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第24話 困惑する勇者


 「ウィンド・カッター」

 「シュン、シュン、シュン」

 「ガキン」

 「でやー」

 「タン、タン、タン、たー」

 「ガキン、ザシュン」

 「豪刹斬」

 「ドガン、バキン」

 「憤怒」

 「ホーリー・リジェネート・サークル」

 「シューン ファーンン」

 「バースト・アタック」

 「デビル・メイズ・クロウ」

 風の勇者パーティ一行は100人以上の虎の獣人に囲まれた状態で奮戦している。

 

 多勢の獣人に囲まれて善戦しているが、突破口が見つけられない。

 当初は街を守るために戦うと言う意思はあったが、今は脱出の糸口を探しているのだ。

 逆に数が多い虎の獣人たちも攻めあぐんでいて、停滞状態に陥っている。

 そんな中、熊族の族長アーガッシュが現われた。


 「おいおい、どうした最強を誇る虎族の獣人がなんてざまだ」

 「これは、アーガッシュ様」

 「オーウェンがこんなの見たら呆れて泣いてしまうぞ」

 「……」

 「で、おまえらなんで、攻めあぐんでいるのだ?

 確かに腕はそこそこのやつらだが、これだけ数が居ればどうにかなるだろう」

 「われわれのふがいなさを申し訳なく思います」

 「! なるほど、そう言う事か。

 虎族の獣人が居るのか、それも子供か、奴隷の姿着を着させているな。

 あの中にいるんじゃ、攻めあぐんで躊躇ちゅうちょしてしまうか。

 確かに、戦闘で仲間の犠牲者が出るのは仕方ないと思うが、目の前に居るんだったら思うところがあるのは当然か」

 「……」

 「俺がやる、おまえらは下がれ。

 おまえら虎族の子供が巻き添えを食らうかもしれないが、その時は俺の責任だ。

 俺を恨め、オーウェンには俺がわびておく」

 「アーガッシュ様、そのようなお気遣いはご無用です。

 あなたを恨むと言う事はしません。

 悪いのはすべて人間ですから」

 「そうか、悪いな、それじゃ、あいつらの始末は俺にさせてもららうぞ」

 

 勇者一行を取り囲んでいる、虎族の獣人の間を割って、熊族アーガッシュは前に出る。

 風の勇者の前に立ちふさがった。


 「ハア、ハア、ハア、 フウ……

 どうやら本命がお出ましのようね」

 「本命だ、何を言ってやがる、人間のクソガキが」

 「クソガキですって、汚い言葉ね、獣人は礼儀を知らないんですね」 

 「礼儀だと、戦争中だ、礼儀もクソもねえだろうが」

 「戦争中? あなたたちが、善良な市民を襲い、略奪をしているのではないですか。

 野盗と同じ事をしている、あなたたちに言うだけ無駄ですね」

 「俺らが、略奪だって、そんな事をした覚えはないぞ。

 ただ、仲間の奪還をしに来ただけだ。

 ついでにこの街をつぶしに来たのだがな。

 略奪行為を先に仕掛けたのはおまえら人間じゃねえか。

 そんな事もわからねえのかよ、お嬢ちゃん」

 「何ですって」

 「人間は頭が良いと聞いたが、どうやら悪行を仕掛ける悪知恵がまわるみたいだな。

 あの時のようにな、救えないぜ。

 人間のお嬢ちゃんよ」

 「悪知恵ですって、あなたたちの奴隷の仲間を開放したらどうなるかわかるのかしら。

 犯罪者集団を野に放ったらとんでもない事に陥るわ。

 今、あなたがやっているようにね」

 「? はあ、犯罪者の集団だ。

 その言い草、聞き捨てならないぜ。

 きさまら人間が、善良な獣人をさらって奴隷にしているのではないか。

 先におまえらが仕掛けたのに何を言ってやがる。

 この街はさらわれた俺らの同胞を奴隷として売り買いする街じゃねえか。

 それにこの街はもともと俺らが先に人間の交易都市として造った小さな町だった。

 それをガイデアの傘を引き、軍を率いて占領して奪ったのは、おまえらだろう。

 今更、何を言ってやがる」

 「何ですって、そんな事をする訳ないじゃないの?」

 「おめえはバカなのか? 俺は頭が弱いが理解は出来ているぜ。

 それに獣人界じゃ子供でも知っている事だ。

 それともなんだ、お嬢ちゃんよ。

 おまえは本当に知らないってのか」

 「? アバスト、どういう事、あなたはこの大陸の事を詳しく知っていますよね。

 教えてくれない」

 「エミリア、あなたは知らないようですが、この国では奴隷は犯罪者から落ちた者ではないのですよ。

 本国では犯罪者が奴隷となる決まりですが」

 「それってどういう事よ」

 「つまり、この国では獣人などの立場の弱い者をさらって奴隷として売り買いされているのですよ」

 「そんな、バカな事が、でもどうして」

 「それは、この地に居る魔神獣ガイデアが居るせいですよ」

 「ガイデア、あの魔神獣ガイデア、SSS難易度のモンスター」

 「そうです。

 エクスタ大陸からこの地にガイデアがやって来た時に、大きな争いになりました。

 ミスティリア大陸全土の者が討伐に参加したと聞き及んでいます。

 しかし、人間は勝てないと思い、連合軍を裏切りガイデアとの交渉にかぎつけたのですよ。

 それもザンブグルム魔導王国が主導したと聞いています」

 「そんな」

 「裏切った人間以外は敗戦者となりました。

 いわば人間はガイデアの傘下に入り、好き勝手にこの大陸でやっているのですよ」

 「そ そんなバカな事を、それじゃ、この荷物持ちの子たちは」

 「ええ、この大陸からさらわれて本国迄売り飛ばされてきた獣人です。

 あなたが、従順なので荷物持ち用に欲しいと言うので、奴隷を扱うこの都市に来た訳ですよ。

 言いましたはずですよね」

 「そ それじゃ」

 「この虎の獣人たちは犯罪者ではない。

 一般の獣人たちですよ」

 「そ そんな、ではあなたは知っていたのですか」

 「私は知っていました。

 あなた以外知っていると思いますよ」

 「そうなのパレット」

 「ええ、私も知っていたわ。

 と言うかあなたも知っていたと思っていたわ。

 本国で16歳までの幼年犯罪者は、どんなに罪が重くても最高で炭鉱の軽作業までと決まっているでしょう。

 いかに重度な犯罪を犯してでも奴隷落ちにはならないわ」

 「……」

 「この子たちは15歳と13歳の年下だって、あなただって確認していたじゃない。

 てっきり知っていたと思っていたわ」

 「そ そんな、知らない、知らなかったわ。

 それでは私はこの子たちにひどい事を」

 「なんだおまえら大陸外の出身者か、だが大陸外としても俺らの同胞を奴隷として連れているんじゃ容赦は出来ないぜ。 

 まあ、するつもりもないがな」

 「取引しませんか」

 「何だと」

 「私たちはミスティリア大陸の人間では御座いません。

 こちらの事情とはなんの関係もない。

 2人の獣人はお返しします。

 ですから見逃してもらえませんかね」

 「……」

 「アバストあなたって人は」

 「良いですかエミリア、このまま戦えば全滅だとわかっておりますね。

 いかにあなたでも、あの熊の獣人一人に殺されてしまうでしょう。

 それだけの力を持っているとあなたもわかっているはずですよ」

 「……」

 「獣人を返して許しをこうのです。

 どうですか交渉していただけませんか?

 ガイデアがいるのに人間界にここまでやってしまったら、あなたたちだってただではすまないでしょう。

 私だったら聖翼教会の元で、話しあいができるようにザンブグルム魔導王国と交渉役を取り次ぐ事ができます。

 幸いこちらには風の勇者のエミリアが居ますのでね。

 とりあってくれるでしょう」

 「風の勇者、そいつがか」

 「ええ、そうです」

 「ふん、勇者とは名ばかりの愚か者ではないか。

 善良な獣人を奴隷としてこき使って来たのだろう。

 返すだけで済む話なのかい」

 「それはそうですね。

 お金で宜しければ、この2人が働いた分の金額と慰安金はお支払いしますよ。

 それにガイデアの件の取次もあるので、考えては戴けませんか」

 「おまえもバカかなのか」

 「?」

 「なぜ俺たちがこの街に攻めて来たのかわからないのか。

 王都シャングリアへ、兵を派遣したからではないぜ。

 やつらの兵が2、3万くらいいたってどうって事はない。

 おれたちは躊躇ちゅうちょなくこの街を攻め落としに来るだろうよ。

 なんせガイデアが死んだのだからな」

 「バカな、あの魔神獣ガイデアが死んだと言うのですか」

 「そういうこった。

 俺たちに、縛りはなくなった。

 当然この街の人間を一人残らず殺すだけだ。

 ヨハネスの言いようでは、赤子も一人も残らず、確か25とか30万人だったか。

 全員を殺す予定だからな。

 連れて来た連中で、一人で4人殺せば済むと言っていたか。

 まあ、外にいる連中も含めてだがな。

 なあ、簡単な事だろう」

 「一人で4人ですって」

 「それでは、7万から8万人の獣人の軍がこの街に来ているのですか」

 「そう言う事だ、おまえ、頭が良いじゃねえか。

 だったらわかるよな、ここから生きて帰れないって事がな」

 「……」

 「そう言う訳だ、大人しく死んでくれ」

 「エミリア、何を呆けているのですか、立ちなさい、戦うのですよ」

 「アバスト何を言ってるの私は」

 「良く聞きなさい。

 ここを攻めている獣人たちはこの街のすべての人間を殺す気です。

 25万にんの人が赤子一人残らず殺されるのですよ。

 あなたは勇者でしょう。

 勇者としての使命を果たしなさい。

 そうしなければ、この街の人間の未来はないのですよ」

 「そうね、私が戦わなければみんなが死んでしまうのね」

 「そうですよ、あなたが戦わなければこの街の人々は死にます」

 「わかった、私は戦うわ」

 「その意気です」

 「来なさい、赤黒い熊の獣人よ」

 「やはり変わらんな。

 他の大陸の人間もこんなもんか、俺ら獣人の事はどうでも良いのか」

 「……」

 「相手になってやるよ、愚かな人間の勇者よ。

 リベレイション・ドライブ」

 アーガッシュはバーサークモードの肉体強化スキルを使った。

 

 「これは、あの時に感じた気配」

 「なんて圧倒的な力なの」

 「……」

 「名前を教えてくれないかしら」 

 「おまえに名乗る名前などないぜ、愚かな勇者よ」

 「そう、それで良いわ。

 私もあなたに名乗る必要はないから」

 熊族の族長アーガッシュと風の勇者エミリアとの戦いが始まる。


 …… …… ……


 東門付近の奴隷区では突入時に激しい戦いがおこなわれていたが、今は収束に陥っている。

 奴隷商人が率いる、傭兵部隊と熊族と虎族の最強を誇る部隊が激突したのだが、夜襲が功を総じて、名うての傭兵も力を発揮できず敗れていった。

 

 獣人の特徴である闇夜に目がきく事と、熊族の圧倒的体格さと攻撃力、虎族の素早さと威圧感を放ち対抗してくる傭兵たちをなぎ払って来たのだ。

 しかし、商人どもがあの手この手で逃げる様を見せ、捉えられていた獣人たちにも被害が及んだ。


 獣人を人質にして逃げる者や奴隷たちを肉の壁にしてわれさきに逃亡する者、わざと店に火を放ち、獣人たちを置き去りにして時間を稼ぐ者とかがおり被害が齎された。


 そんな事をしても逃げ道は防がれており逃亡などできようがないが、あらゆる手段で抵抗をする。

 奴隷区は混沌こんとんな状況に陥っていたのだ。

 今は、虎族の族長であるオーウェンの指揮のもとに落ち着いてきている。

 捕らえられた獣人、奴隷になった獣人以外の人間を殺し、街の外へ解放をおこなっている最中だ。


 「オーウェン様、奴隷区の占領はほぼ完了しました。

 今は抵抗する者は皆無と言って良い出しょう。

 奴隷になって付けられた烙印の解除は獣人界でおこなうと言う話でしたので、魔法をかけていた商人たちは殺し終えましたが、それに携わっていた者は地下の牢屋に閉じ込めていますが宜しかったのでしょうか?

 私はひと思いに、殺してしまった方が良いと考えます」

 「今は、捕まっていた獣人の解放が優先だ。

 殺してしまいたい気持ちは理解できるが、そんな事をしたら混乱が起きる。

 今は大人しく降伏しているのだろう。

 下手な混乱は避けたい。

 避難が優先だ。

 終わり次第処分すれば良いだけだからな」

 「了解しました」

 「おっと、そうそう、キュニー曹長。

 狼族の足の速いやつに頼んでレオニード候に開放した獣人の護衛の派兵を頼んでもらうように言ってもらえないかな。

 ヨハネスの言い分では2割、約7千名から多くて1万の獣人たちが助かれば良いと言っていたが、半数以上は無事保護できたからな。

 予定より多い人数を助けられた。

 その分、護衛と運ぶ事のできる兵が少ない。

 まぁ、あの野郎は慎重だから、悲観的に低く数値を言ったのだろう。

 そう話せば、なるべく皆が助ける方向へ話が持っていけるからな。

 それでも半数しか助けられなかったか、病気や暴行などでけがをしている者も多い。

 足の腱を切られた者や手足が欠損している者たちもいる。

 連れて帰るのも俺たちと違って五体満足に動けないのだから時間もかかる。

 運ぶにも一苦労しそうだ。

 「了解しました、すぐさま手配します」

 「そうそう約2万名開放して保護したが、病気や怪我人多数と付け加えてくれよ。

 そう言えば、受け入れの体制も準備がスムーズにできるだろう」

 「了解いたしました」

 「にしても、こちらは何とか落ち着いたが、報告の話で聞いたが、兎族のアイリーン殿の息子が危険な状態だそうだな」

 「はい、そのように報告を聞いています」

 「助けられたのは良いが、角を折られ、耳は切り裂かれ、右目が抉り取られていたと聞いたぞ、瀕死状態で治療を受けている最中だよな。

 アイリーン殿の心中が察し得ないな」

 「そうですね」

 「コクロウガ殿も苦労なされたみたいだな。

 抜け道を見つけ報告をした時には、すでに王族どもが通って来たそうだ。

 あと少し、発見が遅かったら逃がしていたと言う話だな。

 こちらで仕掛ける前にすでに戦闘が始まっていたとは。

 それも、護衛に付いていた兵がかなりのつわもので俺も名が聞いた事があるやつだったか」

 「紅のジルフォルフォンと漆黒槍使いキグナスでしたね。

 冒険者のつわものだと私も聞き及んでいました」

「そいつらと戦闘となって、かなりの被害が出たと言う。

 数に勝る獣人で倒し事なきに終えたが、下手すれば逃げられていたからな。

 コクロウガ殿についてもらって良かったよ」

 「ヨハネス様の配置は間違いありませんでしたね」

 「そうだな、俺はコクロウガ殿と5千名の兵を配置ではさすがに多すぎるので、どうなのかと思っていたよ。

 一割の500人でも多いと思っていた。

 抜け道を探すのに苦労したそうだな」

 「そうですね」

 「人海戦術で探すしかないと言う訳か、確かにヨハネスの言い分は間違っていなかった。

 本当に頭がまわるやつだ」

 「そのようですね」

 「ム、これは」

 「オーフェン様、この力は熊族の族長のアーガッシュ様ですよね」

 「ああ、そうだな。

 一度あいつの解放した力を感じたが、二度もここで開放するとはな。

 手ごわい相手が居たのだろう。

 しかしなんだこの怒りをまとうような感じる力の波動は、よほど気に触った事があったみたいだな。

 余計な事かも知れないが、手のあいている熊族の兵を派遣しよう」

 「その方が宜しいですね」

 「しかし、なんだ、アーガッシュとやりあう事が出来るつわものがいるとなるとは、思いもしなかったぞ。

 今回の作戦は大ざっぱだったが、ヨハネスが参謀としてして居てくれて幸いだと言う事だな。

 アーガッシュを本気にさせる者がいるのだからな。

 俺たちだけだったらこれほどうまくいったかどうかわからないぞ」

 「確かに私も思います」

 「普段は悪知恵が働く小ずるい鼠の獣人なのだがな」

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