誰の仕業?
今日は仮面舞踏会があるの。
メイドのサラが着替えを手伝ってくれたわ。
綺麗なドレスを着てティアラも付けて、ルンルン気分なのよ。
「いつにもまして綺麗でございますよ」
ルークが嬉しそうに褒めてくれたわ、うふふ。
けど今日は公爵令嬢ってのも来るんだって。
優しい人だったらいいな。
「モックン、テトラ今日はお留守番していてね」
「わかりましたでプ」
「プルン、プルン!」
ルークに車イスを押して貰って、さっそく仮面舞踏会場に。
うわ、いっぱいの人が来てる。さすがにみんな着飾ってお洒落にしているわ。
変わった仮面を付けてるから顔は分からないけど、お偉さんなのかしら。アクセサリーが豪華すぎるわ。
それにしてもシオンったら何処にいるのかしら?
みんな仮面を被っているから見分けがつかないんだけど。
゛ツカツカツカ゛
おっ、あの颯爽とこっちに向かって来るのはきっとシオンね。
「ほう、なかなかイケてるじゃないか」
やっぱりシオンだ!
だけどさ、もうちょっと褒めてもいいんじゃないの?
「私と踊って頂きませんこと?」
急に誰か来たわ。
真珠が散りばめられた純白のドレスに胸元の大きなルビー。全身を光らせて、かなり身分が高そうな女性だわ。
「悪いが、連れがいるんでな。他をあたってくれ」
いいのかしら、社交辞令も大事なんじゃ。
「私は食事をしたいから、先に踊っておいでよ」
「何を言っているんだ。俺は踊りなんて全く興味がないぞ?」
「いいってば、王子なんだから付き合いも大事でしょ」
シオンの最初の一言だけで私は満足なのよね。
「お連れさんもこう言っているのですし、私と踊りましょうよ」
おっと、シオンの腕を取ったぞ。
強引な女だな~〜。
「おいおい、待ってくれ……」
シオンも満更で無かったりして。
あっ、演奏が始まった。
周りの人が騒いでいるけど、どうしたんだろう。
「さすがエリアス様とシオン様、絵になるわあ」
へえー、さっきの人が公爵令嬢だったのね。
どうりで高そうな宝石を着ている訳だわ。
それにしても、よくシオンが分かったわね。
「それに比べてキアラ姫は車椅子か。王子も物好きだな」
私の悪口も聞こえてきたよ。
気にしちゃダメよね……
だけどさ、二人の姿も見えないってのは悲しいわね。
人垣のせいで、私の座っている視線じゃ全く見えないわ。
「ルーク飲み物を取って来るわ」
「私が取りに行きますので、キアラ様はここに……」
「大丈夫だから、ルークはここで待ってて」
一人で行きたいのよね。だって、ちょっと覗きたいだけだし、はしたなく思われたくないしね。
さ~て、どこから覗けるかな。どこかに隙間はないかしら。
うんしょ、うんしょっと。
こういう時、車イスじゃ分厚い絨毯は進みにくいわね。
よし、ここのテーブルの前は人が少ないわ。ここからならテーブル越しに見えるかも。
゛ギュリン゛
あっ、ドレスの裾が車イスのタイヤに引っかかった!
このままじゃ倒れる、テーブルで支えなきゃ……
うわあ! 手をついたらテーブルクロスを引っ張っちゃった!
「キャア!」
゛ガッシャン!゛
イタタ……結局転んじゃったじゃないの。
最悪だわ、頭からお酒やスープをかぶっちゃった……
おまけに魚のムニエルまで背中に乗ってるし。
湯気も出ていて、みっともないったら、ありゃしない。
「キアラ様大丈夫ですか!」
青ざめた顔のルークが飛んできた。
「お怪我はありませんか!?」
「大丈夫よ、ちょっと腕と足が痛むくらいだわ」
「そうですか……ですが、お体がびしょ濡れでございます、急いで部屋に戻って着替えさせましょう!」
そうね、こんな姿じゃもうここには居られないわ。
みんなもほくそ笑んで、ただ眺めているだけだし、晒し者になるのは御免だわ。
ルークが自分も汚れてしまうのに、これっぽちも気にしないで抱きかかえてくれた。
そっと車イスに乗せてくれた後は、ダッシュで私の部屋に。
サラが入浴と着替えを手伝ってくれたの。
ボーグ先生も来て体を見てくれたわ。打ち身が少し有るけど心配ないんだって。
けどね、心はボロボロなの。
こんな時は一人になって、泣きたいわ。
ベッドの横にはプカプカ浮いているモックン。テトラは枕元で、じっと私を見つめている。
何も言わない二人だけど、優しく私を慰めてくれているのよ。
そんな二人に見守られて、少しの間泣いたわ。声を押し殺して……
゛コンコン゛
誰か来たよ、今は取り込み中なのにさ。
「キアラ様、お手紙を預かって参りました」
あれっ、サラじゃないわ。誰だろう。
「ドアの下に入れておいて!」
「かしこまりました」
泣き顔なんて見られたくないのよね。
テトラも、ベッドを降りて素早く手紙を持って来てくれたわ。
「僕が読むでプか?」
「うん、お願い。今は手紙なんて読んでる気分じゃ……」
「シオン王子からでプ」
何ですって、俄然、読む気になったよ!
「テトラ、何て書いてあるの?」
「そう急がさないで欲しいでプ」
だって、シオンを置いて来ちゃったんだもん。怒っていないかな?
「じゃあ、始めるでプね。キアラよ、さっきは気が付いてやれなくて済まなかった。お詫びと言っちゃなんだが、新しいドレスをプレゼントしたいんだ。一人で本館の客間に来て欲しい」
怒っているどころか、私を心配してくれていたのね。
さすがシオン!
「場所は、本館に入ってすぐを左に曲がって、そのまま廊下を進んで、突き当たりの右の扉を開けて、通路をまた進んで奥まで行って、奥の左の部屋に俺はいる」
や、ややこしいわね。
「怪しいでプね、この手紙は本当にシオン王子からの物でプかね?」
「そうよね……」
けど、もし本当にシオンだったら待たせてしまうわね。
「一応行ってみるわ。一人で来いって事だからモックンとテトラは待っていてね」
「何かあったらすぐにモックンを呼ぶでプよ、怪しすぎるでプからね」
「わかった、そうするわ。じゃあ行って来るね」
えっちら、ほっちら。
この絨毯、相変わらず進みにくいよ。
豪華すぎるのも場合によりけりね。
さーーて、この扉を開いて奥の左の扉だったっけ。
゛ギギィィ……゛
この扉、建てつけが悪いな。
さっそく入ってみよう……って、随分と薄暗いじゃない。
こんな所にシオンは本当にいるのかしら?
何にしろ折角ここまで来たんだから、行くきゃないか。
゛カラカラカラ゛
車イスの車輪の音が通路に響いている。
もうすぐ扉の前ね。
シオン、来たわよ!
゛パーーン!゛
わっ、びっくりした!
な、何の音!? ってタイヤのパンクした音か……
まったく、運が悪いこと。まあ嘆いても仕方ないわね、壁伝いに歩くか。
「ベタ、ベタ……」
ん? なんか手がベトベトする……
えっ、なにこの真っ黒な手!?
「きゃあ!」
滑っちゃった!
今度は顔からこけちゃったよ、これはホントに痛いわ!
おデコと鼻をしこたま打って……アレっ!?
顔もヌルヌルする……
と、とにかく這ってでも部屋に入らなきゃ。
゛カチャ゛
この扉はスンナリ開いたわよ。
シオンは…………いないじゃない!
ヤッパリ嘘だったのね、いったい誰がこんなイタズラを……
あっ、奥に鏡がある?
どうしてこんな所にあるんだろう?
どれどれ……
なんか真っ黒な人が映ってる?
まさか、これって私?
顔も服も真っ黒じゃない!
嫌、こんなの嫌よーー!
「モックーーン、助けてぇーー!」
「ボワーーン!!」
「来てくれたのね、ムギュウー!」
思いっ切り抱きついたの。
「ヒック、ヒック、ここから連れ出して、お願い!」
「プルン、プルン!」
泣きながらモックンに頼んだわ。
゛バコン!゛
一瞬で車イスを回収したモックン。壁を突き破って一気に部屋まで戻ってくてた。
「どうしたんでプか!?」
テトラが慌てて擦り寄ってきたわ。
「テトラ、ヒック、あなたの言う事が正しかったわ、ヒック……」
「どういう事でプか!?」
泣きながら騙された事を説明したの。
「ゴシ、グシュ」
その間にも、モックンが顔や手を綺麗にしてくれている。
そしたら、テトラが机の上に駆け上がって、凄い速さで足踏みをしだしたわ。
「許せないでプ! キアラ姫、一切合切何も心配することはないでプよ。この僕が悪党を見つけ出して、きっと成敗してやるでプ!」
「ブルルルル!」
テトラが拳を振り上げて、モックンが激震した。
テトラ、モックン、無茶はしないでね。
だけど、そうね……
私も許せないわ、許してなるもんですか!
やられぱなしじゃ終わらせないわ。
よーーし、反撃開始だーーっ!




