第43話 動き出した者たち 百の剣 Ⅱ
奇麗な白い奴隷着を着て城に連れていかれる。
城につき王の間に通される。
いた、こいつだ。
俺に奴隷の紋章をつけた魔法使い、こいつだ間違いない。
中年の背の高い魔法使いだ。
はじめて見たがわかった、魔法で俺とつながりを感じる。
俺は王の間で、臣下の礼をさせられ待たされる。
王と取りまきたちが来た。
派手な成金衣装を着た丸まる太った王が玉座に座った。
予想どおりの姿だ。
まるまる太った豚だ。
それよりも気になった事があった。
鎖につながれた奇麗な若い女性が裸のまま犬のように、四つん這いで隣に座らされているのだ。
女性はあきらかに、元上流階級のような漂いを見せている。
目は精気がない、まさに死んだような目をしているのだ。
異世界はここまで腐っているのか、王族が裸の女性を隣にはべらしている。
まわりにいる側近たちもまったく気にした様子はない。
俺が雇われていた当主も女癖は悪かったが、ここまではさすがにしてはいない。
絶対ありえないぞ、この異世界の常識を疑ってくる。
王が口を開いた。
「ベルベットよ、奴隷がほしいか」
ベルベットと呼ばれる、7歳くらいの少年が俺に近づき、まじまじと観察している。
「お父さま、僕この奴隷がほしい」
「そうか、誕生日プレゼントとしておまえに買いあたえよう」
「わーい、お父さま、やった、やった」
少年ははしゃぎまわっている。
誕生日プレゼントだと、ふざけた事を言いやがる。
「奴隷を与えるのにはまだ早いと思ったが、買うとしよう。
大臣金を払ってやれ」
奴隷商人に金貨3枚を渡し、俺は買われたようだ。
「宮廷魔術師、奴隷契約の証を授ける準備をおこなえ」
宮廷魔術師の一人が宝石のようなアイテムを持ってくる。
王子の少年に何かを伝えている。
俺はその間目隠しをされ、両手を後ろに縛られ膝をついた状態で拘束させられた。
目は見えなくても魔力の感じで手の取るようにわかる。
チャンスだこの機会しかない。
「儀式を始めます」
宮廷魔術師と俺に奴隷の紋章をつけた魔術師が王子にむかって魔法をかける。
俺と宮廷魔術師と奴隷魔法をかけた魔術師、それと王子が魔法でつながった感じがした。
くそう、魔法の共有状態か、それもやつらが持っているアイテムで俺を拘束をしている。
共有状態で、魔法をかけるのだったらとけないではないか。
王子がなにか魔法の呪文を発動しようとしている。
しかし、魔法が発動しない。
アイテムを使用しているみたいだが、うまく扱えず発動しないのだ。
何回も唱えている間、魔法が完全に途切れた状態がおきた。
ここだ。
「わが意のままに剣よ現われろ、その力をもって敵を切り滅ぼせ」
突如、なにもない空間から4本の剣があらわれた。回転しながら宮廷魔術師たちに向かう。
「スパン、スパン、スパン、スパン」
空間魔法を使い、剣を4本出して宮廷魔術師と奴隷魔術師、そして王子の少年を切り裂いた。
3人とも切り裂かれ死んだ。
王子が持っていた宝石のようなアイテムも床に落ち砕け散った。
「バカな、なぜ奴隷魔法が発動しなかった。
それになんだ、なぜ剣が宙を舞っている。
メダリオス、これはおまえのしわざか?」
奴隷商人が驚きの形相で言う。
騎士団がすぐさま駆け寄り俺に剣を向けるが、4本の剣で切り裂いた。
4本の剣は空中で回転しながら俺の周りを回っている。
近づこうとしている騎士たちを牽制している。
「ふう、痛い。
奴隷の紋章と切り離すために、自分の左腕を切り裂くとは、俺もバカに思える。
両手を縄でしばられていたが、右手の縄に左腕がぶら下がっていた。
最初に出した剣が左腕を切断し、首輪も切り裂いていた。
自由になった右手で目かくしを取り、両手を縛られた縄を剣で切りさき、左腕を持ち上げた。
血はまったく出ていない、魔法で止血していた。
切り裂いた左手の奴隷の紋章は消えている。
触ったところ魔法の反応はない。
「左手をつければ治るのか?
俺は回復魔法はあまり得意じゃないんだ」
「中位回復魔法」
切り裂いた左手を肩につけライトヒールを唱えた。
「おお、動く動くどうやら神経はきちんとつなげられたようだ。
しかし、痛いのだが。
この痛みお返ししてあげよう。
百剣、四十七剣」
四十三本のさまざまな形のした剣が空中に現れた。
空間魔法で剣を取り出したのである。
「投射撃」
先に出した四本の剣と合わせて四十七本の剣が頭上から降り注ぎ騎士団を貫いていく。
王と側近連中は何がおこったのかわからず、あぜんとして声も出ない。
「おい、メダリオスこれはおまえがやっているのか?
やめろ、やめるんだ、なんてことをしやがる」
奴隷商人が怒鳴りながら話す。
「なんてことをするだと、それは俺がおまえに言いたい。
おまえが俺に何をしたのか聞きたいぜ」
奴隷商人は青い顔をして黙ってしまった。
「無礼者、殺せ、こいつを殺せ」
王がわめくが、残っている護衛の騎士たちは足が竦んで一歩も動けないでいる。
「うるせえ豚だ、わめくなよ。
殺してやるから黙っていろ」
空間魔法を使い3メートルはある巨大な両刃のグレイトソードをとりだす。
魔獣を殺すために特別に作られた巨大な両刃の剣だ。
「なんだあれは、何もないところから巨大な剣が出てくる」
側近の一人が呟いた。
グレイトソードに風魔法をかけ振り回す。
剣から放たれるでソニックブレードで側近どもを切り裂いた。
「ヒィ」
奴隷商人は悲鳴をあげ腰をぬかした。
「おまえには恨みがあるからな。
最後にゆっくりと殺してやるよ。
まずは豚の始末だ」
ゆっくりと歩きながら王に近づく、王は額から脂汗を垂らしているがまったく動けないでいる。
グレイトソードを頭上から振りをろした。
「ザン」
王は玉座ごと真っ二つになった。
「わが意のままに剣よ舞い上がれ」
騎士たちに突き刺ささった剣が宙を舞い回転する。
「舞い踊れ、わが剣よ、四十七乱舞斬」
四十七本の剣が王の間にいる者たちを回転しながら切り裂いていく。
「ギャー、ワー、ズバン、ザキン、ズン、ギャー、スパン、ザク、ザン、ギャー、ザン」
王の間にいた者たちは、切り裂かれ血の海になった。
残りは2人か、奴隷商人と裸の女性だ。
裸の女性は俺と同じ立場なような気がして殺すのは避けていた。
兄貴が一般市民を殺さなかったように俺も危害を加える気はない。
「奴隷商人あとはおまえを殺せば済むことだ。
どうやって殺そうか」
苦しめて殺そうと思ったが、兄貴の顔がちらついた。
「まあいい、一撃で楽に殺してやる」
「ザン」
奴隷商人はグレートソードで胸から真っ二つに切り裂かれる。
「カラン、コロン、カラン」
3枚の金貨が落ちた。
俺は3枚の金貨を拾う。
これが俺の命の価値か、おまえらには安すぎたようだ。
空間収納魔法を使い金貨を入れてしまう。
一人だけ生き残っていいる女性に近づき声をかける。
「お嬢さん、大丈夫か、君には危害をくわえる気がないので安心してくれ」
怯えているようだが俺の言葉を聞いて、態度が和らいだ気がした。
空間収納魔法を使い、大き目のタオルを出して彼女にかけた。
「君は奴隷だね、それも元上流階級の者だ違うかな」
「はい、そのとおりです」
「奴隷の紋章は消えていないようだが、大丈夫か」
「私に奴隷魔法をかけた者は目の前で死にました。
今は模様はありますが発動はされません」
「なるほど術者が死ねば解除されるのか」
「それは違います。
解除はされておりません。
奴隷魔法とアイテムがあれば簡単に上書きできるのです。
今は保留状態になっています」
「解除はできるのか」
「高位の魔術師とアイテムがあれば可能です」
「そうか、探して解いてもらうことにしよう」
「あの、あなた様はいったい何者ですか」
「俺か、俺はメダリオス。
元居た世界では百剣のメダリオスと言われている冒険者だ」
「異世界からの訪問者、それでは勇者さまでおらっしゃれますか」
「勇者ではない、異世界からの流れ者と言っていいだろう。
もっともこの世界に流れついた時はなぜか奴隷になっていたがな」
「ご心中、御察しいたします」
「別に良いよ、それより君は何者だい」
「私はローゼリッタ。
エルメス・ローゼリッタと申します」
「ローゼさんでいいかな」
「はい」
「難しい話になるがお聞きしたいことがある。
聞いて良いかな」
「どうぞお聞きください」
「遠慮なく聞かせてもらうよ。
俺はこの国の王を切った。
とんでもない事をしでかしてしまったのだ」
「はい」
「お尋ね者になるのは良いのだが、それよりもこのままだとこの国の支配者がいなくなった、暴動や略奪が起こるだろう。
それは世の常でわかっている事だ」
「言ってることは理解できます」
「それでだ、この国を治めるのに良い人材を知っているのか聞きたいんだ。
誰か適任者がいるかな?
できれば王の反体勢力でまともな人物がいればいいのだけど、ご存じだったら教えていただきたい」
「私の父が一番良いと思いますが、どうでしょう。
私が言うのもなんですが人徳もあり、推薦できる人物だと思います」
「君のお父上」
「はい、私の父はこの国の西の地方を治める領主をやっています」
「領主?」
「父の名はエルメス・ナイツバイト伯爵と言います」
「伯爵? 君はもしかしてお姫さんなのか」
「半年前まではそうでした。
人質に囚われ、今は奴隷の身に落ちてしまったのです」
本当なのか? 俺が雇われていた冒険者組合の領主は子爵だぞ。
伯爵と言えば子爵以上の地位じゃないか。
うちの連合国では大公を除く、国を治める最高権力者たちだ。
いや異世界だ爵位の位の高さが違うのかもしれない。
もともとネイビス大公が反乱を起こすまえは王国として成り立っていたのだからな。
それでも西の地方を治める領主の娘を奴隷として人質にする。
それもはだかで犬のように、そんなことが許されるのか?
この世界はどうなってやがる頭が痛くなってきたぞ。
俺も奴隷としてひどい目にあったけどどうなんだ。
まずは少しでも情報を得よう、彼女に質問したい。
「ローゼさん、いやローゼリッタ姫さま。
君の父君に頼めばこの国を治められる」
「そ、それは」
「何か問題があるのか、派閥の勢力争いとか関係している?」
「そうではありません。
私たちが住む西の地方は、魔神獣ジー・クラインホースに襲われ、困難な状況に陥っています」
「魔神獣ジー・クラインホース?」
「この国の王、ギガシャ・ギャロックは魔神獣ジー・クラインホースと契約して、この国をむさぼっていたのです」
「私たちの西の地方に魔神獣を押し付けて、中央で私欲のかぎりをおこなっていたのです」
「この国は魔獣の手に落ちていると言うのか」
「はい、魔神獣ジー・クラインホースの支配下におかれています」
俺は怒りが込みあがってくる。
俺のいた国は冒険者が多く集う、オルネリア武游国だ。
国の信念は魔物に屈しない。
知恵のある魔物に生贄を捧げる、断じて起きてはならない。
「ローゼリッタ姫、魔神獣ジー・クラインホースは俺が討伐しよう。
そのかわりこの国を君の父君、エルメス・ナイツバイト伯爵にお任せると言う事でお願したい」
「魔神獣ジー・クラインホースを討伐してくださるのですか」
「ああ、元居た俺の国では、魔獣に屈してはいけない国なんだ」
「わかりました、お父上にお伝えしたいと思います」
「まずはこの城からの脱出だ」
「これを貸そう、着替えてくれ」
空間収納ボックスから黒い長いコートをとりだす。
「こ、これは」
「魔獣の皮で特注でつくらせたコートだ、君には大きいが、物理、魔法防御が高く、特殊なアイテムが取り付けてあり反射効果もある」
「こんな貴重な物を、お借りして良いのでしょうか」
「ああ、その姿じゃ俺も困るからな」
「ありがたく、使わせてもらいたいと思います」
「俺も着替える、後ろを向いててもらえるか」
「わかりました」
空間収納ボックスから魔物討伐に優秀な装備を取りだし着替えてしまう。
俺の一番の装備はどうやら奴隷商人に剥ぎ取られてしまった。
魔獣を倒したあとに探すとしよう。
この装備は能力的に高いが、金と赤の装飾が派手で目立つのだ。
当主に頼んだらこんな鎧を作ってきやがった。
格安でできたのは良かったんだが……
持っている中で一番能力が高い、仕方がないか。
「着替えが終わった、城から脱出しよう」
「勇者さま……」
「わるいが、俺は勇者ではない、一介の冒険者だ」
「失礼しました。城の中をご案内いたします」
「頼むよ」
姫さんは顔を赤くしているけど、裸でいたから風邪でも引いたのか。
これは早めに伯爵のところへ、送ってやらないといけない。
病気で体調を崩されたのが、俺のせいになったらたまったもんではない。
まずは城門の突破だ。
かかって来るやつは手加減はできないぞ。
なんせ俺の相手、魔神獣ジー・クラインホースが待っているのだから。
…… …… ……
メダリオスは城の城門を破壊し、途中で馬を得て西にむかう。
無事、姫を送り届け領主の伯爵と交渉をとりつける。
伯爵はしたしい貴族に連絡し、兵をあげる準備をする。
西の草原に住むと言う8本の足を持ち6つの目を持つ巨大な暴れ馬、魔神獣ジー・クラインホース。
俗に言うスレイプニルか、確かにやつは知恵があり言葉も話す魔獣だ。
スレイプニルだったら一度倒した経験がある。
どれ、始末しに行くとしよう。
……兄貴、やっぱ俺は冒険者だ。
この異世界で暗殺者になろうと思っていたが、魔獣に苦しめられている人がいるんだ。
冒険者として頑張ってみるよ。
メダリオスは一昼夜の戦いの末に、魔神獣ジー・クラインホースを討伐したのであった。
疲れた。
今夜は3つの月が妙に奇麗に見える。
おお、突然夜空が輝きだしたぞ、これは魔獣を討伐に成功をした神が祝福をしてくれているのかもしれない。
異世界での冒険者家業を始めるにあたって、さいさきがいい。
 




