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第7問 やめて! 先輩のライフはもうゼロよ!

「文化祭、か……」


 ホワイトボードに書かれたわけわからん魔法少女の定義を消し、上の方に赤で大きく「文化祭」と議題を示す。そういえばこの部、できたのは去年だったはずだが……。


「帳先輩、一年前は何やったんですか?」


「ああ、そうか。文月は知らないよな。確か……『微分積分コンテスト』やったな」


「……は?」


 ええと、一旦落ち着こう。今この人何て言った? 私には「微分」と「積分」というワードが聞こえた気がしたのだが……きっと空耳だろう。そう信じたい。


「だから、『微分積分コンテスト』……」


「……マジですか?」


「マジだ」


 マジかぁ……提案したの、絶対に帳先輩だろうなぁ……。てか、お客さん来たのだろうか? こんなのパンフレット見ただけで「あ、これヤベェ部活だ。近寄らんとこ」ってなると思うんだけど。


「安心しろ、意外に客は来た」


「……それ、生徒を除いてもですか?」


「お前、鋭いな……」


 なんとなく予想はつく。数学自信のある猛者たちが集まってきたに違いない。数学部の部員とか。


「まあ、優勝者にはちゃんと景品も用意したしな」


「へぇ、どんなのだったんですか?」


 まさか「魔法少女研究部主催微分積分コンテスト優勝」の称号だとか言うんじゃないだろうな。要らんわ、そんなもの。


「ダッシュとインテグラルのバッジだ」


 インテグラルは分かる。「∫」のことだろう。バッジにするとダサくはない気がする。

 ただダッシュって……まさか「´」か? 関数f(x)の導関数をf´(x)と表記するからといって、申し訳程度の微分要素か?

 もうやだこの部活。


 しかもよく考えたら、微分積分って魔法少女要素ないじゃん。


「せめて魔法少女に関係ある感じの方が……」


 魔法少女の定義付けという名目で色々議論しているが、このままでは物理や化学、生物に地学、それと数学などの理系文化部のアイデンティティを失わせてしまいそうだ。

 文化祭くらいはオリジナルなものをやりたい。


「なら文月、何か代わりの案はあるのか?」


「ええっと……」


 考えろ、私。このままでは「第二回微分積分コンテスト」になってしまう!


 魔法少女に関係があって、少しは理科っぽいのから離れていて、先輩たちが満足してくれそうな……よし。


「映画とかどうでしょうかっ!!」


 大きい声で叫びすぎたか、横でうとうとしていた銅先輩が飛び跳ねる。って、さっきから何のリアクションもなかったのは寝そうになってたからか……。


「……それはつまり、自分たちで撮って、編集もするということか?」


「そうです! あと文化祭まで3週間ちょっとありますし……」


 編集とかもギリギリ間に合うのではないか。そう言おうとしたその時……。


「あ、じゃあ私が編集するよ~。慣れてるから♪」


 横から飛び出した、頼りにならなそうで頼りになる銅先輩の言葉。この人、本当に色々できるなぁ……ん? どうして動画編集に慣れてるんだ? まさかユー◯ューブに動画とか投稿していたり?


「去年の文化祭も、クラスの方は映画だったからね~。私、本気だして一部モーションキャプチャとCG使っちゃったよ~」


「ああ、そういやお前のクラス賞とってたな」


 銅先輩、多才すぎるでしょ……。見た目は明らかに機械苦手そうな、というか、触るだけで壊しそうなタイプなんだけどなぁ。


「あ、でも文化祭って期末テストの1週間前ですよね? 作業とか任せちゃって大丈夫なんですか?」


 何を思ったかこの学校、文化祭が1学期の期末テスト直前にあるのだ。なんという鬼畜の所業……。

 クラスのウェイウェイしてる系の生徒は大抵爆死するという話を、前に帳先輩から聞いた。


「だいじょーぶだよ~。もう試験範囲は自習済みだもん」


「す、すごい……」


 あれか、夏休みの宿題を爆速で終わらせて遊びまくるタイプか。

 

「おい、ちょっと待て。それは私達が出演するということか?」


「当たり前じゃないですか。しかも魔法少女をテーマにして作るなら、帳先輩が主役ですよ? だって、夢なんですよね? 全面的に協力しますよ」


「そ、それはそうだが主役は流石に恥ずか……や、やめろ! 白衣脱がすな!」


 魔法少女がマッドサイエンティストのように映るのを防ぐため帳先輩から白衣を奪い、銅先輩がその両腕を羽交い締めにする。


「な、なんだそれ……絶対似合わないだろっ!!」


 棚にあったよく分からないけど魔法少女っぽい帽子を、拘束された帳先輩の頭に乗せ、ハートやら星やらが散りばめられた完全に女児向けのステッキを無理やり握らせる。


「……これでいきましょうか」


「そうだね~♪」


「私に選択する権利はないのか?」


 それに対し「だって部長じゃないですか」と返そうとしたその時、コンコンと部室のドアがノックされた。


「さっき、一枚だけ書類渡し忘れてたんだ。入るぞー」


「ちょ、ま……」


 帳先輩が制止の言葉を発するもむなしく、禁断のドアが先生によって開かれる。


「っ!! ええと……君の趣味は何となく分かってるから……安心してくれ」


「いやこれには深い訳が……」


 羽交い締めされた魔法少女を二度見したあと、それだけ言い残して部屋を出ていった。


 先生、書類渡し忘れてます。

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