第39話 動き出した者たち 剣の勇者 Ⅴ
「はあ、はあ、はあ」
「ハア、ハア、ハア、フウ」
2人は激しい戦いをくりひろげ息をきらしている。
すでに日も落ち夜になっている。
3つの月のあかりが戦う2人を照らしている。
「ねえ、そろそろ助けに来てくれないかしら、カルツウォーン、私はこんなにぼろぼろよ。
ねえ、カルツウォーン、あなたは見ているのでしょう。
聞いているわよね。
助けに、私を助けにきてよ、カルツウォーン」
ミハエルから悲痛な叫びとともに禍々しいオーラが漂い始める。
「翔、もっと、激しい攻撃をもっと私にして頂戴、そうでないとあの人は助けに来てくれないわ」
「おまえの望みはかなわない。
ソウル・ダクト・フュージョン。
ブレイド・オブ・コスモスよ。
星の導きに従い、われの力となれ、奥義スターダスト・ノヴァ」
剣から銀色の眩い衝撃破がはなたれた。
「ズキューーーーン」
「ドシューン」
「…… いいわ、いいわ、翔、それでこそ私が二番目に愛した人だわ」
「くそう、これでも致命傷にならないのか」
「そんな事はないわ、今のは最高にいい攻撃だったわ。
これだったらあの人は気づいてくれる」
「おちょくってんのか、おまえ」
「おちょくるだなんて、失礼だわ。
星野翔、先日まであんなに愛しあった中ではないですか?
今も私はあなたの事を愛しているのですよ。
私の愛のために、その輝く命を捧げてください。
そうすればあなたは永遠に私のものになります。
そしてあの方が私を迎えにきてくれる。
最高の夜にしましょう」
「最高の夜か、魔王、おまえを倒して地上で待つミハエルのもとに帰る。
それが俺の最高の夜だ」
「……バカな人、いまだに私がミカエルだと言う事を認めたくないのね。
でもいいわ、そんなあなたも最高よ。
さあ、私を天にかえしてください」
「やむを得ないな。
俺の能力を使わせてもらうぞ。
俺の中に流れる獣の血よ、目覚めよ。
魔獣変化・鬼人降臨」
翔の気が膨大に膨れ上がる。
膨大な気の中から姿が変わった翔が現れた。
頭に銀色の長い角を生やし、口には鬼のよな長い牙、肌は青色の鱗におおわれ、所々に銀色の長い狼のような毛に覆われている。
「ふしゅー」
「ああ、翔、血が獣臭いと思ったら、あなた魔核を食べていたのね」
「そうだ、この異世界に来て魔核が俺たちに力を与えてくれるとわかってきた。
俺は魔核を砕いて少しずつ体に取り込んでいたのだ。
取り込んだ魔核を利用して、体そのものを魔獣に変化できる。
俺は魔獣そのものに変化できる能力があるのだ。
さらにこのように複合体にも変化もできる」
「あなた、そんなことをしていたら、そのうち化け物になって戻れなくなるわよ。
魔物にある魔核はね、魔物の記憶が残っているの、魔核の記憶が人体の細胞に影響を与えそのうちに魔物になってしまうわ」
「そんなことは、この異世界で生きるために百も承知だ。
この異世界に来て、力がないと生きていけない事を否が応にも思い知らされたからな。
なにより魔王、この力があれば、おまえを消滅させられる。
俺は生きてミハエルの元へ帰るのだ。
どんな姿に変わろうともかまわない」
「私ってあなたにそれほど愛されていたのね」
「でもね私も愛している人がいるのよ。
あなただったらわかるでしょう。
愛している人の元へ帰りたいと、だからお願い私をあの人の元に返して……」
「ブレイド・オブ・コスモス、われに星の力を与えたまえ。
奥義スターライト・ノヴァ」
ブレイド・オブ・コスモスが銀色の巨大な光の剣にかわり、ミハエルを切り裂く。
切り裂く直前に、夜空が輝きだした。
「こ これは光分散攻撃どうして?」
「ズシューン」
「キャー」
ブレイド・オブ・コスモスの一撃がミハエルを切り裂いた。
「やったか、とどめだ」
翔がとどめを刺そうと2撃目の斬撃を切り裂くとした瞬間に、ミハエルは黒い光の球体に変わりだした。
翔は黒い球体を切り裂く。
「ギャー」
ミハエルの絶叫する声が聞こえた。
「終わりだな魔王、消滅しろ」
黒い光の球体は徐々に小さくなっていく。
その中から微かに声が聞こえる。
「どうして、どうして光分散攻撃が……
いや、私は消えたくない、カルツウォーンあなたに会えるまでは消えたくない。
カルツウォーン、私を助けて、カルツウォーン」
「ちい、しぶとい、星連七斬」
翔は無数の斬撃を黒い光の球体に繰り出した。
黒い光の球体は霧散し消えていった。
「やったのか、がは」
翔は膝をつき血をはきだした。
「くう、変身をとかないと」
翔は魔獣化を説いた。
「全身がいたい、胸が苦しい」
翔はそのまま倒れ込み気を失ってしまう。
…… …… ……
…… …… ……
…… …… ……
「翔、翔しっかりして……」
「ハスティ、俺はいったい、魔王はどうした」
「魔王はここにはいないわ。
翔あなたが魔王を倒したのね」
「ああ、とどめを刺したと思ったら倒れこんでしまった」
「そうだったのね」
「ハスティ、ベルフェゴールはどうした、おまえたちが倒したのか」
「善戦はしていたと思うけど、手加減してるのはわかっていたわ。
それで戦っている最中に、急に黒い光の球体に変わってしまって、それで消えてなくなってしまったのよ。
なんか消える間際、ベルフェゴールはイレーサーとかなんとかわけのわからないことを言っていたけど……
よくわからないわ。
とにかく消えてしまったのよ」
「そうか、そうだったのか」
「翔、あなたが魔王を倒したおかげでベルフェゴールと4魔将が消えてしまったのかもしれないわ」
「! ベルフェゴール以外にも4魔将も消えたのか」
「ええ、そうよ、冒険者の話だと同じように黒い光の球体になって消えたみたいなのよ」
「よう、やったじゃねえか翔、おまえが魔王を倒したんだってな。
屋上で一人で戦っていると聞いて、急いで来たんだ」
「ギルティ、おまえも無事だったか、しかしよくここの屋上へ来られたな」
「4魔将が消えたら見えなかった階段が現れたんだよ。
ただ、他の階層のモンスターがいるので今は冒険者連中全員で討伐中だ。
俺は気になって先に来てしまったが。
モンスターを倒し終えたら、みんなが来るぜ」
「なるほど、そういうことか」
「しかし、おまえがまさか一人で魔王と戦っていたとはな。
下の階でハスティが屋上へいけないと泣いていたよ。
しばらくして階段があらわれたのだがな」
「そ、そんなことはないよ、泣いていなんかいないんだからね」
「そうだったか。
しかし魔王を倒してしまうなんて恐れ入ったよ。
俺らの出番がなかったじゃないか」
「そうでもないさ、かなりの苦戦を強いられたからな」
「そうかい、さすが剣の勇者、もう剣聖と名乗ってもいいんじゃないか。
おまえは自分で名乗るのはおこがましいと気にしていたからな。
魔王を一人で倒したんじゃ、名乗ってもいいだろう」
「そうだな、これからは剣聖と名のることにしよう」
「それがいい。
しかしなんだ話が違うぞ。
搭は100階建てじゃなかったのか、ここへ来る途中に気色がわるい手足の生えた部屋があったからな。
手足どころじゃねえ、へんな石膏があったんでドン引きしてしまったよ。
あれって間違いなくあれだよな」
「ギルティ、それはここでは言わない方がいいぞ、ハスティがへんな顔をしている」
「あたり前でしょう。あんな気色の悪いものがあるのだから」
「それもそうだな。
魔王は間違いなく討伐できたんだよな」
「ああ、間違いなく消滅した」
「それじゃ勝どきをあげようぜ」
「駄目よ、みんなが来てからいっしょにあげるのだから。
あなたってバカね」
「ああ、そうだったな、わるい、つい浮かれちまったぜ。
冒険者一同ここへ集まるまでもう少し時間がかる。
腹が減っただろう。
ほいと、水と黒パンだ。
何もないよりはましだろう」
「ああ、たすかるよギルティ」
…… …… ……
…… …… ……
…… …… ……
しばらくしてから、冒険者仲間が集まり始めた。
「よー、翔、魔王を討伐したんだってな。
それもベルフェゴール以外に魔王がいたとは知らなかったぜ」
「ああ、やつは名前を名乗らなかった。
けど魔王だったのは確かだ。
強敵だったぜ」
「へー、それじゃ大魔王って事でいいんじゃねえか。
魔法ベルフェゴールを部下においていたやつだろう」
「大魔王か、私は討伐できればなんでもいいよ」
「これから平和になるんだろう」
「そりゃそうだな」
「おおい、負傷した者以外は、全員が集まったみたいだよ」
「それじゃ、勝どきをあげようぜ。
俺が音頭をとって良いか」
「ああ、まかせるぜ、ギルティ」
「ようし、みんな街にいるみんなに聞こえるようにでかい声をだぞうぜ。
大きな声を出しても、呻きこえじゃねえからいいだろう」
「そうだな」
「それじゃ、いくぜ」
「えいえい」
「オーオー」
「えいえい」
「オーオー」
天まで届く搭から喜びの勝どきがあがった。
…… …… ……
…… …… ……
…… …… ……
「翔さま、ミハエルさまが、居なくなりました」
地上へ降りた翔たちは騎士たちから訃報を聞く。
「どういうことだ」
「あなたの手助けをすると言って、私らは止めたのですが搭の中に入りそれっきり見当たりません」
「そんな、バカな事があるのか。
今回、負傷者は出たが冒険者は誰一人死んだ者がいないのだぞ。
探せ、探し出せ」
「わかりました」
ミハエル、おまえは本当に魔王だったのか、うそだ、うそだと言ってくれ……
天まで届く搭に潮が満ちる一カ月間、ミハエルを捜索したがみつからなかった。
…… …… ……
「翔、この国を出て行くって本当なの、国王さまは残ってくださいと懇願していたじゃないの、いくらミハエルさんがいなくなったってお世話になっていたんだから」
「ああ、出ていく。
おまえも知っているだろう。
いま世界中でおかしなことになっている。
北西にあるミスティリア大陸ではあの魔神獣ガイデアが死んだらしいとうわさがあるではないか。
それに世界各国で起こっている輝翼神の消失、俺たちが魔王を倒した時に、夜空が輝いてそれ以来消えてしまったと言う話だ」
「そうね。
世界中でおかしなことになっているみたいね」
「ああ、俺は調査のために世界中を回ってみようと思う。
久しぶりに元の仲間にも会いたいしな」
「もしかして元セブンクラウンのメンバーかな」
「そうだ」
「ええ、それじゃ私たち解散して元に戻ってしまうの」
「そんなことはしないよ。
情報を交換するだけさ。
おまえらはどうするんだ」
「私はセブンクラウンのメンバーの一人だもの、翔がいくところにはついて行くわ。
みんなもそうよね」
「ああ、俺もついて行くぜ」
「今度は世界中の旅か、面白くなってきそうだな」
「のんきなことを言って、世界中がおかしなことになっているのですよ」
「そうだな、それを調べるための旅だ。
今回は魔王討伐以上に危険な旅になるかもしれないぞ」
「いいじゃないの望むところよ」
「そうだな……
『輝翼神、カルツウォーン、俺はやつに会わなければならない。
会ってどうなるかわからんがなぜか殴りたい気分になる。
ただの嫉妬か、わかってはいるのだがな。
それにイレーサーなんの話だ』
「翔なにか言った」
「いや、何でもない。
5日後にこの国を出ようと思う。
親しかった人たちにあいさつはしとけよ」




