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第16話 獣蒐京


 ミスティリア大陸。

 北東の位置にあたる、大森林地帯に、獣人たちが住まう『獣蒐京』と言う国が存在する。

 さまざまな種族の獣人たちが集い、建国した国だ。

 

 昨日の夜、春月でもないのに、夜空が眩しく光だした事により、獣人たち一同は警戒感をあらわにした。


 春月の時期に3つの月が近づき、強烈な光が辺り一面に照らす現象が起きる。

 夜だと言うのにまるで、昼間の日差しのような強烈な光が数分間、照らし合わせるのだ。


 この現象については、地上にいる者は誰もわかっておらず、この世界ではあたり前にある自然現象と認識されている。


 この宇宙の、天体現象の1つに過ぎないと推測されるのだが、地上にいる者たちには、まだ解明されていない現象なのだろう。


 しかし、このミスティリア大陸では、大いなる災いの種となっている事がわかるのだ。


 数年前に、突如ミスティリア大陸に現れた巨大な亀の魔物、魔神獣ガイデアが目覚めてしまうと一同が危惧している。


 毎年の春月の夜に、3つの月が近づき、強烈な光を地上に照らす日がある。

 光を受けた魔神獣ガイデアは、深い眠りから覚め活動を開始するのだ。

 目を覚ますと同時に捕食対象を探し始める。

 冬眠から覚め、腹を空かせた状態だ。


 魔神獣ガイデアは雑食で何でも食べる。

 その巨体ゆえ、かなりの食糧を必要とする。

 雑食ゆえに食べ物にはこだわらない。

 目に見える生き物、動物、植物、関係なく、腹が満たされるまで食い続ける。


 腹が膨れれば、寝床に戻り体を休め、一定の期間に入ると眠りに就くと言う事を、繰り返しおこなっている。

 腹が減っていなければ、おとなしい魔物なのだが、その巨体ゆえ、食糧がまかりきれない事が問題なのだ。


 一度眠りに就けば、よほどの事ではない限り目を覚まさない。

 しかし、目を覚ました時は必ずと言って良いほど機嫌が悪く獰猛どうもうになる。

 腹が満たされるまで、捕食対象を探し食らい続けるのだ。


 他の大陸に居た時も、同じような事を繰り返していた。

 そのせいで地域一帯が何もない不毛な荒地になり、草木も生えず生命もいない乾いた大地になった。

 餌を求め、この地にやって来たのだ。


 魔神獣ガイデアと呼ばれる巨大亀は、この世界の生物ではない。

 一部の心ない人間が力があるものを求め、異世界から召喚した、知恵のある魔物だ。

 それゆえに、この世界の常識では考えられない力を擁している。


 ミスティリア大陸に移住して来た時に、原住民との激しい戦いに陥った。

 人間界、獣人界、知恵のある魔物たちは種族をこえ、協力し合い魔神獣ガイデアの討伐に参加した。


 しかし、戦いは劣勢を強いられる。

 魔神獣ガイデアの力は余りにも強大で、力及ばないと悟った人間たちは、一早く戦いに見切りをつけ裏切りに走った。

 魔神獣ガイデアと交渉し、契約にこぎ着けたのである。

 

 人間たちの裏切り行為によって、他の種族の者たちはあっさりと敗北してしまった。

 敗れた者たちには、つらい枷を強いられることになる。

 魔神獣ガイデアに食糧の供給を、常に強いられる事になったのだ。


 年に1度だが、供物を捧げる生贄の儀式がおこなわれる事になる。

 毎年、神を崇めるように、供物を捧げる事になってしまったのだ。


 人間たちが裏切りさえなければ、多大な犠牲があっても負けることはなかったと悔いを残す者もいる。


 現実には、魔神獣ガイデアの圧倒的な力によって蹂躙じゅうりんされていたのだが、恨み節を言う者があとを絶たない。 

 それだけ人間たちの裏切りにより、戦況が一変し敗れた記憶が残っているのだ。


 敗戦の責任は人間以外、他の種族の者たちが身をもって受けている。

 人間たちは魔神獣ガイデアに一定の食糧を差し出すと言う事で契約にこぎつけた。

 人間達にとっても大きな負担だが、魔神獣ガイデアにとってはわずかと言って良いほどで、腹を満たす事が出来ない。

 

 余りにも大きい巨体であるため、食糧がまかりきれないのはわかっている。

 敗戦した者たちが供物を捧げると言う形で残りの食糧を工面しているのだ。


 腹が満たされるまで供物を捧げる行為は続く。

 食糧以外の生贄が必要になり、多くの犠牲者が出ている。


 生贄は、おもに敗北した、獣人、亜人、知恵のある魔獣から出されている。

 ガイデアが居座っているこの地を去ろうにも、他の種族との軋轢があり、生存競争を強いれられるので、この地を去る事も出来ない。


 反抗しようものならば、大地が灰になるまで焼け焦がし蹂躙じゅうりんされる。

 原住民たちは動く事もできず、ただ腹を満たすために供給し続けねばならない。

 腹が満ち、再び眠りにつくまでは、彼らの平穏な生活が戻ってこないのだ。


 残念なことに、魔神獣ガイデアとは誰も戦う気はしていない。

 戦力が著しく衰えているのもそうだが、力の差が歴然とあるのがわかっている。

 魔神獣ガイデアも現状、自分に危害を加える者など居ないとわっているので、堂々とミスティリア大陸に住み着いるのだ。


 この世界でも5本の指に入るほどの力を持っているのがわかっている。

 神の代行者、勇者、魔王でも迂闊には手は出せない。

 他の大陸の支配者たちも、自分たちの力では勝ち目はないのがわかっている。


 しかし、手を出さなければ危険が及ばないと知っているので、ミスティリア大陸には一斉手は出して来ない。

 原住民たちが餌を与え続けていれば、特に問題ないと判断を下しているので、わざとガイデアを放置しているのだ。

 それゆえに、この大陸の者たちが苦境に陥っている。


 現状で春月にはまだ3カ月もあり、獣人、亜人、知恵のある魔獣との争も始まっていない。

 年に数度地域ごとに激し生存競争の争いがあるが、魔神獣ガイデアが座してからは、1年に1度の大きな抗争を始める事になっている。 


 春月の前にわざと争いを起こし、その死者を供物として捧げてきたのだ。

 今は時期的に、争いなど起こっておらず、生贄の用意などまったくできてはいない。

 争の前準備はおこなっていたのだが、供物の提供は用意されていない状態だ。

 昨日の眩しい光で、魔神獣ガイデアが目覚めてしまったのかもと、獣人たちは危惧している。


 獣人たちの集落から『獣蒐京』の総本部へ緊急の使者が次々と送り出されて来ている。

 中には各部族長、自ら『獣蒐京』へ入る者もいる。

 緊急の招集がないにもかかわらず、自らの危機感を持って集まり始めている次第だ。


 月の光によって齎された災厄を危惧し、獣人界で大騒ぎになっている。

 

 獣人達の中でも力のある狼の獣人の者たちが、すぐさま調査隊の斥候を出した。

 彼らは力もあり足が速く、視野も広い。

 魔神獣ガイデアを100名の狼の獣人の斥候部隊により調査させ、調べた結果、衝撃の事実が齎されたのだ。


 「ガロウよ、無事に帰って来たか。

 ご苦労であったな。

 それで魔神獣ガイデアの様子はどうだった。

 やはり目覚めてしまっていたのか?」

 黒色の毛並みの中にところどころに白い毛を生やした、中年の大柄の狼獣人の男性、2本の長い尻尾を持つ狼族の族長コクロウガが直属の一番信頼している部下へ、問いただしていた。


 部下の名はガロウ、22歳、体格の良い青銀色の毛並みをした若き勇猛な狼の獣人の青年だ。

 族長より多大な信頼を持たれており、実力も狼族の中で1、2を争うほどの力を持つ。

 魔法にも優れており、若いのに次期狼族候補と言われるほど信頼を集める狼の獣人だ。


 「コクロウガ様、お待たせしました。

 調査した結果をお知らせします」

 「そうか早く聞かせよ。

 こちらとしては、報告が待ちきれない」

 焦った様子で、コクロウガは報告を急かしている。

 

 「ハッ、コクロウガ様、魔神獣ガイデアに関しては確認できませんでした」

 「? 確認できなかっただと!」

 「はい、このミスティリア大陸の北の大地からは、どこにも確認できておりません。

 南の岩場に座しているはずなのですが、直接目視して確認しましたが、まったく見えず気配もありませんでした。

 部下を使い、広範囲を探させたのですが一向に見つけられません。

 今も、一部の人数を残し、捜索中です」

 「そ そうなのか、それは一体どうしてだ? 

 いやすまない、急かしすぎたな。

 報告を続けてくれ」

 「ハッ、原因は取り急ぎ出したので、調査の不足が否めません。

 わからないと今は言っておきます。

 申し訳なく思います」

 「わ わからないのか」

 「はい、ガイデアが座している場所には何も居ませんでした。

 あの奇妙な大きな呻き声がした時から消息を絶っているようです」

 「……」

 「ガイデアの座していた場所には、動いた形跡がありましたが、それ以外は何もありません。

 足跡は近くに数歩分残っておりました。

 それに地面には、炎で焼かれた痕跡が残っており、岩山が溶けガラス状態になっている場所もありました。

 余談ですが何者かが、ガイデアとあの場で、戦闘をおこなったと考えられます」

 「そうなのか? して、その戦闘をおこなった者はどこに行った?」

 「コクロウガ様、まだ何者かと戦闘があったかも不明です。

 あの場所には誰も居ませんでした。

 しかし、ガイデアが消息をたったのが何者かと戦闘があり、消滅させられたとしか考えられないと私は判断しています。

 われわれが聞いた異様な叫び声が、ガイデアの断末魔だと推測されます。

 また、やつの部下である砂漠にいる魔獣サンドワームの群れと、生贄の森でわれわれ獣人の監視していた直属の配下である魔雷獣ブロストも消えておりました。

 砂漠にいたサンドワームの群れはどうなったかはわかりませんが、一向に気配も姿も見せません。

 生贄の森では地面に緑色の血の痕跡が有り、何者かが魔雷獣ブロストと戦ったと思われます。

 また、その近くにですが2人の幼い犬の獣人が居まして、先ほど保護して連れて来ましたところです。

 彼らが何か事情を知っているのか、今しがた部下に問いただしているところです」

 「2人の幼い犬の獣人? 

 バカな、あの危険な生贄の森に、居たのだと言うのか?

 春月の一時期以外は、魔神獣ガイデアの配下である魔雷獣ブロストがいるのだぞ。

 あやつは強い、われらがいくどなくよこした精鋭部隊もやつ1匹により返り討ちにあっているのだ。

 ほとんどの者が殺され、帰っ来た者は少なかった。

 その場所で幼い獣人が生きているなどまず考えつかない事だろう」

 「そうでありますが現に保護しております」

 「そうなのか! あの森に入る事さえ困難なはず。

 それがよくその幼い犬の獣人が生きて居られたものだな。

 まさか、その幼い犬の獣人がガイデアを倒したのではなかろう」

 「さすがにそれはなかろうかと思います」

 「うむ、その幼い犬の獣人が、何か知っているかもしれぬな。

 それで何と言っておる」

 「それが人間の国、ザンブグルムから逃げて来たと言っておりました。

 昨日ですが、隣国のファング帝国が魔導王国ザンブグルムの首都シャングリアまで攻めて来たらしく、そのすきをついて逃げ出して来たと言う話です」

 「なんと、争っていたのは知っていたが、首都シャングリアまで攻め込まれていたのか」

 「そのようですね。

 しかし逃げるにせよ、ザンブグルムからあの生贄の森まで来るには魔獣サンドワームの住む砂漠を通らなくては来られません。

 迂回うかいするにしても、あの森は通らず自ら入るのも危険とわかっているはずです」

 「確かにそうだな」

 「われらは安全を有するため、生贄の森を避け、数時間要して東の谷を迂回うかいしガイデアのところへ行きましたが、あの幼い犬の獣人とはすれ違いませんでした。

 時間的にあの森に入るのには、砂漠を通るしかないのですが、あの砂漠の危険性は誰でも知っているはずです。

 そこを通るとは一行に考えられませんが、もう少し詳しく問い詰めたいと思います」

 「ガロウよ、その幼い2人の獣人を私の前に連れて来てはくれないか。

 私がじかに取り調べをおこなおうと思う」

 「コクロウガ様、それはお待ちください」

 「む、どうした何か問題でもあるのか」

 「それが、2人とも身なりがひどく、ボロをまとっていた状態です。

 人間に捕まった時に着させられる奴隷の服と同じものを着用していました。

 逃げて来たと言っていましたが、調べたところ奴隷の烙印もありません。

 人間に捕まればすぐさま奴隷の紋は付けられるはずと思いますがない状態でした。

 奴隷の紋など付けられていない獣人は、人間界で育てられたよほど人間に従順な者とかしか考えられません。

 考えたくはないのですが人間たちの間者の可能性もあります。

 気を付けた方が宜しいかと思います」

「確かにその可能性もあるか。

 魔獣神ガイデアの件があるからな。

 春月にはまだ3カ月もある。

 今のうちにわれらの内情を探りを入れる事も有ると言う事か。

 やつらも魔神獣ガイデアに食糧を差し出すのに、われらの経済状況を見て判断しているのだからな。

 まったくずるがしこいやつらだ。

 われらを裏切り、供物をこの上なく負担をさせているのだからな。

 やつら人間は腐っている。

 魔神獣ガイデアの傘をひいて好き放題勝手にやっている。

 魔神獣ガイデアが言う事を聞くとは限らないのにな。

 しかしわれらはそれに恐れているのも事実だからな」

 「……」

 「それを傘に我ら獣人を捕まえ奴隷としている。

 それも魔法で奴隷の烙印を付けさせ、強制的に従わせているのだ。

 あんな従属させる魔法はあってはならないものなのに。

 奴隷の烙印を付けなくても、仲間の獣人を人質にして脅して従わせる下賤なやつらもいるからな。

 もしかしてその類の扱いを受けている可能性か。

 しかし、私はその幼い犬の獣人がなにか知っているような気がする。

 何と言うか、往年の感が言っているのだ。

 ガロウよ、連れて来てくれないか」

 「わかりました。

 そこまでおっしゃるならば連れてまいります。

 それと取り調べをしていた時に、持っていた物があり、気になったのですが、金貨を10枚ほど所持していました。

 それがおかしいことに、われわれが見たことのない非常に重さのある金貨なのです。

 こちらでは見かけない模様も入っております。

 官僚に調べさせたところ、どこの国の物か判断ができませんでした。

 こちらの金貨です。ご確認ください」

「見せてもらおうか、ガロウよ」

 コクロウガは部下であるガロウから見たことのない金貨を1枚受け取った。


 「お、重い、こ、これはもしや、まさかな」

 「どうかなされましたか、コクロウガ様」

 「あり得ない。

 これはわが先祖が持っていた金貨と似ているのだ。

 もしやあちらの世界から来た者が居るのか。

 ガロウよ、銀狐のアコヤ婆婆、いやアコヤさまは来て居たよな。

 今すぐ呼んで来てくれないか。

 この金貨をぜひ見てもらいたい。

 それとアコヤ婆さまの能力も必要になるかも知れない。

 もう歳だから能力を使うのはきついだろう。

 回復魔法が使える者も用意してやってくれ。

 あと場所を変える。

 城の中央の会議場を使わせてもらおう。

 そちらへ幼い2人の犬の獣人とアコヤ婆さまを連れて来てくれ、重要な事が聞けるかも知れぬ。

 2人がなにかの訳があって話さなくても、アコヤ婆さまの能力があればすべてがわかるだろうからな」

 「了解しました。すぐさま、城の中央の会議場へ、お連れします」

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