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かみくら市の日常  作者: 馬鹿面
1/1

少し昔のお話

 この話は結構暗いです。これ以降の本編では明るくする予定です。

 世の中は不平等だ。

 健治は、ふと思った。

 どうして貧富の差などがあるのだろう。どうして美男美女というものが存在しているのだろう。どうして人によって遭遇する出来事、状況に大きな違いがあるのだろう。どうして。どうして。

 隣に座る黒猫に問いかけてみるが、期待したような答えは返ってこない。猫は退屈そうにベンチの上で伸びをすると、大きく欠伸をかくだけだ。

 春の心地よい日差しの中、一人と一匹で、ただ公園の中央に鎮座した、緑色に染まった大きな池を眺めていた。池には、汚れた桜の花びらがあちらこちらに塊になって浮いており、それをカモの子供が面白そうに突っついていた。

 「お~い」

 遠くから声が聞こえた。辺りが静かでなければ簡単に聴きそびれてしまうような、か細い女の声だった。鈍く、首ごとそちらへ目を向けると、綺麗な黒髪を肩辺りで揃えた少女が、池の向こう、この公園から一つ大きな車道を挟んだ道から、こちらへ小さく手を振っているのが見えた。一昔前のマンガに出てくるような、大きな丸眼鏡が印象的だ。

 健治は大声を出すような気分でもなかったので、軽く右手を振って応えた。黒猫も返事のつもりなのだろうか、少女に向かって大きな口を開け、欠伸をかいた。少女は口に手を当てて笑顔を見せると、右、左、右と体ごと車道に目をやってから、公園に向かって駆け出す。少女の右手には小さなビニール袋が握られていた。中には何が入っているのだろう。何かを買ってきてもらってきていたはずだが、いろいろと考え事をしているうちに忘れてしまった。

 健治は、少女が駆け寄ってくる様子を頬が緩むのを感じながら見守っていたが、少女が駆け出してすぐ、――――灰色の何かが、彼女の真横にいた。


 ドン―――――――――――――――――。


 小さな音だった。乗用車が、公園前の車道を通り過ぎた時に鳴った音だった。音が鳴ると同時に、少女の姿は消えていた。ただ、公園をぐるりと覆う植え込みの陰から、若い女の下半身だけが見えていた。少女が履いていた靴と、少女が穿いていた色の濃いジーンズを穿いた、若い、女の足が。

 ――――――――――――ぁぁがっ。

 すぐに「キーーーッ」という、つんざくようなタイヤが滑る音が響いたが、耳には入らなかった。健治の口は大きく開かれたまま、声にもならない声をあげていた。腰は上がらなかった。大丈夫かどうか確認しに行きたいにも関わらず、足は地面から離れることを拒み、恐怖に震えていた。目からは大粒の涙がこぼれ、口元には引き攣った笑みがこぼれていた。リアリティーが無かった。きっと大丈夫だ、問題ない。根拠のない自信を持たなければ、何かが壊れてしまいそうだった。

 黒猫は、健治と少女が倒れている車道を交互に眺め、首を傾げる。やがて飽きたのか、前足を使ってベンチから飛び降りると、もう一度健治の顔を眺めてから、車道の方へと歩を進めた。まるで、ついて来いと言っているかのような後ろ姿だった。健治は黒猫に釣られて、ようやく、腰をあげてふらふらと歩き出した。目の焦点は合わず、落ちている石に何度もつまずいた。体と頭がバラバラになったようだった。

 「(彼女に当たった車は、トラック等ではなく乗用車だ。ここらへんの道は入り組んでいて、スピードも出せないはずだ。彼女も車道を確認していたじゃないか、きっと大丈夫だ。ただ、少し、ぶつかっただけだ。)」

 自分を落ち着かせようと、様々なことを思い浮かべてみる。しかし、どれも不安や絶望感を和らげるだけで、胸にぽっかりと開いた穴を埋めるには至らない。

 道路に寝ころんだ女は、足にまで赤黒い液体を広げていた。

 健治はついに公園の外に出た。足元には紛れもない、彼のよく知った少女が倒れていた。肩辺りで切りそろえられた黒髪はしっとりと濡れ、少女の美しさを際立たせ、彼女の耳から離れた丸眼鏡は、道路一面に広がった血液を、歪んだガラス越しにたたえていた。一足先にたどり着いた黒猫は、彼女の額にできた大きな擦り傷を懸命に舐めているが、どうにもならない。右腕の関節が、あらぬ方向に曲がっていた。頭は陥没していた。若さを示す艶のある唇や肌は、本来の色を失おうとしていた。

 少女を轢いた乗用車は、すでに見当たらず、辺りには誰も居ない。

 黒猫が、一つ鳴いた。少年は音もたてず、ただ突っ立って泣き続けた。

 春の温かい風が、街に吹き抜ける。桜の花びらがまた一つ、風に奪われていった。

 真面目に書くともの凄い時間がかかる。もっとテキトーに書いた方がいいのかもしれない。

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