第19話 同種族のローパー
深い森林地帯を抜け、木がまばらに生える地域にはいってきた。
入組んだ傾斜度の地形になってきたので、一端スピードを落とし慎重に進む。
一度とまって、スキルを使うか、望遠透視能力で遠視をする。
2キロほど降りれば平野に入るのか、その先には、岩山がつらっなっているな。
ローパーは岩山がある地帯に住んで居ると言うので行き先は間違いないと思う。
先へ進もう。
平野に入ってから、木や植物の種類がかわってきた。
果物や木の実が生い茂っている植物が多く見られる。
これだけ豊富に果実があるならば、生物の住みやすい環境なんだろう。
果物など目当てに多くの生物が住み着いていると思われるな。
そんな事を思っていたら、索敵で亜人らしい生物を見つけた。
あれは俗に言うゴブリンと言われる種族か。
上半身裸で灰色の肌をした、おなかがぷっくり出ている生物が居た。
1キロ先にいるのだ、とりあえず行ってみよう。
近くに寄って観察してみる。
下半身には獣から剥ぎとったと思われる革のような布を巻き付けている。
貧相だと思われるいちもつを見なくて良かった。
透視能力を使えば見えてしまうので、ここは絶対に能力を使わないでおこう。
本当に気持ち悪い貧相な生物だな。
アニメや小説、ゲームの設定では人間相手に厄介なモンスターとして扱われている。
闇族の分類する悪い小鬼のモンスターとして扱われている設定がほとんどかな。
良いゴブリンの設定は稀な方だな。
ゴブリンキングとかロードとかいれば序盤の強敵として出てくる設定が多い。
転移する前の元の世界にはいなかった種族だ。
この世界ではどの部類の種族の扱いに入るのだろう?
やはり悪い小鬼として扱われている可能性が高いか。
そういえば召喚された時に、城壁の戦闘で見かけたがちょっと違う気がする。
ゴブリンでも上位個体だったのかな? 鎧を装備していた。
同じゴブリンとは思えない。
それは別として、今の初見としての感想をのべよう。
なんか食べても美味しくなさそうだなと思ってしまった。
強いとか弱いとかではなく最初の感想がそれだとは。
やはり私はモンスターなのか、どちらかと言うと食べる事を優先で物事を考えてしまう事がある。
ゴブリンたちは5~10匹くらいの集団で行動しているのか?
それも雄ばかり? 雌のゴブリンは今のところは見かけないな。
もしかして存在していないのだろうか。
この地域に入って、ゴブリンたちが集団でうろついているのがわかって来た。
近くに亜人たちの住処があるのだろうな。
気配と音をできるだけ消して近づいてみたのだが、私が居る事を誰一人気づいていないみたいだ。
透明化能力を察知できるほどの能力はどうやら持ちあわせてはいないな。
見た目どおりに能力は低そうか、先ほど見た四足歩行の魔獣とは大きな違いだ。
先を移動する
またゴブリンの集団を見かけた。
思った以上にゴブリンが多く生息している。
亜人が多いと言っていたが、ここら辺一帯、亜人が支配してい領域かもしれない。
ゴブリンの集団は果物がなっている木に群がっている。
木に登り柿のような果物を取ろおとしている。
ゴブリンの食糧事情は果物や木の実なのか?
弱そうなので狩りとかできそうにもないような気がする。
武器とか携帯している訳でもなく、ただ集団で食糧を探してうろついているみたいだ
おぉ、ゴブリンの1匹がやっと木に登れたみたいだ。
時間がかかったな。
大半のゴブリンが下で見ている者が多く、他にも木に登ろうとして頑張っているやつがいるけどまだ登れない。
それほど大きな木ではないし、あそこの枝に手をかければ簡単に登れると思うんだけど。
最初からあきらめて登ろうとしていないゴブリンが多数だ。
駄目なやつらだな。
登っているやつは果物を取り、気の上でかぶりついて食べている始末だ。
あらら、下にいるやつらは物欲しそうに見ているよ。
気の毒に思えてきた。
果物が多く生っているのだから、下にいる仲間に取ってわけてあげれば良いのに。
意地が悪いと言うかなんというかまさに小鬼と言う感じの頭の悪い生き物だ。
警戒している様子がまったくない。
ここら辺りがゴブリンの縄張りなのか?
それにしても無防備すぎではないのかな、私が近くにいるのにね。
洞窟などに住んでいそうな雰囲気だけど、ここら辺にあるのだろうか?
これだけ多くのゴブリンをみかけるから、集落でも作っているのかな?
いやいや、いくら数がいても食べ物を探してうろついているのではさすがに集落はないか、やはり洞窟などに住んで居そうだな。
まぁ、ローパーも同じようなものか。
いや、ゴブリンよりも絶対に生活環境が悪いだろうな。
本能で動いているモンスターなので、普通に洞窟とか穴倉を見つけて住んでいるのだろう。
それともじかに外にいるかもしれない。
妥当なところは穴をほって土の中に住んで居るところだろうな。
まさか、ゴブリンもローパーを狩ったりできるのだろうか。
いや、それはないな、こちらにいるローパーが極端に弱くなければ無理だろう。
ゴブリンの観察はもういいかな。
同族のローパーがいると思われる場所を探してみるか。
岩山を目指して歩いて行く。
目の前に大きな岩山が見えてきたな、もうちょっとでたどりつきそうか。
! なんだ? 直感でこの近くに同種のローパーがいそうな感じがした。
共鳴とかあるのかな、とりあえずいそうな感じがする方向へ移動する。
林を抜けたら、大きな岩山の前にでた。
岩山の前には草原がはてしなく広がっている。
なるほどね、食糧になる好きな草や木がある。
岩山を利用し隠れるか、穴など掘って住処にもできる。
ローパーにとっては絶好の地域ではないか。
確かにここだったら居てもおかしくはないな。
! 索敵をしたら不穏な気配が感じられる。
望遠透視能力で確認すると何かが争っている様子が見えた。
ここから1キロ弱の草原の中で争っているやつらがいるのだ。
争っている者たちを見ていると、なんと小さなローパーが巨大な鬼とゴブリンの群れに襲われているではないか。
襲われているローパーはやけに小さい。
子供かな? 体長1.5メートルくらいか?
触手を大きく見せ擬態状態でも3メートルの大きさくらいしかないだろう。
ピンク色の体、赤い模様が触手に入っているので雌のローパーと思われる。
襲っている巨大な鬼は3メートルはあるぞ。
でかい、黒い肌をしてかなりの筋肉質が見てわかる。
まさに黒光りしているのだ。
黒鬼ってやつかな。
金属の銀色をした胸当てみたいな鎧を付けている?
初期のペガサスの聖闘士の鎧みたいな防具だな。
銀色胸当てが黒光している肌によくあって見える。
なんかちょっと鬼なのにかっこ良いぞ。
なぜだ、野生の鬼だろう。違うのか?
きちんとした防具を身に着けているなんておかしな話だ。
まさか鬼なのに人と同じように生活環境を整え生きているのか?
そうでなくては鎧とか付けていないはずだし、鬼だけど人間クラスの知識や知恵があるのか。
遠目で見ているけどそんな感じに見受けてしまう。
うぅ、亜人のモンスターの癖に、私の容姿と違うではないか。
これはずるい、ずるいではないか。
見た目を気にしている私にとっては、酷な話だぞ。
鬼の癖に羨ましい限りだ。
あいつらも私と同じモンスターだろう。
いや違うか。
私は魔法生物でそれも、高度に発達した人類に作られた、惑星戦略生物兵器か。
一応、生物兵器らしいんだよね。
見た目もわざと異形に作っており、危険信号のような模様とか近寄らないように入っているみたいだからね。
なぜか、不公平な感じがする。
うぅ、これは同族が襲われているのもあるが、ねたみついでに八つ当たりさせてもらうぞ。
この世界に来てただでさえ機嫌が悪いのだからな。
巨大な黒鬼は3匹いる。
大きさはどれも3メートル弱くらいって感じか。
それに取り巻きのように簡易な武装した体長1メートルくらいのゴブリンが10匹ほどいて逃げられないように取り囲んでいる。
先ほどいたゴブリンと身なりが違うな。
黒鬼といっしょに行動しているので、配下といっていいな。
巨大な黒鬼は大きな金属製の鉈の武器を振り回している。
いたぶるように小さなローパーを襲っているのだ。
これはひどいな。
小さなローパー1匹に対して武器を使い、取り囲んで集団暴行とはこれはあってはいけない事だろう。
今、見ている状態だと簡単にローパーを殺せると思えるのに、甚振ってやがる。
殺すんだったら、さっさと止めを刺せと言いたくなる。
同種だと思われるローパーは縮こまって動かないでいるのに。
こりゃいかんな、つべこべ考えるより急ごう。
今だったらまだ間にあうかもしれない。
異世界だけど同種らしいローパーが襲われているのだ。
助けてあげなくてはいかんだろう。
私は俊足のスキルを使い助けに向かう。
俊足のスキルを使ったら、先ほど走っていた倍以上のスピードで走り抜けた。
やはりすべての魔法やスキル、それに身体能力までこの世界では上がっているみたいだ。
襲っている亜人のやつらの近くに来た。
走って来たのでかなりの音と粉塵をまき散らしてきたのでさすがに気づいたようだ。
私は透明化能力を使用しているが亜人たち全員が私の方へ振り替えっている。
私は(18)透明化能力を解き姿を現す。
姿を現したと同時に、襲っている亜人たちに対し殺気を混じった威嚇を放った。
衝撃破の様なものは出していないが、取り巻きの10匹ほどいたゴブリンは全員、体を硬直させ口から泡を吹いて倒れだしてしまう。
死んでしまったやつらもいるみたいだ。
3匹の巨大な黒鬼たちも効果があったようで硬直している。
びくつきながら振り返り怯えた形相をしている。
私はすでに攻撃態勢を整えており、3匹の巨大なく黒鬼に対し大きい触手で殴りつけた。
「バコン、ガコン、グシャリ、ズドン」
硬直し無防備だった黒鬼は、かわせることもなく触手攻撃を食らった。
まず2匹の巨大な黒鬼を殴りつけ吹っ飛ばす。
2匹の黒鬼は体をひしゃげりながら、吹っ飛び地面に転がりながら落ちて体がバラバラに砕け散る。
もう1匹の巨大な黒鬼は頭上から大きい触手で打ち付けた。
体の原形がなくつぶれ、地面に8メートルくらいの陥没したクレーターが出来てしまった。
手加減をしないで、打ち付けたら原形が跡形もなく、つぶれてしまった。
おまけに地面にクレーターもできてしまった。
その上近くで泡を吹いて倒れていたゴブリンも巻き込んで原形がなく粉みじんに吹っ飛んでしまった。
あちゃー、これはやりすぎたかな。
こんなに脆いとは思わなかったんだよ、ごめんね黒鬼ちゃん。
ゴブリンたちも痛み感じず死ねたと思うので、それで勘弁してね。
巻き添を食らって同族のローパーにケガがなければ良いんだけど。
どうやら大丈夫だったみたいだ。
縮こまっていたので、巻き込まれず、無事だったようだな。
どうやら襲われていたローパーは私の攻撃で巻き添えを食らわずに済んだようだ。
襲われていたせいか体を縮こまらせて、小さくなっている。
頭上の大きい触手が2本ほど切られて体中に無数の切り傷がある。
切り裂かれた部分から、透明な粘液も出てしまっている。
痛々しい状態になっていた。
こりゃあひどいな。
私はすぐさま上位回復魔法を使い回復魔法をかけてあげる。
上位回復魔法を使ったせいで、切られて失っていた大きい触手まで一瞬にして完全再生した。
おお、これはすごいな、自分でも驚くほどの瞬間再生だ。
さすがに上位回復魔法でも、一瞬でここまで再生までするとは思ってもみなかった。
現状は、ダンジョンからの魔力供給もなく神剣・神威の効果も使っていない。
それなのに一瞬でここまで再生するとはな。
上位回復魔法は異世界では効果はありすぎるようだ。
これは初級回復魔法だけでも良かったのかもしれない。
異世界では魔法効果が高いな。
まぁ、無事回復し再生までしたのだから良かったのだろう。
助けてあげて、回復までしたのは良いのだが。
怖かったみたいで、いまだに、ローパーは縮込んでしまい動けないでいる。
そりゃそうだよな。
私だって3メートル近くある巨大な黒鬼3体とゴブリン10匹に囲まれたら怖いもんな。
命があっただけ良いだろう。
もう少し遅かったら、狩られてしまったかもしれない。
とりあえず、巻き添えを食らわず、倒れているゴブリンの頭をつぶし止めを刺しておく。
心臓を止めて生きているのもいるのだから、念のため全員の頭をつぶしておく。
さすがに頭をつぶせば生きてはいないだろう。
元居た世界では生きている輩もいたけど。
世の中には頭をつぶした程度では生きている生物がいるので不思議ではない。
望遠透視能力で死んでいるか念入りに確かめてみる。
ここは異世界なので状況をまだ把握できていないのだ。
もしかしたら頭をつぶしたくらいじゃ、生きている生物がいてもおかしくないからな。
危険が去ったことがわかって、襲われていたローパーは立ち上がって来た。
私の事をじっと見はじめている。
私も同種なのか観察して見る。
おぉ、なかなかかわいい子だな。
! どうしてだ、目も前の雌のローパーをかわいいと思ってしまった。
どういう基準で判断したのだろう。
意味がわからんぞ、人間ならまだしもローパーをかわいいと判断するとは異常な思考だよ?
人間だった記憶とか残っているのだけど、やはりモンスターになってしまったと言うことなのか。
モンスターの基準で本能的に判断しているのだろうな。
人間からしてみれば大きさが違うだけで、見た目は変わらないと思うが、私には違って見えたりするんだよ。
色艶もあるし、触手だって細いとか長いとかわかる。
思考がいつの間にか変わってしまったのかな?
こんな姿をしているがいまだに人間の感覚だと思っていたはずなのに。
実際モンスターだし、素直に今の感情を受け入れるしかないな。
このローパーの娘さん、体長は1、5メートルくらいか。
頭上にある大きい触手は6本、これは私より少ないな。
元の世界では子供でも最初から8本は生えそろってくるはずだけど、こちらの世界でのローパーは6本しかないのだろうか。
先ほど回復させたが、前に襲われて失った形跡もないようだ。
最初から6本の可能性が高いか。
全身は薄いピンク色した、色艶の良い肌色だな。
大きい触手の先には2本の赤い線と黒の模様が入っている。
頭部に8本ほど細い触手があるのだな。
こちらも私と比べて数が少ない。
私は20本以上あるぞ。
しかし放っている雰囲気は同じだ。
魔力の感じは極端に少ない。強さも弱く感じられる。
弱そうだが、同種族のローパーと間違いないと思って良いだろう。
望遠透視能力で内部を見てみると、ほぼ同じだ。
外回りの赤い目の様なルビーが全方向に8個ついている。
私に比べ数は少ない、目の奥にある中心付近の内部に赤い魔核がある。
しかし魔核がやけに小さい。
ゴルフボールくらいの魔核があるだけだ。
私は改造されてからバスケットボールくらいの魔核になっているぞ、だいぶ違うな。
やはりと言うか、このローパーにも脳みそはないな。
魔核が脳みそである記憶装置と思考をつかさどるデバイスになっているんだな。
詳しい話は管理者である詩織さんに聞けばわかると思うんだけど、研究中のようで出てこないから聞くことができない。
とりあえず帰れたら、聞いてみるのも良いか。
同種族と思われるけど力の差がありすぎる。
もしかしたら、遠い過去にこちらの世界に召喚され、野生に帰って劣化したローパーかもしれない。
おっと、あまり望遠透視能力を使って見ていると、嫌に思われそうなので見るのはここまでにしておこう。
ダンジョンで望遠透視能力を使って彼女を見た時にいきなり、大きい触手でたたかれたからな。
あまりじろじろとは、透視しない方が良いだろう。
! 魔核についてふと思ったのだが、もしかして魔核とかが残っているとバックアップとかで死んでも記憶がある状態で生き返るかもしれないな。
まてよその前に、私はすでにバックアップが取られているのでは?
捕まった時に取られてしまった気がする。
と言うか詩織さんはそのバックアップデータを元に転生についての研究をサイバー空間で実験でもしているのではないか?
詩織さんがやっている今の研究てそれじゃないよね。
前から転生については研究している事例はあったけど、私と言うサンプルが入ったから新たな実験を始めたのか。
もし帰れたとしても、メンテナンスとか言われてまた調べられる可能性があるぞ。
そう思うと本当に元の世界に帰って良いのだろうか。




