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04 ちゃんとした拠点が欲しいです!

 世界征服という幼き日の夢を実現する為、まずは手馴しをしておこうと軽い気持ちで王様になった俺だったが、いろいろあってその夢は諦めることに・・・。しょうがない。

 という事で次は、世界征服の次に叶えたかった、第二希望の夢を叶えることにしよう。そっちは比較的実現が簡単だと思うから・・・相当楽しみにしてる。

 もう頭の中が溢れんばかりの妄想でいっぱい。モザイク越しでも引くくらいの内容だ。

 ・・・だから、さっきからゴミを見るような目で俺を見ないでくれリリーシュ。お前は妄想も見えるのか?


 時刻は昼の一時。俺の家の中、リビングにて。そんな、ゆったりとした時を過ごしていた。王を辞めてからまだ一日しか経ってない。あと五日は休暇をとるべきだ。

 だが、リリーシュはこんな事を言い出す。

「・・・ちゃんとした拠点を構えませんか?」

 拠点・・・つまり家。

「この家だって十分ちゃんとしてるだろ」

「作りという意味ではちゃんとしてますが、外観とデザインがね・・・」

「なんだ。俺の建築デザインに文句あっか?」

「・・・外からこの家を見たことないんですか。窓曲がってますよ。屋根も歪んでるし」

「あ、あえてだよ。これは芸術だ」

「そのセンスは一生理解出来ませんね」

 実際はあえてではない。何度やってもこうなってしまう。慣れればいずれ出来るようになるのだろうが・・・それにはまだ膨大な時間が必要な気がする。

「プロが設計したお家に住みたいです」


 リリーシュのそんな一言がきっかけで、俺達は今城下町内をぶらぶらしていた。住居は城下町に構えた方が良いだろうという意見には俺も賛成だった。

「・・・不動産屋とかあるのか?」

 と質問した瞬間、愚問であると理解した。不動産屋に頼る必要は無い。どこぞの知らない誰かの家を空き地に持ってきて俺達の家ってことにしちゃえば、いい家がタダで手に入る。

「・・・いや」

 でも、そこに住んでいた人々の生活を奪う事になってしまう。・・・それはダメだろう。記憶を変えても彼らの帰る家がなくなってしまう。

「なに葛藤してるんですか。空き家なんて腐るほどありますから、それをかっさらえば良いんです」

「なるほど。んー、でも不動産屋さんに迷惑じゃないか」

「・・・はぁ」

 深いため息をつかれた。

「まったく・・・スキル私に渡して欲しいくらいです。本当チキンですね。良いんですよ、そんなの気にしなくて。その姿勢じゃいつまで経っても宝の持ち腐れですよ。大体今更なんですか、一国の王の座を奪った人が。それこそ元王様のおじさんに迷惑かけてるじゃないですか──」

「分かった! 俺が悪かった!!」

 お手上げだ。

 ・・・こいつに口喧嘩で勝つ事は一生ないだろう。


 商店街のすぐ近く、城の真ん前に空き地があったので、そこに良い感じの家を持ってきた。二階建て、横に広く大きい、豪華絢爛な家・・・というかお屋敷。以前の持ち主は恐らく貴族や豪族か。一気にレベルが高くなった。

 中に入って目を疑った。一体いくつ部屋があるのか。ドアが沢山。それも一つ一つの部屋がでかい。地下への階段も見える。つまりこの家は、地上二階、地下一階の三階建てだったということだ。

 ──二人で使うにはあまりにも贅沢。

 家具はもう揃っていた・・・以前まで誰かが使っていたかのような・・・綺麗な状態で。

 ・・・本当に空き家だったのか?怪しいぞ。


「綺麗な食器棚ですね。このキッチンコーナーも素晴らしい愛着を感じます。ほう、洗剤もあるじゃないですか」

 いかにも着眼点がメイドらしい。

 ・・・そうだ、そういやこいつメイドだったな。

「・・・なんだか、初めてお前のメイドらしい姿を見た気がするよ」

「・・・私は四六時中ご主人様に忠実に従ってきたつもりですけど」

「どこがじゃ!」

「・・・でも確かに、少しメイドとしての力を出し切れてない感は否めないですね。私だってちゃんと持ってるんですよ、家事のスキル。掃除、洗濯、料理。全てをカバーしています」

 するとリリーシュは腕を捲り、服のゴミを払って胸を張って言った。

「・・・見たくないですか? 私の料理の腕前」

「・・・気にならないと言ったら、嘘になるな」

「ふふっ、そうですか。ならば、見せて上げましょう。私のメイドとしての実力・・・。さぁ、材料を買ってきて下さい」

「俺が買いに行くのかよ!?」

「私は準備してますので」

「・・・もう、そういうとこがメイドとしてダメだよな」

 メイドの命令により市場へと駆り出されるご主人様。もう彼女の事はメイドと認識しない方がいいのかもしれない。

「ほら、買ってきたぞ」

 食材の指定は無かったのでとりあえず、野菜、肉、各種調味料、使えそうなものを買ってきた。

 リリーシュは目を輝かせて、

「ひゃっほぅ!」

 雄叫びを上げる。

「活きのいい食材たちです・・・よしよし」

「なぜ撫でている・・・?」

「だって可愛いじゃないですかー。嗚呼・・・早く美味しくしてやりたい・・・」

「と、とりあえずお前のモチベーションの高さはよく分かった」

 料理は順調に進むと思われた・・・しかし。

「うぅ、涙が」

「・・・玉ねぎか」

「違います。この子を切り刻むだなんてぇ・・・うっ・・・私にはできないニャ!」

 ・・・想像以上に時間を要しそうだ。

 「ソウタ様は机でお待ち下さい」と追い返されたので、大人しく待ち続ける事、一時間。ようやく料理が運ばれてきた。

「どうぞ」

 大きな皿の中心に小さくまとめられたほうれん草とベーコン。お洒落なソースがかかっている。

「前菜でございます」

 耳を疑った。

「前菜って・・・コース料理なのか!?」

「はい! 次はクラウチャウダー作ってきますね!」

「お、おい待て!」

 俺はここでどんだけ待てば良いんだ!

 クラムチャウダーは何時間で完成する!?

 料理を中断させようとも考えたが・・・この塊だけじゃ腹は満たされない。待つことにする。

 やがてクラムチャウダーがやってきた──二時間後に。

「お待たせしました〜」

「待たせすぎだ・・・」

「あれ、ほうれん草食べないんですか? ・・・もしかしてお嫌いでした?」

「今から食べるよ。いただきます」

 まずは前菜から。用意されたフォークで突き刺して口に運ぶ。・・・テーブルマナーとしてこの行為は相応しいのだろうか。庶民なので分からない。

「・・・!」

 これはただのほうれん草とベーコンのソテーでは無い。程よい塩味であり、ソースがいいアクセントになっている。

 このソース、何で出来ている?

「ソースの方にもほうれん草を使っております。ややスパイシーに仕上げました」

 なるほど。だから違和感が無かったのだ。

 異なる形態のほうれん草同士が口内で交わる事で、自然と味が調和される。

 独創性に溢れた非常に完成度の高い一品だ。

 この優秀なシェフが作ったクラムチャウダーの味がいかなるものか、気になって仕方が無い。

 すぐさま次の段階へと移る。立ち上る湯気と芳醇な香りが食欲を増進させる。アサリ、キャベツ、人参、しめじ・・・具沢山だ。フォークをスプーンに持ち替えて、そっと表面を掬う。

 一気にマイルドな暖かさが口の中に広がる。潮の香りが鼻を抜けていく。グッと飲み込む・・・感じた事のないコクを喉に感じた。

 ほんのり甘くて・・・しかし奥の奥の方に、塩っぽさが隠れている。

 隠し味があるはずだ。一体何を入れた?

「薄口醤油をすこーしだけ入れてみました」

 なるほど。その発想は無かった。

 クラムチャウダーに醤油を入れるなんて、凡人がそんな考えに及ぶだろうか。いや、到底及ばないだろう。これはあらゆる料理を知り尽くした者がたどり着く、究極の『アイデア』に他ならない。

 リリーシュの調理技術に完全に屈服した。こいつの技術は本物だ。

 ──この感動は一切語らず、感想はたった一言、

「・・・おいしかった」

 と言うに留めた。

「まったく、ご主人様は恥ずかしがり屋ですね。いいですよ、心の中で唱えて下さった賛辞の声は受信致しましたから。ふふっ」

 声に出さなくともこいつにはバレバレなのだった。

「これから、お腹がすいたなーって時は、リリーシュに何なりとお申し付け下さい! 必ず美味しい料理をお作りします」

「・・・時間がある時に考えとくよ」


 夜になった。さっきので腹は満たされたので、夜飯は食わなかった。ソファにぐったりよっかかってため息をつく。

「次はどんな夢を叶えるつもりですか? ──もう決まっていますよね」

「あぁ」

 その通り。

 世界征服の次。第二の夢。

 それは──。

「──俺を中心とした、一大ハーレムを形成する」

 一度で良いから女の子にチヤホヤされたい。囲まれたい。

「これまた、ベタな夢ですねー」

「確かにベタだな。だが、より具体的な内容を知った時、お前は二度と同じ台詞を吐くことは出来ないだろう」

「なになに、なんですか? 教えてください!」

「明日のお楽しみだ」

 当日まで誰にも教えない。

 だから心の中でも考えないようにしないと・・・リリーシュに見透かされてしまう。

 ひたすらに、無心でいなければ・・・。

「・・・ふーん、そういう事ですか。分かりました」

「え、分かったの!?」

「やっぱりご主人様はヘンタイですね。軽蔑します」

「・・・い、いいさ。いくらでも軽蔑しやがれ」

「・・・どんな意見にも自分の性癖を曲げない屈強な心──尊敬します!」

「どっちなんだよ!」

 ──明日への期待を胸に抱き、俺達は眠りについていた。

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