ナックル」

 亮は前方の敵に対し炎をまとった拳で殴りかかった。


 殴られた兵は爆発して吹っ飛ぶ。

 後ろにいた兵50名足らずが、爆発に巻き込まれ飛び散る。


 「オラ、オラ、オラ、オラ、オラ」

 亮はそのまま近くいた兵を魔法力をまとった炎の拳で殴り飛ばした。


 殴られた兵は爆発し散る。


 ストレングス公爵軍の先方部隊も攻撃に参加して行った。

 

 デミタリアス軍は弓の攻撃を防がれた時点で予定が大幅にくるった。

 前衛部隊に入りこまれた事により壊滅的なダメージを受ける。


 2万の大軍が一気に押し寄せ、態勢をたてなおすことができず戦闘に飲み込まれ駆逐されていった。


 この時点ですでに勝敗を決していた。

 8千もいたデミタリアス軍は、なすすべなく散っていったのだ。


 戦闘を開始してわずか1時間足らずで勝敗が決してしまった。


 戦いが終わりストレング公爵は前に立ち勝利の勝どきを叫ぶ。


 わずかな王国軍の騎士団とストレング公爵軍の精鋭部隊を残して兵をすべてひき返させた。


 ストレング公爵はわかっていた。

 戦う前にデミタリアス領内の略奪行為は強く禁止をしていたが、素行の悪い者たちが絶対に命令を聞かずどさくさにまぎれおこなうと。

 

 厳しく罰則すると言ったが絶対に出てくるのだ。

 今までの経験でおこなった者が居たのを実際にみてきた。

 それも自分の信頼していた部下がおこないその場で処罰したのも何度かあったのだ。

 

 その教訓を胸に今回はすぐ兵を引かせ、王国騎士団と自らの精鋭部隊を残してすぐさま兵を帰還させた。


 帰還させる途中の村で略奪行為をした者は反逆者とみなしてその場で死罪にすると付け加えた。

 そうまで言わないと略奪行為がおこない関係のない人民に被害が出てしまう。


 戦争のあと始末程、難解なものはないとストレング公爵は理解していたのだ。


 王国騎士と精鋭部隊、総勢300名足らずの兵と冒険者のセブンクラウンのメンバーでデミタリアス伯爵の元へ駆けつける。

 軍が散った今、精鋭部隊300名ほど居ればデミタリアス伯爵は捕らえられる。


 プライズガーデンの剛は亮が指揮して引き連れていた冒険者の部隊をまかせ引き返して行った。

 剛の力を冒険者たちは見ていたので素直に従い戻って行った。


 …… …… ……


 デミタリアス伯爵は、城内ですでに亡くなっていた。

 負けとたわかった時点で、側近の者たちが裏切り領主を殺しストレング公爵に差し出してきたのだ。

 

 側近たちの裏切り、この世界では良くある事だ。

 しかし、ストレング公爵は甘くない。

 側近全員にも同罪とみなし厳しい処罰を与える。


 戦いはあっけなく終わった。


 王国の騎士団にデミタリアス領の治安を任せ、ストレング公爵は領地へ戻って行った。

 いらぬトラブルが起きるのを防ぐために、王国の騎士団にすべてを任せ自らは退いたのだ。


 …… …… ……


 「翔、亮の具合はどうなの?」

 「瞳か、毒と呪いは純に頼んで消してもらった。

 腹の刺し傷はとうの昔に回復魔法で治っているよ。

 しかし、精神的にまいっているみたいだ」

 「そうなんだ。

 でもね、まさか戦争で傷を負ったのではなく、帰ってから女の人に刺され傷を負ったのでしょう。

 それもよりによって自分が前に関係を持った女性にね」

 「そうだな、まさか俺もこんな展開になるとは思わなかった。

 戦争では傷一つ負わなかったやつがだ。

 韓流ドラマではあるまい。

 私情のもつれで死にかけるとはどういう事になっているんだ。

 あいつは」

 「確か、奴隷にされそうになっていたカレンて言う子を助けて宿屋でかくまっていたんだよね」

 「そうだ」

 「それでまえにしりあった貴族のデミタリアスの息のかかった下部貴族が、その娘が突然宿屋に現れ、毒付きのナイフで亮とカレンを刺して自害してしまったんだよね」

 「あぁ、そのとおりだ。

 短剣には毒と特殊な呪いがかかっていたらしい。

 雅の件の時に関係を持った貴族の娘だ。

 王都へ監査が入り、父親は密輸品と麻薬の所持のために捕まり処罰をされた。

 この一件に、亮が関係しているのをしって恨んで犯行におよんだのだろう」

 「逆恨みってやつよね。

 異世界版、愛憎劇場のC級ドラマの展開で驚いたわよ。

 身近で実際に起こるとは思っても見なかったわ」

 「あぁ、俺も同じ考えだ」

 「亮は生き残ったのだけど、カレンは即死だったんだよね」

 「そうだ、それで亮は精神的にまいってしまったようだ。

 戦争で先陣を切って戦ったやつだと思えん。

 まったく」

 「見舞った方がいいかな」

 「やめておいた方がいいぞ。

 嫌みととらえられ、勘違いするかもしれん」

 「確かにそんな感じがするわね。

 亮のことはあなたたちにまかせるわ。

 プライズガーデンの仲間には余計なことはしないでと言っておくわ」

 「頼むよ、瞳」


 …… …… ……


 デミタリアス伯爵の悪行が晒されてから、少しはベルンフォードの国は治安が良くなった。

 特に奴隷売買と麻薬で東北にあるサンデーニャーラ諸島に行くことを厳しく防いだ。


 セブンクラウンとプライズガーデンの活躍によりベルンフォードの国も発展をとげてきた。


 あれから1年の月日が流れ私たちはこの国を出ることに決める。

 異世界に転移してから4年近くなるだろう。


 この国での冒険業は成功していたが、私たちが元の世界に帰れる情報は何一つ得られなかった。


 世界をまわり情報を得ようとみんなで決めたのである。

 しかし、今まで調べても近辺の情報も確かなものが得られない。

 世界の地図どころか、この大陸の地図情報も得られなかった。

 調べている者が少なかったのだ。


 そんなさなか、世界を回り旅をしている冒険者に相談してみたのだった。


 私たちがこの異世界に来て冒険業をはじめた時にお世話になった2人組の異国から来た冒険者だ。


 唯一、駆け出しの私たちに冒険者家業のやり方を教えてくれて兄のような存在だ。

 私が目標にしている冒険者でもある。


 名は紅蓮ぐれんかえでと言う冒険者だ。

 アグニーラ大陸にある火の国から来て世界を旅している。

 

 この2人が私たちが元の世界に帰るきっかけを作ってくれると、直感力がいっているのだった。


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