第3話 化け物
「化け物」
アルテイシア姫がそう呟いた瞬間に、まわりで護衛で見守っていた女性騎士3人が魔物の前に立ちふさがる。
「姫、早くお下がりを、ここはいつもどおり私たちにお任せください。
残念な事に、竜召喚は失敗です。
ルーティーン、姫を連れ、ここから立ち去れ。早く、早くしろ」
「クリスティーナ近衛隊長、了解いたしました」
「近衛隊長、竜召喚は失敗しました。姫さまはわれわれでお守りします。あとの事はお任せします」
アルテイシア姫とともに召喚の議をおこなっていた者たちは、この召喚の間から去って行った。
「化け物、私たちが相手だかかってこい」
3人の女性騎士だけ残し、化け物と対峙する。
「なんか化け物っていきなり言われて、ショックなんですけど私。
それよりも騎士のお嬢さん方、ここからすぐに離れたほうが良いと思うんですけどね。
なにやらここへ、不穏な気配を持った者達が近づいて来るのでね」
魔物から不明な言葉を聞かされる。呪文を唱えたのだろうか?
そのあと魔物から魔法のようなものが発生した。
突然、透明な光がはっせられ、防御膜のようなものが女性騎士達とともに幾重にも包みこむ。
それから青緑色の半ドーム状の幕が辺り一面に発生し包んだ。
青緑色の半ドーム状の幕に包まれた時に、上空から黒く降り注ぐ光の波が押し寄せてきた。
(魔族側、少し時間を戻って)
「! なんだ、この気配は、シリアスバイセン。
これはどういうことだ魔物が召喚されてしまっているぞ」
「カタフロスト様、私も何が起こったのか、わかりません」
シリアスバイセンは特殊能力、邪眼を使い、召喚の間にいる魔物を見てみる。
「こ、これはローパーと言う魔物ではなっかったですか?
この地にも生息しています魔物ですね。
異様な気配を漂わせていますが、どうってことのないただの魔物でしょう。
確か私の記憶によりますと、見た目は醜いですがそれほど凶暴な魔物ではなかったはず。
雑食で何でも食べ、腹が減ると行動すると言う知恵のない魔物ですね。
腹が減った時には凶暴になりますが、それ以外は特に問題はありません。
敵意がないのであれば、近くに居ても襲ってはこないかわいい魔物ですよ。
確か魔核があり、人間が良く狩りと称して、魔核を奪いに行く事があるようですね。
わが軍でもオーガがローパーの肉を好んで食べているのを見ました。それほど害はない魔物です」
カタフロストは拳を握り、わなわな震えている。
「バカめ、シリアスバイセン。そんな生易しい魔物ではないぞ、直ちにあの魔物を攻撃する。
おまえたち、われに続け、急ぐのだ。
あの魔物を消滅させる。例えこの国が滅んだとしてもだ」
カタフロストはすぐさま魔族を引き連れ、召喚された魔物に向かう。
「くう、やはり、ブラッディ・アイズだな、なんて事だ。
あの化け物の配下の者か、それも幹部クラスと言っていい」
カタフロストは先ほどより拳を強く握りしめ、歯を食いしばり、魔物を見ている。
「幸いか、ジュブ・ニクラウスでなかっただけが救いなのか。
しかし、なんだあの魔物から感じられる力は、異常だろう。
あの伝説の竜を凌いでいるのではないのか?」
「カタフロスト様、あれはいったい」
シリアスバイセンは魔物に近づくにつれ、ブルブルと体が震えだしている。
他の魔族も同じような感じで飛翔している。
「おまえにも感じるか、やつは力を限りなく抑えているよな。
それでこれほどの力を感じるのだ。化け物と言うしかない。
さすがに、あちらの世界で化け物が飼っている化け物と言ったところか」
「化け物が飼っている化け物ですか。
意味は良くわかりませんが、カタフロスト様、なぜだかわかりませんが、体の言う事が利きません」
「ああ、我らに対する何らかの特殊能力が発動されているな。
テラ人が施した贖罪か。
バッシブスキルと言う形でわれわれに影響がでているのだろう。
間違いなくテラ人が作った惑星戦略生物兵器だ。
しかし、あの化け物は天使に対しての殲滅兵器ではない。恐れるに足らん」
「カタフロスト様、撤退を進言したいと思います」
「なにをバカな事を言っている。シリアスバイセン、われらは魔族だぞ。
恐れるものなどなにもないのだ、しっかりしろ、やつを攻撃するぞ」
「しかしながら、この心の奥底から沸く恐怖はなんでしょうか。
魔族である私が恐怖などと言う感情はありましたか? 疑問に思います」
「ええん、使えんやつだな、皆の者、あの魔物に対し攻撃を仕掛ける。
闇の波動を放て、一点集中の攻撃をするのだ。
この国など消し飛ばすくらいに、力を籠めよ」
魔族たちは魔力を籠め始める。
飛翔している魔族たちのまわりには、異様な闇の空間のようなものができはじめる。
「今だ放て、あの魔物を仕留めるのだ」
魔物に対し一斉射撃をする。
黒い渦が巻いたような波動破がそれぞれの魔族から放たれた。
「ジューバーン、ドゴゴゴゴーン」
異様な爆発音とともに周りに黒い光が飛び散った。
「どうだやったか、? なに、何だあの青緑色の光の幕は?」
半ドーム状の青緑色の光の幕が突然現れた。その中から1匹の魔物が出てくる。
「バカなありえないまわりがあれだけ吹き飛んでいるのに、やつは無傷だと言うのか、なんなんだあの魔物は」
カタフロストがそう思った瞬間に、魔物から虹色の光のようなものが降り注ぐ。
「シュシュバーン」
「グギャー」
突然、虹色に輝いた光りに当たり、魔族たちは吹き飛ばされる。
それに加え体に魔族たちは、各種の状態異常を食らい大ダメージを受けている。
「バカな私が麻痺と毒攻撃を受けただと、魔族の私がありえん話だろう」
カタフロストは大声で話し、自身の異常さに困惑する。
「なんだこれは、先ほどの虹色の光を食らってダメージを受けた魔族の者達は、死んでいる者達が居るのではないか。
魔族が今の一撃で即死だと、あり得ん話だろう」
「カタフロスト様」
近くに居たシリアスバイセンは、状態異常と多大なダメージを受け力尽き地面に落ちた。
「バカなあり得んだろう。シリアスバイセンは魔界でも強の者につならう者だぞ。
それがあっさり死んだと言うのか。
……残っている魔族は半分は居るな。
100ほど居た魔族が半分にまでいなくなるとはな。
ここは撤退だ。今下がれば命だけは助かる。
幸いジュブ・ニクラウスではないのだ。
光分散攻撃 は使ってこないはず。
逃げるぞ、今すぐ各地に散れ」
魔物から微かに光が降り注いだ瞬間に、魔族全員の体が黒く光はじめた。
「! これは光分散攻撃 バカなあり得んだろう。
やつは使えるのか光分散攻撃 を。
……体が維持できない」
そう言い残し、黒い光が白い光に変わりだし、光の球状に変わった。
光の球は激しい光を発して分散して静かに消えていった。
魔族どもはすべて光の粒子に変わり消えてしまったのである。
不思議な事に夜だと言うのに、空が辺り一面、輝いている。
その夜、世界全土に昼間のような明るい日差しがさしたいう事が目撃された。




