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05 たくさんのちいさなおんなのこ に かこまれた

「ねぇねぇ、ソウタ」

「なんだい」

「あの飴買ってきてー」

「ふふふっ、ダメだなぁ。もっと頼み方ってもんがあるだろ?」

「・・・あそこの飴ぇ、買ってきてくれない? おにぃちゃん」

「いや、はっはー! そこまで迫られたら買うしかないなぁ!」

「やったー!」


「なによ・・・その娘ばっかり」

「ん、なんだ。君も買ってほしいのか?」

「えっ、いや、ばっ、馬鹿じゃないの? 私は飴なんて子供じみたモノ・・・」

「パイン味のやつとか美味しそうだな〜」

「ぐっ・・・」

「欲しいならきちんと、同じように頼まないとね」

「・・・わ、私にも──飴を買って下さい。・・・おにぃちゃん」

「えへへ、しょーがないなぁー」

「あ、頭を撫でるなぁー!!」


 ──こんな具合に、俺は二人の幼女に挟まれ、幸せなひとときを過ごしていた。

 何故このような状況になっているのか。

 時は3時間前まで遡る。



 朝食を済ませ俺はリリーシュを何も言わず連れ出した。新居は街のど真ん中にあるため、ドアを開けた瞬間から市場の喧騒が飛び込んでくる。活気があるのはいい事だなぁと頷きながら、一時期王だった俺は高みの見物でメインストリートを歩いていく。

 もう俺はただの市民なのだが、謁見されている気分だった。朝の心地よい涼しさと風もあって、気持ちいい。


「何処に行かれるつもりですか?」


 リリーシュは布の厚いメイド服を着ている。とても暑そうだ。家を出てものの数分だが汗が滲み出ている。


「別にどこってわけじゃないけど」

「散歩ですか・・・だったら帰ってもいいですかね。暑いし」

「・・・メイドだよな、お前」

「家の監視をするのだって立派なメイドのお仕事ですよ。ご主人様にくっついてるだけがメイドではありません」

「じゃあご主人様からの命令だ。この散歩に付き合いやがれ、ばかやろう」

「チッ、しょうがないですね。分かりました」

「高圧的すぎんだろお前」

 初登場時のお前が懐かしいよ・・・。


 リリーシュはあからさまに退屈そうだった。メイドと言えど18歳だ。反抗的になるお年頃だ。・・・それにしても反抗的すぎるけど。


「そんな嫌そうな顔すんなって」

 俺は片手にアップルジュースを出現させた。

 果汁100%の濃厚なやつ。

「これでも飲んで元気出せよ」

「・・・こんな子供騙しじゃ私の機嫌は直りませんからね」

 そう言いつつも、ストローに口をつけ、チューっとジュースを吸い、

「・・・おいしい! えへへ・・・」

 と満面の笑みを浮かべる。

「ふっ、単純な女だ」


 話を聞いてもらう体制が整ったので、本題に入る。

「いいか、これはただの散歩じゃない。明確な目的がある」

「はて、それは一体」

「俺は既に世界を作り変えた・・・と言ったら分かるかな?」

「分かりません。いや、興味がないと表現するのが正しいですかね」

「冷たいよ! 聞いてよ、お願い!」

 俺はメイド服の裾を掴んでお願いした。

 たまに突き放すような事を言うけど、悲しくなるからやめて。

「しょ、しょうがないなぁ。聞きますよ」


 ・・・俺の次なる目標は『一大ハーレムの形勢』。数十人の女子に囲まれたい。

 これを達成するために、散歩をしている。

「今の俺は、ある条件を満たした女の子が一発で惚れるようになっている」

「ほう。つまり、私はご主人様に一切魅力を感じないので、条件を満たしていないってことですね」

「ま、まぁそうだな」

 ちょっと傷ついた。


 『ある条件』とは何なのか・・・それは歩いている内に分かるさ。

 っていうかリリーシュは見抜いてんじゃないかな。


 しばらく行くと、正面から走ってきた女の子が俺にぶつかった。二人とも倒れる。

「いてててて・・・」

 痛がってみると、メイドより先にその女の子が俺の元へと駆け寄ってくる。

「大丈夫ですか──」

 女の子は目を点にして、フリーズする。

 10秒の間俺と目を合わせて逸らさなかった。顔を真っ赤にして呆然とした表情。もう話せそうにないので、俺から声をかける。

「お嬢ちゃん・・・」

 小さな手を握り膝末く。膝末いても、身長は俺の方が高い。

「どこも痛くないかい?」

「・・・ひゃ、ひゃい!」

 こういう事に慣れてないんだろうな。初々しい反応だ。

「おにーさん、お名前は?」

「ソウタだよ」

「名前もかっこいい・・・」

「君の名前は?」

「私はアリス!」

「顔と一緒で可愛いね」

「そ、そんなぁ、えぇーっと・・・」

 アリスは下を向く。恥ずかしげにこう言うのだった。

「わ、わたし、お詫びにソウタと結婚する!」


 あまりの異常事態にリリーシュが介入する。

「結婚って、あなたまだ子供じゃないですか、許しませんよ!」

「・・・誰、このおばさん」

「おっ、おばさん!?」

 リリーシュだって十分若いが、アリスから見れば年上だ。お姉さんっていえばいいのに、子供は正直だ。

 おかげでリリーシュの顔は真っ青。魂が抜けたかのような顔でしばらく黙っていた。


 『ある条件』とは、単刀直入に言うと、8歳以上12歳以下の子供で、Cカップ以上の女の子だ。具体的かつ俺の性癖が全面に出た条件だ。いいじゃないか、俺にとって理想の世界を作るんだから。


 アリスは申し分なかった。CどころかDカップはある。年齢は10だと言う。その歳でこの大きさ・・・数年後の未来を想像すると恐怖すら感じた。


 アリスの胸元を誰よりも見つめていたのは俺ではなく、このメイドだった。自分の胸を触り、再びアリスの胸を見る。

「私の方が小さい・・・」

 悲壮感溢れた彼女の今にも泣き出してしまいそうな顔を、とてもじゃないけれど、俺は見ていられなかった。

 これが格差社会か・・・。


「デートしよっ!」

 純真無垢で明るい性格なので大胆なセリフも恥ずかしがらず言える。

 言わずもがな、アリスは俺に惚れている。この安心感、たまらない。


 一時間、アリスと街を歩いていると、また別の少女が俺にぶつかってしまう。

「ちょっと!」

 アリスと違って生意気だが、

「どこ見てあるいてんの・・・よ・・・」

 彼女も条件を満たしていたせいで、一瞬で俺に心酔してしまう。

 こんなのが続くと自分がモテ男だと勘違いしてしまいそうだ。・・・いや、もう勘違いしてるか。

「大丈夫?」

「だ、大丈夫よ。触らないで」

 素直じゃない娘は、俺の方から誘ってあげればいい。

「良かったら俺とデートしてみない?」

「デート!? 誰があんたなんかと・・・」

「ふーん、じゃ、いいや。俺はこの娘と二人きりを楽しむから」

「ぐっ・・・分かった。デートしてあげるわよ。デート」

 強気な態度だが、目は泳いでいる、ずっと顔は真っ赤だ。本性はアリスよりも恥ずかしがり屋に違いない。

「名前は?」

「・・・デリア」

「そうか。よろしくな、デリア。俺の事はソウタって呼んでくれていいから」

「・・・ソウタ。ふんっ、平凡な名前ね」


 こうして、性格正反対の二人の幼女とダブルデートをすることになった。片方には褒めちぎられ、もう片方には罵られて。二つを一度に体感出来るとは、なんたる幸福か。

 俺は終始笑顔だった。・・・リリーシュは遠目に侮蔑的視線を向けるだけだった。


「お昼ご飯だー! いぇーい!」

「いぇーい!」

 アリスと一緒に盛り上がる。デリアは参加しない。

「今日の昼ごはんはカルボナーラです」

「ばんざーい!」

「お金がないのでひとつを三人で分けましょう」

 真っ赤な嘘だ。

「アリス、口を開けて。はい、あーん」

 これがやりたかった!

「あーん」

 無防備に目を閉じて口を開けるアリス。かぶりつきたいくらいかわいい。ぱくっとフォークに巻き付けたカルボナーラを食べる。

「おいしいー!」

 頬が落ちる。恍惚とした表情は非常に見応えがある。ほんとに、表情豊かで可愛いなあ。


 さて、次はデリアの番。

「デリアも口開けて」

「私はやらないわよ、みっともない」

「じゃあ俺が食っちゃおうかな」

「あ! 待って!」

 大きく甲高い声で俺の手を阻止する。

「食べたくないなんて言ってないじゃん・・・」

「じゃ、口を開けるんだな。はい、あーん」

「・・・も、もう。一回だけよ。あ、あーん・・・」

「口がちっちゃいぞ」

「う、うう」

 眉間にシワをよせる。全力で目を閉じている。体は微妙に震えていた。

 アリスより無理してやってるデリアの方が、良いかも。


「リリーシュ、お前もいるか?」

「入りません。・・・話しかけないで下さい」

 ・・・何故かキレられてしまった。


 2人だけではハーレムとは言えない。俺は街中を練り歩いた。遂に俺にぶつからなくとも幼女が近づくようになっていった。家に帰る頃にはまるで大名行列。数十名の幼女を引き連れて部屋に入る。


 ひとたび俺がソファに座ると、幼女が俺を取り囲む。全方位、どこ向いても幼女が俺を見ている。

 しかもみんな言うことに忠実。リリーシュより忠実。


「水持ってきて」


 一言発するだけで、幼女たちが『私が持ってくの!』とコップの奪い合い。競走に買った足の早い幼女が俺の下へと水を持ってくる。

 王様やってた時より王様感がある。あの時手に入れられなかった、人間を服従させる快感を、今まさに、手にしている。


「ありがとう」


 頭を撫でて褒めてやるとにったり微笑む。嫉妬した他の幼女が私も撫でてと迫ってくる。


「やれやれ・・・さっきも撫でたばっかりだってのに」


 こうして全員の頭を撫でる。

 ここにいるほとんどの人間が、充足した時間を過ごしていた。

 納得いかないのはリリーシュ一人だけだった。


「おばさんも撫でてもらいなよ」「おばさん、いいの?」

「だからおばさんって言わないで下さい!」


 ・・・ボロクソ言われてもちゃんと敬語なのは、さすがメイドと言ったところか。


 彼女たちと生活し始めて五日が経とうとしていた。何処に行くにもついてくるもんだから、街の人に怪しまれた。次第に外に出なくなった。


 風呂の方はリリーシュにお任せした。一緒に入ったら気が気でなくなりそうだから、女子である彼女に一任した。

 しかし毎度『おばさん』って言われるもんだから、メンタルはボロボロになっていた。やめろって言ってもワガママ幼女たちは止めない。


 徐々に問題が露呈していき──ついにこの生活は破綻し始める。


 ある日の夜、ついに幼女達の間で抗争が始まったのだ。


「わたしが一番に思われるんだから!」

「何言ってるの、一番は私よ!」


 アリス派、デリア派という二大勢力がいつの間にか形勢されていたのだ。

 一発触発の状態。幼女と言えど、固まって喧嘩されたらケガ人が出るやもしれん。

 みんなの保護者として喧嘩を阻止する責任が俺にはある。


「──どうしたんだ、一体」

「ねぇ、ソウタ。あなたは誰が一番好きなのかしら」

「──みんな大好きさ!」

「それは、嘘よ。これだけいて皆平等に愛せるわけがないわ」


 俺は黙ってしまった。すると言い争いが再開した。

 先攻、アリス。


「私は何においても一番最初にやらせてくれるの。食べ物もまず私に分けてくれるし、朝イチで誰よりも先に頭を撫でてくれるんだよ。これが、私が一番という証拠」


「そうかしら? 面倒だから、さっさと終わらせたいから最初に済ましてるだけでしょ。あなたと違って、私は丁寧な扱いを受けているわ。お風呂上がりに長い時間かけて髪を乾かしてくれた。体の弱い私の食事には人一倍気をつけてくれた。私が一番に決まってるでしょ」


 そしてついに──。


「・・・こうなったら、暴力で解決するしかなさそうだね」

「えぇ、望むところよ。かかってきなさい」


 今どきの子供の思考回路はどうなってるんだ。過激すぎる、しかも女子なのに。

 俺は混乱して何も言えなかった。


 ただただ、静観。やがて二つの勢力が拳を掲げ、ぶつかり合う。

 清廉な少女達が鬼のような面でぶつかり合う姿は、とても俺の理想とは程遠い。


 ──ハーレムもやり過ぎは良くないんだな。大いに反省した。


 俺は幼女達の顔をよく目に焼き付けてから、叫んだ。


「こんな世界はもう嫌だーっ!」


 世界を元通りに、リセットする。


 ・・・ぱっ、と幼女達の動きが止まった。


「──私、何をしていたの?」

「──ここはどこなの?」


 元の無垢な幼女となって、彼女達はそれぞれ帰宅した。


 思わず膝から崩れる。


「つかれた・・・」


 五日間の総括はそれだった。嬉しいとか楽しいじゃなくて、残ったのは疲弊だけ。

 大勢の子供を相手に生活するのはとても楽じゃない。

 ──否、年齢は関係ない。多くの女性を囲んで暮らすのは、たとえ大人の女性でも、最終的には参ってしまうだろう。


「お疲れ様でした」


 後ろから肩を叩く優しい声。久々に会話した気がする。

 あれだけ生意気だと思っていた彼女が、今は誰よりも冷静で美しく見えた。


「これでよく分かりましたよね、あなたには私しかいないって」


「そうだな」


 ──俺にはリリーシュぐらいが丁度いいのかもしれない


 初めて、彼女がいるという安心感を感じた。


「へ、へぇ。今日は肯定するんですね」

「そんなに驚く事か?」

「この前は否定してましたから・・・はい。まぁ、分かってくれたならいいんです」


 ちょっと様子がおかしいリリーシュだ。


「はーっ、私も疲れました。さっさと寝たいですー」


「めちゃくちゃ頑張ってたもんな」


 リリーシュの働きぶりは異常なほどだった。嫌な顔ひとつ見せず、寝る間も惜しんで働き続けていた。


 俺にもそんぐらいご奉仕してもらいたいもんだ。


「頑張りましたよね、私。だから──」


 リリーシュは声のトーンをひとつあげて、


「御褒美に、頭を撫でてくれませんか?」


 幼女の声真似をして、唐突にそう言った。


「な、なんてぇ・・・。冗談ですよ──」


「・・・おつかれ」


「ふぇっ!?」


 俺は冗談を間に受けて頭を撫でた。

 実際頭を撫でるのじゃ足りないくらい、彼女の功績は評価に値する。全員分の服と寝具の洗濯、料理までしてくれたんだから。


「なっ、なにを!」


 数秒戸惑う。一度怒ろうとしたのか、顔をむっとさせる。しかし怒りを沈めて、彼女は素直になった。


「・・・ありがとう、ございました」


 その時の彼女は、やけに凛々しくて、色っぽくって、美しくて。見とれてしまった。

 知ってたけど・・・こいつ、こんなに美少女だったっけ。


 心の奥で何かが揺れ動いた。


 ・・・生意気なメイドのくせに。なんだこれは。


「さっ、早く寝ますよ」


 平然と振る舞おうとする彼女の姿は、どこかぎこちなかった。


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