金継の男とライオン
眼前に立つ花嫁衣装を纏った女。今日から俺の嫁となる。別に愛している訳でも政略結婚という訳でも無い。いや、ある意味政略結婚か。この女が望み、俺は女王陛下の為に了承した。
だが、よく裏切った相手と結婚したいなどと言い出したものだ。
おかげで女王陛下のお顔を曇らせずに済むが。
愛、か。よくわからんが、この女がまだ俺に惚れているというのなら陛下の欲しい物を手に入れる為には都合が良い。
「…誓いますか?」
二人っきりの結婚式でお決まりの台詞を急遽頼まれた神父が告げる。
「誓います」
ミアが言った後にキヨタカも誓いますと言おうとして手で口を塞がれた。
「偽りの誓いの言葉は要らないわ。もちろん、誓いのキスも」
「別に構わないが、お前はそれで良いのか?後でやり直しはしないぞ」
「ええ、だって他の女性を愛しているあなたに、神様の前で嘘を吐かせられないわ」
「他の女性?」
ミアと会っている時は仮にも任務だったから他の女に目移り覚えが無い。いったい誰にだ、と問うと、
「メレディ女王に」
「なっ…に言って」
「ほら、あなたは彼女のことになるとそうやって顔色をすぐに変えて動揺する。それに、アタシを捕らえた日にあなた、アタシの瞳の色を褒める台詞を言いながらメレディ女王のことを思い浮かべていた。だって彼女の瞳、アタシと同じ色だったもの」
お前と一緒にするなどと女王陛下に失礼なことを言うな、または、お前が何を言っているのか意味がわからないとか、否定の言葉は沢山あるが、的を射ながらも思いもよらないミアの推理に、
「………け、敬愛だ」
とだけ絞り出すのがやっとで、目を逸らせば負けな気がして一対のメレディと同じ色と見つめ合う。
すると、教会の重い扉が開き薄暗い教会に光が差し込みミアの瞳にも入り込む。
あ、なんだ違うじゃ無いか。光を吸い込めば女王陛下のそれよりももっと強い輝きを放つ、寒さに震える者たちを見惚れさせる真のオーロラではないか。
「おお、いたいた。おーい、大将さん、メレディちゃんが呼んでたぜ」
初めてミアという女がキヨタカの心に映った瞬間、衣服から露出した肌の部分が金で継だらけの男が呼びに来た。
「…貴様、いくら女王陛下のお気に入りだからといってもメレディ様もしくは女王様とお呼びしろと言ってるだろう。不敬罪で牢にぶち込むぞ」
「唸ってないでさっさと行けよ坊や。また飼い主に叱られちまうぜ」
「っ…チッ」
走り去るキヨタカの後ろ姿を見送りった後、受け取り切れないくらい視線を投げて寄越す金継の男へと愛想笑いを送り、
「あの、何ですか?」
むしろ金継という変わった装飾?にジロジロ見たいのはこっちの方なんですけどと言いたいのをグッと堪えて聞いてみた。伊達に長い間水商売をやってないのだ。それにしても、何処かで見た記憶のある色をした目を持つ男だ。
「いや、せっかくの結婚式、邪魔して悪かったかなと思って。神父もどっか行っちまったみたいだし」
ボサボサの髪を掻き上げ無精髭の生えた顎でミアの背後を差しニヤリと笑う。
「急な結婚式でしたから、あなたが現れたのを幸いに逃げ出したんでしょう。…ところであなたは?ここの兵隊さん?」
体躯の良さは兵隊っぽいが自国の女王をちゃん付けで呼ぶ辺り違うだろう。それに戦場で戦うには少しばかり年を重ねている。
「こりゃあ失礼。オレはここの女王であるメレディちゃんにこの身体中の金継が珍しいからって拾われた男の一人で、金継のおかげでアウルムと呼ばれている。よろしく」
「アタシはミアです。よろしくお願いします」
「噂は聞いてるぜ。同じ女に目を付けられた者同士として畏まったのは抜きにして、もっとラフな感じに接してくれるとありがてぇんだけど」
不思議と懐にスルリと入って来る人懐っこい笑みと口調は、ミアのアウルムに対する警戒心を解く。
「ふふっ、いいわ。アタシも調度、気軽に話せる相手が欲しかったし」
「そりゃあ良かった。んで、さっきの夫になった坊やがミアの惚れてる相手?」
「ええ、アタシが心から愛する人よ」
「でも、向こうは君に惚れていない。だろ?」
ミアはゆっくりと頷く。
「やはり、平凡な恋とはならない…か」
「え?」
「ん?何でもねぇよ」
アウルムが緩く首を振った時、背後に大きな影が伸し掛かった。
「ぅおっ…重っ」
「ら、ライオンっ⁈」
見事な金の鬣が特徴的な真っ黒い雄ライオンがアウルムの背に負ぶさっている。
「重てぇよレオ。だいたい女性の前ではしたないぜ」
注意を受けてレオと呼ばれた黒獅子は渋々と背から降りた。
「こいつはレオ。オレと同じくメレディちゃんに拾われた男で、なんでも、金で出来た鬣が珍しいらしい。チャームポイントはシマウマの皮で作られた首輪で元からこいつの持ち物だ。主食は肉。人間のことは喰わない。多分。…よっぽど腹が減らない限り」
「そう。よろしくね、レオ」
最後の説明は気になるが、ネコ科の動物を愛する者として聞かなかったことにして、鬣から覗くふわふわの黒い耳を撫でれば、レオもよろしくといったふうに、
「ガウガウ」
と言い、白甲色の瞳を細め、ミアの手に頬をスリスリした。ヒビが入らないのが信じられないくらい胸きゅんである。
「んじゃあ、お互い、自己紹介が済んだところで、城を案内するぜ。どうせ坊やはしばらく戻んねぇだろうし暇だろう?」
「そうね、初日は牢に入れられたし、まだゆっくり見てなかったわ。お願いしようかしら」
「よし、決まりだな。とりあえずミアは着替えた方が良いぜ。せっかくの花嫁衣装が汚れちまう」
「ええ、じゃあ着替えたら、またこの教会に集合ね」
「おう、後でな」
純白のドレスを纏った花嫁は今日、夫となった男の職場見学へと繰り出すため、終生の居場所となった家へと着替えに帰る。
金継の男と黒いライオンと待ち合わせをして。




