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障がい転生、幸せになろう   作者: オータム・ひのもと
16/17

雲のモックン、一網打尽!


「ルーク、ご馳走様でした。美味しかったわ」


 こんな時でもお腹は空くのね。

 まったく、テトラってば置き手紙一つでどこかに行っちゃって。


 ゛きっと犯人を見つけて来るでプ、何も心配しなくていいでプ゛

  

 なんて、カッコイイ事を書いてるけど、心配するに決まっているじゃない!


 お昼過ぎまで帰ってこないし、本当にどこまで行ったのかしら。


「キアラ様、何か気にかかる事でも?」 

「ううん、何でないわ」

「……では、食器をお下げします」

 

 何も聞かないのね。ありがとう、ルーク。

 今度この気の利くお爺さんに、テトラの肩たたき券でもあげようかしらね。


「ただいまでプ」


 わっ、びっくりした!

 いきなりベッドから帰って来ないでよ!


「随分と遅くなってしまったでプ」


 遅くなりすぎだってば!


「いったい今までどこに行ってたのよ!」

「町外れまででプよ」


 町外れ~~?


「何でそんな所にまで行ってたのよ?」

「公爵令嬢を付けて行ったから、しょうがないでプ」


 令嬢? 犯人を見つけに行ったんじゃなかったの?

 

「公爵令嬢が偽手紙の真犯人でプ。この耳で聞いたから間違いないでプ。それより、」

「ちょっと待って、その前にモックン、テトラを綺麗にしてあげて」

「プルプルン!」

 

 真っ黒けでドロドロだもん。 


゛ゴシッゴシッ゛


「モックン、ありがとうでプ。スッキリしたでプ!」


 うん、これでもとの可愛いテトラだ。


「そんで、さっき言いかけてた事……」

「そうだったでプルプルプル!」

「きゃっ!」


 な、何よ、急に犬みたいに体を震わせないでよ。

 水がかかっちゃったじゃないのよ!


「キアラ姫が危ないのでプ!」

「ど、どういう事?」

「公爵令嬢が野盗を雇って、キアラ姫を攫って売り飛ばそうとしているでプ!」

「な、何よそれ----っ!?」


 何がどうなったらそんな事になるの!?

 公爵令嬢になんか恨まれる覚え無いわ。

 ってゆ--か、公爵令嬢ってシオンと踊っていた女!?


「どうやら、エリアス公爵令嬢はシオン王子を好きみたいなんでプ 」

 

 出た、またこのパターンだよ!


 ゛トントン゛


 ノックの音。

 こんな忙しい時に……


「キアラ、いるか?」

 

 あっ、シオンだ。

 噂をすれば何とやらね。


「何か用かしら?」

「お前、部屋に閉じこもって何をしているんだ。どこか具合でも悪いのか?」


 フーン、一応は心配してくれてるんだ。


「ちょっとね。今は外に出たくないから、シオンも帰って」

「……明日、庭でお茶会がある。元気なら出てこいよ」

 

 アッサリとした言葉を残して、足音が遠ざかっていく。

 って、もうちょっと引き下がりなさいよ!


「ちょうどいいでプね、この状況を利用するでプ」

「どうしたのよ、いきなり」

 

 腕くみをして真剣な目をしている。

 何か思いついたのかしら。

 

「今夜襲って来る予定だから、捕まえておくのでプよ」

「捕まえるって……。何の為に捕まえるのよ、サッサとモックンにやっつけて貰ったらいいじゃない」

「良い考えを思いついたんでプ」

「そ、そうなんだ……」

「そうでプよ、フフフ」


 腰に手をあててニンマリと笑ってるよ。

 よっぽど自信があるようね。

 では、とくと聞かせて貰いましょうか。その良い考えとやらを。


「――――――っていう作戦でプ」

「な――るほど。うまくいくかしらね」

「任せておくでプ。証書も取り替えて来たから、きっと大丈夫でプよ」


 牙を覗かせて妖しく笑っている。

 まあ、任せるわ。


 けど、テトラも苦労したのねえ。

 何が有ったかのか色々教えてくれたけど、ホントに大変だったみたい。

 

 昨日の夜からボスの手下が帰って来た明け方まで、ずうっと寝ないで待っていたなんてね。


 やっとこさ証拠の証書を取ったのが、みんなが寝静まった朝日が登った時。って、凄すぎるわ。

 よく頑張ってそんな時まで待てたもんよんね。そりゃあヨレヨレのボロボロになる訳だわ。


「これで公爵令嬢も破滅でプ!」

「プルンプルン!」

 

 モックンもやる気満々ね。

 まあ、全てはこのスーパー筋斗雲にかかっているのよね。


「湖からか……」


 そう呟いて、車イスで窓ぎわまで行ったの。

 城のお堀と高い壁が見えていたわ。


 その向こうには、光を反射して白く輝く湖が、少しだけその綺麗な姿を覗かせている。


 だけど、カーテンを閉めてしまったの。

 この事件が終わるまでは、例えケーキ屋がオープンしても開けてあげないわ。



「そろそろ時間でプ」


 テトラに揺り起こされて壁時計を見た。

 もう深夜1時前か、いつの間にか寝ていたのね。


「行くでプ!」


 ドアを開けながら叫んでる。


「さあ、出撃でプよモックン!」

「プルプルン!」


 あっという間に車イスごと体に載せてくれた。

 そのまま渡り廊下のドアまで行って、誰も起こさないように静かに開けたの。


「プルン!」


 ドアを閉めた瞬間、瞬きをする間もなく別館の屋根の上に。

 そっと私を降ろして、湖の遥か上空で待機に入った。

 

 その時、ローブで顔を隠した人間が、堀と湖を隔てる門に走って行くのが目に止まった。


 ハハ――ン、これがエリアス令嬢のメイドね。

 私に偽手紙を渡した張本人か。


 今から堀の門を開けるつもりなのね。

 …………うん、やっぱり開けた。


 ここからなら良く見える事。


 急いで帰って行くわ。

 どうせ、明日になったら捕まるのにね、フフ。


 それはともかく、もう1時だわ。

 そろそろ街中の時計台の鐘が……


「ゴ――ン」


 遠くから微かに聞こえてきた。

 

 と言う事は……


 あっ、船だ!

 真っ黒な細い船に、これまた真っ黒な服を着た男が行儀良く並んで乗っている。


 先頭にいるのがボスね。

 ボサボサ髯にワカメみたいなヨレヨレの髪。

 汚い毛先が肩に触れているけど、臭いもキツそう。


 モックンに臭いが移らないかな。


 部下達は……

 いち、にい、さん……で6人か。テトラが言ってた通りね。

 仲良く左右でオールを漕いでいるわ。

 野盗なんか辞めてレース選出になればいいのに。

 

 いやいや、もう水門をくぐってるじゃないのよ。 


 ボスは足元のロープを拾って、輪投げみたいに頭上でグルグルと回しだしたわ。

 木に引っ掛けて敷地内に舟を止めようとしているのね。


 いよいよ陸に上がるつもりわ。

 モックン、テトラ、やっちゃって下さい!


「プルンプルン!」


 急降下で登場!


「はっ? えっ?」


 上を見上げたボスが、ポカーンと口を開けている。


「な、何だお前!?」


 野盗達のすぐ真上で、船より大きくなったモックン。


「出た――、お化けだ――!」

「妖怪か!?」

「白いぞ、雲型モンスターだ!」


 手下達も取り乱して半狂乱だ。


「一網打尽でプ!」

「な、何をする気だテメエ!?」


 ボスは剣を抜いて戦おうとしたけど、


「プルプルン!」


「「ぎゃあ――――!!」」

 

 モックンが巨大になった体に、野盗達を船ごと収納しちゃた。


 ゛びゅーん゛


 凄い速さで飛んで行ったわ。

 もう姿が見えないし。


 手筈通り、テトラが言ってた遠くの高山に行ったのね。

 険しい山間に有る、超絶に深い穴ぼこに連中を置いてくるんだわ。


「置いて来たでプ」

「プルンプルン!」

  

 もう帰って来た、早すぎ!


「お、おかえり。あの連中は?」

「深さ千メールはある穴でプ。明日のお茶会まで絶対に出られないでプよ」


 それはまたご愁傷さま。


「じゃあ、シオンに教えに行くでプ」

「うん、そうね。心配させたら悪いものね」


 それからシオンの部屋に行ったわ。

 もちろん、モックンに乗って外からね。


 朝になったら、私達は行方不明になるの。

 大袈裟な血糊を残してね。


 いくらシオンでもビックリしちゃうのは間違い無しだから、事前に説明して置かないとね。


 と言っても、エリアス公爵令嬢の事は内緒よ。

 それは後のお楽しみ。


 さあ、見てなさい。

 ギャフンと言わしてやるから!


 

 

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