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第52話 動き出した者たち 異世界から来た劣等生 Ⅸ


 サイの村をあとにする。


 わずか2日足らずの滞在での討伐だったが、私たちにとってはそれくらいの依頼内容で良かった。


 しかし、後腐れは残ってしまったけど……


 パーティーは気まずい雰囲気だけど、エリンの街について1週間もすれば元のとおりに戻るでしょう。

 

 雅はお冠だが、私は村長から戴いた魔獣の毛皮と魔核が手に入ったので上機嫌でいる。


 臨時収入にかぎつける事などめったにない。

 いつも討伐した魔獣はぐちゃぐちゃで、討伐依頼の証拠になる体の部位を持っていくだけしかできなかった。

 

 セブンクラウンのメンバーは全員が魔核を所持していて、魔法力を底上げをしていると聞く。

 もしかしたら魔核が異能に関係しているのではないかとひそかに思っている。


 魔核を手に入れたので私たちも異能が使えるようになるか、ちょっとだけ期待をふくらましているのだった。


 しかし、私の期待と裏腹に事件は起きてしまった。


 …… …… ……

 

 「みんな、ここで休憩をとりましょう。

 行き道でもこの辺りで休憩を入れたじゃないの、見通しが比較的にいい。

 魔獣の気配もないわ、休憩をとって昼食を取ってしまいましょう」

 「OKよ、瞳」

 「あれ、今日は食事を誰が作る担当だったかな?

 このところ純くんに任せっきりで、私たち作っていないじゃない」

 「うーん、でもさ純くんが作ると、全員が食べられる料理が作れるのではないの。

 野菜をまったく食べられない人がいるのよね。

 誰かとは言わないけど」

 「悪かったわね、私は食べられないわよ」

 「人それぞれ好みがあるのだからしかたないのでは」

 「でも、スープとか純くんは野菜からうまみを取っているのよ。

 細かくきざんで隠れて入っているのに」

 「それは、純くんが料理が上手だから食べられるわけであって、生野菜は私は絶対駄目なのよ。

 それと杏、あなたが作った野菜が入っている料理も絶対駄目よ。

 おいしくないもの。

 文句を言っているんだったら、うまく作りなさい」

 「えぇ、野菜を食べられるように克服するのではないの。

 ひどいことを言うわね、料理を上手になれなんて。

 瞳なんかさ、私よりも料理は苦手じゃないの。

 よくそんなことを言えるわよね」

 「私は別にいいのよ。

 なんだったらお店で食べるまで我慢すればいいのだから。

 純くんが用意してくれた、携帯用のビスケットがあれば、我慢はなんとかできますから。

「瞳はさ、ジャンクフードばかり食べているから野菜が食べられなくなったのではないの?

 ちょっとは野菜を克服するように努力した方がいいと思うよ。

 好き嫌いあるのでは作る人がたいへんなのだから。

 野菜をぬいている料理を別に作らなくてはいけないのですからね」

 「わかったわ、あとで努力はするわ。

 でも今は駄目、あとですることにする」

 「あとと化け物は出たと言う話はないと言いますけど」

 「ここは異世界だから化け物もでてくるわ。

 私も食べられるようになるんだから、たぶん」

 「パーティーメンバーに迷惑はかからないようにしてほしいわね。

 瞳には克服してもらいましょう」

 「……」

 「で、今日は誰が作るのだったかな」

 「私が作ります。

 瞳さん安心してください。

 野菜の入っていない、雑穀米をいれたすいとんをつくります。

 胡椒を多く入れるのでおいしいと思いますよ。

 あとは硬焼きの私が焼いたパンがあります。

 昼食はそれですませましょう」

 「誰かさんと違って、雅は気遣ってくれて料理が上手でいいわ。

少しは見習なってはどうかな」

 「何を言ってるのよ。

 私たちの中で一番料理は下手なくせにして」

 「あなたも似たようなもんでしょうが」

 「はいはい、そこまでです。

 今日は私が料理を作ると言うことでいいですよね」

 「えぇ、いいわ」

 「あっ、そう言えば剛くんと宙くんはどうしましょうか?

 朝方、2人とも食べてきたと言っていましたわよね。

 奇麗な人に作ってもらった料理はおいしかったのでしょう」

 「ぼ 僕はおなかが空いていないからいいよ」

 「俺も」

 「そうですか、2人分は作らなくて食材も浮いて助かりますね。

 食材が残り少ないので助かりますよ。

 それでは6人分と言う事で作ってしまいましょう」


 『おいおい、雅のやつまだお怒りのようだな』

 『えぇ、そうね、剛くんと宙くんはエリンの街までご飯抜きになるかもしれないね』

 『ありえそうなことだわ』

 『サイの村をすぐに出てしまったので、食糧の調達をしてこなかったから』

 『わざと食材がないそぶりを言ったから間違いないわ』

 『雅って怒らすと怖いからな』

 『食糧も残り少ない。

 エリンの街までしばらくは剛くんと宙くんには我慢をしてもらうことにしましょう』

 『そうだわね』


 「ふふーん」

 鼻歌を歌いながら雅は昼食を作るのにとりかかった。


 『剛くんと宙くん、しばらくは雅の機嫌が直るまで我慢してよね』

 『うん』

 『わかりました』


 …… …… ……


 さてと、料理ができるまで、村長に戴いた包みを確認しましょうか。

 魔核以外にもなにかいっぱい入っているみたいだから、楽しみ。


 瞳は村長から戴いた包み袋をひらいてしまった。


 「瞳、何をしているの、それはエリンの街まで開けずにいると言ったじゃないの」

 怒るような口調で杏は瞳に言った。


 「別にいいじゃないのよ。

 確認よ、確認……」

 しかし、その様子を見た杏は青ざめた顔色にかわる。


 開けた瞬間に金属のチェーンをついた小さなプレートを見てしまったのだ。

 冒険者だったら誰でもしっているものであった。


 「なにこれ、魔核はこの赤い宝石よね。

 それ以外はチェーンのついたプレート、それに指輪かしらなんでこんなものが入っているの?」

 雅も料理を作りながら、気になったので横目で見ていた。


 しかし、それを見た時にある事がわかったようで、持っていたスープをかき混ぜていたお玉を地面に落としてしまった。

 

 一瞬にして血の気が引き青ざめてしまう。

 おそるおそる、瞳の傍によって包みの中を確認する。


 「な なんでこんなものがあるのですか?

 これってC級冒険者になったら配られるギルドの正式な確認証のプレートでしょう。

 名を刻んでいるはず」

 「えっ、確かになんでこんなところにあるのかしら。

 村長さん、亡くなった冒険者のプレートを冒険者ギルドに返すためについでに私したちに寄こしたのかな?

 でもおかしいわ、指輪もあるわね。

 女性の用の結婚指輪?

 銀の指輪か、中にベトルと刻んであるわね」

 「ベトル! ベトルって黒の牙のリーダーの名じゃないのよ。

 なんでこんなもんがここにあるのよ」

 悲鳴にも似たかんだかい声で雅はわめく。


 それを聞いたプライズガーデンのメンバーは驚愕きょうがくに震える。


 「ウォェ、ゲホ、ゲホゲホ」

 瞳と雅と剛と宙はいきなり咳き込んで胃の中の物を履きだそうとしている。


 しかし、すでに食事を取ってから数時間が過ぎている。

 胃の中の物は消化済みで胃液しか残っていない。

 胃液だけを吐き出しているのだ。


 その光景を見ていた、他のメンバーは顔を逸らしたりまた目を覆ったりしてなるべく見ないようにしている。


 「はかなきゃ、昨日の食べた物をはかなきゃ」

 雅は、右手の2本指を口の中に入れ喉をまさぐり、胃の中にある物を出そうとしている。

 

 だが、胃液が出るばかりでむせってしまい、咳き込んでいる。


 4人とも四つん這いになり口や鼻から液を出し目を真っ赤にしながら咳き込む様子が見える。

 

 「雅、やめなよ。

 手を入れたってすでに消化をしている胃の中の物をはけるわけないじゃない」

 「消化、消化ですって、ごほごほ。

 それでは私はあれを食べてしまったと言うのですか。

 げほげほげほ、うわーん」

 雅は咳き込みながら大泣きをしている。


 他の3人も似たような感じになっていた。


 …… …… ……


 しばらくしてから、落ち着きを取り戻してきた。


 純たち4人は水の汲んだ桶と濡れタオルを用意し、4人の事を介護しながらきれいにしてあげている。


 4人とも目が真っ赤で顔面が蒼白、茫然ぼうぜんとヘタレ込んでいる。


 時間はそのまま過ぎ、夜になってしまった。


 4人とも体に毛布をかぶりながら焚火に当たっている。

 顔面が蒼白で4人とも、焚火の炎がゆれる様子を同じように見ているのだ。


 「ねぇ、杏、あなたはしっていたの」

 「うすうすだけどわかっていたわ。

 貧乏な村なのに突然、肉を私たちに振る舞うなんておかしいじゃない。

 ツインベアの討伐の時だってそうだった。

 あの肉は私たちが討伐した魔獣のものだったと思ったわ」

 「じゃあ、なんで言ってくれなかったのよ」

 「瞳、私はねあなたたちがしっていると思って言わなかったのよ」

 「しっているわけがないでしょう」

 「今更何を言っているの?

 あなたバカじゃないの。

 この世界に来た時、町長に食事をごちそうになった時があったわよね。

 クラスメート全員で話して、なんの食べ物か覚悟しなきゃと言ってみんなで食べたじゃないのよ。

 まずいと言いながら残すのは失礼にあたると言って、全部食べていたじゃないの。

 ここは異世界よ。

 どんな食材を使っているかわからない。

 そう言った覚悟であの時はみんな食べたのではなかったのかしら」

 「わ 私はこの世界の食べ物が体にあわなくて、毒だっらどうしようかと思って食べていたのよ

 まさか、人を襲った狼を食べたとは夢にも思わなかったわ。

 現に村長や村人たちもおいしそうに食べていて大丈夫だと思ったのよ」

 「大丈夫じゃないわよ。

 ここは異世界よ。

 私たちの常識とは違うのだから。

 お店で出している肉だって、人を殺して食肉にしてもおかしくないのですからね。

 そういう荒んだ世界なの。

 あなたは1年以上この異世界に居てわかっていなかったのかしら」

 「そ そうだったわよね。

 荒んでいる世界なのはしっている。

 けど、仲間の冒険者や村人を襲った狼を村人が平然とおいしそうに食べているとは思いもしなかったのよ。

 うわーん」

 瞳の鳴き声が響き渡る。

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