第37話 動き出した者たち 剣の勇者 Ⅲ
「みんな、準備はできているだろうな」
「ああ、もちろんOKだぜ」
「入るぞ、俺たちセブンクラウンが先陣をきる」
「オオー」
冒険者323人、20組のパーティーは天まで届く搭の階層をクリアをするために入って行った。
「シューン」
翔たちセブンクラウンの7人のパーティーメンバーは転移する。
「ここがフロアボスの間か、みんな油断するなよ」
「?
ボスはどこにいるんだ」
「ようこそ、おいでになりました。
星野翔様ですね。
主からお聴きになられていますよ」
「! 誰だ、おまえは」
「私ですか、これは失礼しました。
私の名はベルフェゴールと申します。
この搭の管理と運営を任されている者です」
目の前に現れたベルフェゴールと名乗る悪魔の女性は深々とお辞儀をした。
ベルフェゴール、見た目、貴族に使えるような、黒い執事服を着ている大柄の女性の悪魔だ。
身長2メートル50センチと体格の良い、ボディービルダーのような筋肉が盛り上がっていて執事の服がはち切れんばかりに見える。
人間の年齢で言えば30歳前後の顔つき、しかし顔は体格とあわず小さく小柄な顔で赤い長い髪、赤い瞳、形の整った美しい顔立ちをしている。
背中には4枚の黒い鷲の羽を生やししている。
顔と体格がアンバランスな感じが際立ってみえる。
見方によれば天使が悪魔になりかけている様子にも見えるのだ。
中途半端に悪魔化をしたと言う感じがぬぐえない。
「ベルフェゴールそれって魔王じゃないの、なんでいきなり会うのよ、話が違うじゃないの、翔」
「ああ、そのようだな。
俺たちはまんまとこいつに騙されたのかもしれない」
「騙すなんて失礼なことはしておりません。
それに私は、この搭の管理者です。
魔王ではありません」
「魔王ではないだと」
「はい、魔王様は別におられます。
まあ、世間一般的には魔王と私がなっておりますが本来は違うとだけ申し上げておきます」
「それはどういう意味よ」
「こちらとしてもいろいろ事情がおありなんですよ。
余りお気にしないでください」
「で、敵であるのは間違いないな」
「敵であることに間違いはありません。
ですが、星野翔様、私があなたを相手にするとは主からきつくと止められております」
「止められているだと」
「はい、今から主さまにお引き合わせしますので、私について来てください」
「……信じられんな。
どのみちベルフェゴールと聞いては倒さなくてはいけない。
ここでおまえを討伐させてもらおう」
「血気盛んな若者と聞いておりましたがここまでとは……
私はあなたのようなかたは大好きですよ」
「別におまえには好きになってもらう必要はない。
勝負だ、覚悟しろベルフェゴール」
「……困りましたね。
それではどうでしょう。
資料では搭の頂上で私と戦う事になっております。
そちらに移動をしてもらえませんでしょうか。
これは、私らが資料でだしたルール内のことで、ここへ来るまではあなたちは受け入れてもらえたはずなのですが、お受けしてもらえませんでしょうかね」
「さっきから資料がどうとかこうとか言ってやがるが、まるでおまえらが情報を流したような言い方ではないか」
「ええ、その通りですよ。
私らがあなたたちをおびき寄せるために、わざと流したのですから間違いは御座いません」
「なんだと」
「30年毎に嘆きの搭でつわものと戦う余興、さすがに搭の中も30年たてば模様替えとかして変わってしまっているのですよ。
あなたたちにはわかりやすくたどりついてもらうために、私が用意したのです」
「やはり罠か」
「罠では御座いませんよ。生贄と言った方がいいでしょうか」
「生贄だと」
「はい、私たちは人間よりも長くいきております。
退屈をしているのですよ。
ですから資料にあったように搭の門をあけ戦いに興じる。
君らが言っていますよに遊びなんですよ」
「遊びかおまえららしい考え方だな」
「私たちは万全な状態のあなたたちと戦いをしたいだけなのです。
疲弊し傷ついた状態で戦っても面白くはありませんからね」
「なるほどな。
おまえらのお遊びにもルールってやつがあるのか。
そういう話だったら搭の頂上で戦ってやるよ。
案内しろ、おまえと、おまえの主とやらも俺がついでに葬ってやるよ」
「良い心構えですね。
ぜひ私を討伐できることを心より願っております。
付いて来てください。
嘆きの搭の108階の頂上へご案内します」
「108階ですって、話が全然違うじゃないの、翔、あなたはそれでいいの?」
「ハスティ、どのみち俺たちは戦うしかないんだ。
すでにこいつらのわなにはまっているんだ。
こいつらを倒して生還するしかないのだ」
「そんな、翔」
「さすが翔さま、良くおわかりで御座います。
ご案内します。
ついて来てください」
「行くの、翔」
「ああ、おまえたちは気になるのだったら、ここで待っていてもいい。
こいつらは俺一人で倒すからな」
「行きましょうハスティ、私たちゼブンクラウンのパーティーですからね。
リーダー1人で戦わせる訳にはいかないわ」
「ああ、そうだ、翔1人に戦わせることなどできん、俺もいくぜ」
「そうね、そうしましょう。
死ぬも生きるも、今まで翔といっしょだったのですから。
セブンクラウンは翔ともにあります」
「みんな、ついて来てくれてありがとう」
「……話はまとまったようですね。
どうぞこちらへ、ついて来てください」
ベルフェゴールの後ろをついて、翔とセブンクラウンのパーティーメンバーは階層を登って行く。
ベルフェゴールの後をついて登って行った101の階層は、奇妙な展示物をした階層だった。
「なにこれ、石膏でできた足が壁や柱から生えている?」
「ああ、言い忘れましたが、101層から108層までは私らの美術館になっています」
「美術館ですって!」
「ええ、この階層は、私たちに戦いを挑んで来た勇気ある者たちの足を展示しております。
過去300年間にいたって集めてきた、強き者たちの足のコレクションなのです」
「コレクションですって」
「そうです。
それも男性限定となって私たちが趣味で集めているものです。
どうです見てください。
この立派な筋力のついた足を、私たちを殺すために鍛え抜かれたものなのですよ。
素晴らしいと言うしかないでしょう」
「素晴らしいって、それって白いただの石膏でできた硬い石像じゃないの、そんなの見ても誰も素晴らしいと思う訳ないでしょ」
「! あ、そうでしたか?
……どうやら人間にはただの白い石膏に見えるのですね。
これは知りませんでした。
私たちの世界では古い過去から使われている、永久保冷剤を使用しています。
どうやら人間は白く見えるようですね。
それは困りましたね。
せっかくのコレクションがわからないとは、展示方法を変えるしかないでしょうか?
うーん、どうしましょう」
「ちょっと、あなたこんな気色の悪い部屋で立ち止まらないでよ。
足だけある部屋だけでもおかしいでしょうが」
「そうだったのですか。
非常に残念です。
展示しているコレクションは、私たちには、肌の色筋肉の盛り上がり、赤い太い血管や筋がはっきり見えますよ。
動脈をとおり二酸化炭素を多く含まれ汚れた青い血までくっきりとね。
この素晴らしいものがただの白い石膏に見えるとは非常に残念になりません。
新たに人間にも奇麗に見える保冷剤を開発しなくてはいけないでしょうか?
しかし何万年も使っていた技術を変えるなど悩みどころですね」
「何万年だと、おまえらそんな事を前からやっていたのか。
いやそんなことはどうでもいい、早く頂上まで案内しろ」
「せっかちですね、そう急がないでくださいよ」
「戦いが始まっても長い時間を、私たちは過ごすのですからそんなことでは精神がもちませんよ」
「長い時だと」
「そうです。
戦いが始まってすぐに終わってしまうのではつまらないでしょう。
今まで平均して3日間くらい戦いますか、それでも短いくらいですよ。
下の階ではすでに戦っています。
安心して下さい。
一日目は手加減をします。
いかにも勝てそうと錯覚を描くよう演技をしますので。
でも中には演技が下手な仲間がいるのですよ。
事故で間違って殺してしまうかもしれません。
徐々に力をみせつけ、恐怖を与え続けるのですよ。
私たちはあなたたちをただ殺すのではない。
あなたたちから恐怖の糧をもらいます。
そんなに早くは決着はつけませんよ。
それに傷ついてしまったらコレクションになりませんからね。
だいじに大切に慎重を持って戦わせてもらいます。
もちろん死にかけてしまったらこっそりと回復をしてあげますから、ご安心ください」
「ずいぶん舐めた事を言っている。
後悔するなよ」
「後悔するなど、今までそんな方はいませんでしたね。
ぜひ、お願いしたいくらいですよ」
「……」
「ああ、そうそう言い忘れてしまいましたが、女性の方は別です。
すぐには殺しませんが跡形もなく奇麗に粉砕し塵となって土に還ってもらいますからご安心を、私は大地にとても優しいのです」
「この悪魔が……」
「はい、私は悪魔です。
うふふふㇷ……」
上階の階層へ昇って行く、105の階層へ昇り始めた時にベルフェゴールの様子がおかしく見えた、何やら興奮しているようだ。
「どうぞこちらへ、ここは私たちの集めたコレクションの中で最高のものを用意しています。
どうぞご覧ください」
部屋に入ったゼブンクラウンのメンバーはあぜんとする。
そこには腰から切り取られた男性の性器が展示されていたのだ。
「な なんなんなのここは、せ 石膏でできているといっても間違いなくあれですよね」
「ええ、どうみてもあれですわね」
「あの悪魔の目には、生のあれを見えているのだよな」
「様子をみて見ればわかるだろう。
息をきらして気色悪くもだえているぞ」
ベルフェゴールがもだえている姿をみて茫然としている。
「ハアハアハア、これは失礼しました。
私としたことが取り乱してしまったようですね」
「取り乱したじゃないわよ。
なんでこんな物まで展示しているのよ頭がおかしいんじゃないの」
「それは失礼なことですよ。
生命の営む大切な器官です。
これほど貴重で素晴らしいものはないではないですか。
それに、こうしてしごいて見ればなんと立ち上がるのですよ。
なんと素晴らしいものでしょうかね」
「ちょっと、私たちにそんなものを見せないでよ、いくら石膏に見えたって、わかるものはわかるんですからね」
「そう、興奮しないでくださいよ。
あなたもこの素晴らしさわかっているのではないですか。
見てくださいこの小さな生殖器、これは120年前戦った聖なる賢者アンドリウス・アルベルトのものですよ。
大陸で英雄になり歴史にも残っている大賢者です。
それにこちらは90年前戦った鋼の勇者剛腕のアルカバネ、彼は人間離れをした力をわれわれに披露し苦しませました。
ああ、あの時の事は昨日の事のように思いだします。
しかしなんですね。
勇者、英雄のあれってサイズが普通の人より小さいのですよ。
皮もかぶっています、それに気になるのがどちらも曲がっているのですよ。
なにか英雄になるのに条件があるのでしょうか?
同じようなものばかりなんですよね。
あなた方は知りませんかね。
知っていましたら教えていただきたいですね」
「そ そんなこと私が知っているわけないじゃないのよ」
「こんな破廉恥なところをすぐでましょう」
「翔、はやく上に登りましょう」
「ああ」
「! 登るなんてそんな無体な事を、私疼いてきましたわ。
そこの逞しい殿方、私と部屋の隅で休みませんか?」
「お お俺の事か」
「ええ、そうです。
私の透視化能力で視ていますと、ここの作品の中でも群をぬいて良きものを持っています。
ぜひ、ともコレクションにくわえたいですね。
あなた専用に中央に台座を作って飾りましょうか。
非常に楽しみで仕方がありません。
ハアハアハア」
「い 異常だ狂ってやがる」
「ああ、俺も同感だ。
悪魔って言うのも納得できる。
見た目は人間に近いがまったく別の生き物だ」
人間の中でも悪魔とか言われる奴がいるが、本物の悪魔を目のあたりにすれはそんなのまがい者としか思えない。
違う、あきらかにちがうのだ。
近くにいるだけで、心の奥底から恐怖をわいてくる。
その感情も、こいつは今も食べているのだろう。
人間の負の感情を食べて生きているのだ、すべて闇の感情を受け入れて知っているのかもしれない。
それを平然と受け入れいきているのだ。
俺たちはそんなこいつらを相手に戦わなければならない。
セブンクラウンのメンバーはそのことに気づき、恐怖を感じるのだった。




