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フィリピーナの笑顔

作者: ふしお

冴えない男にちょっと勇気を与えるお話です。

フィリピーナはフィリピン人の女の人のことです。


この作品はアルファポリスにも投稿されている物です。

 フィリピンは貧富格差により、

富を得たものは豪華な屋敷を設け、

富のないものはゴミの山から金属類を集めその日を超えるのだ。


---------------------------------------------------


私はジャーナリスト柏崎きり 30独身の冴えない貧乏男である。

 先日フィリピンの取材を記事した私は今度は

日本でお店を営むフィリピン人の取材をしようと

片瀬編集長に許可をもらいに私は会社のオフィスへと足を運んだ。

編集長のデスクまで歩くのはいつもながら嫌だ。

取材で会社にはあまりいないがここの

騒がしく鳴り響く電話、わちゃわちゃと動き回る人々

これが普通の会社なのはわかっている。

私には集団で行動するのがあまり苦手だったのでこういう職種に就くことができて

一応この会社にも恩をもっているのだ。

片瀬編集長のデスクに着きいったい、いくら私は説明をしたのだろう。

片瀬編集長は耳に手を当て横を向いてイスから上半身を前のめりにし、

ようやく私の話が聞こえたようだ。


「あーフィリピンの取材ね、この前のね、君前々も評判良くなかったね」


 片瀬編集長のこの口調私は少し苦手だ。

だが、評判が良くなかったのは私が一番わかっていた。

最近の日本はあまり外国のことには興味がなく、日本のことを知って驚く外国人を見て愉悦を感じるのだ。

私は最近テレビでそのような番組を多く観賞してそう思っていた。


「君ー入社して何年だっけ? こういう失敗繰り返されると困るんだよね。

まーベラベラ言ってももあれだよね、率直に言うね、クビね柏崎君」


 取材の許可をもらいにいってクビになるとはなんとも滑稽なことである。

何度も片瀬に懇願したが、警察を呼ぶという言葉に私はおめおめと引き下がってしまった。


「柏崎さん、デスク片付けて何してるんですか? まさか長期取材するんすかどこっすか。

いいですねー僕なんかはまだデスクワークばっかで飲んでないとやってられませんよ。」


 ふん、最近入社した新人か、綺麗なリクルートスーツに身をまとって、今の私とはまるで別だな。

私は新人の軽い態度に応対をせず、オフィスを出た。

オフィスを出るとき私は新人に女性社員が私がクビになったことをひそひそとしゃべっているのを聞いてしまった。

あいつらの陰口を聞かなくなったのは清々する。


-------------------------------------------------------------------------------


会社のビルを出た私は帰りに焼き鳥と安い焼酎を購入して自宅へと帰った。

30手前にして初めて焼け酒というのを味わう。

私は酒をかっくらい、面白くもない芸人のテレビを見ながらフィリピンの記事のことを思い出した。

あー貧富の差とか大げさなことを言って日本とはまるで別の国のようだと書いてしまったが・・・・・・

なにも変わらないじゃないか!!

いや、私の場合は最初から貧乏ではなかったそう、チャンスはあった、

あったのにも関わらず何度も同じミスを繰り返してしまった。

焼き鳥一本丸ごとかっ食らい、焼酎をコップに分けずにラッパ飲みした。

愉悦してたのは私だったんだな。

ストレスを酒で忘れようと私はひたすら飲みいつの間にか寝てしまっていた。


 はぁあああーあ。

ああ! 頭痛い。

私は二日酔いの頭痛に耐えながら蛇口を開き、歯磨きをしながら昨日のことを

思い起こした。

ああ、これから何すればいいか、とりあえずタバコを控えてコンビニのバイトでもするか。

ふけっていると台所の隣の木の薄い扉にコンコンとノックの音が響き、1秒ほど間隔をあけ数回叩いた後

その音より大きな、片言の日本語が聞こえる。


「コンニチハー。ア、オハヨーゴザマス」


なんだー新手の宗教勧誘か、おれの弱い時を突きやがってまったく迷惑なやつだ。

ガナリつけてやる。

私はネクタイやスーツのしわがぐちゃぐちゃになって、ドアを開けた。


「はーい、なんですかあああ」


 私は大きな声を出したのに驚いたのか口を開け


「マキキラアンポー」


と発した。

あれ、私はこの言語の意味を知っているぞ、フィリピンのタガログ語で、意味はすみません。

よくみるとこの女性フィリピン人なんじゃないか。

フィリピン女性の特徴は目がくぼみ、鼻が横に広がり、口が前に突き出て、横から見るとそれほどかわいくないが、正面から見るとそこそこ私にとって好みの顔をしている。


「これこれ、柏木さん、この人は君の隣に引っ越してきた、ジュニファーさんじゃ。よろしくしてな」


管理人さんが女性の隣にいた。


「ヨロシクデース」


 ジュニファーさんはおれの手を握りにニコニコと笑顔を浮かべ、手を離すとそのまま


「サヨナラデース」


 ジュニファーは手をふり、すぐ隣ののピンポンを押した。

早朝からまったく健気なこったな。

私は扉を片足にひっかけてそのまま部屋に直進して引き込むように閉めた。

それより仕事、仕事。


-----------------------------------------------------------


夕方になり日が暮れかけた頃

私は仕事帰りによくバイト募集の壁紙の貼ってあるコンビニ店の外の広告紙を携帯で撮った。

色々回ったけどもう藁にもすがる思いだ。

毎日見下していたこのコンビニに私は

まどろっこしくその向かいの

どこか懐かしい、おじいさんが営む喫茶店でその募集に書かれている番号を入力した。


「お客さん、何頼みます?」


おじいさんにおれは口に出さず人差し指でメニューのコーヒーを適当に指差した。


「はいかしこまりました」


プルルルプルルル


「はいこちら、コシママート、○○支店です。ご用件は何でしょうか?」


「は、はいえーと」


あー何十年ぶりだ、こんなに緊張するのは。


「アルバイト雇用の件でしたか、わかりました。明日、こちらへ来れますか?」


ええーいきなり明日、まあいいや仕事は早いほうがいいか。


「では、履歴書などお持ちでお願いします」


「わかりました、失礼します」


 私は額の冷や汗を拭った。

あ、ちょうどコーヒーも来た、これで一息つけるかも。


「カフェオレ、キャラメルアジでヨロシイデスネ。オキャクサマ」


 ちっカフェオレかエスプレッソがよかったけど仕方ないな。


「はいそれです・・・あ、ジェニファーさん」


「アー! カシワギサン」


「へえーここで働いていたんですか、私も今度となりのコンビニ店で働くかもなんですよ、奇遇ですね」


 私の前でジェニファーは人差し指を顎に乗せ、まゆにしわをよせた。。

あ、伝わらなかったか。


「あそこで、働くかもです。ワ・タ・シ」


 私は自分とコンビニに指を指しながらジェニファーに短い日本語を伝えた。


「アーヨロシクデス」


 本当にわかってるのかなこの子。

私は小さくにやけた顔をした。

そうするとジェニファーもおそらくただ笑いたかっただけなのだろうが、大きく笑い声を上げた。


「コラ、ジェニファー真面目に働かんか」


 お店のおじいさんに怒られたジェニファーは私のほうに唇からちょっぴり舌を出して


「シゲ」


 と笑顔で言い、おれのいる席から離れた。

シゲ、意味はまたね、だ。

私は好きでもないカフェオレを飲んだが、その日だけはいつも飲むエスプレッソよりも深い味がした。

喫茶店を後にした私は昨日とは違ってとても清清しい眠りにつく。


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「天気予報、今日は曇り空が多く冷え込んだ天気になるでしょう。外出する際はなるべき暖かいい服装がいいですね。・・・・・・、続いて日本に働きにくる外国人、その理由を聞いてみました。

VTRスタート」


私は朝食を食べ終えスーツに着替えながらテレビをつけた。

今日は雨か、幸先悪いな。

そう思いながらテレビの音声だけを聞いていた。

あ、いかん時間が。

私は飲みかけのエスプレッソを口にほお張り、部屋を出た。

コンビニに着くまで冷たい風が皮膚にこびりつき、たかだかコンビニの面接に私は

次第に緊張していった。

う~寒い、帰りに手袋でも買おうかな。

私の重い心とは裏腹に店内の軽快なBGMが扉を開けると流れ出した。


「あ、あの~昨日バイトの面接の件でお電話した柏崎きりというものなんですが」


 説明途中に理解したのか40を越えてそうな少し強面な男が私を事務室へと案内をする。

パイプイスが二個用意されており、その強面な男は机の近くに一つ持って行き、

ふかぶかと腰をかけ終えるのを確認して私は失礼しますの一言とともに残りのイスに座りこんだ。


「あのこれ履歴書です」


「へえ、つい最近までジャーナリストやってたんだすごいね」


「はい、でも書く記事がどれもダメで・・・・・・」


私が説明を重々しくしてるのを読みとったのか


「あーごめんね、不景気だよな~わかる。おれも前の仕事を首になって今はしがないコンビニ店員だよ」


私は強面な印象とは反対に言動がとても気さくな態度に少しずつ緊張がほぐれていった。


「明日働いてみるかい? アルバイトだけどさ、がんばらないよりいいよ、ね?」


「はい!」


「よしじゃあ今日は解散。おちゅかれ」


 数えるほどの短い会話で私はアルバイトの面接に合格した。


-------------------------------------------------------------------------


緊張しすぎてしまった私はどこか遠くを見るように帰り道を歩いていた。

ゆったり歩いていると風景が暗くなっているのを気づき、肌寒さを覚え

歩く速さを上げた。

私が早歩きをしだして数分後、目の前の暗さを街灯の光でそこだけ丸く照らされた空間で

手を口にあて、白い息を吐いているジュニファーさんを見かけた。

昨日のような絶えない笑顔の顔はまるでなく、別人のように凛とした表情をしていた。

私は絵のような神秘的な光景に目を奪われていると


「あ、たしか柏木サン?ですよね」


「そうです、なんか昨日みたいな元気ないですね。何かあったんですか?」


「実は今日、言葉を間違えてお客サンを怒らせてシマッテ、辞めるカモしれないんデス。家族に日本のおいしいご飯を食べさせタカッたんですけど・・・・・・」

 

 そうだフィリピンの惨状をこの前私は取材したんだ。

日本に来るお金だってきっと苦労して・・・・・・

何かお詫びをしてあげたい、自分の愉悦に償いたい。

いや違う、償うなんてまた自分の都合を考えてしまった。

だからだめなんだ私は。

思っても今の自分の状況に術を思いつかないでいると


「ス、スイマセン。明日ガンバリマス」


 昨日の曇りもない笑顔を見た後だとすぐに作り笑いだと気づいた私は


「一緒に頑張りましょう、明日から同じ道です。後これ昨日のお詫びです手袋」


 本当は合格祝いに自分にあげるつもりだったけど・・・・・・


「あ、ありがゴザマス。いやありがとうござマス。あれ違うありが」


 何回言い直してるんだ、この人は。

三回目の言い直しに私は割り込んだ。


「大丈夫ですよ、私フィリピンの言葉わかるので日本語で言わなくても」


「ホントですか? でもこの言葉は日本語で伝えたいデス」


 彼女は笑顔で


「ありがとうございます・・・・・・あ、言えまシタ」


「いえ、こちらこそ明日から一緒に通勤しませんか? 同じ道ですし」


「プェーデ、いいですよ」


 私は手袋をはめてニコニコとしてる彼女に


「サラーマ、帰りましょ」


 っと、感謝の言葉を述べた。

彼女と私は街灯の下で何度か目を合わせては

暗くなるとお互いに目を背け、永遠に続くような暗い道の光が途絶えると暗闇に姿を飲み込まれていった。



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