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硝子の器  作者: 一ろと
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あなたと踊る

思えば、アタシはあなたのことを何も知ら無いままだったわ。あなたはアタシがガラス片となった後に残る宝石を贈るメレディにしか興味は無いでしょうけれど、せめてバラバラになって果てる前に少しでもあなたのこと、あなたに関わることを知りたい。




監視塔や盾壁に囲まれた中にキープがある。

つまり、メレディが住む高層マンションみたいなものだ。

ミアとキヨタカの住居からキープへ行くには橋を渡り盾壁を通って行かなければなら無い。

結婚式を挙げた教会はキープのすぐ側だ。

教会の外で手を振るアウルムと、金の穂がついた尻尾をゆったりと振るレオ。


「さて、とりあえずは井戸や鍛冶場を見ても仕方ねぇし、メレディの住処でも案内するか。多分そこにミアの旦那も居るだろうからな」


「ええ、お願い」


二人と一頭は連れ立ってキープの内部へと続く階段を上がって潜入したが、その間、沢山の兵士や使用人が居たにも関わらず誰にも止められなかった。

アウルムとレオに至っては多くの者がニコやかに挨拶をする始末だ。

ミアが来るほんの少し前からこの城にいるらしいが、人徳のなせる技だろうか。


「随分と馴染んでいるのね」


「ふふん、こう見えて長く生きている分、人の心の機微には聡いのさ」


長いと言ってもアウルムは四十代後半から五十代前半くらいに見える。

ミアはもし自分がその歳になったとしても、複雑な人の心を読むことなんて出来る気がしなかった。

もっとも、この身ではそんな年齢まで生きれやしないが。


「上の階からピアノの旋律が聞こえる。ホールで演奏会でもしてんのか?」


螺旋階段を上がり、大ホールへと出れば、隅にあるピアノをあの赤い髪の編み込み男が弾き、中央でキヨタカとメレディが絡み合い、ワルツのようなダンスをおどっていた。

二人はまるで互いに恋する男女といったふうに情熱的な視線を混じり合わせている。

それを見たミアが、キヨタカだけがメレディに思慕の念を寄せている訳では無くて、メレディもキヨタカのことを…と、勘付くほどの愛に満ちた眼差し。


フッ、と人の気配を感じ、メレディへと傾けていた顔を上げたキヨタカ。


「ミア…」


いつもの温度に戻る瞳。


今すぐ散り逝きたいくらい痛いのに思い通りになら無いひび割れ。


「調度良かった。ミア、お前ダンスは踊れるか?」


失礼しますと言ってメレディから離れ近寄って来たキヨタカは、どうなんだと聞いてくる。


「ダンスって今あなた達がやってたみたいな?」


「ああ…」


「少しなら、店で仕込まれたりしたから出来るけれど、あまり自信は無いわ。でも、どうして?」


「今度メレディ陛下の婚約者様を招き、此処でパーティーをする。その時、俺の妻であるお前もパーティーに出なければならないんだが、出れそうか?」


現金な心はキヨタカから発せられた「俺の妻」という言葉にざわめき、亀裂を広げる。


「私からも頼む。ミア」


キヨタカに惚れているはずのメレディはミアとキヨタカのやり取りを面白そうに眺め、口を挟んだ。


「わかりました。ですが、メレディ女王様の前で失礼だと存じますが、本当に自信が無いので少しキヨタカさんと練習してもよろしいでしょうか?」


「良いだろう。アズマ、曲を弾いてやってくれ」


「はいはい」


赤い髪の編み込み男はアズマという名だったのか。キヨタカといい、アズマといい、独特の響きを持つ名だ。

この国は様々な国の人々が混ざりあって出来ている国だから、店では偽名を名乗る客が多いのでミアにとっては聞きなれ無い響きを持つ名が、少なく無いのかも知れない。


曲が始まった。恋人達なら盛り上がりそうな甘いメロディー。


「手を…」


手を差し出し、片方の手はキヨタカの背に。キヨタカはミアの手を掴み、残りの手で腰を抱く。


はじめはゆっくりと曲に合わせて左右に揺れるだけ。


密着する身体。頬や髪、それに耳朶を擽る吐息。


じわじわとピリピリしっぱなしの胸のクラック。


目線をキヨタカの背後にやるといつの間にかメレディと並ぶように移動したアウルムがニヤついた笑みを浮かべている。

メレディは微笑み、キヨタカは誰とイチャつこうが自分のものだという余裕がみえる。


「どこを見ている。余所見をするな。俺だけ見ていろ」


そう言うキヨタカの視界に映るのは、今はミアだけ。


熱はやっぱり、こもってはいないけれど、愛しい男を独り占め。


心が弾む。


嬉しくて愛しくて。


曲もダンスも終わらなければ良いのに、と。



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