第20話 寝床造り
助けてあげたローパーの娘さんは大丈夫そうだな。
他のローパーが居ないか探してみるか。
その前に砕け散った黒鬼とゴブリンの死体を片付けてしまおう。
片付けると言っても、食べておなかの中に入れてしまうだけの話なんだけどね。
ここまで走って来たから、体力も使って腹が減ってきている。
それに助けてあげたローパーも、傷ついて再生したばかりだ。
体力回復のために食べた方が良いだろう。
私も死にかけた時には、再生するためにかなりの食糧を必要としたからな。
体の血肉にするため、倒した鬼とゴブリンを食べさせてあげるか。
私は体から触手を出し、死んでいるゴブリンを掴み、目の前のローパーの娘さんの前にそっと置く。
黒鬼が転がっているところへ行き、体から触手を出し黒鬼を食べやすい大きさに引き裂いてしまう。
最初の打ち込みで、ほぼバラバラになっていたのであっさり引き千切れてしまった。
うーん、残念、鎧も砕けたか、1人は完全にぺちゃんこで原形がない。
解体して剥ぎ取って置きたかったな、もったいないことをした。
服や鎧の仕様で推測できる情報をとりたかったんだよね。
緊急時だったからしかたないか。
さてと、食べてしまおうかな。
私が黒鬼を食べ始めたら、助けてあげたローパーも同じように食べ始めた。
言葉は通じないが、行動パターンは同じローパーなので何となくわかる。
基本、ローパーは腹が減ったら狩りして食べて、おなかがいっぱいになったら休む、その繰り返しの生物だと認識している。
それしかダンジョンでしていないのだ、こちらにいるローパーも同じようなもんだろう。
食べ終わった。助けてあげたローパーも食べ終わったようでゲップをしている。
大きさからしてゴブリン1匹は大きかったのだろうか、体が膨れてしまっているのだ。
残っているバラバラになった黒鬼とゴブリンの死体はいつもどおり氷結魔法で凍らせて空間収納魔法の中に閉まって置く。
ここは異世界だ。
いつ食べ物が取れなくなるかわからないからな。
少しでも空間収納魔法の中に保管しておいた方が良いだろう。
あと片付けも済んだし、他のローパーを探してみるか。
まだ、明るいし、時間もあるようだ。
日が頭上から落ちたくらいで、時間的に午後の2時くらいを回った感じだと思われる。
幸いまだ昼間なので他のローパーがいるか探してみるか。
とりあえず、岩山付近にいると言うのでそちらに向かってみる。
私が動き出したら助けてあげたローパーの娘さんもあとからついて来た。
まぁ、同族のローパーだ。
サイズは違うけど仲間だと認識したのだろう。
それはそれで良い事かな。
大きな岩山の方に向かったら、大きさは小さいが、つがいで居る3匹の子供を連れている親子づれのローパーを見かけた。
近くにある枯草を家族で食べているようだ。
私が来ても特に警戒した感じはない。
同じローパー同士だからか、私も警戒するような事が感じられないのだ。
うむ、やはり大きさは小さいな、雄らしきローパーも大きい触手が6本しかない。
体格は小さいが外見の色が私と同じ色だ、雌らしいのと比べて一回りくらい大きい程度だ。
こちらの世界のローパーは私より二回りくらい小さく、触手の数も少ないようだ。
ローパーとして同じような雰囲気を出しているので同種族だろう。
岩場を見ていると、ところどころに穴が開いている。
1メートルくらいの丸い穴があいており、その中に大きな空洞ができているのだ。
どうやらその中に住んでいるらしいな。
穴の中で休んでいるローパーが何匹かいるのが見える。
岩山にたくさんの穴が開いているのもあるけど、地中にも穴が掘られているのがある。
そちらにもローパーが居たけど1匹しか入っていない。
数多く岩山に穴があいて空洞もあるのに、わざわざ土の中を掘って住んで居るとはかわりもんだな。
! もしかして1匹だけだから岩山の穴には入らないのか?
つがいになったりすれば岩山の穴を住処にするのか、そんな気がしてきた。
ここら辺にいるローパーは子供を入れ全部で47匹か、数としては少ないのかどうなんだろう?
どう見ても集団行動はしてはいないみたいなんだけど、仲間同士近くにいて適当に巣穴を作って住んでいるって感じかな。
望遠透視能力で遠視をしたら、3キロ先の岩場にローパーが生息しているのがわかった。
数は50匹くらい、ここと同じようだ。
50匹くらい個別に集まって生活しているって感じかな。
まわりの食糧事情もあるし、補える範囲で数を調整しているのかもしれない。
大食漢の私がいると問題が出て来るかな、別に狩りをして適当に食糧調達を補おう。
ここ辺にいるローパーは子供を入れて47匹、10世帯くらいのローパーが集まっているのね。
他の場所へ住んで居るローパーの同じ感じだろうな。
とりあえずここにローパーが住んでいる事がわかっただけでも良いか、助かったといっていいな。
迎えが来るまでお世話になることにしよう。
私もどこか巣穴を作らなくてはいけないか。
巣穴が結構空いているけど、大きさ的に出入りが難しいので新しく掘り直した方が良いな、大きな岩山なのでどこに造っても問題はないと思う。
私は新参者だから、一番端の目立たないところに造っておこう。
ちょうど良さそうな場所があった、早速岩山を繰り抜いて、巣穴でも造ろうとするか。
まだお日様は登っている、日が落ちるまでには完成させてしまおう。
巣穴を造るのはそれほど難しくはなさそうだな。
岩山を繰り抜くだけだからね。
私はそれほどこだわりがないから住めればいいのだ。
魔法を使えば早くできそうだけど、今回それはやめておこう。
ダンジョンではやったりするんだけど、ここではさすがに迷惑になる。
こういう時に役に立つアイテムを持っている。
空間魔法を使い、アイテムボックスから神剣・神威を出す。
じゃ じゃーん、神剣・神威。
勇者アレスからぶんどった、似非神さまの翼人が作ったとされる強力な剣だ。
調べてもらったら、元の世界であった材料で翼人の知識を駆使し作られたものらしい。
剣の能力は、さまざまな魔核をはめ込み、星からエネルギーを借りると言う、いわば詩織さんが世界全体でおこなっているシステムと同じ見たいだ。
魔核を利用し剣単体でそれができるらしい。
作られた理由は不明だが、どうせ似非神さまがアレスを利用するために渡したのだろう。
神剣を渡すから世界の危機を救ってとか言ってアレスを勇者に祭りあげ、神の啓示を言って、手足のようにこきつかう。
そんな事をやっていそうだな。
アニメと漫画でよくあるパターンだな。
街が魔物などに襲われ、危うくなっている主人公に強力な武器とか異能を授け力をかす。
力を受け取り魔物を倒す。
力をもらった主人公は感謝して神の使徒となるってパターンがよくあるな。
結局、むちゃなんだいとか押し付けられこき使われるんだよね。
最初から神さまが自分の都合のいいように仕向けたのではないか?
地上には決まりがあり干渉ができないとかいうべたな話などいってあやふやにする。
感銘を受けた主人公が力を貸すと言う定番の話だな。
別の見解で、ブラック企業に就職した、勇者ではないかな。
勧誘したのは上司である駄女神さま、会社からの支給品は特注品のアイテムとチート能力。
人間から見れば強力なアイテムやチート能力だけど駄女神からすればあたり前にもっているアイテムやチート能力だから使い捨ての道具にしか思っていない。
勇者選定も面倒なので特定の区域に情報を流し転生すれば面白いことができそうだと世論操作を流す。
転生者も数を撃てばあたる感覚で多く選出する。
人間としては高価なアイテム、チートな能力をもらったので、それを枷に高い目標の世界を救うとか魔王を倒すなんてブラック企業顔負けのノルマをかせられる。
それを気づかずに、騙せれて働かせされて、世界を救った時には勇者はお払い箱になると言う、よくある話じゃないのか。
世界を救うとか魔王を倒すとか、いくら強力なアイテムやチート能力を支給されたって割にあわないよ。
勇者アレス君もそうやって騙されてしまったのではないかな。
私が結局返り討ちにしたんだけどね。
しかし、神剣・神威の能力は確かにすごい、戦闘に使うと魔法効果を増幅し多大な威力を発揮する。
それに神剣から魔力を供給してくれるからこちらで使うMPが少なくて済む。
ただ、それは戦闘の場合であって、私の場合、どちらかと言うと獲物を切り裂く包丁としての用途が多い。
ダンジョンで壁や床、柱を切り裂いて、食べるために切りわける包丁の代用が多いのだ。
切れ味も最高で、細かくなんでも切り裂けるので重宝はしている。
なんて便利な出刃包丁なんだ。
神剣を包丁として使うのはどうかしていると思われるけど、使っているのがモンスターの私だから問題ないはずだ。
消化液をかけて溶けてしまったので、見た目はカッコ悪くなってしまった。
神剣には見えないんだけど、片刃になったので使いやすい。
片刃だが切れ味は以前とかわっていない。
自分の体に挿されたことがあるのでよくわかっている。
今も遜色のない切れ味を保っているのだ。
神剣・神威を使えばあっと言う間に巣穴などできるだろう。
切り裂いた岩片を外に出すのがたいへんだが、最初から空間収納魔法で収納すれば運ぶ事もなくあとでとりだせばいいだけだ。
切り裂いた岩片は入り口が見えないように、塀がわりにすればいいしね
食べてもいいけど、量的に全部食べるのはちょっと遠慮したいな。
段取りをこの手順でやればはやく終わると思う。
どうせだったら中の部屋を広く造ってみるか。
岩山の真ん中だけくりぬいても大丈夫だろう。
あっ、それだとまわりに穴があいているのに影響があるだろうか。
耐久力が弱くなって崩れると大変だから、ほどほどにしておくか。
まずは、自分が心地良いスペースを造っておいて、あとで増築すればいいかな。
早速切り出してみるか、私は入り口を作るため神剣を岩山に突き刺した。
「サクリ」
おぉ、まるで豆腐を切るように岩山に突き刺さるぞ、さすが神剣、切れ味が凄まじいな。
しかし、どうしようかな?
他のローパーの巣穴は直系1メートルの入り口から7メートルくらい直線的に掘り下げてあり、中が広い部屋になっているだけだ。
私は入り口は丸穴じゃなく、普通に通れるように大きく切りい裂いてしまおう。
他も移動のしやすいように大きく切りさいてしまうか。
洞窟を造るよに切り下げよう。
大きな岩山だ多少切り裂いても問題はなかろう。
好きなように岩山を切りぬいてしまう。
しかし、ここの巣穴に住んで居るローパーって大丈夫なのかな?
外から穴が直線状にしか掘られていないんだよね。
中は広いと言っても攻撃とか受けやすくない。
例えば弓矢とか魔法とかいきなり巣穴にぶっ放されたら防衛的に問題があるでしょう。
もっとも爆発系の魔法を中に放たれたらそれで一貫の終わりになりそうだけどな。
あっ、それはどこでもおなじか、人間の家の中にエクスプロージョン系の魔法が放たれたら一瞬で終わるしね。
大きな敵が入ってこないだけましなのかな。
巣穴が掘り下げられた。
さすがに直線だけだとまずいので、角度と段差を造り、うまく切り掘りさげていく。
なんとか巣穴が完成した。
余裕ができてきたら、別の部屋を増築するのもいいだろう。
他のローパーの巣穴とは離れているし、大きい岩山なので好きに掘り起こして大丈夫だと思う。
でも増築、増築って造って、岩山の中が穴だらけで蟻の巣状態になってしまうかもしれないな。
やる事がなくて暇でやってしまいそうに思うよ。
私の場合、望遠透視能力があるので透視すれば外の様子は問題なくわかる。
索敵もあるので近づく敵にはよほどではない限り、見落としは、しないだろう。
よし、これで良いな。
そういえば、こちらに住んでいるローパーたちは、望遠透視能力を使えるのかな?
スペックが小さそうなので、使えそうにないような気がする。
魔法も使えるのかあやしいもんなんだよね。
ふぅ、これでまずは寝床になる部屋は確保できたな。
ダンジョンよりは狭いが、これで雨露はしのげる。
繰り抜いた岩片で入り口前に塀として置いておけば十分かな。
あとで調整してうまく造り変えよう。
寝床部屋ができたので入って休み始めた。
部屋は狭いが居心地は良い。
休め始めたら、助けたあげたローパーの娘さんが勝手に部屋に入ってきて横へ座ってしまった。
えっ、確かに助けてあげたけど、私が作った部屋にいきなり入ってくるのはそれって問題がなくないか?
これは生物としての理だから仕方ないのかな。
まぁ、部屋に入って来てしまったのでこればかりはしかたがないか。
追い出す事も可哀そうだし、ダンジョンに居た彼女もそうだったからな。
迎えが来るまでおとなしくここに居るとしようか。




