第23話 夜襲
夜も深く寝静まった頃。
「ヨハネス若頭、コクロウガ様がぬけ道を発見したそうです。
準備は整い、いつでも突入できると言うこと」
「そうか、それは良くやった」
「各部隊、それぞれの配置も終わっております。
今のところ人間どもに気づかれた様子は御座いません」
「それじゃ、そろそろ始めるとするか。
まずは四方の門の中に先遣部隊が入り、城門を確保する。
それから土属性魔法を使い堀を埋める。
吊り橋を降ろして使う必要もない。
壊してしまえ。
使用方法を探していては時間がかかる。
橋を壊してから、土属性の魔法を使って岩を出し、堀を埋めてしまうのだ。
戦闘に特化した獣人たちの身体能力があれば、問題がなく渡ることができるだろう。
門を中から開いて街中に雪崩れ込む。
以上だ、皆に伝えろ」
奇襲攻撃が開始される。
先に城壁に取り付いて入っていた獣人たちが仕掛ける。
城壁にいる見張りの兵士たちのほどんどが、居眠りをしている状態で、気配をたっている獣人たちは気づかれるそぶりもない。
先遣部隊が、城壁を乗り越え見張りの兵士たちを音もなく殺していく。
四方の城門中周りに入り、気づいて来た衛兵たちと戦闘になるが、いとも簡単に退け、四方の門を何事もなく占拠する。
門を開け吊り橋を破壊し、突入のできる準備を整える。
それぞれの門のところに合図の閃光弾を掲げる。
「シュー シュバーン」
「合図だ、松明を掲げよ。
太鼓の音を鳴らし奇声を上げろ、仕掛けるぞ」
「オオオー」
「ドン、ドン、ドン、オオオー、ドン、ドン、ドン、オオオー」
太鼓を一定のリズムで鳴らし、獣人たちは奇声をあげる。
「よし、土属性魔法を唱え終わったな。
うまく岩で堀を埋め尽くせた。
足場は悪いが、中に入る事が出来るぞ、突撃だ」
土魔法属性魔法の岩で門の外堀を埋め、雪崩れ込むように四方の門から獣人たちが侵入をした。
そこから地獄のような殺戮ショーが始まる。
「何事だ、騒々しいな」
「タバス駐屯兵団長、敵です、敵襲です」
「敵襲だと、野盗共がまた荒らしに来たのか。
せっかくのうまい酒が手に入って飲んでいると言うのに、ほろ酔い気分が覚めてしまうではないか。
どうせ野盗どもだろう。
領主のスピリッツ様が先日、軍を率いて行ってしまったからな。
その隙を狙い、略奪でもしに来たのだろう。
大した事のない相手だおまえたちで済む事だろうが、私を呼ぶではない」
「ち 違います、野盗では御座いません。
獣人です、獣人が四方の門を破り攻めてきました。
数は推定1万以上が町の中に入っているとか。
索敵ができる魔導士が言っております。
どうしましょうか?」
「1万だとバカな、やつらなぜこの街にやってきたのだ。
魔神獣ガイデアの保護下であると言う事を知っての事か、獣人め、正規軍がいないうちに攻めて来たと言うのか。
こちらは駐屯している兵は5千名足らずだというのに、目的はなんだ。
奴隷用に捕らえている獣人どもの奪還か。
今の状況を教えろ、対応策を協議する。
商人どもの連れている腕利きの傭兵を集めろ。
力を貸せとな、それまでおまえらが時間をかせいでおけ」
「そんな悠長な事は言っておられません。
街中に入られた数が1万を超えると言う話です。
ぞくぞく獣人たちは街中に雪崩れ込んでおります」
「はあ、街中に1万だと、全体の数ではないのか。
いったい幾人の獣人がいるのだ」
「街を取り囲んでいる者たちをあわせると5万はくだらないとの話です」
「(バカな、最初からそれを言え、そんな数の獣人を俺が対応できるはずがなかろう。
! そうだ勇者だ。
大陸外の勇者、風の勇者がこの街へ来ていたはず、応援に寄こせ、儂もでるぞ」
タバス駐屯兵団長は宿舎を出て辺りを確認する。
「ドガン、ゴガン、ボシュン、ドガン、バキン」
「な なんだこれは、街中、辺り一面、火の海ではないか・・・
聴こえなかった、爆発音も無数に聞こえる。
酔っていたせいか?
獣人どもは何を考えている。
これでは一般人まで被害が出るぞ」
「ゴオオーン、シューン」
「なんだこの気配は・・・
バカでかい気配が城の中央付近に現れたぞ。
魔王か?
魔王クラスの獣人が居るのか。
獣王クラスのやつが街中に入り込んででいるか?」
「ドガン、バシュン、シュウ、ザキン」
「なんだ、きさまら」
「ウワー、ザキン、ドサリ」
タバス駐屯兵団長は、外に出たとたんに、獣人たちに囲まれ無造作に繰り出される攻撃を一方的に受け、戦わずして死んでしまった。
それほど獣人たちの進行速度は速い。
指揮官の死で指示を仰げず、駐屯兵は混乱し、成すべもなく獣人たちに殺されていく。
熊族の族長アーガシュは、街中に入りすでに中央の王城の前にいた。
「リベレイション・ドライブ」
抑えてきた力を解き放つ。
全身に覆われた黒い毛並みは赤紫色に変わり、2メール30はあった体長は二回りほど大きくなる。
4メートル近い巨大な体へ変貌する。
筋肉が膨れあがり、昔戦闘で受けた傷跡がくっきりと浮かびあがる。
その気を間近に感じると、普通の人なら見ただけでも失神しそうな雰囲気だ。
獣王! 獣王と言って良い風格を備えている。
「さてと、始めるとするか。
野郎ども俺に続け、城のやつらを皆殺しにしろ」
「オオオー」
アーガッシュは精鋭部隊とともに城内に入り、見かける人間を惨殺していく。
城内はまさに、血の海とかす。
「何この気配」
「エミリアどうする、街中は獣人ばかりよ、今外に行く事は危険だわ」
貴族街にある宿屋で、勇者パーティーの一行が泊まっている。
勇者の名はグリーンヒッター・エミリア(17歳)風の勇者と呼ばれるレイピア使いの美しい少女だ。
金髪の長い髪を一纏めにしポニーテールの髪形にしている。
青い透きとおるような目を持ち、整った顔立ち、華奢な容姿をしている。
しかし、その華奢なりに対して、強さは勇者と呼ばれるふさわしい剣技と魔力を持っている。
大陸外だが、多くの魔獣、魔物などを倒して活躍のうわさが聞かれるほどの有名な風の勇者だ。
今回、荷物持ち用に獣人の奴隷の買い付けのために、ミスティリア大陸迄直接来たのだ。
夜間の突然の獣人の襲来に戸惑いを隠せないでいるが、街中の人たちが襲われているのを見て、飛び出されずにはいられない状態だ。
仲間の制止があり、今は宿屋で待機をしている。
勇者パーティの仲間は、6人と2匹の獣人がいる。
幼馴染の魔法使いである パレット(17歳)
大剣使いの若き剣士 リグル(23歳)
大型の盾を用い防御に特化した戦士 バベル(32歳)
聖神官である中年の男 アバスト(42歳)
レンジャーであり索敵が得意とされる女性リンダ(28歳)
荷物持ちの奴隷である虎の獣人 シェル(15歳)と コンボ(13歳)姉弟
勇者パーティとしてこの街に滞在していたのだ。
「パレット、ここは出ましょう。
街中が獣人に襲われているなんて見過ごせないわ」
「エミリア、待ってください。
今索敵をかけましたが、半径500メートル四方に100人以上獣人がいるのよ。
まだまだ増えているみたいだわ。
異常だわ、組織だった行動をしている。
ここは宿屋で待機して安全を確保していたほうが良くてよ」
「そうよエミリア、リンダの言うとおりに大人しくしていましょう。
魔物退治や盗賊退治と訳が違うわ。
これは戦争よ。
獣人たちは軍を引き連れやって来ている。
おそらくだけど、ここに捕らえられている獣人たちの奴隷を開放しにやって来たのだと思うわ。
そうでなければこの街に攻め込む事なんて理由がないわ」
「奴隷の解放ですって・・・
そんな事、なおさら見過ごすなんてできないわ。
売られている獣人の奴隷は、凶悪な犯罪者ですからね。
そんな者たちが奴隷の烙印なしに、街に解き放たれたらどうなるかあなたでもわかるでしょう」
「エミリア、それは違うわ」
「何が違うと言うのよ。
奴隷は犯罪を犯した者がなるのでしょう。
犯罪者を街に開放するなんて許せないわ」
ああ、誰がそんな事を教えたのよ。
類まれない才能があって、勇者になるために過保護に育てられたせいか間違った知識を植え付けられている。
私たちの国では、奴隷は犯罪者落ちからと、決まっている。
この国では違う話なのよ。
魔神獣ガイデアの管轄に置いたこの国の人たちは、その力を傘に、獣人をさらって奴隷にしているの。
この国の奴隷は従順だと聞いて、買い付けに来たのは間違いだったわ。
本国で手に入れた2人の虎の獣人があまりにも、従順なので他にもほしいと言われ来たけれど、従順に決まっているじゃないの。
犯罪奴隷ではないのよ。
さらわれて、本国迄売り飛ばされた一般の獣人たちなのよ。
そんな事も知らないで、勇者はこき使っている。
でも、今更言えない。
さらわれた善良な獣人だったかもしれないなんて・・・
「私は行くわ」
そう言って外へでてしまった。
「仕方ないな、俺たちも出よう」
「ああ、そうだな、遅かれ早かれ戦火に巻き込まれるのだからな」
「この分じゃ獣人どもはあたりかまわず戦闘を仕掛け、一般人にも危害を加えるかもしれん」
「そうですね、中に居ても同じでしょう。
外へ出て戦おうとしましょうか。
その方が逃げる事もできるかもしれませんからね」
「待っておかしい!」
「どうしたのですか?」
「今も索敵をかけているけど、獣人たちは人間を襲っているの?
家の中の人たちまで押し入り人を殺しているわ」
「何ですって」
「それではどの道、こちらへ来るではないですか」
「早く出ましょう。
ここは一刻も早く逃げる算段を付けましょう」
「それは無理かもしれない」
「すでに獣人たちがこの近くに集まってエミリアと戦闘をしているわ。
急いで合流しましょう」
勇者一行は外へ出てから、辺りを見て愕然としていた。
貴族街の家に火を放たれ燃えている様子が見える。
そんなさなか虎の獣人、20人と1人で戦っているエミリアが見えたのだ。
急いで一行は駆けつける。
「でやー、シュン、シュバーン」
エミルアは全身に風をまとい、宙を浮きながら、緑色の防御障壁を発して虎の獣人と戦闘をしているのが見える。
20人以上の虎の獣人と1人で戦っているのだ。
その中に勇者パーティー一行は突入し、エミリアと合流する。
「アイアン・メイル・ガーディアン」
盾使いの戦士バベルがスキルを使い囲んでいる虎の獣人の一部を吹飛ばす。
「エミリア、むちゃしないで」
「ありがとう、みんな助けに来てくれたんだね」
「助けるも何もないでしょう。
それよりここは逃げる算段を付けましょう。
辺り一面、獣人だらけです。
一端、引いた方が良いわ」
「逃げる、逃げるだなんて冗談はよしてよ、戦うわ。
あなたたちとだったらこの程度の獣人を、蹴散らす事など造作もない事でしょう」
「ここにいる獣人は出来そうだけど、あとから来る獣人には数的に無理な気がしますが……」
「アバスト、どの道、無理だわ、戦うしかない。
続々とここに獣人たちは集まって来ている」
リンダがそう言ったとたんに、100名前後の獣人に囲まれてしまった。
「こうなったらやるしかねえだろうがよう。
アバストのおっさん、支援魔法をかけてくれ」
「わかりました。
でも私はおっさんではないのでその事だけはお忘れなくリグル君。
パワーエンチャント、ホーリーシールド、スピードアップ、アタックアシスト」
聖神官であるアバストはパーティ全員支援魔法を付与する。
「族長、こちらにはいません」
「そうか、すでに逃げられちまったか。
この街にいる王族関係者はすでに逃げてしまったと言う事だな。
こういうところは素早いな。
それともおまえ、うそを言っていないよな」
「うそなど言うはずは御座いません。
どうか約束どおりお助けを」
中年の痩せた人間の男が両足の骨を折られた状態で、2人の熊の獣人に支えられ立っている。
この町の王族の領主の側近の1人と思われる男だ。
「そうか、それじゃ約束どおり殺してやろう。
楽になりたいんだったよな」
「え、そんな助けてくれるのではないのですか?
約束したではないですか?」
「俺は楽にしてやると言っただけだぜ、助けるとは一度も言っていない」
「そんな」
アーガッシュは自らの爪で側近らしい男の首をはねた。
「楽になっただろう。
痛みが消えて良かったじゃねえか。
それにしても妃とその一人息子である王子には逃げられてしまったか。
まあ、行先はわっている。
あとはコクロウガ殿に任せるとしよう。
おいおまえら城の中に隠れて居るやつらの始末は頼んだぞ。
一人残らず殺せ、わかっているな」
「はい、心得ています」
「俺は外に出て仲間の応援にでも言って来る。
ここから西の貴族外かやけに大きい気を発するやつが居るんだよ。
どうやら仲間も苦戦しているみたいだ。
アイリーンの応援に駆けつけても良いが、ガロウが付いて居るから問題はなかろう。
すでにあちらの方は、済んでいるかもしれないからな」
「そうですな、ガロウ殿が付いていれば問題はないはずですな族長」
「そういうこった、それじゃ向かうとするか。
数人だけて良い、俺について来い。
あとの者は城の掃除を任せるぞ」
「お任せを」




