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第2問 魔法少女であることの条件は?

 帳先輩が別の計算をし始めてから数分が経過。黒いマーカーとホワイトボードの間から発せられるキュッという音だけが部室に響く。


 実に暇である。


 雑談という選択肢は……根本的な問題で、私と先輩の間に共通の話題がないため不適。第一、計算の邪魔をする勇気がない。


 その時、静寂に包まれた空間をぶち壊すが如く、バァンと扉が開け放たれた。


「どうも~。おっ! ふみっち来てたんだ~!」


「こんにちぐふっ……く、苦しいです……」


 私に向かって一直線に突撃し、ぎゅうっと抱き締めてくる。痛い痛い、肋骨何本か折れそうなくらい痛い。


「やめろ、(あかがね)


「はいはい、分かってますよ~」


 帳先輩に制止され、私を締めていた腕を外す。ちなみに、このやり取りは毎日欠かさず行われているものである。ノルマ達成、といったところか。


 (あかがね) 鈴音(りおん)先輩。部活内一テンションが高い、高校二年生。いつもスキンシップをとりたがるが、全員に拒絶されている。

 失礼ながら、アホの子っぽい見た目をしているが、噂によれば全教科学年一位だとか。好奇心の力って凄いなぁ。


「で、ぶちょーは何やってんの?」


「見て分かるだろ」


 訂正。ここまでがテンプレートだった。やっぱり、どこか抜けているのは間違いないだろう。

 銅先輩の乱入により掻き乱された雰囲気は戻りそうにない。それを悟った帳先輩は諦めてペンを置いた。


「あの、もう帰っていいですか?」


 やることがないのだから、帰宅するのがベストだろう。時間は返ってこないのだから。


 とでも言うと思ったか。いやいや、そんな気は更々ない。これは私を帰らせない為に、帳先輩に何らかの話題の提示を促す定型句である。


「そ、そうだな……そろそろ、この部活本来の目的を」


 ガチャ。扉の開く音が先輩の台詞を遮る。


「ふぁぁ……おはようございます……」


 眠そうに欠伸をしながら入ってきたのは、全部員四人のうちの最後の一人。


「はるちゃんおはよ~」


 いや、もう午後四時過ぎなんですけど。


「遅れてごめんねぇ……教室で寝ちゃっててぇ……」


 遥場(はるば) (さく)先輩。授業中と移動中を除いて、ほぼ寝ている高校三年生。 むしろ他クラスの生徒からすれば、起きているのを目撃する方が(まれ)である。


 帳先輩曰く、「寝ている彼女はテコでも動かない」とのこと。最終下校時刻になっても寝たままで、鍵が閉められないという問題が時々起こるらしい。


「全員揃ったし、話の続きだが……ってもう寝やがった……」


 来て早々、机に突っ伏したかと思えば、いつの間にか寝息を立てている咲先輩。


 ちなみに遥場先輩と呼ばないのは、本人に「名前で呼んで」と直々にお願いされたから。「さき」ではなく「さく」であることをめっちゃ強調して言われた。


「一人寝てしまっているが、まあいいだろう」


 いや、よくないだろう。


「この部活、『魔法少女研究部』は本日より、本格的に魔法少女の研究を行うことにした!」


「お~♪」


 うん、まあ何となく想像はついていた。やる気に満ちた帳先輩と、ノリノリな銅先輩を前に、取り敢えず私も合わせておくことにした。


「お、おー……」



 * * * * *



 帳先輩が椅子から立ち上がり、ホワイトボードの前でペンを握る。


「まずは、魔法少女を定義する必要があるな。二人とも、魔法少女であるための必要条件を挙げてくれ」


 でた、必要条件。言い換えると、帳先輩は「魔法少女であるならば○○である」が成り立つときの○○を考えたいのだ。


「う~んと、普通に『魔法が使える』と『少女である』じゃない?」


 これは単純に「魔法少女」という言葉を分解しただけであるが、必要条件としては間違っていないだろう。


 魔法が使えない魔法少女。それはもう、ただの少女である。

 また、少女ではない魔法少女……何それ斬新。魔法少女の中身がおっさんなら、魔法おっさんにすべきじゃないか。

 なお、男の娘も同様の理由で弾かせていただく。「魔女っ娘」ならば含まれるかもしれないが。


「これで『魔法少女ならば、魔法が使える少女である』となるが……少女とは何だ?」


 そう、「少女」とはある年齢の女性を指す言葉。その区間を指定する必要があるのだ。

 こういったものはスマートフォンで検索。少女……と。


「えっと、『7歳から18歳前後の女の子』となっています」


「つまり、こうだな」


『少女は7≦a≦18(年齢をaとする)を満たす女の子である』


 同じことを書いたはずなのに、余計に分かりにくくなっている。どうして、わざわざ不等号を使用するのだろうか。私の言葉のままで良くないか?


 魔法少女について無駄に濃密な議論をしている最中、背後からボソッと声がした。


「ねぇ……幼女は魔法少女に含めないのぉ……ょぅι゛ょはぁ……?」


 急に起き上がった咲先輩は、そう言い残して再び眠りについた。もう、さらにややこしいことに!


「別に、私達の中に幼女は混じっていないだろう? 年齢条件の下限を下げたところで結果は変わらないはずだ。よって、魔法少女の定義は……」


 ペンのキャップを外し、スラスラと結論書き起こしていく。

 確かに、この場にいる私達の年齢は15歳以上18歳未満。この範囲が含まれていれば、今後の議論に支障をきたすことはないだろう。


『魔法少女とは、魔法が使えて、かつ7≦a≦18(aは年齢)を満たす女の子である』


 一体何に使えるんだ、この定義。

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