第13話 奴隷の烙印
(ザンブグルム魔導王国、王都シャングリア)
ザンブグルム魔導王国、王都シャングリアの離れの一郭に貴族たちが住む区域がある。
その一郭の家の中で1人、朝食をとり終え紅茶を飲んでいる目つきの悪い青年がいる。
彼の名はアバントス・マルネロ、ジークフリードの側近の1人だ。
「お兄さま、帰っていらっしゃったのですか」
「ユーリアか、無事でなりよりだ。
後方支援の業務は大変だっただろう。
朝食はとったのか、軍からの支給品で良ければここにあるぞ。
食べていないのだったら用意しよう」
「朝食は先ほど炊き出しで食べてきましたわ。
それよりもお兄さま、ジークフリード殿下についてなくて宜しいのですか?」
「ああ、殿下は午後からで良いと言われたよ。
それに新しい任務も受けている。
午前中はゆっくりしようと思ってな」
「そうでしたか、私も一段落したので、これから就寝の予定ですわ。
その前にお風呂に入りたいのだけど、お湯が沸いてないのね」
「仕方なかろう。
使用人ども、全員避難してしまっているのだ。
伝令により今日には戻ってくるはずだ。
ザンブグルム王も午後には到着なされると言う話だ。
私はそれまでゆっくりしていようと思う。
「そうでしたか」
「湯あみは出来ないが水は汲んでおいてあるぞ。
昨日の戦闘で汗を書いただろう、拭いてきなさい」
「そうしますわ」
…… …… ……。
「少しはさっぱりしましたわ。お兄さま、私にも紅茶をいれてくれませんか」
「仕方ないな、今日だけは特別だぞ」
「あら、珍しい。お兄さま、なにか良い事があったのですか?
悪い顔してにやけていますよ」
「ああ、面白い事があったよ。
ユーリアは聞きたいか、昨日は傑作だったぞ」
「何がでしょうかお兄さま、昨日帝国軍を打ち破った事でしょうか?
帝国軍は打ち破ったのには問題はなかったのですが、そのあと金竜ブライン・ガイゼンが大暴れで被害が甚大におきてしまい、私たちは負傷者の治療で徹夜で苦労していたのですからね。
そんな良いことなどありませんわよ」
「ああ、話は聞いている。
かなりの被害がでたようだな。
しかし、あれは仕方がなかったと言えるのかな?
ジークフリード殿下が指揮していなかったのであのような兵の暴挙を起こしてしまったのだろう。
金竜ブライン・ガイゼンは去ったと聞いたが」
「ええ、ひと暴れして地竜を連れ去っていったわ。
後で報復しに来るのではないかしら」
「それは、怖いものだな。
やれやれ殿下に話して対応策を考えてもらわないといけないか。
まったく仕事を増やしてくれるよ」
「仕事の話はもう良いですわ。
それよりもお兄さま、面白い話ってなんですか?」
「ああ、そうだったな、アルテイシア姫の事だよ」
「アルテイシア、お姫さまですか。
お倒れになられ、まだお目覚めではないのですよね?」
「そうかおまえは知らないのだったな。
これは絶対に秘密な話だけど聞きたいか」
「そうではないですけど。
お兄さまがどうしてもお話したいって言うのならば聞いてやっても良いですわよ」
「そうか、そうだな、それではやめておくか」
「! お兄さま、お話したいことがあればすっきりしますよ。
どうぞユーリアにお話しください」
「それでは話すとするか。
これは国家の一大事になる話だ。
箝口令も引かれている。
話すけど絶対誰にも言うなよ、ユーリア」
もっとも口の軽い妹だ、誰かに話すだろうがな、そうなってくれると実に面白い。
「なんなんですのそんな国家の一大事とは、あの金竜が大暴れして去っていった話よりも大ごとなのですか?
お兄さま、ぜひお聞かせください」
「ああ、そうだな、金竜がこの国から去った事より大ごとなのは確かだ。
仕方ない特別に教えてやろう。
昨日、アルテイシア姫が伝説の竜の召喚をして失敗したことは知っているか。
失敗してとある醜い魔物を召喚してしまったのだよ」
「まあ、そうなのですか」
「それでここからが傑作なのだよ。
アルテイシア姫がその召喚に失敗して出てきた魔物を使役しようとしてな、支配の刻印と言う魔法を使ったのだよ。
しかもだその魔法にも失敗したらしい」
「ええ、2回も魔法を失敗したのですか、あの魔導姫と言われるお姫さまがですか。
それでけがをなされて、お目覚めにならないのですね」
「違うんだな、違うんだよユーリア、ここからまだ失敗の話が続くのだよ。
なんと支配の刻印の魔法を失敗した挙句に、自分自身が奴隷の烙印を押されることになってしまったのだよ。
こんなことになるとは、傑作ではないかな」
「え、奴隷の烙印ですか?
奴隷の烙印ですよね!
お姫さまが奴隷の烙印を入れられるんなんて」
「そうそうそれも自分でおこなったらしいのだよ。
あまりにもバカげたことで面白いだろう。
なあ、ユーリアよ」
「そんなことはありませんは、それではお姫さまはさぞ苦しい思いをしていますでしょうね。
私は悲しく思いますわ」
ユーリアよ、そんな良い事を言っているけど、顔がにやけているぞ、わが妹ながら意地の悪いやつだな。
「そうか、それは失礼したな。
私が不謹慎だったか、今の話は忘れてくれ。
昨日の戦いでストレスがたまっていて、誰かの悪口をつい言いたくなってしまったのだよ。
この話はいつも通り内緒だぞ、ユーリアよ」
「わかりました。
お兄さま、他言はいたしません。
お兄さまは疲れていて、ちょっと不謹慎な事を言ってしまっただけですわ。
昨日の戦いでお疲れでしたでしょう。
それより私ちょっと用事を思い出しましたわ。
今から出かけてきますわね。
お兄さまはゆっくりしていってくださいね。
すぐに戻ると思いますわ」
「おいおい大丈夫か、休むのではなかったのか。
そう急ぐ用事でもあるまい。
就寝してからでも良いのではないかな」
「大丈夫ですわ。
ちょっとだけ用事を済ませてくるのですから、それでは失礼しますね、お兄さま」
ふふふ、早速、誰かに話に言ったな、まったくもって口の軽い妹だ。
しかし王族に対して不満を持つ者がたくさんここにはいる。
貴族どもの息向き程度で悪口を言いあうのもいつものことだ。
しかし今回の話は、かなりの大ごとだな。
なんせ王族がらみの事件だ。
今回の戦争で遺恨を残したことがあった。
第一に、王アークザット・ルルヴィル・ザンブグルム十三世が真っ先に逃げだしたことがあげられる。
国民を見捨て先に逃げ出すとはね。
ほんとに、あの時はあきれてものが言えなかったよ。
王の件もそうだが、姫の事でもおおきな問題がおきている。
奴隷の烙印だと、ありえん話だろう。
このことを知れば王族に対し反旗も翻す貴族も出てくるかもしれない。
なんせ王の愛娘が奴隷の烙印をしているのだからな。
アルテイシア姫は25歳と言うのに王はどこにも嫁がせず、そばに居させているのだから。
今回は愛娘よりも自分の命が惜しくて逃げ出したとわかったけどな。
戦勝はしたがかなりのしこりが残る戦いになった。
なんせこの国の守護竜と言われた青竜アクア・スミスがつぶされてしまったのだからな。
やったのは召喚したあの魔物らしい。
そのあとがひどかった。
帝国との戦いが終わって後始末をはじめた最中に、竜の血や肉は鱗さえも高く売れると言って、むさぼるように青竜アクア・スミスの亡骸を略奪していった兵がいたと聞いた。
金竜ブライン・ガイゼンがその光景を見て、怒りだし従えていた地竜ともども激しい戦いが起こってしまったと言うからな。
残っていたザンブグルム兵の半分以上、鎮圧のためにその戦いで亡くなったと言う。
負傷者も多数でたらしいな。
それも手傷を負わせ金竜ブライン・ガイゼンは逃げ去ってしまったと言う話ではないか。
そんな中で妹も良く無事で帰ってこれたと安堵しているよ。
帝国軍と戦ったより被害が出てしまうとはな、兵たちにも不振が出るだろう。
結局、金竜もこの地から去りいなくなった。
この国の守護竜が2体、いなくなったのだ大問題だろう。
帝国の進行で、かなりこの国が揺さぶれた。
これから動乱の道に入るだろうな。
面白いことになってきたかな。
俺にもワンチャンスがあるかもしれない。
紅茶を啜りながら不敵な笑みをしていたアバントスは突然苦しみだす。
「グウウ」
「お兄さま、私、忘れものが…… お兄さまどうしたのですか?」
アバントスの体から赤い炎のようなものが出て包み込まれていく。
しかし火で燃えている炎ではなかった。
「お兄さま」
座っていた椅子から転げ落ち、もがき苦しみだした。
しばらく苦しんでから、口から血を吐き、息が絶えるのだった。
まるで呪いを受けたように死んだのである。
…… …… ……
幼い犬の獣人は顔をあげ私に礼を言ってきた。
「助けてくださいまして、ありがとうございます」
「ありがとうございます」
「私の名前はチト、そしてこいつは弟の」
「チコです」
「ありがとうございます」
「ありがとうございます」
2人の獣人は声を唱和させてお礼を言ってきた。
「あぁ、別に良いけど、体は大丈夫なのか。
苦しんでいたみたいだけど、一応、回復魔法はかけてやったのだがな」
「大丈夫です」
「まったくなんともないです」
「そうなのか、それは良かったな」
「よかったです」
「よかったです」
「助けてやってはなんだが、おこがましい事を聞くけど良いかな」
はい、別に良いですよ」
「そうかそれじゃまずは、私の話は聞こえるんだよね」
「聞こえています」
「聞こえています」
「そうか、それは良かった」
「良かったです」
「良かったです」
「知りたい事があり、質問をしたいのだが答えてくれるかな」
「はい、奴隷の烙印を取ってくれたお方です。
なんでも聞いてください。
僕たちが知っている事でしたらお答えします」
「? 奴隷の烙印てなに」
「奴隷の烙印は奴隷の烙印です。
奴隷にするため、従属する魔法をかけるのです。
魔法をかけられると体に奴隷の烙印ができるのです」
「そんな魔法この世界にはあるの?」
「はい、あります。
私たちは2年前に人間に捕まってしまい、魔法をかけられてしまいました。
解除してくださってありがとうございます。
異世界の神様」
「えーと、良くわからないのだが、助けてあげたのは確かだね。
襲われていた魔獣を狩って助けてあげたと思ったのだけど気のせいだったのかな。
まぁ、いいか。
それと私は異世界の神ではないよ。
みつぐと言う者だ。
神ではないので間違えないでくれ」
「神ではないのですか!
魔神獣ガイデアさまを倒したお方が、神ではないとは驚きです。
ローパー神ではなかったのですか?
異世界から来た者は皆、神さまだと聞いています。
だから私たちは神だと思いました。
それは失礼をしましたです」
なるほど、そういう事なのね、意味がわからないけど。
ローパー神ってなんだろう? いるのかな?
突っ込みどころが多くて何がなんだかわからなくなってきたぞ、聞きたいことが山ほど出てきてしまったよ。
私の知りたいことはまったく聞いてないし、これは長い話になりそうだな。
一応この犬の獣人が知っている事を出来るだけ聞いておこうか。
まずは情報収集をすすめたい。




