02 世界最強と銘打ってるだけあって、そのスキルはとんでもない力を持っていた
どうやら転移に成功したらしい。女神の姿はもう無い。
木で出来た粗末な小屋の中に俺は寝そべっていた。ホコリっぽくて咳が出る。天井の四隅に蜘蛛の巣が張ってある。蜘蛛だけでなく蝙蝠や蛾、多くの同居人がいるようだ。ちっとも嬉しくない。もっといい環境を用意出来なかったのか。いくらなんでも酷すぎる。
耐えられなくて身を起こす。階段は無いので地下は無さそうだ。窓は一つ。照明が無いので部屋は暗い。キッチンや風呂場はあるがとても汚い。歩く度に床が音を立てて軋む。今にも崩れてしまいそうな頼りなさだ。
小屋の外は草原だった。他に住宅は見当たらない。遠くの方に城が見える。徒歩で20分はかかる距離だ。街に行く度歩くと思うと嫌になる。
小屋の外観は内装より酷い。蜂の巣がある。屋根には無数のカラス。壁を這って登る蛇。
総合的に判断して人が住んで良い家でないことは明確だ。もはや廃墟である。
どうすりゃいいんだよ・・・。
しかし俺は忘れていた。今の俺は世界最強なんだ。『世界創造主』が使えるはずだ。
・・・となると、この小屋は女神が与えてくれた練習場か。世界を変えれて、たった一軒の小屋が変えられない訳がない。
まずは小屋に集る怪物共をとっぱらおうと念を込める。どう力を入れればいいんだろう。手の平を屋根に翳す。すると。
カァカァと鳴き声をあげてカラスは去っていった。しかし偶然かもしれない。同様に蜂の巣でやってみる。途端に蜂の巣は粉々に砕け散った。中から大量の蜂の群れが俺目掛けてやってくる。奴らも俺が念じるだけで消えていった。
「──すごい!」
全く未知の体験に昂った。サクサクと家の内外の動物共は駆除する事が出来た。随分とすっきりした。
清掃が容易だと気づくのにあまり時間は要さなかった。窓を全開に、部屋に息をふっと吹いてやると、埃は纏まって意思を持って逃げるように外へ出ていく。気持ちいい。
一通り掃除し終えたが未だに部屋の全貌が掴めない。やはり、照明が無いからだ。
──もしかして物質生成能力もあるのだろうか。
脳内によくありがちな裸電球をイメージする。配置場所は天井の真ん中にしよう。
頭上で灯りがポツリ、物音一つ立てずに突然出現する。想像通りの場所に設置されていた。
部屋が明るく照らされる。蛇口には水垢がびっしりついている。壁には隙間がそこかしこにあった。隅っこに立つ少女。小屋の汚い部分が更に露呈した。見なきゃ良かった。
──え?
隅っこに立つ少女・・・?
「うわぁあ!?」
思わず倒れ込む。いつからそこにいたんだ。顔が不気味に照らされている。背丈から判断するに子供だ。白い髪。後ろで髪を束ねている。解いたら相当長いだろう。総評して美少女だ。子供ながらナイスプロポーション。
そして、何故かメイド服を着ている。
「随分とお楽しみで」
くすくすと少女は笑う。つり目と見え隠れする八重歯で構成されている笑顔はまるで猫のようだ。
「誰だ!」
思わず語気が強くなる。怒鳴りつけるつもりは無かった。恐怖心を大声で誤魔化したかった。...幽霊の可能性も捨てきれないだろ。
「怖いならスキルで私を消しちゃえばいいじゃないですか?」
心を見透かしたような事を言う。メイドのくせに人を小馬鹿にした奉仕心の足りない態度だ。お仕置きをしてやる。スキルが人間に適用されるか実証するいいチャンスだ。お望み通り存在を消してやろう。
蜂の巣の時と同様の力を込める。我ながらエグイ。要するに木っ端微塵に破壊しようとしたのだ。肉片も血潮も消し去る事が出来る。構わない。
・・・しかし、少女は飛散しなかった。
「ざんねーん。私にスキルは効きません」
耳を疑った。そして女神を疑った。世界は思い通りじゃないのか。人はおろか物理法則さえも操作出来るんだろ。効かない人間もいるのか・・・まさか。いや、単純な話だ。効かない・・・つまり、少女はこの世界に存在するモノでは無い。それだけの事だ。
俺の知る限りその定義に当てはまるのは幽霊だけだ。無事、少女が幽霊だと証明された。無事じゃねぇよ。恐怖心に拍車がかかる。
「お前は何者だ!」
声は震えている。汗は全身びっしょりだ。手が震える。スキルを過信しすぎた。やっぱり絶対的な力は無いんだ。
「私はリリーシュ。あなたの専属メイドです。よろしくお願いします」
メイドらしく礼儀正しくお辞儀する。深すぎてほぼ土下座だ。最高位の敬意を示しているつもりなのか。
「・・・に、 人間なのか?」
「違います」
「じゃあ、ゆ、幽霊か!」
「幽霊でもないですね。私は女神様の命により天界とあなたを繋ぐ役割を果たすために地上に降りた、ただのメイドです」
「・・・天使か?」
「天使でもありません。だから言ってるじゃないですか、私はメイドです」
何度聞いても自分はメイドだとしか言わない。埒が明かないから追及は諦めた。ひとつ確かな事は、少女には実態がある。幽霊なら触れようとしても透けて通り抜けるはず。その事実は俺の心を落ち着かせた。
「おっぱい触りすぎです!」
「あぁ、ごめん」
無意識に乳房を揉みしだいていた。人間として終わってる。ちなみに程よい貧乳加減でとても良かった。今後も存分に揉みしだきたい所存である。
「ご主人様のお名前を教えて下さい」
まるでメイドカフェ。本当にメイドってご主人様って言うんだ。
「・・・俺は、ソウタ」
「ソウタ様。素敵なお名前です」
・・・見た目は10歳近く。しかし言葉遣いが丁寧過ぎる。子供の無邪気さが無い。恐らく実年齢は高校生ほどだと推測する。
目力が強い、それと可愛いので、目を合わせて会話を展開するのは不可能。俺は人との対話能力が著しく低い。それはスキルをもってしても補えない。
なんとか言葉を捻り出して聞く。
「俺のスキルはほぼ万能だ。大抵の事は出来る。メイドなんて必要無いんじゃないか?」
スキルの力が及ばないならむしろ邪魔だろう。
「仰る通り、私からご奉仕する機会は少ないでしょうね。ですが、スキルが効かない分、私はソウタ様に従順で忠実です。何でも命令して頂ければ、指示通り行動致します」
「何でも・・・か」
「・・・無関係な話ですが、私は今年で18歳になります。ですがご覧の通り貧相な体型です。ある方々は合法ロリと呼びます。体の小さい私を犯す事で法に触れず背徳観が味わそうだ──と、言われた事があります。・・・ぜひ参考までに」
無関係な話では無い。これは暗に性処理の道具として使うのもアリだと言っている。どんな命令もこなそうという強い意志を感じた。
きっぱり断れたらかっこいい。家事炊飯を手伝ってくれるだけでいい、と言えたなら。
「・・・考えておくよ」
卑しい欲望に負けた瞬間だった。それにメイドは素直に首を縦に振るのみ。あってないような罪悪感を背後に感じた。
これからどうするかは全くの未定だ。膨大な能力すぎて使い道がまるで分からない。ただ、真っ先にやるべき事は、この小屋の改装だ。折角だから豪邸にする。家具も一通り揃えよう。
外へ出て想像を働かせる。一階建てのままでいい。とびきりリッチな外装で固めてやる。
出来上がったのは『庶民の想像するベタな富裕層の豪邸』。ガチの金持ちは案外、こんな金銀財宝に塗れた家は建てないのかもしれないが──これで良い。
家具も適当に揃えて、やがてやる事が無くなった。
ぐぅぅぅ。腹が鳴る。腹が減っていると気付かされた。・・・このスキルの面白い所は脳内に記憶がありさえすれば、この世界に無いものでも出現させられる所だ。今俺は某ポテトチップスを食べている。普通異世界では有り得ない光景だ。
でもポテチでは物足りない。どうせなら現地の食べ物を見に行きたい。一度見に行けば食べ放題だ。
「市場に行ってくる」
「私も付いていきます」
「君は家で待ってろ」
「私がご主人様のメイドである限りは付き纏います。こればかりは止めろと指示されても従えません」
「・・・分かったよ。ついてこい」
「やった!」
一瞬女の子の顔を覗かせたメイドと共に道を歩く。一向に城が近づかない。
──これもまたスキルでどうにかなるのだった。
家と城下町が近づくイメージを乗せ、手で空中をつまむ。すると驚く事に、数キロ先の城下町を囲む城壁がすぐ目の前に近づいてきたのだ。間の地面は何処へ。
「【経路無視】ですね」
やけにスキルに詳しい。女神から伝えられているのか。名前なんかはどうでもいいけど。
街は栄えていた。露店が立ち並んでいる。人は密集していた。
体の何倍もの大剣を背負う男。コスプレみたいな服を纏う人々。絵に書いたような異世界風景。ワイシャツにジーパンの俺の方が、ここでは異常なのだ。
食べ物はお馴染みのもあれば見たことないのもある。何かの肉や内蔵の漬物。旨そうでは無い。結局果物に落ち着く。
「すいません。林檎をふたつ」
ここの硬貨は来るまでに目にしてきた。林檎の購入に必要分の硬貨を作り出し、それを渡す。
「はいよ」
何気なく意思疎通が出来ているが、本来は世界を異にする者同士、言語が違う。スキルが翻訳してくれているのだ。相手の言葉も俺の言葉も。
「ほら、食えよ」
「・・・いいんですか!?」
「二個も食えねぇから」
「やったニャー!」
ついに喋り方も猫みたいに・・・。
林檎を丸かじりしつつ街をぶらつく。メインストリートを曲がり奥に入れば普通の住宅街。だけどこれと言って見るものも無く。すぐに家に帰った。
「何でも出来るから、何にも出来ない」
こんな贅沢な悩みを自分が抱える事になろうとは思わなんだ。
「・・・お前ならどうする?」
「猫と話せるようになります。そして、たくさんの猫を従わせて猫の国を作り上げます」
「かなりファンタジーだな」
「ぶっ飛んでた方がいいですよ。自分の願望や妄想をそのまま現実に出来るんですから」
ならば一つ、現実では実現不可能な願望がある。幼少期の頃からずっと抱えている願望。
「──世界を支配したい」
男子なら一度は考える、世界征服。
世界の全てを俺のものにする。いや、既にスキルによってそれは実現されてるようなものだが、そうではなく。目に見える形で、民衆を支配したい。
「そうだ。世界征服だ」
この世界での目的が定まった。いいんだ、もし納得が行かなければ自由自在に直せるだろう。やるだけやってみよう。
「ご主人様がそう仰るなら、私は従うまでです──」
メイドは穏やかな顔でそう言った。




