第1問 銃弾は武器で弾ける、と仮定する
魔法。その言葉に憧れを抱いたことはあるだろうか。そして、その言葉に疑問を覚えたことはあるだろうか。
他にも、異世界や超能力などファンタジーには必要不可欠な要素に対し、誰もが一度は思ったことがあるはずだ。
「これどういう原理?」
と。
* * * * *
この日最後の授業が終わり、机の横に掛けられた鞄を背負う。教室を出て最寄りの階段を登り、廊下の端から隣の棟へ。
私の向かう先はただ一つ。「魔法少女研究部」の部室である。なんでそんな変な部活に入っているのか。確かに、よく周囲の人々に聞かれる。
簡単に言うと、高校生活にちょっと変わった刺激が欲しかっただけだ。
部活一覧表の中から最も興味深いものを見つけた。それがこの「魔法少女研究部」である。勿論、ネーミングとインパクトだけで選んだが。
コンコンと二回ノックし、古びた部室の扉を開ける。いつも通り、白衣を身に纏った部長がホワイトボードによく分からない計算式を書いているところだった。
「ん? なんだ、文月か。昨日までの平均到着時間より20分11秒も遅いから、今日は来ないと思ってたぞ」
「ホームルームが長引いたんですよ……え、帳先輩そんなの記録してたんですか?」
帳 一夜先輩。魔法少女研究部の部長で、高校三年生。体育以外の時間は常に白衣を装備しているので、登下校時と放課後はよく目立つ。
そして、部員の中で最も奇怪な行動が目立つ人物でもある。
「で、それは一体……」
殴り書きされた数字とアルファベットたちを指差し、先輩に問うた。
「これか? そうだな……ファンタジーとかでよくあるだろ、長めの武器とか双剣とかをぐるぐると回して、銃弾とか防ぐやつ」
「確かに、見かけることありますね」
「あれを成功させるために必要な武器の回転数を算出してたところだ」
……何のために!? とリアクションするのが一般的なのかもしれないが、これがいつもの先輩……というか、この部活の活動内容だったりする。
「武器が回転する面に対して、垂直に弾丸を放つとする。ここで、弾丸の速度を『v[m/s]』、武器の幅は限りなく0に近く、厚さを『d[m]』とおく。求める角速度は『ω[rad/s]』としようか」
いきなり数値を使うのではなく、まずは文字でおいて考える。なお、本人的にはこれでも日常会話レベルだとか。
「ただし、空気抵抗は無いものとし、回転する武器に当たった弾丸は必ず弾かれると仮定する」
ファンタジー要素を現実に落とし込むに当たっては、やはり仮定は不可欠だったりする。「別世界だから物理法則が違うかもしれないじゃん」と言われたらどうしようもないからだ。
「文月、この弾が距離dメートルを通過するのに必要な時間は?」
「えっと……d/v秒です」
距離を速度で割れば時間が出る。物理が少し苦手な私でも分かることだ。
「その時間で、この武器がπラジアン回転すれば弾くことができるな……これでどうだ?」
『ω=vπ/d[rad/s]』
意外とシンプルな式に纏まったが、これも仮定のお陰。武器の幅が無いもの同然と考えられている時点で、本来ならばこれよりも少ない値となる。
「拳銃の弾の速度は毎秒400メートルくらいですね」
こういった情報は、スマートフォンを取りだしパパっと検索。インターネットって便利だよね。
「武器にも色々あるからな……取り敢えず厚さは1センチにでもしておくか……」
それだと超細いパイプみたいになりそうだが、ここは突っ込まないでおこう。
先程立てた式に値を代入していく。得られた結論はというと……。
「角速度が40000π……一秒間に20000回転だ」
「に、にまん……」
「腕持たないだろ、これ。普通の人間には無理だな」
無論、この計算結果は実際よりも大きな値ではあるが、それでもかなりの回転数が必要であることは明白である。
「うむ、調べてみたところ、某掃除機の約10倍だな」
「うわぁ……」
よって、これは人間業ではない可能性が高い。機械人間は除く。
と、以上が魔法少女研究部の日頃の活動内容である。
つまりは、現実では有り得ないようなファンタジーに登場する現象を、この世界の法則に当てはめて考察する。
そんな感じだ。
こんなことをしていると、「アンチ・ファンタジー部」かと誤解されそうだが、部員たちは皆ファンタジーが好き。意外とガチガチの理論派にはオカルト好きが多かったりする。
「帳先輩の夢、何でしたっけ?」
「いつも言ってるだろ……魔法少女になることだが?」