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VRMMO殺人指南書  作者: 幽々
神楽結成編
7/31

Episode6

「へぇ。 それじゃあ、その病院の関係でこっちに居るのか」


「まぁね。 普段は病室からダイブしてるの。 体調とかは別に悪くないんだけど、検査検査で学校に行けるのも月一くらい。 だから暇で暇で」


「そんであのログイン時間か。 なんか、納得行ったな。 てっきり主婦かなんかだと思ってた」


「……そんなおばさん臭かったかなぁ、私」


別にそういうわけではないが、訂正するのも否定するのもめんどくさいな。 そう思い、俺は空を眺める。 困ったときや面倒になったときは、こうして相手から視線を逸らすべき。 そうすれば、相手も興味をなくしてくれる。 だが、ランカは俺に少し顔を近づけ、言った。


「シンヤはさ、どうしてPKを始めたの?」


既に空は暗い。 そんな中、いくつか星が煌めいていた。 ランカの声を受けて、俺は横に居るランカの方へと視線を向ける。 すると顔が月明かりで照らされ、白い肌にその月明かりは様になるな、なんて思った。


「PKを始めた切っ掛けか」


「うん、そうそう」


ランカは興味深そうに、俺のことを見ている。 それは隠すほどのことでもないし、いつかは話そうと思っていたことだ。 まぁ、俺の予定だとそれはゲーム内で話すつもりだったけどな。 リアルでこうして話すことになるなんて、思いも寄らなかったし想定外だ。 想定できたらもう、そいつは神を名乗っても良いレベル。


「大した理由じゃねえよ。 俺がまだ弱かった頃に、PKをされたことがあるだけだ」


視線をランカから地面へずらし、俺は答える。 もっと言えば、より深い事情はある。 ただ、迷ってしまった。 もっとランカのことを知ってから、話そうと。


「ありきたりだね」


「だろ? ランカは、何か理由ってあるのか?」


俺が言いながらランカを見ると、ランカは目を丸くし、きょとんとした顔をしていた。 そんな顔を数秒続けたあと、口を開く。


「なに言ってるの? 私がPK始めた切っ掛けは、シンヤだよ。 か弱い私をシンヤは襲ってきたんじゃん」


「か弱い……。 いやてか、冗談だろ? ランカはさ、俺が襲った時点でINT極だったじゃねーか。 対人考えてなきゃ、あんな極端なステに普通しないだろ?」


昔の話だ。 俺がPKに遭い、PKを始めて一年ほどが経ったとき、標的にしたのがランカだった。 あの時点で対人慣れをしていたし、ステータスも戦い方もやけに対人向きだったから、てっきり同業者だと思ったのだが……。


「冗談じゃないって、マジだよ。 あれからシンヤが手っ取り早くお金を稼ぐ方法って教えてくれたし。 第一、私はチケット持ってないでしょ」


「考えてみりゃそうか……。 恐れいったな、初めてのPKで、しかも呪術師なのに肉弾戦で俺とやり合ったとか」


一年目にして、衝撃の事実。 てっきり俺は、ランカはずっと対人をしていたものだと思っていた。


普通なら、呪術師で肉弾戦なんて絶対にしねえぞ。 それもINT極のステでだ。 完全なる後衛職で、前衛職の俺と殴り合い、そしてほぼ互角……プライドが傷付けられた気がする。 でも、それがRMTの面白いところでもある。 センスがずば抜けてある奴ってのは、そういう離れ業ができてしまうんだ。


「お金、稼がないとだし。 シンヤはさ、お金貯めてどうするの?」


「ん。 別にこれと言ってしたいことはねーよ。 金が入ったらそれで遊ぶし、欲しい物買うし、何よりPKが楽しいからな。 無抵抗の奴より、反撃してくる奴の方が殺したときに楽しい。 あの死ぬ瞬間の表情が、面白い」


空を見上げて、言う。 最初こそ、俺にPKを仕掛けた奴に対する仕返しで強くなるためだった。 けれど、時間が経つに連れてPK自体が楽しくなった。 一人で殺すのも楽しかったけど、ランカと組むようになって、連携して殺す楽しさも見出した。 それは一人のときよりも、数倍は楽しい。


「あはは、引かれそうな発言だ」


「引くなら引け。 人にどう思われようと、どーでも良い。 そんなの気にして、PKなんてやってられるか」


ランカの顔を見ることなく、俺は言う。 陰口や、嫌がらせなんて気にしていられるか。 目に付いた奴を殺すだけで、気が向いたから殺すだけ。 殺られる奴は、決まって口を揃えて「どうして」と言う。 どうしてもこうしても、ただ居たから殺すだけだ。 視界を横切ったから殺すだけだ。 理由なんて、重要じゃねーんだ。 俺にとって重要なのは、殺すっていうその行為だ。 これほど楽しいことは、きっとない。


「私は、お金のためだなぁ。 お金をうーんと貯めて、まずはこの病気を治す。 で、そのあと叶えたい夢がある」


「ご立派なことで。 俺には到底分かれそうにないな」


病気を治すことが夢ではなく、その先に夢があるのか。 それがどんなものなのか興味があるが、理解できそうにはない。 人生、とっとと諦めて今の内に遊んでおくべきだ。


「そうかな? 些細な違いでしょ? 結果はどうあれ、経緯は同じだし。 PKをして他人を蹴落としているのは、一緒じゃない? ただそれに、私は夢があってシンヤにはない。 それだけしか違わない」


笑い、ランカは言う。 それだけ……そういう考え方も、ありか?


「私の夢のためにみんな死ねッ! どう? これPKしたときの決め台詞として」


「いらねーよ、決め台詞とか……。 けどま、そっか。 経緯は一緒だな」


邪魔する奴はPKで、目に入った奴はPKで、気が向いたらPKだ。 というか、こうしてリアルで話をした所為で勘違いしそうになったが、そのやり方、思想が合ったから俺はランカとこれまでやって来れているんだ。


「ランカ、ひとつ良いか? お前さ、PKって楽しい?」


「当たり前でしょ、そんなの。 殺す瞬間の、あの感じ……最高だしね」


即答だった。 俺は思わず、笑ってしまう。


「めちゃくちゃ楽しいよ、PKは」


言うランカも綺麗に笑って、俺にその嬉しそうな表情を向ける。 きっと、俺たちは狩りギルド連中から見たら変だと言われる存在だ。 けれど、俺たちには俺たちの考え方、やり方がある。 狩りギルドがモンスターや鍛冶、生産によって生計を立てるように、俺たちプレイヤーキラーは人を殺して生計を立てる。 十人居れば、十人の考えがあるだけの話。 そのひとつが特殊だと、誰が言えようか。


「全くお前とは気が合うよ。 ランカ、俺とランカでさ、ギルドを作らないか? PKギルドだ。 俺はさ、夢がないって言ったけど、RMT内でやりたいことはある。 それを叶えるためにも、もう少し人数が必要だ。 一人を殺したときの分配は減るけど、今より出来ることの幅は広がるし、うまくやりゃ収入だって増える。 徒党を組んでいる奴らも、ぶっ殺せる」


「ギルド……! もしかして、同じような考えの人を集めるってこと? 私やシンヤみたいな人たちを。 なにそれ、すごく楽しそうじゃん」


まるで小さな子供のように、ランカの顔はパッと明るくなる。 俺もきっと、同じ顔をしていたと思う。


「だろ? ってわけで、ギルド名は任せる。 あとお前がギルドマスターな。 俺、面倒なのは嫌だし」


「出たよ悪い癖……まぁ良いけどさ。 ギルド名は、そうだなぁ……神楽(かぐら)とか、どう? 神谷(かみや)の神と、甘楽(かんら)の楽。 で、神楽」


「ランカはほんっと、そういうの考えんのはえーよな。 それで良いよ、文句はない」


俺が言うと、ランカは勢い良く立ち上がる。 そして、俺に手を伸ばした。


「それじゃ、よろしく。 シンヤがサブマスターね。 目標は……そうだなぁ……RMTを過疎らせる、とか」


PKを起こしまくってってことか。 一体、それを達成するのにどれだけ時間がかかることか。


「それはともかくとして、理念はあるぞ」


「聞かせてもらおっかな」


ランカの言葉を受け、俺はランカが伸ばしている手を握る。 そして、言った。


「PKを楽しめ。 それが理念だ。 俺は、そういうPKギルドにしたい」


「シンヤらしい。 良いよ、私もそれには賛成」


こうして、十一月の頭、俺とランカはギルド『神楽』を設立した。 PKを行う者はそれほど居ないRMTで、PKギルドというのは非常に珍しい。 なので、中部地方にできた初めてのPKギルドだった。


「ところでさ、シンヤ。 RMT内で叶えたいことって、なに?」


聞かれたら、答えるしかないか。 もう、迷うことはない。 俺が知りたかったランカを知れて、甘楽(かんら)のことも知れた。 迷いはもう消え去っている。


「俺をPKしてきたギルドの皆殺し。 名前はしっかり覚えているし、今もどこかに存在するPKギルドだ。 ハーメルンの殺人鬼、知ってるか?」


「……聞いたことは。 というか、直近で情報屋に聞いたよ。 今は確か、南部地方を拠点としているって話」


「……南部か。 いやけど、まだ駄目だ。 クッソムカつくけど、今はまだ勝てない。 一人二人は殺せても、絶対的な数の差がある。 普通のPKに発展したら、俺とランカじゃバランスは悪いからな」


「んだね。 なら、まずは仲間探しってわけか。 当ては? 掲示板で募集してみる?」


「それはない。 街中じゃ、PKできないのを良いことに調子に乗って絡んでくる奴ばっかりだろ? どうせなら、フィールドで俺たちに襲いかかってくるような奴が良い」


俺の言葉に、ランカは得心がいったように感嘆の声をあげる。


「なんかひとつ分かったよ。 シンヤがいつも暗殺が終わったあとにその場に残ってたのって、そういうことだったか」


「ああ、まーな。 そういう理由もあった」


そうなると、問題はそんな奴が現れるかどうかってところか。 ここ一年、ランカと組んでからというもの中部からはほとんど出ていない。 そしてその間、俺たちを襲ってくる奴は居なかった。 北部や東部、西部や南部に行けば少なくとも一度はPKに遭うかもしれない。 しかし、移動手段がほとんど用意されていないRMTでは長旅になるな。


野垂れ死ぬ可能性も考えると、やはりこの中部で一人くらいは確保したい。 それがフィールド移動の条件とも言える。


そんな感じで、その当ても尻尾も見つからない状態で、一週間が過ぎた。 今日も駄目かと思い、街に入った直後のこと。


「あのー、神楽のシンヤさん? ちょっと良いですかな?」


精霊師の男だ。 小さな背と、長い耳が特徴のクラス。 精霊の力を借りて行使するという精霊魔法は多種多様な効果があると聞く。


「なに話しかけてんだ。 殺すぞ」


街中で話しかけるという行為に、理不尽にも腹が立って俺は言う。 しかし、精霊師の男は特に気にすることなく、続けた。


「そーりーそーりー。 実は、お願いごとがありましてな」


喋り方が、気に入らない。 とりあえずこいつ、殺したいな。 さて問題はどうやって殺すかだが……。


「引き受けても良い。 ただし、お前が今すぐ街から一歩出ることが条件だ。 俺に殺させろ」


「ほほっ。 いやぁ……それはちょっと無理ですぞ。 だって、死ぬの嫌ですし。 他の条件はないですかなぁ」


ああ、やっべえ。 一番殺したくなるタイプだ。 こいつ、今度外で見かけたら確実に殺してやろう。 そう思い、俺はもう無視をして歩き出す。


「ほほっ! まさか無条件で? いやぁ、さっすがシンヤさん! 中部の誰もが恐れるプレイヤーキラーなだけはありますな!」


……街中でもPKが可能になるアップデートを切に願う俺である。

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