シオンと空のお散歩
「いいわね、殺しちゃ駄目よ。怪我させる位ならいいけど」
「わかりました、泥でも出しておきます」
「そうね、それでいいわ。じゃあ時計台の12時の鐘が鳴り終わってから頼むわよ」
「お任せを、アンネ様」
♢♢♢♢♢♢♢♢
「ふぅ、ふぅ、もうちょっと……」
このスロープのリハビリは手強いわね。
「その調子です、キアラ様」
上手く足が上がってくれているわ、なかなかイイじゃん。
「ゴール! ハア疲れた!」
「良く頑張りましたなキアラ様」
ドクターに褒められちゃったよ。確かに真剣になった時間だったわ。
だって結構動いてくれる様になってるんだもん。
この分じゃその内に、自力で歩ける事も出来るんじゃないかしら?
それに王妃だってリハビリ運動を応援してくれたし、期待に応えなくっちゃね。
「ではマッサージしましょうね」
このリハビリの人って名前はピカルだっけ。マッサージが上手だし、なんだか眠気が……
「ピカル君、明日は段差も使ってみたまえ」
「わかりましたボーグ先生」
生真面目そうなドクターね、黒縁の眼鏡が似合いそう。
明日のリハビリ運動の事もしっかり考えてくれてるし、信頼出来そうだわ。
それにしても眠いな、今朝は寝坊しちゃったくらいだしさ。
けど、今夜も空のお散歩には行きたいな。ついでにシオンも誘ってみたいし。
「はい、これでマッサージは終わりですよ」
涎を垂らす前に終わってくれて良かったわ。
「明日もこの調子で続けますぞキアラ様。私はスパルタですからな」
「よ、よろしく……」
やっぱり仕事熱心なドクターね。まあその方が私の為になっていいかもね。
「楽しみにしてるわ、先生。じゃあまた明日!」
ベッドの横に車イスを止めて、両手で柵を持って安定させながら立ち上がって。
左手で柵を持ちつつ軸足を左足に移して、ゆっくりお尻をベッドに向けて、右手も柵を持って、そのまま座って完了!
ああ疲れたーー!
「キアラ姫!」
あっ、テトラが車椅子に登って来た。何かな?
「キアラ姫、失礼と思いましたでプが、カーテンの隙間からリハビリ室を見ていたんでプ」
そーなんだ。
「どうだった?」
「キアラ姫の身体が壊れると思いましたでプよ!」
壊れるって、大袈裟ねぇ。
「次からは程々にして欲しいでプ 。モックンも心配しているでプよ」
「プルプルプルプルン!」
わあ、いつもより激しい揺れ!
ホントに心配していたのね〜〜、うんうん。
「分かりましたっ、無理はしないって約束するねっ!」
ちゃんとドクターの指示にしたがって、体に負担をかけない様に気を付けなくっちゃね。
だけど、コレとアレは別問題なのよ。
「テトラ、今夜も少しだけモックンと空の散歩をしない?」
ウフフ、これは外せないのよね。
「今日もでプか? 身体は大丈夫でプか?」
「プルンプルン!」
あれ位のリハビリ運動でへこたれる私じゃないのよ。
「全然大丈夫よ、心配しないで」
「そこまで言うならわかりましたでプ 」
「じゃあ決まりね。ウフフ、楽しみだわ!」
「そろそろ行くか、時間に遅れたらアンネ様に大目玉を食らっちまう」
「あの池の周りにある生垣なら見つからないわよ」
「そうしよう。しかしサラよ、こんな事であの姫さんがこの城を出て行くのかねぇ?」
「さあね……。けどやるしかないでしょ、命令なんだし」
「そうだな……じゃあ行ってくるとしよう」
「さあ、みんな寝静まった頃だわ、レッツゴー!」
窓から飛び出した私達、魔女にでもなった気分よ。
外に出たら今日はボートの形になってくれたの。
ソファーベッドも付いていて、これならみんな仲良く並べるわ。
いち、にの、さん、でシオンの部屋の前。
モスグリーンのカーテンは淡く光っているわ。
まだ起きてくれているのね。
怒らないかしら……
だけど、いつでも来て良いって言ったわよね?
「テトラ、シオンを呼んでくれない?」
「キアラ姫が呼んだ方がいいでプよ?」
私は……照れくさいんだよね、テヘペロ!
「プルンプルン!」
この震えはなんの意味かしら。
「ほら、私はさ、リハビリで疲れて呼ぶ元気が無いのよ!」
「ズルイでプ! さっきは全然疲れて無いって言ってたでプ!」
「そ、それはアレよ、年頃の娘は疲れやすいのよ!」
「僕だって疲労困憊、ヘロヘロでプ!」
「ええーーっ!? テトラは夜行性でしょっ!」
「お前達、こんな所で何をしているんだ?」
あわわ、いつの間にかシオンが窓から顔を出してる!?
「エヘヘ、空の散歩に誘おうと思ってさ。一緒に行く?」
遂に言っちゃたよ。
だ、大丈夫かな?
「着替えるから待ってろ」
ヤッターー! 大成功!
すっごいアッサリじゃん、悩む必要なんて無かったのね。
それにしてもシオンったら、バスローブ姿で上半身がはだけていたわ。お風呂でも入っていたのかしら?
鎖骨が浮き出ていて綺麗ね〜〜
「待たせたな」
…………相変わらず早いわね。
「俺は重いが大丈夫か?」
「プルンプルン!」
「ほら、モックンも大丈夫だってさ。出発ーー!」
「オイオイ、急がすな……うっ!」
急速発進、ゴーー!
------月明かりの映った湖も綺麗ね。
夜空を見上げたら、星の明かりが城のシャンデリアの様だわね。
湖を超えたら標高の高い山に到着かしら。
だけど今日はここまでね。
綺麗な風景も見れたし、シオンとも散歩出来たし、今夜はサイコーー!
「あの山を超えた海にロクア島がある……」
シオンがポツリと呟いたの。
真剣な目をしているわ。
何処かに行ってしまいそうで怖いわ……
「ロクア島でプか……」
何よ、テトラまで遠い目しちゃってさ。
「明日もリハビリでプ。寝坊したら大変なのでそろそろ帰るでプ」
私に隠したい事でもあるのかしら。
聞いても今は言ってくれない気がするわ。
だけど、きっといつかは話してくれるわよね。
信じているわ、シオン………
「じゃあお休み、シオン」
「ああ、お休みキアラ」
モヤモヤが残るけど、まあ楽しかったわね。
また今度も誘おーと。
゛ゴーン、ゴーン゛
あら鐘の音が鳴っているわ、もう12時だわ。
「モックン、早く部屋に帰って寝ましょ」
寝坊したら大変だもん。
あれっ、生垣に怪しい男がいるわね。
私の部屋の方向を見てるけど、何かする気かしら?
あっ、泥人間がいっぱい現れた!
きっとあの男が召喚して、私を襲わせようとしているのね!
許すまじ!
「モックン、やっつけて!」
「プルンプルン!」
゛ビシッ゛
うん、男の方は一瞬でした。
落雷一発KOね。
゛ビシビシビシッ!゛
引き継ぎ泥人形も瞬殺ね。
モックンも仕事が速いわねぇ。
さ~〜て、寝よ寝よ。
お休み、シオン!




