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障がい転生、幸せになろう   作者: オータム・ひのもと
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一件落着

皆様、短い間有難うございました。


 もうすぐ朝の7時。

 ベッドの下の穴からちょこんと頭を出して、部屋の様子をうかがっているのよ。

 穴はもちろんモックンの仕業。

 うまい具合に掘ってくれたから窮屈じゃないし、何かあれば絨毯をすぐに被せられるから、ここなら大丈夫よ。

 

 ゛コンコン゛


 ドアをノックする音。

 これはルークね、ホントに時間通りだわ。


「キアラ様、朝食のお時間ですよ」


 そうよねーー、けどここは我慢なんだわ。


「キアラ様、まだ起きておられないのですか?」


 うんにゃ、6時から起きてるわ。


「入りますぞ、失礼します」


 足元しか見えないけど、やっと部屋に入って来たみたいね。さあ驚くぞ〜〜。


「な、何だこの血は!?」


 それはテトラが調理場から持ってきた動物の血なのよ。

 床一面にばら撒いてあるから、さぞやビックリしてるわね。


「キアラ様、何処にいらっしゃるのですか!」


 庭側の扉を開けて走って行っちゃた。

 堀の所まで点々と血の跡がついているから、きっと攫われたと思ってくれるわ。


「キアラ様!」


 もう帰って来た、と思ったら、


「シオン様ーーーー!」


 あっという間にまた出て行った。

 その光景を想像したのか、私の膝の上ではテトラがしのび笑いをしている。


「上手くいったでプね」

「だけどシオンを呼びに行っちゃたわよ?」

「大丈夫でプよ。王子には言っておいたし、上手く合わせてくれるでプ」

 

 そうだといいんだけどねぇ。


「これです! この血が外にまで続いているのですよ、きっと何かの事件に巻き込まれたに違いありません!」


 はやっ! もう帰って来た!


「ほう、これはまた派手にやったな」


 やっぱりシオンを呼んで来たみたい。

 何だか感心されてるっぽいけど、足元しか見えないから良く分からないわ。


「庭もご覧になって……」

「その必要は無い」


 おっ、はぐらかし始めたかな。


「な、なぜ必要ないと、」

「これは動物の血、いやなんでもない……」


 やっぱりシオンは口ベタねぇ。そんなんじゃ誰も納得しないわよ。


「とにかく、キアラの事は心配ないんだ。今日1日は黙って置いてくれ。いや、騒いでもいいか? どっちだろう?」


 ルークに聞いてどうするのよ!


「ど、どう致しましょう?」

「取り敢えず心配せずに騒いで置いてくれ、多分それで大丈夫だろう」

「ハア……」


 何か頼りないわね。

 まあ、エリアス令嬢の耳に入ればいいだけなんだから、これで良しとするか。


「キャアーー!」


 い、いきなり悲鳴が。

 この声はメイドのサラね。彼女、どこかに走って行ったみたいだけど大丈夫かしら。


「これで大騒ぎになるな。よし、俺達も行くぞ」

「え、ええ……」


 やっと帰ってくれたわ、この隙に穴から退散。


「モックン、出よっか」

「プルンプルン!」


 モックンが掘り進んだ地下通路を一瞬でバック。お堀りの壁際に開けた穴から、そのまま湖の水面を低空飛行。

 

 それから急上昇と急旋回でお城の真上でストップ。

 モックンの体の上下からラッパみたいな集音機とスピーカーが出てきてこれで準備オーケー。

 と思ったら、兵士がいっぱい城の外に出て来ているじゃない。


 きっとサラの騒ぎで私の捜索でも始まったのだわ。だけど、シオンも出て来て兵士達に何かを言っている。


「お前達、これを見ろ」


 堀まで続いている血の跡を指差している。


「これは、人間の血ではない? どういう事でしょうか」

「さあな、とにかくキアラが無事なのは俺が保障する。しかしこの事は黙っておくんだぞ。お前達はお茶会が終わるまで探す振りだけしていてくれ」


 上を見ながら話し合っている。もしかしてモックンの姿が見えているのかしら。何にしろ、これでお膳立ては出来たわ。あとはお茶会が始まるだけ。時間つぶしにそれまでは寝ておこっと。


「始まったでプよ」


 テトラの声で目覚めたら、大勢の貴族達が中庭に集まっているのが見えた。

 兵士達が取り囲んでいて何だか物々しい雰囲気だけど、一応はつつがなく進行しているみたいね。

 それにしてもエリアス令嬢のにこやかな笑顔ったらどうよ。よっぽど私がいなくなった事が嬉しいんだわ。

 

「シオン王子、浮かないお顔をしてらっしゃるけど、何か気にかかることでも?」


 あっ、さっそくシオンに声をかけに行ったわ。


「いや、今朝からキアラの姿が見えなくてな」

「まあ! やっぱり血の跡と共に攫われたと言う噂は本当でしたのね」

 

 うんうん、モックンがいなけりゃ本当にそうなっていたわ。


「せっかく遠方から皆が集まってくれたんだ、あまり騒がないでいてくれ。しかし、俺はどうしたらいいのかサッパリ分からんよ、ハァ……」


 溜息をつくのはいいけど、いちいち上を見ないでくれるかしら。

 

「お可哀相に。そうだ、私に良い考えがありますわ!」


 おっ、庭のど真ん中に進み出た。何をする気かしら。


「お集まりの皆さん、キアラ姫が攫われたと言うのは本当だったようです!」

「おいおい、何を……」


 シオンが止めるも、舞い上がっているエリアスはお構い無しだわ。


「万が一の事もありますわ。そうなればグラント王国の未来にも不安が残ってしまいます。時期尚早ではありますが、この私エリアスが、シオン王子の后に立候補しておきますわ!」


 すっごい事を言い出したわ。さすがに周りの貴族達も呆れているようだけど、シオンだけはこっちを向いてニヤケている。そろそろ頃合ね。


「テトラ、モックン、始めるわよ」

「任しておくでプ!」

「プルンプルン!」


 皆がエリアスに注目している内に、一瞬で中庭近くの垣根の裏に着陸。私を降ろしたあとは野盗達を山まで取りに行くモックン。

 ゆっくりと車いすを漕いでお茶会をしている場所まで行こうとしたら、さっそくルークに見つかって叫ばれてしまった。


「あれはキアラ様!」


 どよめきが起こって皆が振り返る。エリアスが青ざめていくのが分かったわ。


「ア、アナタ生きていたの?」

「そうよ、誰かさんのお蔭で危なかったけど、この通りピンピン生きてるわよ。残念だったわね」


 鋭い視線で睨んでやった。

 貴族達のザワメキも一層大きくなる。


「キアラ、誰かのお蔭って何だ?」


 シオンが眉間に皺を寄せながら近づいてくる。


「もちろんエリアスの指図で野盗達に攫われかけた事よ。ねっ?」


 ウインクしながらエリアスに問いかけた。


「な、な、何を言っているの、言いがかりはよして!」

「しらばっくれても無駄よ」


 視線を外さずに、ポケットから野盗と交わした証書を取り出して見せ付けてやった。


「そんなの知りませんわ。誰でも偽造できるでしょ!」


 プイッと横を向いちゃった。


「キアラ、これだけじゃエリアスを犯人扱いするには不十分だぞ?」


 証書を見つめながら首を傾げているシオンに、勝ち誇ったかのような笑みを浮かべるエリアス。

 それに対して私は黙って空を指差した。


「うん? モックンがどうかしたのか?」


 怪訝な顔をして上を見上げたシオンだけど、その瞬間。


「「ギャアアア!!」


 空から悲鳴と共に野盗達が降って来た。死なない程度の絶妙な高さから落ちて、すぐには動けないでいる。

 エリアスの姿を見つけると、すかさず大声を出しながら這って行く。


「ア、アンタ、助けてくれ!」

 

 ボスがエリアスの足元にしがみ付いて懇願し始めた。他の野盗達も泣き叫んでその周りに群がっている。


「お前、どういう事か説明しろ。言わなきゃこの場で首を刎ねるぞ」


 剣を抜いてボスの首元に当てるシオン。顔面蒼白のボスはとっくに観念しているのか、簡単にペラペラ喋ってくれたわ。


「お、俺達はこのエリアス嬢に雇われてそっちの女を攫おうとしたんだ」


 恐々と私に振り返って告白をした。


「ちょ、ちょっと、私は貴方たちなど知りません……」

 

 まだ白を切ろうとするエリアスだけど、他の野盗達も騒ぎ出した。


「俺達を見捨てようったって、そうはいかねぇぞ!」

「こちとら一晩中クソ寒い穴の中で過ごしたんだ、テメェだけ逃れようなんてズルイぞ!」


 エリアスの足元を取り囲んで責め立てる野盗達。

 その様子を黙って見ていたシオンが手を振って兵士達を呼び寄せた。

 すぐに飛んで来て、野盗達を連行して行っちゃったわ。


「エリアス、追って沙汰があるだろう。それまでは自宅で謹慎だ」


 冷徹な視線でエリアスに向き直ったシオン。

 エリアスはガックリと頭を垂れて中庭から出て行ったわ。


「これで一件落着っと。心配かけてゴメンね」


 笑顔でシオンに振り向いた。


「心配なんてしていなかったがな。お前には無敵のモックンが付いているんだし」


 優しい瞳で私を見つめるシオン。

 だけど、また何かを考えている風に空を見上げ始めたの。


「なあ、モックンを少しの間貸してくれないか?」

「ええっ!? ど、どうしたの急に!?」

  

 突然の申し出に車いすの上で飛び上がってしまったわ。


「お前の呪いを解くために魔王を倒したいんだ。しかし、場所は遠いしトンでもなく手強いしで、モックンがいれば何かと都合がいいと思ってな」


 そうだったわ、忘れていたけど呪いをかけられていたんだっけ。


「モックンさえ良ければ私はいいけどさ。けど、魔王を倒さなくてもリハビリ運動を頑張って自力で歩ける様になるかもよ?」


 そうなる自信はあるのよね。

 

「フフッ、そうかも知れんな。じゃあ、もう少し様子を見るとしようか」


 そう言いながら車いすを押してくれるシオン。

 再開したお茶会には、いつの間にかテトラとモックンも混ざっている。


 みんなビックリしているけど、笑顔で迎え入れてくれているわ。

 そんな光景を目に焼き付けて、心に誓ったの。


 

 よ――し、リハビリ頑張るぞ。

 絶対自力で歩ける様になってやる!




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