第21話 思惑が違った会議場
『獣蒐京』にある中央の城の会議場。
日も沈み、獣人たち各国の代表たちが集まって来た。
今回、獅子族の王子レオニード候の計らいにより、一部の者以外は、族長が自ら訪れる事になった。
それほど重要な議題になっている。
11の部族の代表と族長が終結している。
獅子族、虎族、狼族、熊族、狐族、犬族、猫族、狸族、犀族、鼠族、鼬族の代表たちはすでに席に付いて待っている。
気がかりなのは、空席になっている兎族の代表は、まだ来ていない。
兎族の代表は、連絡を取っているはずなのだが、いまだに到着した様子はない。
各獣人族の代表は、
獅子族代表、王子、レオパルド・レオニード (男性)19歳
虎族代表、族長、ジルオート・オーウェン (男性)33歳
狼族代表、族長、ウォルフガング・コクロウガ (男性)54歳
熊族代表、族長、ズグタフ・アーガッシュ (男性)38歳
狐族代表、族長、トウホウ・ヒミコ (女性)28歳
犬族代表、族長、フリッル・シュリーン (女性)24歳
猫族代表、族長、クイクリィ・ルッシュエ (女性)27歳
狸族代表、族長、ドルフ・ジュディゴ (男性)88歳
犀族代表、族長、アウグスト・ドルエーン (男性)42歳
鼠族代表、若頭、パウル・ヨハネス (男性)22歳
鼬族代表、族長、エルネスト・リンガー (男性)40歳
それぞれ名持の王族、または貴族の各獣人族の代表が集まっている。
「各部族の代表の方々、お集まりくださいまして、ありがとうございます。
今日の会議を仕切らせてもらいます。
レオパルド・レオニードです。
若輩者ですがよろしくお願いします」
「……」
「残念ながら、各部族の代表全員はそろっていませんが、重要な案件に付き、至急、皆さまがたに、お知らせしたい事があります。
兎族の方々へは、私が自ら説明しに行かせてもらおうと思っています。
どうかご容赦をお願いします。
それでは、会議を始めさせていただきます」
「おいおい、アイリーンは来ていないのか。
からかう相手が居なくて、面白くねえな」
「アーガッシュ殿、会議早々、私語は慎んでください」
「別に良いじゃねえか、魔神獣ガイデアがおっ死んじまったんだろう。
嬉しい事ばかりじゃねぇのかよう」
熊族の族長アーガッシュの話を聞いて、知らなかった各族長が騒ぎたつ。
「アーガッシュ殿、それは私が今から話す事ですから、言わないでくださいよ」
「そうだったのか、ついあの化け物が居なくなって嬉しくてさ、小さい声で口ずさんでしまったよ。
ワハハハッ、失礼したな」
「……」
「で、問題は野郎がどうやって、死んだと言う事だよな。
それが、わかっているのかい、お坊ちゃんよ」
「ハア、子供扱いにしないでくださいよ。
これから順をおって、説明しますのでよくお聞きください」
「そうかい、悪かったな、レオニードの坊ちゃん。
それじゃ、聞こうとするかな」
アーガッシュは鼻歌まじりのご機嫌気分で言い返した。
「それでは、改めて説明をいたしたいと思います。
先ほどアーガッシュ殿が言われたとうり、魔神獣ガイデア、それに従者の魔雷獣ブロストが死んだ事を確認できました。
詳細は銀狐のアコヤさまの能力で知り得た情報です。
アコヤさま本人から直接話を聞くのが一番良いのですが、どうやら体長を崩されたようでして、今回の会議の参加には見あわせたいとの話です。
お聞きになった私とコクロウガ様で説明をしたいと思います」
レオニード候が魔獣神ガイデアの詳細を皆に伝えようと話し始めた時に兎族の代表が入って来た。
「失礼します。遅れました。
私くし、兎族、代表のキュリシュと申します。
このような、いで立ちで失礼します」
他の部族の者たちは驚きの様相を見せた。突然入って来たのではなく、そのいで立ちに不安を募らせたのだ。
兎族代表のキュリシュと言う少女はまだ若く、12歳前後と言って良いほどの幼い少女だ。
その少女が銀色の戦闘用の鎧を身に着けていたのだ。
彼女は兎族族長の娘で、何度か側近で城に来ている様子が伺えた。
いつもはかれんなかわいい服装を着ているお姫さまの姿をしている。
それが鎧を着用していて、別人と見間違えるほどの容姿だったのだ。
「失礼します。席に着席いたします。
レオニード様、議題のお話を、お聞かせください」
「ドガン」
「お聞かせくださいじゃねえよ。
おまえがそんな成りしているなんて、何があったのか。
教えろ、そっちが先だ」
熊族の族長アーガッシュはテーブルをたたき、怒気を込めて言った。
「アーガッシュ様、われわれ兎族のささいな問題が起こりまして、お聞かせするほどの事ではないです。
重要な会議です。お話を続けてください」
「……」
「ガイデアの話はあとにしよう。
やつはすでに死んでいるのだろう。
それさえ聞ければ俺たちは問題はないはず。
やつが死んだ詳細な理由はあとで聞けば良い。
そうだな、レオニード候」
「ああ、そうだ。
話の内容は重要だが、私が聞いた範囲では取り急ぎ話す事でもない。
各自書面で渡すことにしよう」
「そうか、お嬢ちゃん、俺にだけでも良いからさ、話を聞かせてくれないか」
虎族の族長オーウェンが優しく聞いて来た。
しかし、顔は怖い顔をしている。
「そ それは私の口から言えません。
ここに居る、皆さま方にご迷惑をかけると思います」
涙ぐんだ声で、キュリシュと言う少女は答えた。
「キュリシュ殿、あなたがそのような姿をしているのに、皆さま方は何があったのか気になっております。
誰も迷惑をかける事などと、思っていないですよ。
話して戴けませんか」
レオニード候はキュリシュに近づき優しく声をかけた。
「グス、よろしいのでしょうか。
レオニード様、ご迷惑をかけると思います」
「別に良いですよ、私だけでも力になります」
「そうですか、レオニード様。
それではお話したいと思います。
わが兎族は今しがた、人間の街、ゴルゴダに急襲をしかける所存で御座います。
すでに軍は動きだしました。
母さまを筆頭に1800名で進軍をしています。
夜中には仕掛けると言っておりました」
「バカな、たった1800名で、おまえら弱っちい兎族があのゴルゴダの街に急襲を仕掛けるだと、自殺行為だ。
何を考えている」
虎族の族長オーウェンは言った。
「別に訳なんて良いじゃねえかよ、オーウェン。
おまえら人間の街に攻め込むんだよな。
だったら、俺は手を貸すぜ。
おい、ガゼスおまえ至急、コーデル師団長に話をし、軍を編成させろ。
今すぐ出るぞ」
「……」
「悪りいな、レオニード坊ちゃん、俺はちょっと用事ができてな、ガイデアの話は帰ってから聞くから、それでよろしくな」
そう言って熊族、族長アーガッシュは素早く部屋から出て行ってしまった。
「待て、アーガッシュ殿、急ぎすぎだ。
何もわかっていないだろう。
・・・ キュリシュ殿、話が見えない。
アイリーン殿が動かれたのだよな。
なぜこのような時期に、それもゴルゴダの街を攻めるなど、理由を聞かせてくれないか」
「レオニード様、お恥ずかしい話ですが、よろしいでしょうか」
「ああ、いいですよ。
ここにいる者は、口が堅い。
誰も言わないと私が抑えよう。
だから話を聞かせてくれ」
「お話します。半月ほど前です。
弟のユリングが人間の人さらいにさらわれました」
「!」
「お母さまは必死に探し求めました。
先日ですが、ゴルゴダの街に居ると言う情報を掴めたのです。
しかし、あの街は奴隷領主と言われるスピリッツが治めている奴隷を扱う街です。
私たちには到底、手は出せません。
しかし、しかしですよ。
人間たちの戦争で、ファング帝国が動き、魔導王国の首都シャングリアまで攻め込む勢いだと言う話です。
ゴルゴダの街の領主スピリッツは応援に駆け付けるため、近隣の町から兵の招集をしたそうです。
おとといですが、領主自ら、2万の軍を率いて向かったと聞きました。
実際に配下の者が向かったのも確認しております。
それに加え、あの魔神獣ガイデアが死んだ事を、私たちは一先早く耳と能力で確認しました。
ガイデアの断末魔を兎族の大勢の者が聴いたのです。
母さまはガイデアは亡くなったと判断しました。
母さなは弟を助けるのに、この機会しかないと、急遽、軍を編成して行ってしまったのです。
グスグス。
ゴルゴダの街は、今が手薄になっているとわかっているのですが、それでも情報では5千の兵が駐屯しているとか。
それに加え、奴隷を扱う街です。
商人などが屈強な用心棒や守備隊を雇い入れております。
わかっているのですが母さまはこの機会しかないと、母さまは、母さまは」
「なるほど、理解したよ」
「バカなやつだ。
俺に言ってくれればすぐにでも軍を動かしたのに」
「ああ、そうだな、ちょうど良く、亜人と争いの準備のため、軍は編成していたのだ。
今から俺たちも駆け付けようじゃないか」
「ガロウ、師団長に連絡を入れろ、今から出るぞ、兵を集めろ。
おまえは斥候部隊を組織し、先にアイリーン殿のところにむかえ。
今ならまだ間にあうはずだ」
「了解いたしました。コクロウガ様」
「しゃあねぇ、俺んとこも出しますとしましょうかな。
俺んとこは力は弱いが、頭が回りますんで、いなくてはいけませんからね。
戦略がいるでしょう。
ゴルゴダの街については頭に入っている。
俺のところのやつらも、あの街に多く捕まっているから、情報が多く入っているのですよ。
人間たちには強い恨みが残っているから、この機会に憂さ晴らしついでにちょうど良いよな。
そうだろう、ドルエーン殿」
鼠族の若頭ヨハネスが言う。
「そうだな。良い機会だ。
あの街には大勢の仲間が捕まって奴隷にされている。
解放しに行きますとしましょう」
「だな、決まったぜ、レオニード坊ちゃん。
俺たちが行く。
獣人界の守りの方はよろしく頼むぜ」
「良いのかい」
「ああ、かまわない、どの道あの街はつぶしゃなきゃいけないんだ。
ガイデアがおっ死んだのだろう。
持って来いのチャンスじゃないですか」
「その判断は正しいでしょう。
それにもし2万の兵が駐屯していても、ガイデアが居なければ、われわれの敵ではないのですからね」
「そうでやんすね、アーガッシュの旦那の軍で一捻りでしょう」
「確かにそうだな、それじゃ、おまえたちに任せるとしよう」
「それだったらさ、受け入れの準備しといた方が良くない。
捕まっている獣人の奴隷を開放してくれるんでしょう。
うちのやつらも多く捕まっているから、心配なんだよね」
猫族の族長ルッシュエが言った。
「ヒミコ姉さん、。奴隷の術を解く方法があるんだろう。
力を貸しておくれよ」
続けて犬族の族長シュリーンが言う。
「わかったわ、準備をして置きましょう、シュリーン」
「それでは、われわれは、守りを固めるとしましょう。
ジュディゴ殿、北西の森に広範囲で幻惑の魔法をかけていただけるかな。
亜人たちと魔獣の動向が気にかかるのでな」
「そうじゃのう、用意しておくとしましょうか。
守りが手薄になってしまうのは、しょうがなかろうからな。
ドルエーン殿、守りの兵を借りたいのだが、いかがかな」
「了解した、任せよ」
「キュリシュ殿、ここは皆の者に任せよう。
われわれは強いのだからな」
「ありがとうございます。レオニード様」
会議の内容は魔神獣ガイデアの事だったが、獣人たちは急遽、思わぬ方向へ進み始めた。
「アイリーン様、街の音のざわめきが聴こえてきました」
「そうだな、ここらでしばらく様子を伺うか。
魔法兵団、スキルを使い街に対して広範囲索敵をおこなえ。
街の中をくまなく散策するのだ」
「了解いたしました」
ゴルゴダの街から5キロ地点に一端拠点を置き、兎族族長アイリーンは機会をうかがう。
索敵に特化した魔法兵団で散策をおこなう。
兎族族長アイリーン(女性)年齢35歳。
20代前半に見える若い容姿をしている。
2人の子持ちでもある。
前族長の旦那には、魔神獣ガイデアとの争いで死に別れ、今は彼女が族長の座に就いている。
彼女は兎族の中でも特殊な一角兎と言う種族で、頭には長い一本のルビー色の角を生やしている。
そのルビー色の角は魔石と同じようなものに該当し、魔力を大幅にアップできる事ができる。
そのために人間たちからは、角を求めて狙われる事が多い獣人の種族だ。
兎族の中では魔力が強く、索敵能力とか諜報には特化した能力を秘めている。
その力を利用し、街から5キロも離れても索敵が可能なのだ。
「アイリーン様、本当にゴルゴダの街に仕掛けるのでしょうか?」
側近の一人、同じ一角兎の獣人のカザックと言う若い男性が話しかけた。
「そうだが、何か不満か」
「正直にお答えします。
われわれの力は脆弱です。
この兵数では、あのゴルゴダの街に仕掛けるのは無謀と考えております。
兵の士気も、街に近づくにつれ下がっている気配が感じ取れます。
近づくのがこの場所までで、将校は限界だと思った次第です」
「わかっている、それはわかっているのだ。
だからこの場で一端索敵をかけ、わが息子が居るか探っているのではないか。
場所を特定したら、少ない人数で侵入を試みると話しただろう。
残りのおまえたちは牽制で良い、時間を少しでも稼いでもらえれば良いのだ」
「しかし、しかしながら」
「ゴルゴダの街の見取り図は手に入れてある。
ユリングの居場所を掴めれば良いのだ。
あとは私がうまくやる協力してくれ」
「族長、あなたが言いたい事はわかります。
しかし、潜入するのにも難色を示すでしょう。
ゴルゴダの人口は25万人と言われています。
街事態、城壁に囲まれ小さいですが、その割には大人数の人口を抱えています。
出入りも激しく、魔導王国ザンブグルムでも栄えている街です。
その街で奴隷は2割以上いると推定されます。
人間を除けば3万5千人の奴隷になった獣人が居るでしょう。
われわれは1800名そんな数で奇襲を仕掛けるとはそれに、奴隷になった者が、奴隷区に囚われているとは限りません。
ゴルゴダの街には貴族街があります。
貴族街に売られてしまっているのであったらわれわれの力では侵入も憚れるでしょう」
「ユリングが貴族街に売られて居るだと、そんなバカな話があるか」
「言いすぎました。申し訳ご座いません。
しかしです。奴隷区で捕まっていたとしてもです。
魔導王国ザンググルムは魔法都市の恩恵を受けています。
魔法の防御結界や罠など張られていますでしょう。
駐屯兵が少なくても容易に助け出すことはできません。
逆に捕まって奴隷として、われわれが売られてしまうのではないのでしょうか。
それを皆が恐れているのですよ」
「……」
「魔神獣ガイデアの消失はわかっております。
ここは一端ひいて獣人族の各部族に協力をお願いしてみてはどうでしょうか」
「わかっている、わかっているのだそれは、しかし、しかしだ。
時間が、時間があるのか。
おそらくだが、ユリングは人間たちによって角を剥ぎ取られているだろう。
ユリングは幼い、角を失くして、いつまで耐えきれるかわからない。
今、生きている事はわかっているのだ。
時間が、時間がない。
このチャンスしかユリングを助ける事が出来ないのだ。
協力してくれ、皆のもの。
探し当てれば、私に付いて来てくれる者だけでも良い。
突入したいと思う」
「了解いたしました、私は付いて行きますのでご安心を」
「ありがとう、助かるよ、カザック。
索敵は慎重におこなってくれ。
少数精鋭で突入する事にする」




