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硝子の器  作者: 一ろと
2/8

あなたが愛して無くともアタシは

第2章


円窓の鉄格子の隙間から淡い光が漏れている。


今夜は三日月で良かった。満月の光は強すぎて、心に負った傷に染みるから。


見目麗しき女王メレディの前に連れて来られて、お前の屍から現れる宝石が欲しいと言い近付いてきた陛下の瞳の色を認識した途端、怒りという感情を爆発させて暴れて罵って、裏切った男に力付くで取り押さえられて、頭を冷やせと城の地下牢へ入れられて。


アタシと一緒だった。メレディ女王の目の色。


キヨタカのあの時の言葉が熱っぽく聞こえたのは、アタシに対して言ったものじゃなくて、メレディ女王を思い浮かべたから。


キヨタカはメレディ女王を愛している。


アタシはただのメレディ女王への貢物。


ここで悲嘆に暮れて自害したところで、メレディ女王は次の候補を探して、キヨタカが口説き落として、アタシは死んでも入る墓なんか無く、そこらに打ち捨てられて誰の記憶にも残らずに消える。





「おい、頭は冷えたか?まさか、陛下の御前で暴れるとはな」


ランタンを持って現れた鉄格子越しのキヨタカをぼんやりと眺め、


「今更、何をしに来たの?」


「お前の胸のヒビだがな、城勤めの魔法使いに聞いたところによると、胸が騒ぐ事によって徐々に広がっていき、最期に砕け散るものらしい。伝説の魔法薬だから城勤めの魔法使いですらただの噂だと思って始めに詳しく伝えてくれて無くてな…」


「それで?」


「でだ、女王陛下が俺に罰として何としてでもお前の宝石を手に入れろと。だが、お前、もう裏切った俺にはさすがに惚れて無いだろう」


初めてミアに見せた困り顔。メレディによほどキツく言われたのか相当凹んでいる。そしてミアの心はキヨタカの知ら無い面を見せられる度に身体に亀裂を入れていく。


「条件があるの」


「条件?なんだ、言ってみろ」


「結婚して。アタシ、あなたみたいな酷い男の事がまだ好きみたい。自分でもバカな女って思ってる。でも、薬を貰った時に言われたわ。心から愛する人が出来たら砕け散るって。その愛はこんな仕打ちを受けても変わらないみたい」


「…わかった、良いだろう」


どうせ消えるなら、例えメレディへの貢物としてでも良いから、愛した人の側で砕け散るまで生きていこうと決意した。




「ここがお前の部屋だ。結婚するとしても式や報告、色々あるからな。今日のところはゆっくり休め」


案内された部屋は城の敷地内にあるキヨタカの私邸だ。


二階の奧の部屋で窓から裏庭や馬小屋が見える。


ベッドと鏡台、窓際に備えつけられた椅子に、クローゼット、ミアにとって未だ嘗てない充分な部屋。


「ありがとう」


「結婚式や、必要なものについては明日から考える事にして、今日はもう寝ろ」


「そうね。そうするわ」


ミアは窓際の椅子に座り窓を眺める。何故か出て行こうとしないまま立ちっぱなしのキヨタカの姿が窓に映り込む。


「…?どうしたの?」


「……これをやる」


差し出されたのはミアがハンカチを買って貰った所の包み。

開けると、派手な柄の変な海藻模様がついたハンカチ。


「お前はこれから女王陛下のものとなるんだ。陛下に恥をかかさぬように少しは若い少女らしい華やかな色合いの物を使え」


言い置いて部屋を出て行くキヨタカ。


感謝よりも何よりもなんて変な模様のハンカチだろう、と本当はひとりになったら少しだけ涙が流れるかと思ったが笑いが出て、肩の力が抜けた。


「…興味無い女とのデートなんて退屈でしょうに、あの時に、選んでくれたんだ」



特別な意味の無いプレゼントだろう。だが、裏切られても愛する人からのプレゼントはミアの身体に青い線を広げていった。



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