第38話 動き出した者たち 剣の勇者 Ⅳ
「皆さま方、ここが108階層になります。
この上の屋上に魔王さまがおられます」
「……」
「おや、どうなされました。
なにやら非常にお疲れのようで、どうなされたのでしょうか?」
「ハアハアハア、あんな気色の悪い物を見せられたら気持ちがわるうなるでしょうが」
「んー、 ポン」
「なるほど、気圧の関係で体調を崩されたのですね。
そうでした、美術館には気圧の調整をおこなっていませんでした。
コレクションに使っている保冷剤が優秀なので気にしていませんでしたよ。
少し休めば体がなれると思います。
ゆっくりと休憩をとってください」
「こんな石膏の首がある場所で休みたくはないわ。
どうせ過去の勇者の生首かなんかでしょ」
「そのとおりで御座います。
致し方ございませんね。
パチン」
「……」
「これで宜しいでしょうか。
コレクションは別の階層に移動しましたので問題はないでしょう。
ゆっくり休んでください」
「……」
「そうそう回復するまで、他の階層の戦いでもご覧になりますでしょうか」
「パチン」
何もなくなった部屋の四方に鏡のような映像が映し出される。
「ギルティ」
「みんな戦っているわ」
「なにあれ、上半身女性の巨大な蜘蛛の怪物、それに大型のラミアだわ」
「あれはハーピーかしら、それも大きい」
「もう一体はいろんな魔獣の混合体キマイラってやつね」
「どうやらあれが4魔将らしいな……」
「そのとおりです。
皆さまおわかりどおり善戦をしていますね。
いやー、みなさまがたお強い。
4魔将もうまく手加減をなされていますようですね」
「……」
「今日は一日、あの調子で戦いをおこないます。
そうそう、あなた方が心配していた、パーティーの配置も、私どもで上手く分散したのでご安心ください。
あなた方が戦いやすいよに平均して調整してあげていますからね」
「いたれりつくせりだな」
「もちろんです。
コレクションのためですから、こちらとしても妥協はしませんよ。
あの中で何人か良きものを持っていますからね。
非常に興味があります。
じゅるり。
おや、私としたことが、失礼しました」
「……」
…… …… ……
「俺は体が十分なれた、おまえらはどうだ」
「俺はOKだ」
「私たちも大丈夫よ」
「ベルフェゴール、屋上に案内してもらおうか」
「了解いたしました、こちらへどうぞ。
パチン」
ベルフェゴールが指を鳴らしたら角の隅に階段が現れた。
「どうぞお登りください」
「いくぞ、みんな」
「おっと、お待ちください」
「屋上にいけるのは、翔さまだけでお願いします」
「何だと」
「魔王さまはあなた様をご所望のようですからね。
パチン」
ベルフェゴールが出した階段と翔が消えた。どうやら転移させられたようだ。
「シュン」
「お気をつけていってらっしゃいませ」
「翔ーー」
「さてと皆さま方は、すでにおわかりだと思いますが私のお遊びに興じてもらいましょうかね。
フン、ブチブチブチブチ」
ベルフェゴールの服が弾けきれた。
体格がひとまわり大きくなる。
まるで巨鬼のような姿をあらわす。
「私たちもはじめましょうか、楽しまてください」
「くう、やるしかないか」
6人のセブンクラウンのメンバーとベルフェゴールの戦いが始まった。
…… …… ……
「シュン」
「くそうベルフェゴールのやつめ、みんなは…… いるわけがないか。
俺だけ飛ばされたのだからな。
ここが屋上か、肌寒いな、日の位置は、ここからはわからんか、しかし昼はとうに過ぎているだろう。
ん、人がいるまさかあれが魔王か?
違う、あれはミハエル、なぜだミハエルがここに?」
「翔、翔なの、どうしてあなたがここにいるの?」
「ミハエルおまえこそどうして」
「わからないわ、突然黒い空間が現れて、私を引き込んだと思ったらここにいたのよ」
「そうかそうだったのか、魔王の仕業か?」
ミハエルは翔のところへ駆け寄ってくる。
翔は魔王の罠ではないかと警戒しているのだが、駆け寄ってくるミハエルをみて一瞬頭から消えた。
駆け寄るミハエルを抱き寄せようとする。
「ズブリ」
「くぅぅ」
ミハエルの右手には短剣がいつのまにか握られ翔の腹部を刺した。
短剣で刺された翔は、苦痛にゆがめるが、ミハエルを右拳で殴りつける。
「シュン」
しかし、ミハエルは空間移動を使い後ろに下がった。
「お、おまえ、魔王だな姑息な手を使う。
ミハエルに化けやがって……
くそう、回復だ、回復魔法」
翔はすぐさま回復魔法をかけ刺された傷を回復する。
「ウフフフㇷ、ああ、なんて赤い血なの」
ミハエルは短剣についた翔の血を舐めまわしている。
「あら、翔、あなたの血って獣臭いわね。
テラ人てこんなに臭かったのね、知らなかったわ。
でも癖があるのもいいかもしれないわ」
「ガキン、バキン、ボキン、ガリガリ、ボリボリ、ガリガリ、ボリボリ」
ミハエルは血のついた短剣を歯で砕き食べてしまう。
「まあまあの味ね。翔、美味しかったわ
「翔だと、きやすく呼ぶな、ミハエルに化けた魔王め」
「あら、心外ね、翔、私はミハエルだわ。
あなたの愛しているソルト王国の第三王女のミハエルだわ、間違いなくてよ。
翔、私を触れてくださる。
触れあってみれば私とわかるわ。
あなたの愛しているミハエルですよ」
ミハエルは空間移動で翔の前に現れる。
両手を広げ翔を抱き寄せようとする。
「シュン」
「ズバン」
翔は帯剣していたブレイド・オブ・コスモスを居合抜きでミハエルを抜刀する。
ミハエルは腹部を切り裂かれる。
しかし、血もでず平然としている。
「ひどいわ翔、いきなり切りつけるなんて、出陣する前にあなたが選んでくれたこの制服がだいなしよ。
それともこういう野蛮なプレイがお好きなのかしら」
「バカなことを言うな、魔王め、先に切りつけてきたのはおまえじゃないか。
いい加減にミハエルの姿をするのはやめろ」
「あら、そうだったわね。
でもね私は魔王であることは確かだけど、ミハエルだと言う事も本当のことだわ」
「なんだと、おまえは本当にミハエルだと言うのか」
「ええそうよ、50階層に私を模した像を見なかったかしら、地上に落ちた六人の天神の一人、戦神乙女のミハエル。
魔王の中で嗚咽の堕天使ミハエルと呼ばれるけどそんなあざ名は嫌なので魔王はベルフェゴールに任せることにしたのよ。
だっていずれ私は天界に帰る予定ですからね。
あの方が迎え来てくれるのに私の経歴に魔王を入れるのは御免ですから。
さあ、翔、私と戦いましょう。
私とテラ人であるあなたが戦えばあの方は気づいて迎えに来てくれる。
敵であるテラ人と戦うのであったら私を救いに来てくれる。
ああ、待ち遠しいわ、カルツウォーン、私を迎えに来てくれる待ち遠しいですわ」
「テラ人? 何の話だ、それにカルツウォーンって誰の事だ」
「あら、あなたは自分で異世界人て言っていたけど、テラ人てことは知らないのかしら。
私たちの末裔には、天使と言わないで翼人と言う者たちがいるのとおなじように自分の立場を知らないだけなのね。
あなたにはプロテクトがないみたいですからね。
テラ人は特別な人間と言っておきますよ」
「特別な人間だと」
「そしてよく聞いてくださいました。
カルツウォーン、私が天界でいた時にお使えていた偉大な指導者、いずれは伴侶になると誓い愛しあった自慢の恋人です。
翔、偉大なあの方の名をあなたの胸に刻んでください」
ミカエルの体が黒い光に包まれ始める。
ミカエルの姿が変わりだす。
金髪の髪がストレートの濃い紫色にかわり、長い膝下まで伸びている。
服装は白いドレスと金色鎧があわさった戦装束に変わり、細長い赤い槍と真っ赤な丸い大きな盾を装備している。
六枚の黒い羽根を背に、羽ばたきはじめたのだ
闇に落ちたヴァルキリーの姿をしているのだ。
「これが、ミハエルだと」
「どう、驚いたかしら、奇麗でしょう。
本来は髪と羽の色は白紫色だったのだけど、汚染されてしまって色が変わってしまったわ。
でも他のナンバーズよりは良いかしら。
彼女ら大幅に見た目が変わってしまったようなのでね。
力の差がでたんでしょうね。
あの子たちはもう二度と天使には戻れないけど私は違う。
この姿だったら天界に戻ってもおかしくないわ。
翔、天界に戻れるように協力してくれないかしら。
私たち愛しあった恋人ですよね。
天界に帰れるように私と戦ってください」
ミカエルのまわりに複数の魔法陣が現れる。
魔法陣から黒い稲妻が翔に向かって放たれた。
「ズーン、ジュバーンバーン」
翔はすんでのところで攻撃をかわし、反撃の斬撃を飛ばす。
「シュン」
「ミラー・シールド」
ミカエルは盾に防御シールドを付加し翔の斬撃を受ける。
盾には波紋が広がるように斬撃を霧散させた。
「ウフフㇷ、さすがは翔、剣の勇者と呼ばれることはあるわ。
わたしも戦乙女としてそれなりに戦闘を経験してきたけど、あなたのようにうまくは反撃はできないでしょう。
戦闘技術はあなたの方が上かもしれない。
でもそれがいいわ。
私と永く戦ってくれれば、天界で巨大なエネルギーのぶつかりを感じ、あの方は見てくれる。
テラ人と戦っている私の事を助けに来てくれる。
だから翔、私に私にもっと強い攻撃をしてください。
私が二番目に愛したいとしい人、翔、愛していますわ。
私を救ってください」
「ずいぶんと、おしゃべりなやつだな。
俺は大人しく、静かに後ろをついて来てくれるミハエルが好きだったんだ。
おまえはミハエルじゃない。
魔王よ、ミハエルの姿で俺を惑わせるな。
輝け、ブレイド・オブ・コスモスよ。
スターダスト・バレット」
翔の剣から流星のつぶてがミハエルに襲い掛かる。
「ガン、ガン、ガン、ガン、ガン、ガン、ガン、ガン」
ミハエルは盾で受け止めた。
「そんな、眼くらましでは私に、傷一つ負わせられなくてよ、翔」
「天翔ける天の雷、『流星雷斬』」
翔はミカエルの後ろに飛翔し、巨大な雷をオーラでまとった剣で切り裂いた。
「斬」
ミカエルの黒い羽が一羽、切り裂かれ床に落ちる。
「さすがは翔、やるわね、これならどう」
切り裂かれ床に落ちた羽は霧散しばらけた。
黒い羽根が舞う。
「シュン、シュン、シュン、シュン」
ばらけ舞い上がった黒い羽根が翔をおそう。
「はあー、オーラー・ボンバー」
翔は襲いかかってくる羽を全身の気を放出してはじき返した。
弾かれた羽は、気の力で燃え上がり消滅した。
「あらあら、私の一羽が消滅してしまったわ。
こんなことはじめて、さすがテラ人ていうところね」
「……御託は良い、魔王おまえの本体ごと消滅させてやるよ。
はー、流気解放」
翔はおさえていた本来の持っている力を開放した。
「す、すごいこれほどのエネルギーを持っていたなんて信じられない。
これであの方は気づいてくれるは、ああすてき本当に翔あなたは素敵な人よ。
愛しているわ翔、私が今までに二番目に好きになった人だけはあるわ」
「黙れ、魔王め」
翔と魔王ミハエルはすさまじいぶつかりを繰り広げる。




