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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

中島寛太の生き様。~人の不幸を愛する男の信じられない物語~

作者: 村川葵

その男、とにかく、しつこい。ストーカー行為が当たり前。人の顔にツバをかけるのが当たり前。その男、xxxx。その男、渡り廊下で俺に白昼堂々、喧嘩を売って、嘘を吐く。その男、ヤンキーに憧れるヤンキー。その男、俺の不幸が大好きさ。

俺は、小学校、一年生。その男も、小学校、一年生。入学式を終えて着席すると、中島寛太はこう、言った。

「おい、西尾、お前、やるんか」

はっ。なんじゃそれ。罰が当たるぞ。こんな入学のめでたい日によりによって、俺、西尾創路にとにかくしつこい。

「もう、ええやろが。お前、何様やねん」

「中島様じゃ。お前、びびっとんちゃうんか」

「はい。はい。あなたが偉いですよ。良かったね」

「当り前じゃ。西尾はカッコ悪いのぉ」

それからというもの、中島はとにかく、俺にしつこくまとわりつく。渡り廊下。春。中島は偉そうに言いやがった。もう、ええっちゅうねん。

「おい、西尾。今度、俺ん家で、カレー、食わしたるわ。お前も来い」

「俺は、ええわ」

「お前、ただ飯やぞ。そんなに俺にびびっとんかい」

「はい。はい。びびってます。びびってます」

「お前はカッコ悪いのぉ」

「はいはい。カッコ悪いです。はいはい。おて柔らかにね」

俺は、中島の生きる資格など、まるで、ない行動にあきれ果て、疲れた小学生であった。そして、望みもしない、カレーパーティーの日がやって来た。もう、鬱陶しい、くっさい男、中島寛太。

「おい、西尾。今から、カッコええことやったるわ」

中島の家。俺はサメザメ、ソファーに腰掛ける。その時だった。この男、最低。いや、最悪といっていいだろう。まず、電話の受話器を持ち上げ、意味ありげに狂った笑みを浮かべて、電話をかけるこの男。

「もしもし、ウルトラマンの父ですが、うちの息子は、お邪魔していませんか。はっきりせい」

と。どうしよう。俺。こいつ、あきらかに馬鹿できxxxだ。さらにこう付け加えた。

「おい、西尾。俺って、かっこええやろう。お前もいたずら電話、かけてみいや。コラ。びびっとんか。お前はほんま、ヘタレやのう」

「もう、ええわ。俺、帰るわ」

「やるんか、コラ。西尾」

「もう、ええ。もう、俺に関わるな」

中島は狂うように笑い出した。もう、疲れるだけのこの男。神様、こんなんに生きる資格を与えていいんですか。俺は、とぼとぼと帰宅した。ふざけるな。追いかけてくる中島。あちゃああ。

「おい、待てや、西尾。俺ってかっこええやろう」

「はいはい。もう、疲れるねん。お前とおったら。ほんまに疲れるんや。ええ加減にせい。帰らせろ」

「びびったんやな。俺の勝ちや。西尾の負けじゃ。俺にびびったんやな」

「はいはい、そうそう、びびったびびった。中島君が一番、喧嘩も強いし、かっこええ。はいはい。帰ります」

それからというもの、中島は俺に対して狂いだした。常に喧嘩を売り、俺様を気取る。中島に疲れ切った俺は学校を休みがちになり、親父が買ってくれた、ギターを弾く時間が多くなった。俺は、ブラウン管の中のギタリストに憧れて。そして、夏が来た。俺は泳げない。水泳の時間になると中島は言う。

「おい、西尾、お前が泳げへんのを見るのが俺の趣味じゃ。泣け泣け、西尾。お前の泣き顔、もっと見たいわ」

咄嗟。俺は中島を殴った。足で中島の顔をぼこぼこにした。すると、中島は、大声で、こう言う始末に。

「先生、西尾君が西尾君が俺をいじめた。いじめや。いじめ。西尾君にいじめられた、助けて、先生、助けて。西尾君は狂ってる」

俺は職員室で担任教師の平野と言い争うはめに。

「西尾。中島をいじめて、水泳の授業をさぼるんか。お前、学校をなめとんか」

「なめてなんかない。あきれてるだけや。俺、帰ります」

「待て。登校拒否を認めるんかい。コラ。西尾えっ、どういうこっちゃ」

「俺、水泳よりギターが大事なんで」

平野は俺の頭に煙草の吸殻を落として、俺を殴って、発言した。

「西尾。お前は自分自身が正しいか間違ってるか、よく考えろ。俺は教師や。お前の担任や」

「なら、言うけど、俺が死んだら、ええんか。先生、もう、帰りたいんですわ」

とぼとぼと下校する俺。俺がギターを弾くことに正しいも間違えもないやろうが。部屋に一人、戻った俺。中島。俺の死をお前に捧げるわ。俺は手首を切った。血があふれ出す。もう、神様のところでのんびり休みたいんや。俺のことは、もう、ほっとけ。


「創路、創路。もう、大丈夫やからな」

親父が言う。俺、生きとるんか死んだんか。手首には包帯が巻かれてある。えっ、ここどこや。看護婦、医者。なんや病院か。天国ちゃうんか。

「俺、もう限界や。ギター弾けたら、それで構わへん。中島も平野も狂ってる。もう、学校イヤや」

「わかった。わかった。創路。学校なんて行かんでええ。ギター、家から持ってきたぞ」

涙がこぼれ落ちた。泣いた。もう、やっとられへん。泣いたわ。俺なんて負け犬で構わへん。

すると、聞き慣れた声がする。

「やあ、西尾君。いじめを学校からなくしたい。それが教師やからな。中島君と仲良くしいよ。学校はええ所やで」

「また、あんたか。平野先生よ」

親父が平野の胸ぐらを掴み、平野を殴り続けた。「やめてください」と言うだけの立派な大人、平野。


俺は小中と9年間もわかりやすく、中島寛太様と、同じクラスやった。中学校最後の運動会。100メートル走。中島は言いよる。

「西尾。俺が勝って、お前が最下位や。かっこ悪いの」

走った。俺は六人中、二位やった。中島が最下位やった。俺は笑った。この虫けらが。

「お前が最下位やないかい」

「今日はたまたまじゃ。いつもの最下位はお前じゃ」


俺は卒業式をさぼり、部屋でひとり、煙草を吸う。そして、ギターを弾いていた。

やっと中島と別れられる。ほんまに良かった。


俺は中学卒業と同時に高校には行かずアルバイトを始めた。自動車修理工場でのエンジンの解体。ギタリストになることを本気で夢見だした。オーディションも何度も受けた。でも、結果は良くない。だから、もっと頑張ろうと思った。あらゆるコード、あらゆる曲を覚えに覚えた。そして、人生、最大の友、水野修太郎、斎藤博之、村山孝雄、と雑誌で知り合うことになる。水野はヴォーカリスト。斎藤はベーシスト、村山はドラム。俺達は「ポラロイドクラッカーズ」と名乗り、ライブ活動を始めた。さらにもう一つ、俺はバイトを増やした。土日の昼間。酒の卸問屋で汗をかき、良い疲れのまま、曲作り、音合わせ、ライブ。

ライブハウス『ミットランド』で満員御礼のライブを終えて、缶ジュースを買いに行った。そしたら、後ろに人影が。なんやねん。ペニスをつかまれる。

「おい、西尾、お前も出世したのぉ。バンドか」

学ラン姿の中島寛太がそこにいた。もう、ええって。

「お前、なめとんちゃうぞ。人のちんこ、触って、それが楽しいんかいや」

「ほえろ、ほえろ。お前らのバンドの解散を望むわ」

「ふざけるな」

中島をどつくと、この男は笑い出した。それから、人生最悪の事件が起きた。

「お前、うちの学校の兵隊、今から集めるから、逃げるなよ」

「誰が逃げるか。コラ。お前、おかしいんちゃうんかい」

そして、十人ほどの中島と同じ学ランを着る男達から暴行を受けた。指を折られ、顔をどつかれ、腹を蹴られる。

そして、中島が俺の右手にナイフを刺した。腐りきった男に俺の何がわかるのか。


あの惨事から幾つかの時が過ぎた。俺達はCDデビューに成功した。地元のテレビやラジオにも出演。ライブのお誘いもいただくようになる。俺は夢を叶えた。餓鬼の頃からの最大の夢。ギターという名の夢物語。


俺たちも堂々、二十歳。幸せに生きてる。クリスマスライブを『ジョーダンスタジアム』というかなり大きな野球場でやることになった。煙草に火を点け、ギターを楽屋でチューニング。その時、だった。おもむろにテレビに目をやる。テレビの中に、げっ。中島寛太。また、この男か。

ニュースが伝えるには、中島は、コンビニの営業妨害で捕まり、一旦、釈放された後、殺人を犯した。殺されたのは、なんと、あの、平野だった。

人の不幸を愛する男。中島寛太容疑者よ。お前に生きる資格など存在せいへんわ。よし、今年、最後のライブだ。俺はギターをかき鳴らす。メリークリスマス。



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