第34話 動きだした者たち エンジェル解放宣戦
(とある宇宙船の中で)
「主真、そろそろアストロイドベルトを抜けますよ。
ここの広域さえ抜けてしまえば、目的地が見えてきます」
「そうか、愛、惑星の名は確か、ファーズリードだったか……
何でもいいや、手っ取りばやくかたずけて、今後の憂いを取り除いておこう」
「そうですね、早めに終わらせてしまいましょう」
「ああ、そうだ、奴らは害があるだけあって、生かしておく価値はない」
…… …… ……
最果ての宇宙の一郭で、300級重砲撃宇宙戦艦プロミネンス・ノヴァを乗り2人の若者が惑星ファーズリードにむかって航行している。
目的はこの宙域に天使どもの軍勢がいると聞いて、かけつけてきたのだ。
彼らはレジスタンス、エンジェル解放宣戦のリーダーである西斗主真と副リーダーである来栖瓦愛の2人だ。
※ 西斗主真(男性)
レジスタンスのエンジェル解放宣戦のリーダー。
見た目18歳前後のどこにでもいる普通の青年に見える。
茶色い髪、黒い眼、背丈は175センチと特徴がない日本人の若者姿をしている。
服装は濃い緑色のレザーの戦闘装束、まるでアニメの主人公が着るコスプレ衣装の容姿をしてみえる。
※ 来栖瓦愛(女性)
主真の相棒であるエンジェル解放宣戦の副リーダー。
見た目16歳前後の女子高生のような少女に見える。
赤い奇麗な髪をショートカットにしている。
大きな赤い海賊のような帽子をかぶり、赤い眼、左目にはスカウターのような機械を埋め込んでいて時たま赤く光る様子が見える。
背丈は160センチの小柄で華奢な少女に見える。
服装は赤のレザーの戦闘装束、主真と同じような服装をしている。
エンジェル解放宣戦の色違いの戦闘服を着用をしているのだ。
見た目は2人とも若者だが、彼らはすでに100万年以上生きている。
超化学文明に辿り着いたテラ人は自らをデータ化して複製できる技術を持っている。
彼らはサイバー空間と現実の世界へ行ききしながら、長い時を過ごし、肉体を新たに変えながら生きている。
天使がテラ人に対しておこなった侵略戦争から100万年以上年たつが、彼らの戦争はまだ終わっていない。
レジスタンスの一員となり、戦いを続けている。
戦争は終結し平和宣言も出されているのに天使と未だに100万年以上戦っている2人なのだ。
先日、他の宙域で天使との大規模戦争をおこし勝利した。
1万人のエンジェル解放宣戦と680億人の天使たち一つの宇宙を相手にして全天使を殲滅したのである。
一宇宙を天使から開放した。
天使どもを攻略中に、知り得た情報で、他の惑星に10万の天使軍勢を率いて侵略をしていると聞きき、急遽こちらに派兵してきたのだ。
たったの2人で10万の天使軍を相手にすると言うのは無謀な考えであるが、彼らの能力と最新の科学技術だったら容易く天使を殲滅できる。
戦時中に開発され、テラ人に勝利をもたらした光分散攻撃兵器を持っている。
1万のテロリスト集団で1宇宙を滅ぼせる、エンジェル解放宣戦のナンバー1と2なのだ。
戦争に勝利したのは良いが後始末がそれなりにあるので、他のメンバーに任せ2人でこちらの宙域にきた。
彼らエンジェル解放宣戦はどの次元どの宇宙でも横暴な天使の侵略に対する原住民の解放と天使の殲滅を目的としている。
手段を選ばない超強硬派のテロリスト集団だ。
「そのとおりですね。生かしている理由はありません。
それで奴らは今のところ、大規模に侵略を開始している星はファーズリードとのデータがありました。
他の惑星も現地調査段階で目をつけられていたカ所がありますが、侵攻するまでいたっておりません。
この星を開放するのが優先でしょう」
「そうだな、しかしよりによってファーズリードとはな……」
「主真、あなたはこの惑星を知っているのですか?
確か天使がわれわれを攻めて来た時に、放棄した惑星の一つとデータにありましたね」
「ああ、当時、新しく発見された惑星で、俺は鉱物採掘目的に行った事がある。
愛には話さなかったかな」
「聞いてませんね」
「そうか、n-n 、愛は確かあの時、聖機械惑星テスタラントで大規模な中古オークションをやっているとかいってしばらくいなかったのではないかな。
確か久しぶりに、外へ出て生身の体を用意したのではないか。
いつもサイバー空間の取引で買い物は済ませるはずが、珍しく外へ出て行っただろう」
「そんな事がありましたね。
確か私が愛用していた爆裂丸のチューニングのために行って来たんですよ。
あの時はすごかったですよ。
オークションのために2年間も参加していましたからね。
そのために爆裂丸は最高の進化をとげたのです。
ですが今は手元になく、戦艦プロミネンス・ノヴァの主砲になっております。
手元に置いてないのは残念んですよ」
「ちょっとまてー、いつもおまえが携帯してた、小型のバスターライフルなんであれがこの船の主砲になっているんだよ、おかしいだろうが……」
「そうですか、なにか問題でも」
「問題はありすぎだ、小惑星を吹っ飛ばせる主砲だぞ。
そんなの持ち歩いていたのか、あぶねえったらありゃしねえぞ」
「リミッターが付いているのと、コアジェネレータに大きな差がありますからね。
前の状態でもリミッターをはずせば街を灰にできますよ」
「おまえ、あぶねえもん持ち歩いていたんだな」
「銃マニアでしたらそんなことは当然の事ですよ。
星団法に違反しないようぎりぎりの線まで威力を上げますからね。
それでも出来る事は一般人のレベルのことですよ。
戦艦に取りつけられるほどのコアジェネレータは軍隊以外はありませんから」
「そういえばおまえ、昔につてがあって、私設軍隊のお下がりの駆動騎士のコアジェネレータを買うとかいっていたじゃないか、もしかして爆裂丸にとりつけてあるのか」
「ああ、あれですね。
横流ししていたブローカーが監査に入られ捕まったのですよ。
あの時は買わなくて良かったですよ
私も捕まっていたかもしれませんからね。
今とりついているのは、正規の戦艦の大砲のものですから、威力は桁違いに上ですよ。
さすがに駆動騎士のコアジュネレータでは大砲の役割ははたせませんからね」
「そうだったんだ、まえから思っていたけど、おまえって危ないやつだったんだな」
「そうですかね、主真ほどではありませんよ」
「……」
「なるほど、何度か行った事があるので知っていたのも当然ですか、それでファーズリードの航路がデータに残っていたんですね」
「ああ、最果ての辺鄙な場所にあるからな」
「まさかブラックホールに吞まれている宇宙にあるとは思いませんよ」
「そうだな、吞まれ始めたのは30万年まえくらいじゃなかったのかな」
「データにはそのような記述が残っていますね」
「俺が行った時はまだブラックホールの領域には入っていなかったんだよ。
目の前にでかいのが見えていただけでね。
計算では100万年は大丈夫な話だったからな、現状でその時が経ってしまっただけのことだよ」
「そうでしたか」
「メビウス機関の調査では30万年前から100年単位で更新されていたよ。
民間の調査団体はわからんけどな」
「確かにそのような記録がありますね。
メビウス機関の統治区域には入っておりませんね」
「ああ、こんな最果ての辺鄙なそれも物騒なところに来るとは誰も思わんよ。
でも近くでブラックホールが見られるとなれば、観光で賑わいをみせていたのかもしれないな、100万年前だったらの話だが」
「なるほど、それで一発当てようとしたのですか」
「アハハッハハッ、正解だよ、愛そのとおりだ。
100万年前、天使の大規模な侵攻があったせいですべての事業が頓挫してしまった。
最果ての辺鄙な場所にある惑星だ、天使どもとの戦争が終わっても誰も開拓する者がいなかったのだろう。
それよりも復興の事業の方が優先だったから、混乱もしていたか。
ある意味、人知れず放置された悲しい惑星と言っていいだろう。
水が多くあり住みやすそうな星なんだぜ一応はな」
「へー、そうなんですか」
「奴らが攻めてこなければ、俺もあの星に移住していたかもしれないな」
「そうだったのですね、星団法では10万年以上、存続できないと廃棄される事になっていますからね。
今は5万年内ですから、その領域にはいっていますね」
「愛、廃棄とは心外な事を言うな、俺だったらあと10万年は住める星なんだぜ」
「それは、サイバー強化した肉体があればの事でしょう。
生身の体でしたら整備して7万年、住めればいいところですよ。
計算ではファーズリードはあと5万年までしか生物が住めないとありますからね」
「それでファーズリードと言う今の名前が付いているのか、絶望に満ちた惑星だろう。
ずいぶんと物騒な名前を付けたらしいな、それもここ最近て感じだな、今まで名前もなかったはずだ。
ラインで調べると無法開拓者がひそかに付けたみたいですね。
名前は載っていませんね。
メビウス機関が放置した惑星です。
好き勝手にやっているのでしょう。
ある意味私たちのような者がいる星ですよ」
「そりゃそうだな、もっと早く知っていれば俺たちの拠点にしても良かったかもな」
「そうですね。
私たちがここへ居たならば天使の侵略を止められたでしょうね」
「そうだな、現在は天使どもが侵略し異世界人が来訪している。
無法状態の惑星だ。
それを感じてテラ人はファーズリードと名前をつけたのかもしれないな」
「そんな名前の星を聞いたのは始めてだったので驚きましたよ。
戦争がなければ良い名前がついていたかもしれませんね」
「そうだな、発見された当時は俺もこの惑星の名前を応募したことがあったんだ。
当時、応募するだけで移住権は9割カットされると言う話だったからな、でもからくりがあってな、この星に来て応募することになっている」
「それは詐欺ですね。
ここまで来るのにどれだけの時間とお金がかかるのですか」
「だろう。おれは鉱物採取の仕事で来ていたからいけたんだよ。
それにあいつの知り合いが、上級国民だったか、そのつてがあってな」
「あいつ、亞里亞のことでしょうか……」
「……まあそういうことだ」
「主真あなたはまだ亞里亞の記憶がはっきり残っているんですね」
「その話はいいだろう。俺は特殊な能力持ちだ。
記憶を改変、消去してもすぐに復元してしまう。
おまえも知っているだろう」
「そうでしたね」
「あのころはさ、星に住めるなんて夢にも思いも寄らなかった。
さすがに俺も星に住めるほどのお金は貯めてはいなかったし、それでさ星に住めるかもしれないって飛びついて応募したよ。
それに先行の選定で100名には候補の名前があがるだけで100年間の永住権はただ。
星の命名者になれば一生永住権はただでそれに1億ルビー、進呈と話だったからな」
「へー そんな事があったのでしたか、私にも言ってほしかったですよ」
「確か俺は言ったはずだけど、そうだあの時はおまえお金がないとか言って俺にラインで借りに来たじゃないか、どうせ爆裂丸のチューニング代だろう」
「そ そうでしたかね。
ちなみに応募した名前は何だったのですか?」
「確か…… …… …… 忘れてしまったな」
「ほんとうですか、主真の事ですから、よほど奇天烈な名前を付けたのかも知れませんね。
もしかしたら卑猥な名前をわざとつけて応募したのかもしれません。
どうせ応募しただけで、選定されるとは思ってはいなかったのでしょう」
「ち ちげーよ、そ そんな事は俺はしねーし、絶対に、絶対にな……」
「そうですか、あとでデータを探ってみましょう」
「はん、100万年以上前だそんな小さなデータが、残っているはずがない」
「そうでもないですよ。
生身に戻る時に主真の今の記憶データーをちょっと拝見すればわかりますからね」
「……ごめんなさい。
確かに変な名前で応募しました。
見ないでください。
……
と言うか俺の記憶データを除くのは星団法違反じゃないか」
「別にデータを見るのは違反じゃないですよ。
データの複製または流す行為は重罪ですけどね」
「グヌヌ」
「ここには2人で来ているのですから、生身の体に移行する時には、私が操作しなければなりません。
自然とみてしまう事になるのですよ」
「確かにそうだが、愛にも同じ事が言えるよな。
それじゃ俺がばっちりおまえの恥ずかしいデータも拝見させてもらおうとするかな」
「ああ、それはできないので、ご愁傷様」
「どうしてだよ」
「この船、プロミネンス・ノヴァは私の船ですよ。
主真がメインシステムを扱えるわけじゃないですか。
あなたの旗艦スターゲイザーならともかくここは私の船ですからね。
天使どものあと始末があるので、スターゲイザーがなくては仕事にならないと言って置いて来たのではないですか。
私の船に主真の生態データを移行したんですからね。
それに私は天使の始末を終わってから、エンジェル解放宣戦に合流して生身の肉体にもどればいいだけですから、主真に操作してもらわなくて良いのですよ」
「それは俺も同じだろう」
「ちがいますよ、主真さん。
普段生身でいるあなたが今の戦闘用のサイバーメタルスーツで我慢できるのですか?
天使の殲滅を早く終わりにしたいって言う理由はその事もあるのではないですかね。
そうでなければ2人きりでこんなに早くファーズリードに来るはずはないでしょう。
それに、いつもしない貧乏ゆすりなどしているなんて。
サイバーメタルスーツで貧乏ゆすりしている人なんてはじめてみましたよ。
よっぽど生身の体が恋しいのですのね」
「ぐぬぬ、否定はしない……」
「そううそう、素直が一番ですよ。
! どうやら見えてきましたようですね」
「ああ、そうだな、ブラックホールに吞まれている星など間近で見られるものではないな」
「確かに、本当に壮大さと、恐怖を感じますよ」
「愛、まずは偵察ドーローンをだせ。
この星の現状を調べ次第、やつら天使どもを殲滅させる」
「了解です、主真」
…… …… ……
亞里亞、おまえも確かこの星に名前をつけていたな、テラ人の母星である地球に似ているこの星を。
そういえば、おまえはなんて名前をつけたのか教えてくれなかった。
その前にあっちに行ってしまったからな。
確か水にちなんだ名前がいいとかなんとか言っていたような……
まったく、おまえはここで一発当てて事業を始めるとか言っていたけどそれも叶わなかった。
それも今は悲しいが、ファーズリードと言われる最悪の名の星だぞ。
せめて俺が天使どもを殲滅して、少しでも奇麗な星にしてやろう。
それが今、俺がおまえに出来る唯一の事だからな……




